幼馴染というものは、単なる友人とは異なる特別な存在だと感じる人は少なくありません。そこには、まるで身内のような「信頼感」や「親近感」が存在するからです。ただ、例外的な状況もあるようです。今回、驚きの報告をくれた男性もその1人です。
◆定年退職の日に幼馴染と再会
是枝俊介さん(仮名・60歳)は、建設機械メーカーで人生の大半を過ごし、無事に定年を迎えました。有能な部下たちにも恵まれ、アジア圏への販路拡大にも大きな成果を残しましたが、結婚だけには恵まれず、とうとう独身のまま会社員人生に終止符を打つことになりました。
「サラリーマン人生最後の日、私は部下や同僚たちに見守られながら、入社以来初めて定時に退社しました。仕事一筋だった私にとって、定時はあってないようなもので、まだ外が明るいうちに会社を後にしたことなどありませんでした。せっかくだからと思い、丸の内界隈にある本社ビルから少し遠回りをして皇居周辺を歩き、日比谷方面へ向かっているときでした。突然後ろから『俊ちゃん!』と、声を掛けられました」
こんな大都会で自分の名前を呼ばれるとは思っていなかった是枝さんは、驚いて振り向くと、そこには見覚えのない女性が立っていたといいます。
「スラリと背が高く、上品な格好の女性が私を見てほほ笑んでいたのですが、私には心当たりがなく、『どちら様ですか?』と尋ねてしまいました。するとその女性は『Y子! 細川Y子です。幼馴染の』と勢いよく話しました」
◆これは神様からのご褒美?
しばらく考え込んだ是枝さんでしたが、顔の雰囲気と背格好、そして少し厚めの唇……。徐々に記憶がよみがえり「え? もしかしてY子ちゃん? サッカー部のマネージャーだった?」と問いただすと、彼女は即答で「あたり!」と返しました。
「思わず自分の頬をつねりました。だって、記念すべき定年退職の日に、幼馴染と再会するなんて…。『神様からのご褒美?』とすら感じました。彼女は偶然にも皇居周辺を散歩している最中に私を発見したんだそうです」
実は、サッカー部に在籍していた頃、細川さんに恋心を抱いていた是枝さん。ほぼ半世紀ぶりに目の前に現れた彼女の変わらぬ美貌に当時の気持ちが再燃し始めます。
「そのまま少し立ち話をしていると、Y子ちゃんは現在千葉に住んでいて、20代で結婚したのだけど、早くに旦那さんを病気で亡くし、それ以来、母親の介護などもあり独身だったそうです」
◆彼女の私生活を知り同情
晴れて定年退職し、時間にも余裕が出た是枝さんは、Y子さんと急接近したといいます。
「なんか運命を感じ、私の方から積極的にデートに誘い、2人で旅行などにも行くようになりました。楽しい時間が過ぎていったのですが、実は彼女には2つ上のお兄さんがいて、現在がんを患っているそうなんです。あまり会話には出してきませんでしたが、時々見せる悲しい顔が私にとってはつらくて、できることは協力したいと思いました」
そんななか、以前から約束していたランチデートの待ち合わせに遅れてきたY子さん。その理由を聞くと、どうやらお兄さんの状況があまりよくないとのことでした。
「2人とも楽しみにしていた洋食屋のオムレツだったのですが、あまり食が進まないY子ちゃん。実は、抗がん剤の効き具合が低下してきたので、保険対象外の先進医療を勧められたらしいのです。もちろん彼女は『あ、気にしないで。なんとかなるから大丈夫』と、すぐに話題を変えようとしましたが、私は彼女のそういう控えめなところが放っておけなく、『僕に工面させてもらえると嬉しい』と間髪入れずに提案していました」
◆青天のへきれきとはこのこと
あくまでも控えめなY子さんですが、是枝さんは自ら進んで彼女の兄の治療費の工面をするように。その後も、新薬の投与や他の先進医療などへの支援を惜しみなく行い、気がつけば、その額が2500万円にもなっていたといいます。しかし、Y子さんの顔に少しでも笑顔が戻るなら全く惜しい出費とは感じなかったとか。
そんな矢先、とんでもないことが起こります。以前から行く約束をしていたグアム旅行の件でLINEを送ったらブロックされていることを知ります。おまけに、携帯電話も着信拒否されていました。
「SNSも電話も、全く通じず、一切連絡が取れなくなりました。お兄さんが入院しているらしい病院に行ってみましたが、該当者は入院していないと言われました。少し迷いましたが、以前教えてもらっていた自宅マンションを訪れたのですが、別人が住んでいました。まさに晴天のへきれき状態です」
しばらく気持ちを整理していた細川さんは、ようやく自分が欺かれていたことに気づきました。
「同じサッカー部だった幼馴染から同窓会の件で電話がかかってきたので、Y子さんとのことを話したところ、彼から『おまえもやられたか。注意しようと思ってたけど遅かったな』と言われました。どうやら、私以外にも幼馴染の中にはたくさんの被害者がいるようです。今、警察と対応を相談しています」
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
◆定年退職の日に幼馴染と再会
是枝俊介さん(仮名・60歳)は、建設機械メーカーで人生の大半を過ごし、無事に定年を迎えました。有能な部下たちにも恵まれ、アジア圏への販路拡大にも大きな成果を残しましたが、結婚だけには恵まれず、とうとう独身のまま会社員人生に終止符を打つことになりました。
「サラリーマン人生最後の日、私は部下や同僚たちに見守られながら、入社以来初めて定時に退社しました。仕事一筋だった私にとって、定時はあってないようなもので、まだ外が明るいうちに会社を後にしたことなどありませんでした。せっかくだからと思い、丸の内界隈にある本社ビルから少し遠回りをして皇居周辺を歩き、日比谷方面へ向かっているときでした。突然後ろから『俊ちゃん!』と、声を掛けられました」
こんな大都会で自分の名前を呼ばれるとは思っていなかった是枝さんは、驚いて振り向くと、そこには見覚えのない女性が立っていたといいます。
「スラリと背が高く、上品な格好の女性が私を見てほほ笑んでいたのですが、私には心当たりがなく、『どちら様ですか?』と尋ねてしまいました。するとその女性は『Y子! 細川Y子です。幼馴染の』と勢いよく話しました」
◆これは神様からのご褒美?
