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「私人逮捕系YouTuber」裁判で暴かれた“過激演出”の実態。“収益の総額”も明らかに

日刊SPA! 2024年9月5日 8時51分

 それは、“真の正義”か“ゆがんだ正義”なのか——。
 私人逮捕系YouTubeの「ガッツch」を運営している今野蓮被告人(31)と奥村路丈被告人(29)は、共謀して男性に覚醒剤を持ってくるようにそそのかしたという覚醒剤取締法違反教唆の罪で、昨年12月に東京地検に起訴されている。

 8月29日、東京地裁(花田隆光裁判官)で初公判が開かれた。被告人両名は、起訴内容を否認。盗撮や痴漢などの犯罪行為をしたと主張して、動画を撮影しながら取り押さえた様子をYouTubeに投稿するという「私人逮捕系ユーチューバー」が、初めて裁判で争われることとなった。

◆裁判は厳重な警備体制で行われることに

 一時社会の耳目を集めた事件とだけあって、開廷の30分前に抽選で傍聴券が交付されることに。傍聴希望者の中には、支援者らしき姿はほとんどなく、若者が目立つ。配信者の裁判ともなると、裁判所前で三脚を立てて生配信する者もいるが、今回はそういった人は見受けられず、いたって平穏な裁判所前だった。

 なお、この裁判は「警備法廷」で開かれた。警備法廷とは、有名人や暴力団、活動家関連の事件などでの“暴動”を想定して設けられた法廷のこと。配信者関連の裁判では、盗撮を防ぐためにこの法廷が使用されることがしばしばある。今回は特に、手荷物預かりの際に、携帯電話の電源が切れているか確認されるなど、厳重な警備が行われた。

「今回の裁判の3日前にも、別の配信者の裁判がありました。実はそこでひと悶着あったようで……。ある傍聴人が、裁判所内は撮影禁止なのにも関わらず、生配信をオンにしたまま手荷物を預けてしまったようで、一時裁判が休廷する事態となってしまったのです」(裁判ライターA氏)

◆初公判で明らかになった事実

 そんな厳重な警備のもと、初公判が開廷した。

 今野被告人は紺色のスーツ姿で、奥村被告人は黒色のジャケットを羽織って、顔にかかるくらいの茶髪姿で入廷。2人とも、やや緊張している面持ちだった。

 人定質問のあと、検察側から読み上げられた起訴状によると、被告人らは共謀して、2023年8月11日午後3時頃に、B氏に通信アプリで女性を装って覚醒剤を持ってくるようにそそのかすメッセージを送信。その後、B氏は覚醒剤を持っていなかったにも関わらず、所持を決意させ、同日午後10時頃に東京都新宿区内の路上で覚醒剤0.925グラムを持ってこさせたというもの。

 罪状認否で、今野被告人はハッキリとした声で「教唆したつもりはありません」と否認。奥村被告人も、裁判官から声が小さいと注意されながらも、起訴内容を否認した。

 弁護側は、覚醒剤を持ってくるようにメッセージを送信したことは認めたものの、B氏の覚醒剤の所持とは因果関係がないとして、被告人らは無罪であると主張した。

◆被告人らの経歴と動画収入

 検察側の冒頭陳述などによると、2021年に今野被告人が責任者を務めていたメンズエステで奥村被告人が雇われることになり、2人は知り合ったという。

 その後、動画の再生回数による収入を得ようと考えて、2023年1月からは「ガッツch」を開設。痴漢や盗撮の撲滅を謳って「私人逮捕系」の動画投稿を始めたとのことだ。

 2023年9月の時点でチャンネル登録者は22.8万人、動画投稿数は285本。そして、同年5月から10月までの5か月間だけで、約946万円の収入があったとのことだ。

◆事件当日の詳細

 検察側の冒頭陳述により、被告人らの当日の行動などが明らかとなった。

 被告人らは、日頃から「私人逮捕」をする相手を探していたという。そのとき、XでB氏の覚醒剤に関する投稿を見つけた。

 そして今野被告人らは、B氏に覚醒剤を持ってこさせれば、その場で警察に逮捕される動画が撮影できると考えて、「ユウ」という女性を装って覚醒剤を使用した性交をしたい旨のメッセージをB氏に送信し、覚醒剤の所持をそそのかしたと検察側は指摘する。

 2023年8月11日午後3時頃から、今野被告人らは秘匿性の高いメッセージアプリを使って、「新宿住んでる女です」、「寂しいので遊びたいです」などとB氏にメッセージを送った。

 さらに、覚醒剤に詳しい人しか知らないようなワードを駆使したメッセージを送信したことで、B氏は信じてしまい、当時は覚醒剤を持っていなかったものの、わざわざ入手し持参させたと検察側は指摘している。

◆逮捕の瞬間

 被告人らの作戦に引っかかってしまったB氏は、同日の午後9時頃に待ち合わせに指定された新宿区内の路上に車に乗って現れた。今野被告人は、B氏が現れたことを遠目から確認して110番通報。

 カメラマンの奥村被告人が動画を撮影しながら、今野被告人は車内にいたB氏に向かって「ユウです。ユウです」と言って近づいていった。

 その後、被告人らは、通報を受けて臨場した警察官らに対して、B氏を指さして「とりあえず、所持品検査をしてください」と職務質問するように執拗に迫った。当然、何も分からずに出動させられた警察官らは混乱した状況を把握するために、説明を被告人らに求めたものの、被告人らは「こっちを先にやってください」などと語気を強めていた。

 検察側は動画を証拠として提出し、法廷内のモニターを使って映し出された。約14分間の動画で、傍聴人には見えない位置にモニターが配置され、音声はイヤホンからという徹底ぶり。被告人らは食い入るようにモニターを見つめていた。

◆私人逮捕系ユーチューバーの問題点

 2023年下半期から「私人逮捕系ユーチューバー」が相次いで逮捕され、世間を賑わせたわけだが、もちろん「私人逮捕」自体は要件さえそろえば違法ではない。

 逮捕には、大きく分けて「通常逮捕」「緊急逮捕」「現行犯逮捕」の3つの類型があり、特に「現行犯逮捕」というのは誰でも令状なしで逮捕できる。これが俗に言う「私人逮捕」というものだ。

「現行犯」とは、現に罪を行っていたか、罪を行い終わった者を指す。例えば、自分の目の前で犯罪が起きたのに周囲に警察官がいないとき、その場にいる人が逮捕・確保するほかない。そんな“緊急でやむを得ない場合”に認められるのが「私人逮捕」である。

 一方で、「私人逮捕系」とされる動画投稿者らは、再生回数を多く稼いで高い収入を得る目的で、撮影しながら逮捕できるチャンスをあらゆる手を使って演出する。しまいには、相手を追い詰めて金銭を要求したとされる事件まで発生してしまっているのだ。

 このように、「私人逮捕系」とされる人々が作り出すコンテンツは、“制度の趣旨に反する行為”と言えるだろう。

 今回の裁判に出頭した今野被告人は、終始検察側を鋭い眼光で見つめており、闘志がうかがえた。昨年12月の起訴から、約9か月かかっての初公判。まだまだ裁判は長引きそうだ。

文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。

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