帝国データバンクが算出した生鮮食品などの値上げを加味した食卓への影響度を示す「カレーライス物価指数」2024年6月版は、前年同月比9.8%増、13か月連続のプラスとのことだ。
円安や干ばつの影響で輸入牛肉の価格が上昇したことに加え、豚肉も昨年来の猛暑による交配や肥育困難からの出荷不足で高騰中だ。野菜類(人参・玉ねぎ・ジャガイモ)の値上がりも目立ち、ごはんの価格も上昇している。
◆カレーとうどんが物価高騰で悲鳴
昨年の猛暑の影響による不足と日本食を好む外国人旅行者の爆喰いで米の在庫が急減している。家庭で作ったら安く食べられるはずだったカレーだが、材料コストと光熱費、そして手間を考えたら割高だ。単身者にはレトルトカレーが、いかにお得かよく分かる。
また、主要材料の小麦高騰を中心に、あらゆるコストの上昇に利益を削られて、うどん店も経営の継続に苦労している。手っ取り早く済ませられ勤め人のお昼需要によく利用されているが、提供する店は大変のようだ。
そういった経営環境の中、それらを専門としているチェーン店は、どういう対応をして、市場環境はどうなっているかを見てみたい。
◆CoCo壱番屋も3年間で3回の値上げ
最も大きいカレー専門店チェーンとしてギネス世界記録に認定された「カレーハウスCoCo 壱番屋(ココイチ)」。
1974年、創業者夫婦が開業した喫茶店からスタートし、2015年12月にハウス食品グループの子会社になり、ハウス食品との連携でより一層強固な経営基盤を確立している。しかし、ココイチも各種原材料や光熱費、物流費、人件費などの費用が継続的に上昇していることで、2024年8月1日からベースカレー(ポークカレーとビーフカレー)とトッピング価格を値上げしている。
高度経済成長期を経て、その時代の生活様式や流行に合わせた形で進化し続け、今では当然のように日々の食生活に絶対的な存在感になったカレー。その国民食のひとつであるカレーを専門チェーンとして多店舗化したのが株式会社壱番屋である。
業界2位のマイカリー食堂(140店舗、2023年8月)の10倍の店舗数を有し、3位以下の日乃屋カレーとゴーゴーカレーも約100店舗となっており、業界の2位以下を大きく引き離している。1位のココイチを脅かす存在がないことから、強気の経営姿勢を崩さず値上げを強行したとも言われているようだが、店舗数が最も多いだけにコスト高の影響を一番大きく受けているのも事実である。
社会性・公共性・公益性を評価されて顧客ロイヤリティの高いココイチ。値上げ回避の努力をした上での、やむを得ない値上げは仕方ないであろうが、ここ3年間で3回の値上げは、いくらココイチでもお客さんに与える影響は大きいと心配する声は多いようだ。
◆資本を効率的に活用しているココイチ
業績の推移を見ると、今年6月は前年比で売上12%増、客数6.2%増、客単価5.9%増だったが、今年7月は前年比で売上1.9%、客数は−3%、客単価5.1%増と極端に鈍化しており、客数の前年割れは先行きに不安を感じる。8月からの値上げでどうなるか心配だ。
2019年には505円だったポークカレーが今回の値上げで646円と141円上がったのは、節約に苦しむ消費者にはつらいものだろう。若干高くても提供価値を認めていると評価しているさすがのココイチファンも来店頻度が減るのではなかろうかと心配する。ライバル店の少なさがどう経営に影響するかも見ものだ。
株式会社壱番屋は、ココイチを中核(1412店)としており、現在の店舗数は、国内1200店(直営107店、FC1093店)、海外合計212店(直営86店、FC126店)で合計店舗数は 1412店(24年2月時点)となっている。ココイチの店舗売上(24年2月期決算)は国内885億円、海外171億円、総合計1055億円と大台突破している(24年2月時点)。ほとんどがフランチャイズ(国内・海外含めてFC店比率86.3%)である。
株式会社壱番屋(本部)の売上(フランチャイズ収入)は、売上551億円(前年比114.2%)、利益47億円(前年比130.5%)、営業利益率8.6%(前年比114.7%)となっている。財務基盤は自己資本比率が70.2%と安定している。ROEは8.7%と、自己資本比率が高い割には、その資本を効率的に活用し利益を上げているのが分かる。
◆定説を覆したココイチのブランド価値
日本の国民食のひとつであるカレー。そもそも、カレーは家庭で食べるものといったイメージが定着していた。それぞれの家庭に独自の「我が家のカレー」があり、昭和は特にそうだったものである。経済成長に伴い共稼ぎ世帯が増えることを背景に、忙しい中での家庭の食事は簡便化ニーズが高くなる。
そのため、まとめづくりができて、冷蔵庫に保存しておけば、いつでも食べられるといった、その利便性もカレーが普及した要因だ。その後、核家族化など世帯人数の減少から、家で作らずレトルトカレーで済ませるという家庭が増えてきた。
食品メーカーが開発販売するのは、ボリュームのある市場を狙った標準味のレトルトカレーが多い。その標準的なレトルトカレーに食べ慣れた人たちが増えてきたのもカレー専門店が増えた要因であろう。
そういった環境の変化に適合させ、あえて飽きの来ないカレーを基本メニューにして、来店頻度を高めた上で、辛さや豊富なトッピングを用意し、顧客のほうでカスタマイズさせる工夫が受け入れられたのがココイチであろう。多店舗展開できた原動力は、それらをどの店よりもうまくやり切ったからだ。
夏本番、最もカレーが食べたくなる季節で、安定した需要があるから値上げしても売上の落ち込みは少ないとの判断で、値上げを追随する店も出てくることが想定されるが、業界リーダーであるココイチの価格戦略を、他店は注視しているのは当然だ。
◆物価高騰でうどん店の経営も厳しい
うどん店も主力食材である小麦粉も1.5倍の値上がりし、その他のコストも他と同様に高騰している。その中で国内最大のうどんチェーンである「丸亀製麺」も、この難局を自店に優位になるように、値上げや付加価値の追求で顧客に理解を求めながら、創意工夫して運営力の強化に努めている。うどん市場も1位と2位には歴然とした差がある。
丸亀製麺を運営するのは株式会社トリドールホールディングスである。1985年8月、焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業し、2000年11月に讃岐うどん専門店「丸亀製麺」1号店を出店。現在の店舗数は840店舗(2024年3月期)である。2016年10月持株会社体制移行に伴い、株式会社トリドールホールディングスに商号変更して現在に至る。
収益状況は、国内その他と海外事業を含めて、売上2320億円、営業利益116億円、営業利益率5.0%である。自己資本比率は30.5%となっており、資本効率を重視した経営を実践した経営になっているようだ。
◆圧倒的な優位性を確保した丸亀製麺
中核ブランドの丸亀製麺は、売上の約50%を占めており、順調に推移しており、売上実績は1021億円(2023年3月期)→1149億円(2024年3月期)と12.4%増と伸ばしており、過去最高も更新している。営業利益も116億円(2023年3月期)→183億円(2024年3月期)と、59%増と伸ばしている。営業利益の16.0%は驚異の収益力であり、これだけ儲ける力があるのは素晴らしい。
うどんチェーン業界も店舗数・売上と共に、1位と2位の間には開きがあり、2位の吉野家グループのはなまるうどんは、店舗数418店舗、チェーン売上334億円、営業収入292億円(2024年2月期)だ。丸亀製麺のほうが出店数は2倍以上、売上は3倍以上の差があり、圧倒的な優位性を確保している。
同じ傘下のラーメンのずんどう屋も大阪など関西の既存店が特に好調に推移しており、新規出店した13店舗も順調のようで、店舗数は87店舗(2024年3月期)と増えている。
トリドールホールディングスは、現在、21のブランドを展開しており、適切なポートフォリオマネジメントができるようモニタリング体制を強化中だ。事業・業態・店舗を資本収益性(効率性×収益性)×成長性で把握し、投資に対して優先順位付けしているようだ。
◆製麺・調理シーンを見て楽しむ店内
丸亀製麵の特徴としては、単に美味しいうどんを提供するだけでなく顧客に感動価値も提供するなど演出力の強化に力を入れている。従業員にもモチベーションの向上として、独自の「麵職人制度」を導入し、労働意欲を喚起している。オープンキッチンのために従業員の動きをお客さんは目の当たりにするが、イキイキ働いている姿を見て気持ち良く食事ができる。
麺職人の全店配置による品質訴求を徹底しており 2024年3月に全店に麺職人の配置を完了したそうだ。麺職人の制服は襟元が紺色になっており、それを目標に頑張る従業員も増えている。資格取得後もそれに満足せずに、技術向上のため、日々研鑽を積む社風は素晴らしい。
