お笑いコンビ・ハライチとしてはもちろん、個人としても活躍し、ベストセラー作家の顔も持つ岩井勇気さん(38歳)。
2024年7月に上梓した、2019年の『僕の人生には事件が起きない』、2021年の『どうやら僕の日常生活はまちがっている』に続く、エッセイ集の第三弾『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』が好評のなか話を聞くと、日常で「これ、ネタになるな」とは考えないとか。
さらに「10代の自分の夢を、いまの自分が叶えてあげなきゃとは思わない」との岩井節も飛び出した。
◆芸人・岩井が書いているというバイアス
――前著『どうやら僕の日常生活はまちがっている』には初の短編小説が収録されていました。その際、「小説とエッセイの垣根をわざと曖昧にしたい」とお話されていましたが、本書もその辺を意識されたのかなと。全体が「僕」という主人公の小説にも読めて、エッセイがより小説っぽくなっている気がしました。
岩井勇気(以下、岩井):そうですね。意識してます。あまり芸人・岩井というのを入れていないですし、芸人という仕事をやっているとも書いてないです。仕事に関しても「先輩」という表現を使っています。別に俺のことを知らなくても読めるようにと徹底していった感じはありますね。メディア露出がある芸人・岩井が書いているというバイアスをかけないようにというか、間口が狭まらないように、あえて外しました。
――そのことで30代の「僕」のお話として読めました。同時に岩井さんらしさ満載で、声を出して笑ったり、迷宮に入ったような不思議な感覚になるエピソードがあったりと楽しみましたが、構成していく上でどんな工夫をしていますか?
岩井:目線をひとつ加えると面白くなる、みたいなのはありますね。やってることは大したことないんだけど、ひとつだけ目線を乗っけるとエピソードになる。
◆日常で、「これ、ネタになるな」とは考えない
――普段から芸人としてネタを書かれるわけですが、文章を書くようになったことで、日常の細かいことをエッセイの「ネタ」として、より気にするようになった、といった変化はありますか?
岩井:いや、そういうことは考えてないです。日常で何かあったりして、そのことを思い出して「書けるんじゃないか」と考えたりはしますけど、そのときに、「これ、ネタになるな」とは考えないです。普段から、あまりネタになるなと思って行動したり、ネタを見つけようと思って出かけたりはしないようにしています。
――そうなんですね。
岩井:何か面白いことが起こるんじゃないかと思いながら出かけていって、そこで何か起こったとしても、別に面白くないというか。そこでは何も裏切られてないから。だから普通に、何かの目的で出かけるときは、その目的のために出かける。ネタ探しじゃないです。
◆平日帯の仕事にも、生活に特に変化なし
――意識せずとも、普段の仕事からも「面白い」刺激があるんじゃないでしょうか。たとえば、MCを務めている『ぽかぽか』(フジテレビ)では、それこそ毎日、いろんな人に会いますよね。
岩井:うーん、なんすかね。別に『ぼかぼか』をやるようになったからって、大きな変化もないんですよ。「帯で大変ですね」とか言われたりするんですけど、意外と時間も取られてないし。2時間の生放送ですけど、1時間ちょっと前に入るだけだから、1日の中で3時間ちょっとしか取られてないんです。で、終わったらすぐ出てますし。だから生活もそんなに変わらないし、変わったといったら、朝方まで麻雀打つことがなくなったくらいじゃないですかね。
――それこそ帯番組よりも、実生活での変化がありました。
岩井:そんなに変化もないんですよね。単純にひとりの生活が2人になっただけで。ただ、そうだな。自分って、基本、人と一緒にいたい人間なんです。だからほぼほぼ家にはいなかったんです。誰かを誘ってご飯に行ったり、友達に連絡して過ごしたり。「今日は誰を誘おうかな」みたいな感じがあった。でも「この人はこの前誘ったばっかだな」とか「この人はいま忙しいな」とかいろいろ考えなくても、確定で誘える人が身近にいる。「この人なら誘っていいだろう」って。そういう人ができた安心感はありますね。
◆「好きなようにしたらいい」は冷たい
――最後に「あとがき」ついても少し。ここは、ほかのエッセイとは毛色が違う感じがしたのですが、なぜあの文章を持ってきたのでしょう。
岩井:最後に書いたんですけど、「何を書こう」か本当に迷ったんです。三部作だと言ってますけど、三部作の締めを意識したものを書くのも、1冊目、2冊目を買ってない人もいるだろうから、そういうのは嫌だし。ちょうど『ぽかぽか』に阿川佐和子さんがゲストで来ていたので「あとがきって何を書けばいいんですか」と聞いたら、「あとがきもエッセイみたいなものを書けばいいのよ」と言われたので、単純にもう1本書けばいいのかと。最近の出来事を書きました。
――先輩と後輩の関係について考えている時期だったのでしょうか。
岩井:事務所から芸人が続けて辞めた時期だったんです。結構みんな「お前が決めたんだったらそれでいいと思うよ」とか言うんですけど、「好きなようにしたらいい」って実は冷たいですよね。自分はあえて「辞めないほうがいい。続けたほうがいい」って言ってるんです。別にどうせ気持ちは決まってるんだし。それで止められたことはないですけど。
◆10代の自分はキラキラしているけど
――岩井さん自身は、なぜ続けられているのだと思いますか?
