経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は“和製”スポーツ用品メーカーの2大巨頭といえるアシックスとミズノの業績について紹介したいと思います。
アシックスは戦後、スポーツシューズの専業メーカーとして創業しました。国内外で展開し、特に日本と欧州では一定のシェアを掌握。対するミズノは1906年に創業。野球用品の製造販売から始まり、ゴルフやランニング用品など多様なスポーツ用品を扱っています。
今回は両社の業績と今後の方針について見ていきたいと思います。
◆日本のスポーツ文化を支えた両社
アシックスは1949年に鬼塚商会として発足しました。スポーツシューズの専業メーカーとして創業し、72年に東証二部上場を果たし、74年に一部上場に鞍替えしています。1977年には現在のアシックスに商号を変更し、他社と合併して縫製7工場などを引き継ぎました。80年代、90年代には欧米市場にも積極的に進出したため、ナイキやアディダスほどの人気はありませんが、海外でも一定の認知度を有しています。
冒頭の通りミズノは1906年、水野兄弟商会として創業しました。「ミズノ=野球」のイメージが強いのは創業当初から野球関連のものを扱っていたためです。洋品雑貨や野球ボールの販売から始まり、1907年から野球用ウエアの製造を開始しました。その後、戦前までに野球グラブやボール、陸上スパイクやゴルフクラブの生産を開始しました。1947年にはテニスラケットの製造を開始しています。62年には東証二部に上場し、72年に一部上場を果たしました。
なお、23年度における両社の売上高はアシックスが5,705億円、ミズノが2,297億円であり、国内のスポーツ用品企業としてはそれぞれ1位、2位の規模です。
◆商品構成は大きく異なるアシックスとミズノ
和製スポーツ用品メーカーの2大巨頭として君臨するアシックスとミズノですが、商品構成やセグメントは大きく異なります。アシックスはシューズ関連が売上のほとんどを占め、売上高に対する比率はランニングシューズが50%、陸上・テニス・バレーなどの競技用シューズが13%です。競技用ウエアなどのアパレル関連は6%しかありません。
対するミズノの商品構成は分散しており、23年度はシューズ関連の売上が31%、アパレルが28%となっています。競技別で見ても野球/ソフト・408億円、ゴルフ・334億円、ランニング・233億円とある程度分散されています。
ちなみに海外売上高比率はアシックスが84%であるのに対し、ミズノは38%です。そのため企業規模ではアシックスが上ですが、国内の売上はミズノが上回ります。
◆「海外売上の伸びが著しい」アシックス
それでは近年の業績推移を見ていきましょう。2019年12月期から23年12月期におけるアシックスの業績は次の通りです。全社業績の他、地域別の売上高も記載しています。
【株式会社アシックス(2019年12月期~2023年12月期)】
売上高:3,781億円→3,288億円→4,041億円→4,846億円→5,705億円
営業利益:106億円→▲40億円→219億円→340億円→542億円
売上高-日本地域:1,210億円→944億円→1,099億円→1,234億円→1,358億円
売上高-北米地域:790億円→654億円→862億円→1,053億円→1,146億円
売上高-欧州地域:956億円→873億円→1,066億円→1,301億円→1,480億円
全体的な傾向として、2020年度は一時的に減少したものの、その後に回復するような動きとなっています。特に自粛ムードの激しい20年度は各種スポーツイベントの自粛のほか、アシックス製品を扱う商業施設の休業が減収要因となりました。しかし、スポーツ市場自体は国内外で拡大傾向にあり、感染リスクの小さいレジャーとしてランニングが注目されたことも、その後の業績を牽引しました。後述の通り度重なるスポーツイベントも押上げ要因になったとみられます。また、昨今の円安も海外売上高を増幅しました。
◆「スポーツイベントに牽引された」ミズノ
同様にミズノも業績が拡大しました。2020年3月期から24年3月期の業績は次の通りです。
【ミズノ株式会社(2020年3月期~2024年3月期)】
売上高:1,697億円→1,504億円→1,727億円→2,120億円→2,297億円
営業利益:62.6億円→38.1億円→98.7億円→129.5億円→172.8億円
21年3月期はアシックスと同じようにスポーツイベントの自粛や商業施設の休業が悪化要因となりました。しかし、その後すぐに業績は回復し、23年3月期以降は売上高が2,000億円を上回っています。国際的なスポーツイベントが重なったことも影響しているでしょう。2021年夏には1年遅れで東京オリンピックが開催され、22年の冬にはFIFAワールドカップ、23年3月には野球のWBCが開催されました。アシックスのように海外売上高は大きくありませんが、こうしたイベントが国内の売上を伸ばしたとみられます。
◆ナイキ、アディダス、プーマらの牙城を崩せるか
スポーツ用品市場に関して国内はいずれ人口減の影響を受けますが、全世界の成長率は年率3%以上、5%以上とも言われています。健康意識の高まりやスポーツ人口の増加が両社にとって追い風となるでしょう。既に海外売上の高いアシックスは欧米や高成長地域での拡大を見据えています。
対するミズノも27年3月期は2,900億円という売上高目標を掲げていますが、低い海外売上高比率がネックとなりそうです。認知度向上のためにスポーツ大会への積極的な投資を進めるとしており、欧州のサッカーリーグではユニフォームを提供するチーム数を増やそうとしています。また、「地味」な印象を払拭すべく、近年では海外アパレルブランドとのコラボ企画も行っています。
海外ではナイキ、アディダス、プーマと世界的企業が君臨していますが、日本のスポーツ界を支えた両社が海外でどこまで伸びるのか期待したいところです。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_
