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2歳児のインターネット利用率が「58.8%」…スマホに慣れた子どもは「リアルな遊びに興味を示さない」

日刊SPA! 2024年9月1日 8時52分

子どもたちの運動能力や視力の低下、それに骨折率の増加といったことが話題になっています。今の子どもたちの置かれている環境は、20年くらい前と比べてまったく違うものになりつつあります。
長年、子どもの問題を取材してきた石井光太氏が、全国200人以上の先生にインタビューをし、<子どもたちの変化>を浮き彫りにした『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓しました。今、子どもたちの内面で何が起きているのでしょうか。石井氏に話を聞きました。

◆今の子どもは「ハイハイをさせてもらっていない」

ーー新刊の『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』には、保育園から高校まで、年齢別に子どもたちの身に起きている衝撃的な状態が紹介されています。なぜ、今ここに注目したのでしょうか。

石井光太(以下、石井):子どもの身体能力の低下は年々深刻になりつつあります。単に運動が苦手というだけでなく、「しゃがめない」「体育座りができない」「長い時間立っていられない」といった基本的な動作ができない子どもも多数現れているのです。これは保育園や幼稚園だけでなく、小学校以上でも見られる現象になっています。

一般的に、こうしたことは運動機会の減少が理由とされています。しかし、本の中でも紹介しましたが、最近は成育環境が大きく影響しているのではないかという意見が強くなってきています。私が取材をした方は次のように話していました。

「今の子どもは、家庭内でハイハイをさせてもらっていないのです。現在の保育園や幼稚園では、ハイハイをしていない子が一定数いるというのは常識になっています。そして、そうした成育環境が運動能力を著しく下げている原因になっているのです」

◆ハイハイは「怪我のリスクのある動き」だから…

ーーハイハイというのは子どもが当たり前のようにする動きだと思っていました。どうして、ハイハイをしない子どもが増えているのでしょう。

石井:子どもは、ハイハイの動作を通して、体幹を身につけ、身体の様々な筋力を鍛えます。だから、歩行をはじめた時、しっかりとバランスをとりながら、足腰の力で歩いたり、走ったりすることができるようになるのです。しかし、家が狭くて散らかっていたり、ずっと狭い託児所に預けられていたり、外で自由に遊ばせてもらえなかったり、家の床に赤ちゃん用マットが敷かれて滑り止めのような状態になっていたりした場合、赤ちゃんはハイハイをする機会を奪われます。

また、親が忙しく、つきっきりで面倒をみてあげられなければ、ハイハイは怪我のリスクのある動きとなってしまう。それゆえ、親は子どもにハイハイをさせず、赤ちゃん用歩行器に乗せた後、一足飛びに歩行へと移行させるのだそうです。こうなると、子どもたちは体幹も筋力も十分に育たたないまま歩きだすようになります。そうなれば怪我のリスクは高まりますし、基本的な力がついていないので身体能力の成長が妨げられてしまう。そうしたことで運動能力の低下が顕著になっているというのです。

◆「固形物をちゃんと食べられない子ども」が増加

ーー家庭環境が大きく変わったことで、子どもたちの身に色んな変化が生じているんですね。

石井:ルポの中で紹介した別の例でいえば、3歳、4歳になっても、固形物をちゃんと食べられない子がかなり増えてきています。固形物をちゃんと噛んで飲み込めないので、のどに詰まらせてしまう。そのせいで、保育園によっては、ある程度の年齢になってもドロドロとした離乳食のような食事を提供しているところもあります。誤嚥事故の防止のためです。こうしたことが起こる原因として、先生が指摘するのが親の多忙さです。通常、固形物を食べられるようになるには、親が何カ月もつきっきりその方法を教えなければなりません。

毎日「あーんしようね」「もぐもぐしてね」「ゴックンしようね」と声をかけ、自分でもやって見せる。でも、親が多忙さゆえにそれをしなければ、子どもは固形物を食べる方法が身につかない。それで、誤嚥事故が起こるというのです。

本書のタイトルは『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』と「スマホ」という言葉がついていますが、これは子どもたちを取り巻く環境の変化の象徴としてタイトルに組み込んだだけで、多面的に子どもたちの変化を描いていると考えていただければと思います。

◆「スプラトゥーン」のほうが面白い?

