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2024年夏ドラマは終盤戦に突入「最後まで見逃したくない作品」5選

日刊SPA! 2024年8月23日 15時50分

 夏ドラマが終盤に入った。最後まで見逃したくない作品はどれか? 30年以上のテレビ界取材歴があり、ドラマ賞の審査員や番組批評誌の編集委員を経験してきた放送コラムニストが5作品を挙げる。
◆TBS『ブラックペアン シーズン2』
(日曜午後9時)

 エンタメ医療ドラマのロールモデルのような作品。毎回のように生と死が絡みながら、深刻な気分にさせず、肩も凝らない。プロレスのような分かりやすさと壮快さがある。

 制作者側もプロレス感覚のドラマを目指しているのではないか。東城大付属病院に所属する主人公の外科医・天城雪彦 (二宮和也) らが大観衆を集めて公開手術を行っていることからも、そう思わせる。公開手術は実際に行われているものの、ここまで大掛かりではない。

 善玉の東城大側と敵役の維新大学側の対立もプロレスを思わせる。維新大のトップである菅井達夫教授 (段田安則) は18日放送の第6回まで良い面を見せたことが1度としてない。ここまで悪に徹底した敵役も珍しい。

 天城も典型的な善玉ではない。手術費として患者の全財産の半分を要求したり、さらに自分とのギャンブルを求めたり。しかし、菅井ほどタチが悪くない。手術の成功を第1に考えているし、後輩医師を罠に嵌めるようなこともしない。

 プロレスとしてのこのドラマのカギを握っているのは菅井にほかならない。リアリティは度外視。制作者側は観る側を飽きさせないことに注力しているのだろう。

 茶番劇と化していないのは助演陣のシリアスな演技が巧みだから。東城大付属病院長・佐伯清剛役の内野聖陽(55)、同医師・高階権太役の小泉孝太郎(46)、同・世良雅志役の竹内涼真(31)たちである。プロレスとシリアスのバランスが絶妙だ。

◆TBS『笑うマトリョーシカ』
(金曜午後10時)

 見どころは第1回から一貫している。

「若き有力政治家・清家一郞(櫻井翔)のマニピュレーター(他人の心を操る人)は誰なのか」。それとは別に清家の実像も興味の的となる。操られているだけの空っぽの男ではない。事実、高校以来の盟友である秘書の鈴木俊哉(玉山鉄二)を簡単に斬り捨てた。過去にも地盤を受け継いだ武智和宏代議士(小木茂光)の秘書・藤田則永(国広富之)を容赦なく切った。穏やかな表情とは裏腹に冷徹な男に違いない。

 数々の謎もまだ未解明。清家の大学時代の恋人で脚本家志望だった真中亜里沙(田辺桃子)はどこへ消えたのか? そのペンネームが清家の母親・浩子(高岡早紀)の銀座ホステス時代の源氏名と近いのはどうしてなのか。亜里沙のペンネームは劉麗蘭で、浩子の源氏名は劉浩子。偶然とは思えない。

 浩子の源氏名から、主人公のジャーナリスト・道上香苗(水川あさみ)は、彼女が日本人と中国人のハーフだと突き止めた。だから、クオーターの清家も在日外国人らへのヘイトスピーチに反対しようとしているのだろう。

 清家がヘイトスピーチに反対するのは意義あること。しかし、清家は出自を明かしていないから、それが明るみに出たら一波乱あるのは間違いない。政界ドラマとしての見せ場もまだある。

 櫻井の演技には賛否両論があるが、清家役はハマっている。肉体派の刑事などより、頭脳派の役柄のほうがしっくり来る

◆日本テレビ系『降り積もれ孤独な死よ』
(日曜午後10時30分)

 虐待を受けている子供ばかり集め、育てていた男がいた。灰川十三(小日向文世)である。この最初の設定からして近年のドラマとしては斬新だった。

 灰川の屋敷で13人の子供の監禁死体遺棄事件が起きる。主人公の刑事・冴木仁(成田凌)が捜査に着手。灰川が容疑者として逮捕されたものの、留置場内で自死する。

 灰川には誰かを庇ったフシがあった。真犯人は灰川の実子で冴木の後輩刑事・鈴木潤(佐藤大樹)だった。灰川が実子の自分を相手にせず、血縁のない子供たちばかり大事にしたことが動機だった。灰川は血のつながりというものを信じていなかった。

 かつて灰川邸に住んでいた冴木の弟・瀧本蒼佑(萩原利久)も血縁を信じてなかった。それどころか冴木を憎んでいた。冴木が虐待癖のある父親から逃げて親類の家の養子になったことが背景にあった。父親の暴力は全て蒼佑に向けられるようになった。

 もっとも、捕まるまいとした鈴木が冴木を短銃で撃った際、庇ったのは蒼佑だ。冴木の代わりに撃たれた蒼佑は死んだ。18日放送の第7回だった。

 肉親とは何かを繰り返し問い掛けてくる。大抵のドラマが血の重みを訴えるが、このドラマのように親から酷い暴力を振るわれたり、ネグレクト(養育放棄)されたりしたら、「肉親の存在は尊い」とは簡単には言えないだろう。