岩井:続けようとか思ったことないんです。今の自分がやってたいからじゃないですかね。ただやってたら続いてる、そんな感じ。別に一生続けようといま考えてるわけではないですし。「続いてたらいいな」とは思いますけど、その時にどうしたいかでいいかなと。過去の志に縛られたくはないので。
――「過去の志に縛られたくない」。
岩井:たとえば若い頃に「売れてやる!」とか思ったりして、そういうのは大切だと思うんですけど、いま別にそこはそんなに思わないし、10代の自分の夢をいまの自分が叶えてあげなきゃとは思わない。30代の今の自分が、そいつ(10代の自分)の夢を叶えることに費やし続けるのは嫌なので。10代の自分って、キラキラしてるし、なんか自分の子どもの夢を叶えてあげようみたいな感覚に陥りがちなんですけど、今の自分は今の自分の夢、今が一番大事だと思います。
――なるほど。たしかにそうですね。また「今」書きたくなったら、ぜひ書いてください。楽しみにしています。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
2024年7月に上梓した、2019年の『僕の人生には事件が起きない』、2021年の『どうやら僕の日常生活はまちがっている』に続く、エッセイ集の第三弾『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』が好評のなか話を聞くと、日常で「これ、ネタになるな」とは考えないとか。
さらに「10代の自分の夢を、いまの自分が叶えてあげなきゃとは思わない」との岩井節も飛び出した。
◆芸人・岩井が書いているというバイアス
――前著『どうやら僕の日常生活はまちがっている』には初の短編小説が収録されていました。その際、「小説とエッセイの垣根をわざと曖昧にしたい」とお話されていましたが、本書もその辺を意識されたのかなと。全体が「僕」という主人公の小説にも読めて、エッセイがより小説っぽくなっている気がしました。
岩井勇気(以下、岩井):そうですね。意識してます。あまり芸人・岩井というのを入れていないですし、芸人という仕事をやっているとも書いてないです。仕事に関しても「先輩」という表現を使っています。別に俺のことを知らなくても読めるようにと徹底していった感じはありますね。メディア露出がある芸人・岩井が書いているというバイアスをかけないようにというか、間口が狭まらないように、あえて外しました。
――そのことで30代の「僕」のお話として読めました。同時に岩井さんらしさ満載で、声を出して笑ったり、迷宮に入ったような不思議な感覚になるエピソードがあったりと楽しみましたが、構成していく上でどんな工夫をしていますか?
岩井:目線をひとつ加えると面白くなる、みたいなのはありますね。やってることは大したことないんだけど、ひとつだけ目線を乗っけるとエピソードになる。
◆日常で、「これ、ネタになるな」とは考えない
――普段から芸人としてネタを書かれるわけですが、文章を書くようになったことで、日常の細かいことをエッセイの「ネタ」として、より気にするようになった、といった変化はありますか?