お客も自分が注文した料理の出来上がりを行列に並びながら待っているが、その間、製麺・調理シーンを見て楽しんでいるから待つ間も苦にはならない。調理シーンだけでなく、生地熟成庫、小麦粉見本、製麵機の製造シーンなどを見やすく配置されている。全店に製麺所を設置したうどん店は他店にない明確な差別的要素になっており、この競争優位が2位以下を引き離す原動力になっているようだ。
今年1月16日に価格改定した後も、客数は増加基調だ。テイクアウトなどの新たなオペレーションに対応した改装と、本格的な製麺所の風景を再現した改装を同時に実施し、前期に改装した店舗売上は改装前と比較して、平均15%以上増加しており、今期も約100店ペースで改装を予定している。
肝心の商品力も、季節ごとのフェア商品をさらに強化しており、人気商品、新作を続々投入する予定のようだ。今年6月に導入した「丸亀うどーなつ」は売れ行き好調で、1人3個までと購入制限されるくらいである。昨年は「丸亀シェイクうどん」の異物混入で出鼻をくじかれたが、SNS上で丸亀製麺を擁護する投稿が相次ぐほど顧客ロイヤリティの高い店である。
◆値上げしても顧客が離れない店づくりを
家庭の食卓であらゆるモノの値段が上がり、水光熱費の上昇も含めると生活コストが上がることは回避できない現状である。賃金アップが追いつかず、国民の生活が苦しくなる中、品質や量を変えずに実質値下げで提供してくれる小売店や飲食店はありがたい。
それが生き残り戦略になるだろうが、実際にはそれが原因で倒産する企業が増えているのも事実である。昔と違い今は、値上げしてもお客さんの理解度が高まっているから極端な顧客離反はないようだが、ブランド力がない店はそうはいかない。みんなで値上げすれば怖くないには限度があることを認識しなければいけない。
そのため、普段から顧客に支持される店づくりを徹底することが求められる。今回、取り上げた2社が属する業界は1位と2位の店舗数の差が大きく、1位企業が強すぎると、プライスメーカー的な存在になりそうだが、けっしてそうではないことがよくわかった。この弛まぬ努力を今後に活かしていただきたい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
円安や干ばつの影響で輸入牛肉の価格が上昇したことに加え、豚肉も昨年来の猛暑による交配や肥育困難からの出荷不足で高騰中だ。野菜類(人参・玉ねぎ・ジャガイモ)の値上がりも目立ち、ごはんの価格も上昇している。
◆カレーとうどんが物価高騰で悲鳴
昨年の猛暑の影響による不足と日本食を好む外国人旅行者の爆喰いで米の在庫が急減している。家庭で作ったら安く食べられるはずだったカレーだが、材料コストと光熱費、そして手間を考えたら割高だ。単身者にはレトルトカレーが、いかにお得かよく分かる。
また、主要材料の小麦高騰を中心に、あらゆるコストの上昇に利益を削られて、うどん店も経営の継続に苦労している。手っ取り早く済ませられ勤め人のお昼需要によく利用されているが、提供する店は大変のようだ。
そういった経営環境の中、それらを専門としているチェーン店は、どういう対応をして、市場環境はどうなっているかを見てみたい。
◆CoCo壱番屋も3年間で3回の値上げ
最も大きいカレー専門店チェーンとしてギネス世界記録に認定された「カレーハウスCoCo 壱番屋(ココイチ)」。
1974年、創業者夫婦が開業した喫茶店からスタートし、2015年12月にハウス食品グループの子会社になり、ハウス食品との連携でより一層強固な経営基盤を確立している。しかし、ココイチも各種原材料や光熱費、物流費、人件費などの費用が継続的に上昇していることで、2024年8月1日からベースカレー(ポークカレーとビーフカレー)とトッピング価格を値上げしている。
高度経済成長期を経て、その時代の生活様式や流行に合わせた形で進化し続け、今では当然のように日々の食生活に絶対的な存在感になったカレー。その国民食のひとつであるカレーを専門チェーンとして多店舗化したのが株式会社壱番屋である。
業界2位のマイカリー食堂(140店舗、2023年8月)の10倍の店舗数を有し、3位以下の日乃屋カレーとゴーゴーカレーも約100店舗となっており、業界の2位以下を大きく引き離している。1位のココイチを脅かす存在がないことから、強気の経営姿勢を崩さず値上げを強行したとも言われているようだが、店舗数が最も多いだけにコスト高の影響を一番大きく受けているのも事実である。