 同じ第7回、やはり灰川邸に住んでいた過去があり、冴木のパートナー的存在だった蓮水花音(吉川愛)が事件のキーパーソンであったことが分かる。物語はまだ二転三転するに違いない。同名原作漫画とストーリーがかなり違う。それでいて「血とは何か」という原作のメッセージは保たれている。

◆フジテレビ『新宿野戦病院』
(水曜午後10時)

 脚本はクドカンこと宮藤官九郎氏(54)。クドカンが得意とする社会派コメディである。モチーフとなっているのは山本周五郎の名作『赤ひげ診療譚』(1958年)に違いない。山本はクドカンが敬愛する作家だ。今年、テレビ東京でドラマが放送されたクドカン作品の『季節のない街』も山本作品である。

『赤ひげ診療譚』は小石川養生所の医師・新出去定が、誰に対しても分け隔てなく懸命の医療を行った。身分や貧富によって患者を区別するようなことはなかった。

『新宿野戦病院』の主人公の1人で、元米軍医のヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)も同じ。歌舞伎町のボロ病院「聖まごころ病院」を拠点とし、どの命も等しく助けようとする。爆弾魔も老いた元ヤクザも不法滞在の外国人も。無論、金の有る無しは関係ない。

 もう1人の主人公で美容皮膚科医の高峰享(仲野太賀)は、金にならない患者には見向きもしなかったが、ヨウコと過ごして変わった。高峰は『赤ひげ診療譚』の若手医師・保本登を彷彿させる。

 クドカンがこのドラマで描こうとしているのは共生だろう。差別があり、格差も広まったことから、共生が難しい時代になってしまったが、クドカンはドラマの中でそれを実現させようとしている。

 共生を描くから舞台が歌舞伎町なのだろう。この街には世界中、日本中から人が集まるが、誰も差別されない。上京間もない青年が、外国人がすぐに親しくなれる。名前や年齢を伏せたままでも暮らせる。

 そんな土地柄だから、このドラマでも映画マニアの警察官・岡本勇太(濱田岳)、困り事相談のNPO法人に所属する・南舞 (橋本愛) 、性別不明の看護師長・堀井しのぶ(塚地武雄)らが違和感なく混在している。どんな顔合わせもあり得るのが歌舞伎町だ。

 そんな街を象徴するのがヨウコである。エネルギッシュである一方、英語と岡山弁をちゃんぽんで使う。歌舞伎町の持つ熱気と多様性を表している。

◆NHK「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」
(火曜午後10時)

 ホームドラマの進化形。家族とは何か、幸せとは何かを考えさせる。それでいて説教臭いところは微塵もなく、何度も笑わせてくれる。

 主人公は岸本七実(河合優実)。第1回の時点では高校3年だった。父親・耕助(錦戸亮)は急性心筋梗塞で他界しているが、現在に至るまで画面に登場する。耕助には家族を残して逝くことに強い未練があったし、七実たちも死んでほしくなかったからだ。結び付きの強い家族であることが分かる。

 母親・ひとみ(坂井真紀)は明るい女性で、整体院で働いて七実とその弟・草太(吉田葵)を育てていた。草太も明朗で素直だったものの、ダウン症というハンデがあった。

 1人親家庭で、草太にハンデがあるため、周囲には岸本家を「かわいそうだ」と考える向きもあった。もっとも、当の岸本家にそんな意識はサラサラない。仲良く幸せに暮らしていた。

 幸不幸は家庭の経済状況や家族のハンデで決まるものではない。ましてや他人が判断することではない。このドラマはそれを教えてくれる。

◆七実がみせた“強さ”とは

 その後、ひとみは大動脈解離で倒れ、車椅子での生活になる。この時点まで七実は大学に興味のなかったものの、一転して進学を決意する。ひとみの車椅子を押して街に出た際、カフェに入ろうとしたら、入口に段差があったために断念し、道行く人も冷淡だったからだ。

 みじめな気持ちになった母娘は人目を憚らず泣いた。七実は「ママ、一緒に死のうか」と言った。しかし、七実は強い女性で、こう付け加えた。「ちょっと時間頂戴。ママが生きていたいと思うようにするから」。そのためにはどうすればいいのか。出した答えが進学だった。選んだ学部は人間福祉学部である。

「やさしい社会にして、あのカフェの入口の段差、ぶっ潰す!」

 七実は大学内でバリアフリー社会の実現に向けたベンチャー企業「ルーペ」に入る。同社側がホームページづくりを望んでいたので、七実は「つくれます!」と言った。大ウソである。やはり強い人なのである。13日放送の第4回だった。

 しかし、スーパーウーマンではないから、20日放送の第5回ではミスを連発。経費の精算をしなかったのは序の口で、ウィルスに感染したメールを盛大に拡散してしまう。信用は地の底まで落ちた。

 失敗する七実も愉快だが、このままでは終わらないだろう。ひとみ、草太、そして祖母・大川芳子 (美保純) はずっと温かく見守ってくれている。家族の支えは大きい。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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