岩井:いや、そういうことは考えてないです。日常で何かあったりして、そのことを思い出して「書けるんじゃないか」と考えたりはしますけど、そのときに、「これ、ネタになるな」とは考えないです。普段から、あまりネタになるなと思って行動したり、ネタを見つけようと思って出かけたりはしないようにしています。
――そうなんですね。
岩井:何か面白いことが起こるんじゃないかと思いながら出かけていって、そこで何か起こったとしても、別に面白くないというか。そこでは何も裏切られてないから。だから普通に、何かの目的で出かけるときは、その目的のために出かける。ネタ探しじゃないです。
◆平日帯の仕事にも、生活に特に変化なし
――意識せずとも、普段の仕事からも「面白い」刺激があるんじゃないでしょうか。たとえば、MCを務めている『ぽかぽか』(フジテレビ)では、それこそ毎日、いろんな人に会いますよね。
岩井:うーん、なんすかね。別に『ぼかぼか』をやるようになったからって、大きな変化もないんですよ。「帯で大変ですね」とか言われたりするんですけど、意外と時間も取られてないし。2時間の生放送ですけど、1時間ちょっと前に入るだけだから、1日の中で3時間ちょっとしか取られてないんです。で、終わったらすぐ出てますし。だから生活もそんなに変わらないし、変わったといったら、朝方まで麻雀打つことがなくなったくらいじゃないですかね。
――それこそ帯番組よりも、実生活での変化がありました。
岩井:そんなに変化もないんですよね。単純にひとりの生活が2人になっただけで。ただ、そうだな。自分って、基本、人と一緒にいたい人間なんです。だからほぼほぼ家にはいなかったんです。誰かを誘ってご飯に行ったり、友達に連絡して過ごしたり。「今日は誰を誘おうかな」みたいな感じがあった。でも「この人はこの前誘ったばっかだな」とか「この人はいま忙しいな」とかいろいろ考えなくても、確定で誘える人が身近にいる。「この人なら誘っていいだろう」って。そういう人ができた安心感はありますね。
◆「好きなようにしたらいい」は冷たい
――最後に「あとがき」ついても少し。ここは、ほかのエッセイとは毛色が違う感じがしたのですが、なぜあの文章を持ってきたのでしょう。
岩井:最後に書いたんですけど、「何を書こう」か本当に迷ったんです。三部作だと言ってますけど、三部作の締めを意識したものを書くのも、1冊目、2冊目を買ってない人もいるだろうから、そういうのは嫌だし。ちょうど『ぽかぽか』に阿川佐和子さんがゲストで来ていたので「あとがきって何を書けばいいんですか」と聞いたら、「あとがきもエッセイみたいなものを書けばいいのよ」と言われたので、単純にもう1本書けばいいのかと。最近の出来事を書きました。
――先輩と後輩の関係について考えている時期だったのでしょうか。
岩井:事務所から芸人が続けて辞めた時期だったんです。結構みんな「お前が決めたんだったらそれでいいと思うよ」とか言うんですけど、「好きなようにしたらいい」って実は冷たいですよね。自分はあえて「辞めないほうがいい。続けたほうがいい」って言ってるんです。別にどうせ気持ちは決まってるんだし。それで止められたことはないですけど。
◆10代の自分はキラキラしているけど
――岩井さん自身は、なぜ続けられているのだと思いますか?
岩井:続けようとか思ったことないんです。今の自分がやってたいからじゃないですかね。ただやってたら続いてる、そんな感じ。別に一生続けようといま考えてるわけではないですし。「続いてたらいいな」とは思いますけど、その時にどうしたいかでいいかなと。過去の志に縛られたくはないので。
――「過去の志に縛られたくない」。
岩井:たとえば若い頃に「売れてやる!」とか思ったりして、そういうのは大切だと思うんですけど、いま別にそこはそんなに思わないし、10代の自分の夢をいまの自分が叶えてあげなきゃとは思わない。30代の今の自分が、そいつ(10代の自分)の夢を叶えることに費やし続けるのは嫌なので。10代の自分って、キラキラしてるし、なんか自分の子どもの夢を叶えてあげようみたいな感覚に陥りがちなんですけど、今の自分は今の自分の夢、今が一番大事だと思います。
――なるほど。たしかにそうですね。また「今」書きたくなったら、ぜひ書いてください。楽しみにしています。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi