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『地面師たち』が大ヒット中のNetflix。“破格の給料”でも業界人が「絶対に入社したくない」ワケ

日刊SPA! 2024年8月25日 15時54分

◆各業界で大絶賛!話題性を独占するNetflixドラマ『地面師たち』
 各局のテレビドラマが軒並み高視聴率を獲得できず、“ドラマ離れ”が叫ばれている昨今。そんな状況下にありながら定額制動画ストリーミングサービス・Netflixが制作するオリジナルドラマが、大きな話題を取り続けている。

 特に、7月25日より配信がスタートしたドラマ『地面師たち』は、配信直後から国内再生ランキングで1位を獲得。業界人から高い評価を得るとともに、SNSの口コミなども相まって幅広い層に大ヒット中だ。

 同作は、『モテキ』『バクマン。』などのヒット作で知られる大根仁監督による、‘17年に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」を題材にしたダークエンターテイメント。

 リアリティを追求したスリリングなストーリーと綾野剛、豊川悦司、リリー・フランキー、ピエール瀧、小池栄子といった個性的で演技力のある俳優陣をそろえたキャスティングが見事にハマっており、「刺激的すぎる!」「徹夜で一気見した」といった視聴者の熱狂ぶりがSNSに多数書き込まれている。

◆なぜNetflixドラマばかりがヒットするのか

 Netflixでは9月から芸人・ゆりやんレトリィバァが主演を務める『極悪女王』の配信も予定されており、こちらも大きな話題を呼ぶことは必至。ここ数年でも『全裸監督』や『サンクチュアリ -聖域-』、『First Love 初恋』、『シティーハンター』などのヒット作を連発しており、ドラマ・映画業界では“無双”の存在になっている。

 こうしたNetflixの快進撃の要因について、キー局に勤務する40代ドラマプロデューサー・A氏はこう語る。

「大きくは3つあると思います。まずは潤沢な資金を持っていること。製作費は1話1億円以上と言われていますし、監督やプロデューサーのギャラも通常の3~4倍。予算を気にせずこだわり抜いた映像を作ることができるうえに、収入も良いとあらば必然的に作品のクオリティも上がりますよ。

 それから、広告収入に頼らないビジネスモデルゆえにコンプライアンスやスポンサー企業のことを気にする必要がないこと。だからこそ『全裸監督』や『地面師たち』のような攻めた内容やシーンをストーリーに盛り込める。

 そして、俳優をガッツリ拘束できることも大きい。Netflixの作品に出演する際は、撮影期間中に他の仕事とのバッティングを避けるように言われている。そのおかげで俳優たちが作品にのめり込んでくれるので、演技にムラがなくなり、登場人物に憑依したような役作りをできる。これも俳優への高額なギャラを支払えるからできることですが……」

◆わずか1年半で退職……厳しい環境に業界からは不人気

 この話を聞く限り、ドラマ制作者にとってこれほどの好条件・好待遇はなさそうに思える。実際に『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』、『不適切にもほどがある!』といった作品を手掛けてきたTBSプロデューサーの磯山晶氏が、Netflixと5年間にわたる契約を締結したことも発表された。

 しかし、現場で働く人々の声を集めてみると、Netflixについてあまり乗り気ではなさそうだ。前述のプロデューサーのA氏は言う。

「私は絶対に入社したくない。磯山さんのように実績十分なら、5年契約をしてもらえるのでしょうが、Netflixに転職した後輩の女性プロデューサーは、1年半ほどで退職しました。給料は破格だったものの、再生数をかなりシビアに評価されて、メンタルが持たなかったと聞きました。実際に数年で契約を切られる人も多いそうです。

 その点、キー局に残っていれば視聴率や見逃し配信の再生数でグチグチ言われることも実は少ない。リスクを取ってまでNetflixに行こうと思わないですよ」

 消極的な意見かもしれないが、自身のキャリアを考えると正直なところだろう。

◆コンプラなしゆえにキャスティングで苦労することも

 また、キャスティングなども担当する制作会社の社員・B氏もNetflixについて良い印象を持っていないようだ。

「Netflix作品は俳優のキャスティングでかなり苦労していると聞きます。撮影の拘束で複数の仕事をこなせなくなること、コンプライアンスや制約の少ない作品が多いのでダークな印象やアングラなイメージを持たれる可能性もある。

 なので、大手の芸能事務所に所属する俳優はオファーが成立しにくい。キャスティング担当は厄介者扱いされることもあります」

◆海外ではストライキも!脚本家は条件面を危惧

 地上波や配信ドラマを手掛ける女性脚本家・C氏は、Netflixの脚本家に対する待遇に懐疑的だ。

「アメリカや韓国では脚本家への待遇や細かい条件が整っていない時期があり、『Netflixストライキ』と呼ばれる運動が起きていた。今は改善されたようですが、脚本家を軽んじている風潮は耳にします。日本は脚本家ファーストだと聞きますが、不安に思っている作家もいるようです。

 また、日本を代表する脚本家・坂元裕二さんがNetflixと複数年契約をしましたが、『クレイジークルーズ』という作品を見てガッカリしましたね。舞台のスケールが大きくなりすぎて、坂元さんの会話劇の面白さが半減しているように感じました。坂元さんの次回作に期待したいですが、大規模なNetflix作品向きの作家を見極めていくことも大事なのでは?」

 このように、業界に新風を巻き起こしているNetflixではあるが、業界で働く人々は必ずしも良い印象を持っているわけではないようだ。

 この先もNetflixが作り出すドラマが時代を席巻するのか。はたまたテレビ局の逆襲はあるのか。“ドラマ”さながらの刺激的な競争になることを信じたい。

<ライター/木田トウセイ>

【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。

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