有名人や投資の専門家になりすまして情報商材を売りつけるSNS型投資詐欺が社会問題化している。だが、詐欺の手口は時々刻々と進化している。被害者たちがその恐怖の体験を明かす。
今回は補助金詐欺に巻き込まれ、現在も未解決の会社経営者を取材する。
◆頻発する補助金が絡む詐欺に巻き込まれてしまった会社経営者
補助金詐欺も各地で頻発している。茨城で食肉卸会社を経営する富山忠広さん(仮名・51歳)が巻き込まれたのも、補助金が絡む詐欺だった。
「子会社の食肉加工会社の再建のために事業再構築補助金を3000万円もらったのですが、子会社を売ってほしい言ってきたAと某銀行系M&Aアドバイザーを名乗るBに会社もカネも騙し取られた」
◆子会社の資産価値は1億円以上あったのに
子会社はつなぎ融資として地銀からも8000万円借り入れていた。そのため、加工用の設備は最新に。富山さんは「会社の資産価値は1億円以上あった」と話す。
「ただ、私は自分の会社の加工委託先として仕事を受けてくれるなら社長は誰でもいいと考え、4000万円で子会社を売却。M&A手数料として、Bには2000万円払いました。しかし、Aは自分のお金でなく、子会社の事業再構築補助金から売却代金の半額2000万円だけを私に払い、残りの補助金を懐に入れた。さらに、まともに会社を経営するつもりがなかったのか、地銀からの借り入れの保証人を私のままにして逃げた」
◆M&Aの契約書を改ざんされ、多額の金銭を要求
AとBは結託して、さらに富山さんを追い込もうとした。
「彼らはM&Aの契約書をずっと私に渡そうとしなかったんです。それが、しばらくしてから突如、契約書をタテに7000万円を要求してきた。『子会社の利益7000万円を保証する』という文言を勝手に盛り込み、契約書を改ざんしていたのです。契約時には1枚1枚バラバラの契約書類を見せて最後の1枚に私にサインさせ、それ以外のページを差し替えたようです」
すでに警察に被害を届け出ており、「Aらの逮捕は時間の問題」と話す。だが、Aらは黙って子会社を“転売”。第三者の登場で子会社を取り戻すには時間を要するという……。
◆“知らない”相手とも付き合える若者たちの被害
「若者や中高年が騙されるケースが増えている」
こう話すのは詐欺に精通するジャーナリストの多田文明氏だ。背景には時代の変化があると考えられる。
「高齢者の詐欺被害抑制に向けた取り組みが進み、高齢者自身も警戒心が強くなった。見守り活動も進み、ATMでは高額な振り込みもできなくなりました。その一方で、若い世代は『高齢者が騙されるもの』と思い込み、“武装”できていない。電話で話すよりも、LINEなどのテキストのやり取りが当たり前になったせいで、顔も声も知らない相手とのやり取りに抵抗がない。そのため、近年の劇場型詐欺では警察官を名乗る人間が偽の逮捕状をLINEなどで送りつけるのがパターンになっています。画像の力で若い人も信じ込んでしまう」
◆被害に遭わないためにすべき対策は何か
被害を抑制するためには、どのような対策が必要か?