アシックスは戦後、スポーツシューズの専業メーカーとして創業しました。国内外で展開し、特に日本と欧州では一定のシェアを掌握。対するミズノは1906年に創業。野球用品の製造販売から始まり、ゴルフやランニング用品など多様なスポーツ用品を扱っています。
今回は両社の業績と今後の方針について見ていきたいと思います。
◆日本のスポーツ文化を支えた両社
アシックスは1949年に鬼塚商会として発足しました。スポーツシューズの専業メーカーとして創業し、72年に東証二部上場を果たし、74年に一部上場に鞍替えしています。1977年には現在のアシックスに商号を変更し、他社と合併して縫製7工場などを引き継ぎました。80年代、90年代には欧米市場にも積極的に進出したため、ナイキやアディダスほどの人気はありませんが、海外でも一定の認知度を有しています。
冒頭の通りミズノは1906年、水野兄弟商会として創業しました。「ミズノ=野球」のイメージが強いのは創業当初から野球関連のものを扱っていたためです。洋品雑貨や野球ボールの販売から始まり、1907年から野球用ウエアの製造を開始しました。その後、戦前までに野球グラブやボール、陸上スパイクやゴルフクラブの生産を開始しました。1947年にはテニスラケットの製造を開始しています。62年には東証二部に上場し、72年に一部上場を果たしました。
なお、23年度における両社の売上高はアシックスが5,705億円、ミズノが2,297億円であり、国内のスポーツ用品企業としてはそれぞれ1位、2位の規模です。
◆商品構成は大きく異なるアシックスとミズノ
和製スポーツ用品メーカーの2大巨頭として君臨するアシックスとミズノですが、商品構成やセグメントは大きく異なります。アシックスはシューズ関連が売上のほとんどを占め、売上高に対する比率はランニングシューズが50%、陸上・テニス・バレーなどの競技用シューズが13%です。競技用ウエアなどのアパレル関連は6%しかありません。
対するミズノの商品構成は分散しており、23年度はシューズ関連の売上が31%、アパレルが28%となっています。競技別で見ても野球/ソフト・408億円、ゴルフ・334億円、ランニング・233億円とある程度分散されています。
ちなみに海外売上高比率はアシックスが84%であるのに対し、ミズノは38%です。そのため企業規模ではアシックスが上ですが、国内の売上はミズノが上回ります。
◆「海外売上の伸びが著しい」アシックス
それでは近年の業績推移を見ていきましょう。2019年12月期から23年12月期におけるアシックスの業績は次の通りです。全社業績の他、地域別の売上高も記載しています。
【株式会社アシックス(2019年12月期~2023年12月期)】
売上高:3,781億円→3,288億円→4,041億円→4,846億円→5,705億円
営業利益:106億円→▲40億円→219億円→340億円→542億円
売上高-日本地域:1,210億円→944億円→1,099億円→1,234億円→1,358億円
売上高-北米地域:790億円→654億円→862億円→1,053億円→1,146億円
売上高-欧州地域:956億円→873億円→1,066億円→1,301億円→1,480億円
全体的な傾向として、2020年度は一時的に減少したものの、その後に回復するような動きとなっています。特に自粛ムードの激しい20年度は各種スポーツイベントの自粛のほか、アシックス製品を扱う商業施設の休業が減収要因となりました。しかし、スポーツ市場自体は国内外で拡大傾向にあり、感染リスクの小さいレジャーとしてランニングが注目されたことも、その後の業績を牽引しました。後述の通り度重なるスポーツイベントも押上げ要因になったとみられます。また、昨今の円安も海外売上高を増幅しました。
◆「スポーツイベントに牽引された」ミズノ
同様にミズノも業績が拡大しました。2020年3月期から24年3月期の業績は次の通りです。
【ミズノ株式会社(2020年3月期~2024年3月期)】
売上高:1,697億円→1,504億円→1,727億円→2,120億円→2,297億円
営業利益:62.6億円→38.1億円→98.7億円→129.5億円→172.8億円
21年3月期はアシックスと同じようにスポーツイベントの自粛や商業施設の休業が悪化要因となりました。しかし、その後すぐに業績は回復し、23年3月期以降は売上高が2,000億円を上回っています。国際的なスポーツイベントが重なったことも影響しているでしょう。2021年夏には1年遅れで東京オリンピックが開催され、22年の冬にはFIFAワールドカップ、23年3月には野球のWBCが開催されました。アシックスのように海外売上高は大きくありませんが、こうしたイベントが国内の売上を伸ばしたとみられます。
◆ナイキ、アディダス、プーマらの牙城を崩せるか
スポーツ用品市場に関して国内はいずれ人口減の影響を受けますが、全世界の成長率は年率3%以上、5%以上とも言われています。健康意識の高まりやスポーツ人口の増加が両社にとって追い風となるでしょう。既に海外売上の高いアシックスは欧米や高成長地域での拡大を見据えています。
対するミズノも27年3月期は2,900億円という売上高目標を掲げていますが、低い海外売上高比率がネックとなりそうです。認知度向上のためにスポーツ大会への積極的な投資を進めるとしており、欧州のサッカーリーグではユニフォームを提供するチーム数を増やそうとしています。また、「地味」な印象を払拭すべく、近年では海外アパレルブランドとのコラボ企画も行っています。
海外ではナイキ、アディダス、プーマと世界的企業が君臨していますが、日本のスポーツ界を支えた両社が海外でどこまで伸びるのか期待したいところです。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_