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大阪王将「ナメクジ大量発生」投稿事件。元従業員による“SNS上の内部告発”の真相が裁判で明らかに

日刊SPA! 2024年9月7日 8時54分

「本来、ナメクジは1匹もいないはずなので、3匹も4匹もいたら大量だと思っています」
 こう語ったのは、2022年7月に宮城県仙台市内で営業していた「大阪王将」のフランチャイズ店舗「仙台中田店(現在は閉店)」の厨房内で、「ナメクジが大量発生している」などと誇張して、事実と異なる内容をTwitter(現X)に投稿した元従業員の男。

 偽計業務妨害などの罪に問われているのは、元従業員の圓谷晴臣被告人(25)。この男の裁判が、今年の4月から仙台地裁(須田雄一裁判官)で開かれている。

 初公判では、「ナメクジ」の大量発生は事実だとして、起訴内容を一部否認。9月3日に開かれた公判では、検察側の被告人質問が行われた。

◆Twitterでの内部告発の内容

 この事件の発端は2022年7月、元従業員の被告人がTwitter上で「内部告発」と称して、勤務していた仙台中田店の厨房内にナメクジが大量発生しているなどと投稿し、一時話題となった。一方で運営会社側は、ナメクジの存在は事実としつつも、「大量発生」と誇張した内容で投稿されたことで、営業を妨害されたとして被害届を提出。

 Twitterへの投稿から1年8ヶ月が経過した今年3月、仙台地検は被告人を偽計業務妨害の罪で起訴。その後、Twitter上で店長を「クソゴミ」などと表現して投稿したことや、YouTubeでも店長の名誉を傷つけたなどとして、侮辱と名誉毀損の罪でも追起訴されている。

 被告人は今年4月に開かれた初公判で、ナメクジの大量発生は事実だと主張し、起訴内容の一部を否認。弁護人によると、SNS上で告発したことは適切な内部告発ではないとして、偽計業務妨害罪の適用自体は認めるというが、ナメクジの大量発生は事実であり、判決では考慮されるべきだとしている。

◆裁判での争点は「大量」の基準

 被告人は、紺色のジャージ姿で刑務官らに連れられて入廷。前回の公判では、弁護人から被告人質問が行われ、情状として壮絶な生い立ちも明らかになった。

 今回は、検察官から被告人質問が行われた。この裁判の主な争点は、ナメクジが大量に発生していたのか否か。検察官は、ナメクジの存在を店長は認識していたのか、などの質問をしていた。

検察官:被告人の認識として、「大量」とはどのくらいを指すのか。

被告人:本来、ナメクジは1匹もいないはずなので、3匹も4匹もいたら大量だと思っています。

検察官:他の従業員はナメクジを見たことはあるのか。

被告人:正確にはわかりませんが、ナメクジ自体は一緒に見たことがあると思います。他の従業員がナメクジ出たよと言うこともあったので。

 また、店長は平均して週に4日勤務しており、店内での接客だけではなく厨房でも働いていたため、少なからずナメクジの存在は知っていたのではないか、と被告人は語った。

◆ナメクジが“鍋”に入っていたかも争点に

 前回の公判で被告人は一部の投稿の虚偽を認めた。それは、ナメクジが調理する鍋や料理に混入した旨の投稿だ。被告人としては、ナメクジに潜む寄生虫が鍋や料理に混入したのではないか、という可能性を示唆したものだと述べていたが、当然にも検察官は厳しく追及していた。

検察官:実際に、ナメクジ自体が料理に混入したことはあるのか。

被告人:それは見たこともないですし、そもそもないと思います。

検察官:ナメクジが鍋に混入していたというが、ナメクジは卵を割る缶に1匹だけということで合っているのか。

被告人:はい、そうです。

 調書によると、厨房に卵液を入れておくための専用の缶があり、そこにナメクジが混入していたことがあったという。しかし、被告人の投稿では「鍋」とされている。その後の裁判官からの質問でも問われていたが、被告人は、その「缶」の形が通常の缶とは異なり、特殊な形状であったことで「鍋」と表現したと述べている。

 さらに、検察官は語気を強めて質問をする。

検察官:それなのに、鍋にナメクジが付きまくっているなどど従業員である被告人が投稿すれば、事実なんだと思わせてしまうのではないのか。

被告人:そういう風に受け止められるとは思ってもいませんでした。

 被告人によると、問題の投稿は世間に拡散されたかったわけではないという。当時のフォロワーは1万6千人。それでも、「全員が友達でただ見てほしかっただけ」と弁解した。

◆店長への不満は本部に相談していた

 また、検察官は初公判の冒頭陳述で、被告人の動機については職場への「復讐」だと指摘している。現に事件直前には、以前から労働環境や店長への不満が溜まっていたところ、店長から勤務態度を注意され、憤慨して退職していた。

 これに対して、被告人は事の発端となった“復讐心”について、「東北を管轄しているマネージャーみたいな人と、大阪王将検定を取った時に先生にも話しました」と、大阪王将本部には相談していたという。なお、被告人が大阪王将検定を取得したのは2022年2月のこと。事件よりも前から相談していたことになる。

 その後も、被告人は退職を検討する機会は何回かあったというが、運営会社側は深刻な人材不足で、被告人との問題が起きる度に上司が自宅まで押しかけてきて懇願されて、仕方なく続けてしまったと述べた。

◆ナメクジの証拠写真が一枚しかない理由

 検察官の後、裁判官からも被告人質問が行われた。通常の裁判では、裁判官からの質問は数分程度で終了する。ただ、今回は15分間も行われた。それだけ、裁判官も難しい判断に迫られているのだろう。

 主に質問していたのは、ナメクジの証拠写真について。実は当時、被告人が店長に対してLINEで、ナメクジが写った証拠写真を添付して、大量に発生していたことを報告している。だが、なぜだかその写真にはナメクジが1匹しか写っていないのだ。

裁判官:写真は1枚だけしか撮っていないのか。

被告人:はい。

裁判官:なぜ、1枚だけなのか。

被告人:写真を撮って、すぐに処分しないといけなかったので。

裁判官:ナメクジの発生の現状は、必ずしもその写真1枚だけではわからないと思うが。

被告人:いっぱいいるという衝撃で、とりあえず早くしないとと思って、撮った写真は確認していませんでした。

 店長とのLINEのやり取りを被告人はTwitterに投稿しており、問題の証拠写真が添付されている。それを見ると、たしかにナメクジらしきものは1匹だけ。これだけでは、大量に発生しているかどうかは把握し難いだろう。それでも、被告人は「ナメクジの処分を急ぎすぎた結果、よく確認していなかった」と話した。

 その後、裁判官から被告人の捜査段階で作成された調書の矛盾点について質問するなどして、この日は閉廷した。

◆今後の裁判の行方は…

 前回の劇場型裁判とは一転して、検察官からは厳しく指摘する質問もあった。

 適切な通報をせずに、まさに“バイトテロ”のような悪手に及んだ被告人。弁護人によると、前回の公判で明らかになった壮絶な生い立ちなどの情状事実をもとに、寛大な判決を求める方針だという。

 次回の公判は9月27日、論告・弁論が予定されている。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。

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