「まず、ネットでは簡単になりすましができることを理解すること。昨今話題の有名人を騙ったSNS型投資詐欺がその典型です。詐欺師はいくつものウソをつくので、見破るのはさほど難しくない。投資の勧誘を受けたら、投資先の会社名や連絡先が記載されているかを確認する必要がありますが、それをやる人が少ない。もう一つは、お金を要求されるようなことがあったら、第三者に相談すること。詐欺被害者の大半が、自分をハメた詐欺師に『どうしたらお金を取り返せるか?』などと相談をするのです……。そうではなくて友人や『188』の消費者ホットラインなどに相談してみましょう」
自分もカモと認識することが詐欺被害防止の第一歩だ。
【ジャーナリスト・多田文明氏】
20年以上、詐欺や悪徳商法について取材。その潜入先は100か所以上で、『ついていったらこうなった』(彩図社)など著書多数。旧統一教会の元信者の経験も持つ
取材・文/週刊SPA!編集部 図版/ウエイド
※8月27日発売の週刊SPA!特集「本当にあった[怖い詐欺]手口」より
―[本当にあった[怖い詐欺]手口]―
今回は補助金詐欺に巻き込まれ、現在も未解決の会社経営者を取材する。
◆頻発する補助金が絡む詐欺に巻き込まれてしまった会社経営者
補助金詐欺も各地で頻発している。茨城で食肉卸会社を経営する富山忠広さん(仮名・51歳)が巻き込まれたのも、補助金が絡む詐欺だった。
「子会社の食肉加工会社の再建のために事業再構築補助金を3000万円もらったのですが、子会社を売ってほしい言ってきたAと某銀行系M&Aアドバイザーを名乗るBに会社もカネも騙し取られた」
◆子会社の資産価値は1億円以上あったのに
子会社はつなぎ融資として地銀からも8000万円借り入れていた。そのため、加工用の設備は最新に。富山さんは「会社の資産価値は1億円以上あった」と話す。
「ただ、私は自分の会社の加工委託先として仕事を受けてくれるなら社長は誰でもいいと考え、4000万円で子会社を売却。M&A手数料として、Bには2000万円払いました。しかし、Aは自分のお金でなく、子会社の事業再構築補助金から売却代金の半額2000万円だけを私に払い、残りの補助金を懐に入れた。さらに、まともに会社を経営するつもりがなかったのか、地銀からの借り入れの保証人を私のままにして逃げた」
◆M&Aの契約書を改ざんされ、多額の金銭を要求
AとBは結託して、さらに富山さんを追い込もうとした。
「彼らはM&Aの契約書をずっと私に渡そうとしなかったんです。それが、しばらくしてから突如、契約書をタテに7000万円を要求してきた。『子会社の利益7000万円を保証する』という文言を勝手に盛り込み、契約書を改ざんしていたのです。契約時には1枚1枚バラバラの契約書類を見せて最後の1枚に私にサインさせ、それ以外のページを差し替えたようです」
すでに警察に被害を届け出ており、「Aらの逮捕は時間の問題」と話す。だが、Aらは黙って子会社を“転売”。第三者の登場で子会社を取り戻すには時間を要するという……。
◆“知らない”相手とも付き合える若者たちの被害
「若者や中高年が騙されるケースが増えている」
こう話すのは詐欺に精通するジャーナリストの多田文明氏だ。背景には時代の変化があると考えられる。
「高齢者の詐欺被害抑制に向けた取り組みが進み、高齢者自身も警戒心が強くなった。見守り活動も進み、ATMでは高額な振り込みもできなくなりました。その一方で、若い世代は『高齢者が騙されるもの』と思い込み、“武装”できていない。電話で話すよりも、LINEなどのテキストのやり取りが当たり前になったせいで、顔も声も知らない相手とのやり取りに抵抗がない。そのため、近年の劇場型詐欺では警察官を名乗る人間が偽の逮捕状をLINEなどで送りつけるのがパターンになっています。画像の力で若い人も信じ込んでしまう」
◆被害に遭わないためにすべき対策は何か
被害を抑制するためには、どのような対策が必要か?
「まず、ネットでは簡単になりすましができることを理解すること。昨今話題の有名人を騙ったSNS型投資詐欺がその典型です。詐欺師はいくつものウソをつくので、見破るのはさほど難しくない。投資の勧誘を受けたら、投資先の会社名や連絡先が記載されているかを確認する必要がありますが、それをやる人が少ない。もう一つは、お金を要求されるようなことがあったら、第三者に相談すること。詐欺被害者の大半が、自分をハメた詐欺師に『どうしたらお金を取り返せるか?』などと相談をするのです……。そうではなくて友人や『188』の消費者ホットラインなどに相談してみましょう」
自分もカモと認識することが詐欺被害防止の第一歩だ。
【ジャーナリスト・多田文明氏】
20年以上、詐欺や悪徳商法について取材。その潜入先は100か所以上で、『ついていったらこうなった』(彩図社)など著書多数。旧統一教会の元信者の経験も持つ
取材・文/週刊SPA!編集部 図版/ウエイド
※8月27日発売の週刊SPA!特集「本当にあった[怖い詐欺]手口」より
―[本当にあった[怖い詐欺]手口]―