ーーご著書の中の、スマホやゲームの刺激に慣れて、リアルな遊びに興味を示さない子が増えているという指摘に驚かされました。公園へ連れて行っても、一定数の子たちは立ちすくんでしまうとか。

石井:私はゲームやスマホが悪いとは思いません。適度に使用するなら良いものです。半面、ゲームにせよ、ショート動画にせよ、ものすごく刺激の強いものです。それを一日に何時間もやることによって嗜癖となって抜け出せなくなると、これはこれで問題が生じます。

某保育園で、こんなエピソードがありました。ある日、先生が、子どもたちに紙で制作した大きな恐竜に、色を塗らせようとした。すると、子どもたちが「やりたくない」「おもしろくない」と言いだした。先生がなぜかと聞くと、子どもはこう答えたそうです。

「家でスプラトゥーンをやっているから、こんなつまらないことやりたくない」

「スプラトゥーン」とは、ゲームのソフトで、町中を塗料で塗りたくる対戦型の遊びです。これを家でやっているので、小さな筆で絵具を塗ることに興味がわかないというのです。冗談みたいな話ですが、このエピソードを教えてくれた保育園の先生はこう言っていました。

「刺激性の高いエンターテイメントにのめり込んでいる子は、現実のいろんなことに興味を持ちません。現実のものは刺激が弱すぎると言うのです。一旦こうなると、リアルで行われること全般に関心を示さなくなります」

現在、2歳児のインターネット利用率は58.8%になっています。日本語を覚える前に、それらを使っている。これが嗜癖にまでなってしまっている子には、こういう事態が起きているということなのです。

◆足を交互に出すスキップができないことも…

ーーこの本では、小中高の子どもたちの現状にも触れています。幼少期の問題が、小中高に引き継がされていると考えられるのでしょうか。

石井:一利あると思います。取材した先生方によれば、小学校では次のようなことが起きているそうです。

・徒競走でカーブを回れずに転倒する子が増えている。
・肩や脇が固まって、両手を上げて万歳ができない。
・バランスや筋力が弱く、雑巾掛けの姿勢がとれない。
・足を交互に出すスキップができない。

こうした事象は、幼少期の問題が、小中高に繰り越されて起きていることと言えるでしょう。本書でも紹介しましたが、これらは小児形成外科の分野で、「子どもロコモ」と呼ばれて大きな問題とされていますので、気になる方は参考にしていただければと思います。

◆一度も顔を見たことがない「ネットの恋人」

ーースマホの普及により、子どもたちの人間関係も少しずつ変わってきているという指摘がありました。

石井:代表例が、「ネットの恋人」です。今の子たちは、SNSで良いと思う相手を探して、フォローしたり、ダイレクトメールを送ったりします。中には、SNSで一度も会わないまま告白して付き合う子もいます。一般的な子は、ここからリアルのデートをするようになりますが、一部の子はデートもすべてオンライン上でする。デート代もかからない、しくじることもない、気疲れしたら切ればいいということから、ネットのみの付き合いの方が便宜性が高いと感じるのだとか。一緒に動画を見て、SNSで感想を言い合うなどというデートです。そのため、半年間付き合っていても一度も顔を見たことがないなんてことが起きています。

興味深いデータがあります。2019年に、愛知県の私立高校の生徒に対して行った性教育に関するアンケートです。ここで、生徒たちに「出会ってからどれくらいの期間で男女の関係になったか」という質問をしたところ、1カ月以内の複数の項目のうち、「出会ったその日」という回答がずば抜けて多かったのです。

なぜかわかりますか? このヒントとなるのが、「ネットの恋人」なのです。ネットで出会って、ネットでデートしていても、男女の関係にまではなれない。だから、SNSで「会ってホテル(家)へ行こう」と言って実際に会うので、アンケート結果としては「会ったその日」が多くなるのです。

ただ、ネットでやり取りしたからといって、なかなか相手のことを理解するまでに至らないですよね。最悪の場合は、相手が騙そうとして近づいてきていることだってありえます。中高生の間では、こうしたネットでの関係から生じるトラブルが年々増えてきているのですが、最近はそれが小学生にまで低年齢化しているのです。

◆親自身がどうしていいかわからないで困っている

ーー今の世の中で、私たち大人は子どもの変化をどう理解し、対策をするべきなのでしょうか。

石井:今回の取材で先生方が口をそろえたのは、親自身がどうしていいかわからないで困っているということです。科学技術が著しく進歩し、格差がどんどん大きくなっていく中で、多くの親がどうやって子どもを育てていったらいいかわからず、ネット上の情報に振り回されている。そのしわ寄せが、子どもにいっているというのです。

まずは子どもたちが抱えている現代特有の問題や変化を正しく認識することです。スマホ時代だからこそのメリットもあれば、デメリットもある。ならば、デメリットをきちんと把握し、それを子どもに自信を持ってつけさせることが大切じゃないでしょうか。

<取材・文/日刊SPA!取材班>

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