社会性・公共性・公益性を評価されて顧客ロイヤリティの高いココイチ。値上げ回避の努力をした上での、やむを得ない値上げは仕方ないであろうが、ここ3年間で3回の値上げは、いくらココイチでもお客さんに与える影響は大きいと心配する声は多いようだ。
◆資本を効率的に活用しているココイチ
業績の推移を見ると、今年6月は前年比で売上12%増、客数6.2%増、客単価5.9%増だったが、今年7月は前年比で売上1.9%、客数は−3%、客単価5.1%増と極端に鈍化しており、客数の前年割れは先行きに不安を感じる。8月からの値上げでどうなるか心配だ。
2019年には505円だったポークカレーが今回の値上げで646円と141円上がったのは、節約に苦しむ消費者にはつらいものだろう。若干高くても提供価値を認めていると評価しているさすがのココイチファンも来店頻度が減るのではなかろうかと心配する。ライバル店の少なさがどう経営に影響するかも見ものだ。
株式会社壱番屋は、ココイチを中核(1412店)としており、現在の店舗数は、国内1200店(直営107店、FC1093店)、海外合計212店(直営86店、FC126店)で合計店舗数は 1412店(24年2月時点)となっている。ココイチの店舗売上(24年2月期決算)は国内885億円、海外171億円、総合計1055億円と大台突破している(24年2月時点)。ほとんどがフランチャイズ(国内・海外含めてFC店比率86.3%)である。
株式会社壱番屋(本部)の売上(フランチャイズ収入)は、売上551億円(前年比114.2%)、利益47億円(前年比130.5%)、営業利益率8.6%(前年比114.7%)となっている。財務基盤は自己資本比率が70.2%と安定している。ROEは8.7%と、自己資本比率が高い割には、その資本を効率的に活用し利益を上げているのが分かる。
◆定説を覆したココイチのブランド価値
日本の国民食のひとつであるカレー。そもそも、カレーは家庭で食べるものといったイメージが定着していた。それぞれの家庭に独自の「我が家のカレー」があり、昭和は特にそうだったものである。経済成長に伴い共稼ぎ世帯が増えることを背景に、忙しい中での家庭の食事は簡便化ニーズが高くなる。
そのため、まとめづくりができて、冷蔵庫に保存しておけば、いつでも食べられるといった、その利便性もカレーが普及した要因だ。その後、核家族化など世帯人数の減少から、家で作らずレトルトカレーで済ませるという家庭が増えてきた。
食品メーカーが開発販売するのは、ボリュームのある市場を狙った標準味のレトルトカレーが多い。その標準的なレトルトカレーに食べ慣れた人たちが増えてきたのもカレー専門店が増えた要因であろう。
そういった環境の変化に適合させ、あえて飽きの来ないカレーを基本メニューにして、来店頻度を高めた上で、辛さや豊富なトッピングを用意し、顧客のほうでカスタマイズさせる工夫が受け入れられたのがココイチであろう。多店舗展開できた原動力は、それらをどの店よりもうまくやり切ったからだ。
夏本番、最もカレーが食べたくなる季節で、安定した需要があるから値上げしても売上の落ち込みは少ないとの判断で、値上げを追随する店も出てくることが想定されるが、業界リーダーであるココイチの価格戦略を、他店は注視しているのは当然だ。
◆物価高騰でうどん店の経営も厳しい
うどん店も主力食材である小麦粉も1.5倍の値上がりし、その他のコストも他と同様に高騰している。その中で国内最大のうどんチェーンである「丸亀製麺」も、この難局を自店に優位になるように、値上げや付加価値の追求で顧客に理解を求めながら、創意工夫して運営力の強化に努めている。うどん市場も1位と2位には歴然とした差がある。
丸亀製麺を運営するのは株式会社トリドールホールディングスである。1985年8月、焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業し、2000年11月に讃岐うどん専門店「丸亀製麺」1号店を出店。現在の店舗数は840店舗(2024年3月期)である。2016年10月持株会社体制移行に伴い、株式会社トリドールホールディングスに商号変更して現在に至る。
収益状況は、国内その他と海外事業を含めて、売上2320億円、営業利益116億円、営業利益率5.0%である。自己資本比率は30.5%となっており、資本効率を重視した経営を実践した経営になっているようだ。
