夏休みに車で旅行やドライブに出かけた人も多いのではないだろうか。昨今の炎天下を避けることができる車は、夏に出かけるには打ってつけの移動手段だが、閉じられた空間だからこその悲喜こもごもが生まれる場でもある。
不動産会社に勤務する水橋智美さん(仮名・29歳)は、車での忘れられない嫌な体験があるという。
◆マッチングアプリで出会ったモラハラ彼氏の所業
「まだコロナ禍前のことですが、マッチングアプリで出会った男性と交際していた時のことです。男らしいところに惹かれて、最初こそ良かったものの、だんだんと『あれ?』と思うことが増えていきました」
例えば、「あの時に奢ってやった」とか「あの時は15分も待たされた」と、異様なまでに覚えていて、いつまでも言ってくるのだとか。
「その癖、彼はお金の持ち合わせがないことが多くて。ほとんどの場合、私がお金を出していました。いつも『後で返すわ』と言うんですが、一度も返してもらったことはなくて……」
◆車道を走る自転車の中学生にあおり運転
交際して2カ月ほどが経過したころ、彼氏と旅行に行くことになった。
「1泊2日の旅行で、レンタカーを借りて行くことになったんですが、車を借りに行くのも、お金を出すのも私でした」
車で彼を迎えに行くと、「俺が運転する」と言って、彼がハンドルを握ったのだが……。
「隣に座っているだけで、不快になるような運転でした。右折する時に、前の車がなかなか行かないと、『今の行けただろ!』と大きな声で文句を言ったりするんです。一番嫌だったのは、自転車で車道を走る中学生にあおり運転をしたことでした。中学生が焦った顔で振り返るのを見て、ゲラゲラと笑うんです。本当にドン引きしました」
◆助手席に移っても悪態をつき続けて…
高速道路を運転していた彼は「疲れた」と言い、サービスエリアで水橋さんと運転を交代することに。
「絶対言われるんだろうなと思っていましたが、私の運転に対して『グズグズ走るなよ!』とか『お前なんでそんなに運転下手なの?』と平気で言ってくるんです。自分は運転が上手いと思っているらしいんですが、あの運転でよく言えるなと思い、ただただ軽蔑しましたね」
元来モラハラの気があったという彼氏だが、車内での様子はいつも以上にひどかったという。
「密室の空間だからなのか、運転すると気が大きくなるタイプなのか、本当に耐え難いほどでした。観光地で車を降りて回っている時に、またこの男の文句を聞きながら旅行を続けるのかと思うと、心底嫌になりました。ホテルで一夜を過ごすなんて本当に無理で、涙が出てくるほどでした」
絶望的な状況のなか、水橋さんは不意に母の言葉を思い出した。
「小さい頃から母に『本当に嫌なことはしなくて良いんだよ』といわれていて、その言葉を思い出しました。『そうだこんなに嫌ならやめれば良いんだ』と思ったんです」
◆サービスエリアに置き去りにして走り去った
それが出来る状況にあることにも思い至った。
「トイレにいくために次のサービスエリアで二人とも下車しました。『モタモタするなよ』と彼氏に背中越しに言われたんですが、これからすることを思うと思わずにやけてしまいました。私はトイレに向かうふりをして、彼氏から見えなくなったところで、方向を変えて車に向かいました。乗り込むと彼氏を置き去りにしたまま、その場を離れたんです」
携帯に電話とチャットの通知音が鳴り続けるのを聞きながら、水橋さんは家路についた。
「連絡は完全に無視しました。全然土地勘がない場所からどうやって帰ったんでしょうね(笑)。彼はまだ一人暮らしをしている私の家には来たことがなかったので、怒鳴り込んで来るような心配もありませんでした。だから、イケるだろうと踏んで実行したんです」
その日の夜、水橋さんは友人を誘って飲みに行った。彼氏が送ってくる、心配と脅迫を繰り返すモラハラ全開のメッセージを酒の肴に、大いに盛り上がったという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
不動産会社に勤務する水橋智美さん(仮名・29歳)は、車での忘れられない嫌な体験があるという。
◆マッチングアプリで出会ったモラハラ彼氏の所業
「まだコロナ禍前のことですが、マッチングアプリで出会った男性と交際していた時のことです。男らしいところに惹かれて、最初こそ良かったものの、だんだんと『あれ?』と思うことが増えていきました」
例えば、「あの時に奢ってやった」とか「あの時は15分も待たされた」と、異様なまでに覚えていて、いつまでも言ってくるのだとか。
「その癖、彼はお金の持ち合わせがないことが多くて。ほとんどの場合、私がお金を出していました。いつも『後で返すわ』と言うんですが、一度も返してもらったことはなくて……」
◆車道を走る自転車の中学生にあおり運転
交際して2カ月ほどが経過したころ、彼氏と旅行に行くことになった。
「1泊2日の旅行で、レンタカーを借りて行くことになったんですが、車を借りに行くのも、お金を出すのも私でした」
車で彼を迎えに行くと、「俺が運転する」と言って、彼がハンドルを握ったのだが……。
「隣に座っているだけで、不快になるような運転でした。右折する時に、前の車がなかなか行かないと、『今の行けただろ!』と大きな声で文句を言ったりするんです。一番嫌だったのは、自転車で車道を走る中学生にあおり運転をしたことでした。中学生が焦った顔で振り返るのを見て、ゲラゲラと笑うんです。本当にドン引きしました」
◆助手席に移っても悪態をつき続けて…
高速道路を運転していた彼は「疲れた」と言い、サービスエリアで水橋さんと運転を交代することに。
「絶対言われるんだろうなと思っていましたが、私の運転に対して『グズグズ走るなよ!』とか『お前なんでそんなに運転下手なの?』と平気で言ってくるんです。自分は運転が上手いと思っているらしいんですが、あの運転でよく言えるなと思い、ただただ軽蔑しましたね」
元来モラハラの気があったという彼氏だが、車内での様子はいつも以上にひどかったという。
「密室の空間だからなのか、運転すると気が大きくなるタイプなのか、本当に耐え難いほどでした。観光地で車を降りて回っている時に、またこの男の文句を聞きながら旅行を続けるのかと思うと、心底嫌になりました。ホテルで一夜を過ごすなんて本当に無理で、涙が出てくるほどでした」
絶望的な状況のなか、水橋さんは不意に母の言葉を思い出した。
「小さい頃から母に『本当に嫌なことはしなくて良いんだよ』といわれていて、その言葉を思い出しました。『そうだこんなに嫌ならやめれば良いんだ』と思ったんです」
◆サービスエリアに置き去りにして走り去った
それが出来る状況にあることにも思い至った。
「トイレにいくために次のサービスエリアで二人とも下車しました。『モタモタするなよ』と彼氏に背中越しに言われたんですが、これからすることを思うと思わずにやけてしまいました。私はトイレに向かうふりをして、彼氏から見えなくなったところで、方向を変えて車に向かいました。乗り込むと彼氏を置き去りにしたまま、その場を離れたんです」
携帯に電話とチャットの通知音が鳴り続けるのを聞きながら、水橋さんは家路についた。
「連絡は完全に無視しました。全然土地勘がない場所からどうやって帰ったんでしょうね(笑)。彼はまだ一人暮らしをしている私の家には来たことがなかったので、怒鳴り込んで来るような心配もありませんでした。だから、イケるだろうと踏んで実行したんです」
その日の夜、水橋さんは友人を誘って飲みに行った。彼氏が送ってくる、心配と脅迫を繰り返すモラハラ全開のメッセージを酒の肴に、大いに盛り上がったという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め