しばらく考え込んだ是枝さんでしたが、顔の雰囲気と背格好、そして少し厚めの唇……。徐々に記憶がよみがえり「え? もしかしてY子ちゃん? サッカー部のマネージャーだった?」と問いただすと、彼女は即答で「あたり!」と返しました。
「思わず自分の頬をつねりました。だって、記念すべき定年退職の日に、幼馴染と再会するなんて…。『神様からのご褒美?』とすら感じました。彼女は偶然にも皇居周辺を散歩している最中に私を発見したんだそうです」
実は、サッカー部に在籍していた頃、細川さんに恋心を抱いていた是枝さん。ほぼ半世紀ぶりに目の前に現れた彼女の変わらぬ美貌に当時の気持ちが再燃し始めます。
「そのまま少し立ち話をしていると、Y子ちゃんは現在千葉に住んでいて、20代で結婚したのだけど、早くに旦那さんを病気で亡くし、それ以来、母親の介護などもあり独身だったそうです」
◆彼女の私生活を知り同情
晴れて定年退職し、時間にも余裕が出た是枝さんは、Y子さんと急接近したといいます。
「なんか運命を感じ、私の方から積極的にデートに誘い、2人で旅行などにも行くようになりました。楽しい時間が過ぎていったのですが、実は彼女には2つ上のお兄さんがいて、現在がんを患っているそうなんです。あまり会話には出してきませんでしたが、時々見せる悲しい顔が私にとってはつらくて、できることは協力したいと思いました」
そんななか、以前から約束していたランチデートの待ち合わせに遅れてきたY子さん。その理由を聞くと、どうやらお兄さんの状況があまりよくないとのことでした。
「2人とも楽しみにしていた洋食屋のオムレツだったのですが、あまり食が進まないY子ちゃん。実は、抗がん剤の効き具合が低下してきたので、保険対象外の先進医療を勧められたらしいのです。もちろん彼女は『あ、気にしないで。なんとかなるから大丈夫』と、すぐに話題を変えようとしましたが、私は彼女のそういう控えめなところが放っておけなく、『僕に工面させてもらえると嬉しい』と間髪入れずに提案していました」
◆青天のへきれきとはこのこと
あくまでも控えめなY子さんですが、是枝さんは自ら進んで彼女の兄の治療費の工面をするように。その後も、新薬の投与や他の先進医療などへの支援を惜しみなく行い、気がつけば、その額が2500万円にもなっていたといいます。しかし、Y子さんの顔に少しでも笑顔が戻るなら全く惜しい出費とは感じなかったとか。
そんな矢先、とんでもないことが起こります。以前から行く約束をしていたグアム旅行の件でLINEを送ったらブロックされていることを知ります。おまけに、携帯電話も着信拒否されていました。
「SNSも電話も、全く通じず、一切連絡が取れなくなりました。お兄さんが入院しているらしい病院に行ってみましたが、該当者は入院していないと言われました。少し迷いましたが、以前教えてもらっていた自宅マンションを訪れたのですが、別人が住んでいました。まさに晴天のへきれき状態です」
しばらく気持ちを整理していた細川さんは、ようやく自分が欺かれていたことに気づきました。
「同じサッカー部だった幼馴染から同窓会の件で電話がかかってきたので、Y子さんとのことを話したところ、彼から『おまえもやられたか。注意しようと思ってたけど遅かったな』と言われました。どうやら、私以外にも幼馴染の中にはたくさんの被害者がいるようです。今、警察と対応を相談しています」
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営