◆圧倒的な優位性を確保した丸亀製麺
中核ブランドの丸亀製麺は、売上の約50%を占めており、順調に推移しており、売上実績は1021億円(2023年3月期)→1149億円(2024年3月期)と12.4%増と伸ばしており、過去最高も更新している。営業利益も116億円(2023年3月期)→183億円(2024年3月期)と、59%増と伸ばしている。営業利益の16.0%は驚異の収益力であり、これだけ儲ける力があるのは素晴らしい。
うどんチェーン業界も店舗数・売上と共に、1位と2位の間には開きがあり、2位の吉野家グループのはなまるうどんは、店舗数418店舗、チェーン売上334億円、営業収入292億円(2024年2月期)だ。丸亀製麺のほうが出店数は2倍以上、売上は3倍以上の差があり、圧倒的な優位性を確保している。
同じ傘下のラーメンのずんどう屋も大阪など関西の既存店が特に好調に推移しており、新規出店した13店舗も順調のようで、店舗数は87店舗(2024年3月期)と増えている。
トリドールホールディングスは、現在、21のブランドを展開しており、適切なポートフォリオマネジメントができるようモニタリング体制を強化中だ。事業・業態・店舗を資本収益性(効率性×収益性)×成長性で把握し、投資に対して優先順位付けしているようだ。
◆製麺・調理シーンを見て楽しむ店内
丸亀製麵の特徴としては、単に美味しいうどんを提供するだけでなく顧客に感動価値も提供するなど演出力の強化に力を入れている。従業員にもモチベーションの向上として、独自の「麵職人制度」を導入し、労働意欲を喚起している。オープンキッチンのために従業員の動きをお客さんは目の当たりにするが、イキイキ働いている姿を見て気持ち良く食事ができる。
麺職人の全店配置による品質訴求を徹底しており 2024年3月に全店に麺職人の配置を完了したそうだ。麺職人の制服は襟元が紺色になっており、それを目標に頑張る従業員も増えている。資格取得後もそれに満足せずに、技術向上のため、日々研鑽を積む社風は素晴らしい。
お客も自分が注文した料理の出来上がりを行列に並びながら待っているが、その間、製麺・調理シーンを見て楽しんでいるから待つ間も苦にはならない。調理シーンだけでなく、生地熟成庫、小麦粉見本、製麵機の製造シーンなどを見やすく配置されている。全店に製麺所を設置したうどん店は他店にない明確な差別的要素になっており、この競争優位が2位以下を引き離す原動力になっているようだ。
今年1月16日に価格改定した後も、客数は増加基調だ。テイクアウトなどの新たなオペレーションに対応した改装と、本格的な製麺所の風景を再現した改装を同時に実施し、前期に改装した店舗売上は改装前と比較して、平均15%以上増加しており、今期も約100店ペースで改装を予定している。
肝心の商品力も、季節ごとのフェア商品をさらに強化しており、人気商品、新作を続々投入する予定のようだ。今年6月に導入した「丸亀うどーなつ」は売れ行き好調で、1人3個までと購入制限されるくらいである。昨年は「丸亀シェイクうどん」の異物混入で出鼻をくじかれたが、SNS上で丸亀製麺を擁護する投稿が相次ぐほど顧客ロイヤリティの高い店である。
◆値上げしても顧客が離れない店づくりを
家庭の食卓であらゆるモノの値段が上がり、水光熱費の上昇も含めると生活コストが上がることは回避できない現状である。賃金アップが追いつかず、国民の生活が苦しくなる中、品質や量を変えずに実質値下げで提供してくれる小売店や飲食店はありがたい。
それが生き残り戦略になるだろうが、実際にはそれが原因で倒産する企業が増えているのも事実である。昔と違い今は、値上げしてもお客さんの理解度が高まっているから極端な顧客離反はないようだが、ブランド力がない店はそうはいかない。みんなで値上げすれば怖くないには限度があることを認識しなければいけない。
そのため、普段から顧客に支持される店づくりを徹底することが求められる。今回、取り上げた2社が属する業界は1位と2位の店舗数の差が大きく、1位企業が強すぎると、プライスメーカー的な存在になりそうだが、けっしてそうではないことがよくわかった。この弛まぬ努力を今後に活かしていただきたい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan