人間関係が複雑化する現代社会において、コミュニケーション能力の重要度はより高まっている。退陣が決まった岸田文雄首相の「聞く力」発言然り、聞く力のない人の評価はどうしても低くなってしまう。そんななか、渋谷109のカリスマ店員から週刊誌記者に転身した山田千穂氏の著書『ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ』(朝日新聞出版)が注目を集める。
これまで3000人以上に取材し、一般人から芸能人、政治家などクセの強い人ともコミュニケーションを計り、聞く力を養ってきたという山田千穂氏はその能力をどのように身につけてきたのか。「対象者が話したくなる聞き方も大切」と話す彼女にインタビューしてみた。
◆父の愛人とのコミュニケーションが「聞く力」の原点!?
――本を読んでみて、すごく時代に合った本だなと思ったんですが、どのような反響が届いていますか?
山田千穂氏(以下、山田):若い世代の女性に向けて作ったつもりだったのですが、想像以上に年代、性別もバラバラで、想定していなかった50代の男性も多く読んでいただいているようでした。 あとは、占い師の方がかなり買ってくださっているとも聞きましたね。
――職務や立場上、円滑な対話や「聞き出すコツ」を切実に望んでいそうな層ですね。
山田:コミュニケーションが苦手な人ほど、『話し方』ばかりに気をとられてしまいがちです。話し方に関する本も山ほど出版されていますが、世の中には話したい人が圧倒的に多くて、話したい人同士でコミュニケーションしようとするため、聞く力がないがしろにされているのだと思います。
私自身、この10年でコミュニケーションは一方通行では成り立たず、自分が話す前に聞くことが大事だと痛感していて、「ずるい聞き方」という本のタイトルにしていますが、相手をだましたり、陥れたり、負かしたりしようとするという意味ではなく、「この人にはなぜか本音を話したくなる」と思われるようなコツがたくさんあると思って、その方法を伝えたかったんです。
実際、週刊誌の記者は、基本的に警戒されていることが多く、そもそも歓迎されていないところからコミュニケーションをスタートしなければならない(笑)。そんななか、初対面の相手にも心のガードを外して気持ちよく話してもらうためには、相手への敬意があってこそ。『つい話してしまった!』と思っても憎めない、『仕方がないか』と後味も悪くなく、信頼にもつながるチャーミングなコミュニケーション術って、週刊誌記者じゃなくても、普段のビジネスシーンや人間関係においても必要だと思うんですよね。
――山田さんはカリスマ店員として渋谷109で働いていました。その頃のコミュニケショーン術もやはり役に立ちましたか?
山田:接客業の経験は、もちろん影響しています。1日に500万円売り上げたこともあって、それは「この人が求めている服を聞き出す力」があったからだと思うんです。でも、思い返すと私のコミュニケーションの原点は、幼少期から母子家庭で貧しく、友達も呼べないほどボロボロの家で育ったことへのコンプレックスが原動力になっていたなと思うんです。小学校2年生のときに両親が離婚して、その原因でもある父の愛人に自分から積極的に話しかけて大学生くらいまでずっと仲良くしていたんです。もちろん当時は母に内緒で…。
――それはすごいですね。一体、どんな思いで?
山田:子どもながら、「可哀相な自分」に納得したかったんだと思います。嫌だという気持ちよりも、純粋に父の愛人がどんな人なのかを知りたかった。でも、話を聞いているうちに、CAになりたかったけど病気で挫折していることだったり、家族に障がいのある方がいて手話ができることだったりと、彼女という人間を理解することで憎む気持ちは薄れていきました。
――子どもの頃から好奇心が旺盛だったんですね。
山田:それもありますが、母がなんでも話してくれるタイプだったことは大きかった気がします。父は家にいた記憶がなく、借金を作るなどどうしようもない人でしたが、母に好きなところを訪ねると「お酒を飲みながら、私の話をよく聞いてくれた」と言っていました。父は聞き上手なことで女性にモテているようでした。両親のパートナーという意味では、父の愛人に限らず、母の歴代の彼氏も全員知っていますから。母の彼氏ついて「本命は、絶対お母さんじゃないと思う!」なんて進言したこともあったくらい(笑)。ネガティブな状況の中でも、ポジティブなことを見つけて楽しもうというマインドはその頃から強かったかもしれません。
そこはギャルマインドというか「私は私」だけど優しさを忘れたらいけないな、と。人の目を気にして仮面をかぶって生きるよりも、自分に正直に我が道を生きる方が断然人から愛され、信頼してもらえると今でも実感しています。
――カリスマ店員から、なぜ週刊誌記者になったんですか?
山田:109で働いたあとは、大学を卒業して、普通に会社員生活を送ってみたんです。でも、学生時代に109で働きながら、経営者にインタビューしたり、学生起業をしたりとおもしろい経験をさせてもらって、会社員がすごく物足りなくなってしまった。そんなときに、ライターの仕事をしようと編集プロダクションの面接を受けたら、「キミ、好奇心があっておもしろいから、週刊誌の編集長紹介するよ」と。そうしたら、「いつから来れる?」と聞かれて、記者人生がスタートしました。
――もしかしたら本に書かれている「その気がない相手がつい本音を語ってしまうワザ」が活きてるんですかね? 「ぜんこうじ あいがとまらず」を実践していたと。
山田:言われてみたらそうですね。これは私が呪文のように唱え、頭に叩き込んでいる信条なのですが、
ぜん → 前傾姿勢で相手の方に体を向けて前のめりで聞く
こ → ここぞという時に目を見て「聞いてます!」アピール
う → うなずきの深さで関心度の高さを示す
じ → 上限まで広角をあげて表情豊かに(笑顔が基本。悲しむときは共感の表情)
あ → 相手が会話の主役
い → 意思を尊重
が → 我を出しすぎず、自己開示は2割を意識
と → 得意分野を掘り下げ
ま → 真面目に耳を傾け
ら → 楽に、できる限り自然に(緊張しすぎない)
ず → ずっと「あなたのことを知りたい、好き」という思いを持って聞く
とくに相手8:自分2のバランスで話すことを意識すると、相手が気分良く話すリズムを崩すことがありません。こちらの聞きたいことをスムーズに聞き出せます。
商談相手、何を考えているかわからない部下、会話の減った家族……相手はさまざまだが、まずは聞き出すことから始めてみるのもいいのかもしれない。
山田千穂
記者。埼玉県川口市出身。1988年生まれ。『週刊ポスト』『女性セブン』で記者を約10年経験。芸能、事件、健康等の記事を担当。取材で、聞く力、洞察力、コミュ力を磨く。3000人以上に取材。直撃取材、潜入取材を得意とする。大学在学中は渋谷109で販売員としてアルバイトをし、お正月セール時には1日最高500万円を売り上げる。
著書に『ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ』(朝日新聞出版)がある
これまで3000人以上に取材し、一般人から芸能人、政治家などクセの強い人ともコミュニケーションを計り、聞く力を養ってきたという山田千穂氏はその能力をどのように身につけてきたのか。「対象者が話したくなる聞き方も大切」と話す彼女にインタビューしてみた。
◆父の愛人とのコミュニケーションが「聞く力」の原点!?
――本を読んでみて、すごく時代に合った本だなと思ったんですが、どのような反響が届いていますか?
山田千穂氏(以下、山田):若い世代の女性に向けて作ったつもりだったのですが、想像以上に年代、性別もバラバラで、想定していなかった50代の男性も多く読んでいただいているようでした。 あとは、占い師の方がかなり買ってくださっているとも聞きましたね。
――職務や立場上、円滑な対話や「聞き出すコツ」を切実に望んでいそうな層ですね。
山田:コミュニケーションが苦手な人ほど、『話し方』ばかりに気をとられてしまいがちです。話し方に関する本も山ほど出版されていますが、世の中には話したい人が圧倒的に多くて、話したい人同士でコミュニケーションしようとするため、聞く力がないがしろにされているのだと思います。
私自身、この10年でコミュニケーションは一方通行では成り立たず、自分が話す前に聞くことが大事だと痛感していて、「ずるい聞き方」という本のタイトルにしていますが、相手をだましたり、陥れたり、負かしたりしようとするという意味ではなく、「この人にはなぜか本音を話したくなる」と思われるようなコツがたくさんあると思って、その方法を伝えたかったんです。
実際、週刊誌の記者は、基本的に警戒されていることが多く、そもそも歓迎されていないところからコミュニケーションをスタートしなければならない(笑)。そんななか、初対面の相手にも心のガードを外して気持ちよく話してもらうためには、相手への敬意があってこそ。『つい話してしまった!』と思っても憎めない、『仕方がないか』と後味も悪くなく、信頼にもつながるチャーミングなコミュニケーション術って、週刊誌記者じゃなくても、普段のビジネスシーンや人間関係においても必要だと思うんですよね。
――山田さんはカリスマ店員として渋谷109で働いていました。その頃のコミュニケショーン術もやはり役に立ちましたか?
山田:接客業の経験は、もちろん影響しています。1日に500万円売り上げたこともあって、それは「この人が求めている服を聞き出す力」があったからだと思うんです。でも、思い返すと私のコミュニケーションの原点は、幼少期から母子家庭で貧しく、友達も呼べないほどボロボロの家で育ったことへのコンプレックスが原動力になっていたなと思うんです。小学校2年生のときに両親が離婚して、その原因でもある父の愛人に自分から積極的に話しかけて大学生くらいまでずっと仲良くしていたんです。もちろん当時は母に内緒で…。
――それはすごいですね。一体、どんな思いで?
山田:子どもながら、「可哀相な自分」に納得したかったんだと思います。嫌だという気持ちよりも、純粋に父の愛人がどんな人なのかを知りたかった。でも、話を聞いているうちに、CAになりたかったけど病気で挫折していることだったり、家族に障がいのある方がいて手話ができることだったりと、彼女という人間を理解することで憎む気持ちは薄れていきました。
――子どもの頃から好奇心が旺盛だったんですね。
山田:それもありますが、母がなんでも話してくれるタイプだったことは大きかった気がします。父は家にいた記憶がなく、借金を作るなどどうしようもない人でしたが、母に好きなところを訪ねると「お酒を飲みながら、私の話をよく聞いてくれた」と言っていました。父は聞き上手なことで女性にモテているようでした。両親のパートナーという意味では、父の愛人に限らず、母の歴代の彼氏も全員知っていますから。母の彼氏ついて「本命は、絶対お母さんじゃないと思う!」なんて進言したこともあったくらい(笑)。ネガティブな状況の中でも、ポジティブなことを見つけて楽しもうというマインドはその頃から強かったかもしれません。
そこはギャルマインドというか「私は私」だけど優しさを忘れたらいけないな、と。人の目を気にして仮面をかぶって生きるよりも、自分に正直に我が道を生きる方が断然人から愛され、信頼してもらえると今でも実感しています。
――カリスマ店員から、なぜ週刊誌記者になったんですか?
山田:109で働いたあとは、大学を卒業して、普通に会社員生活を送ってみたんです。でも、学生時代に109で働きながら、経営者にインタビューしたり、学生起業をしたりとおもしろい経験をさせてもらって、会社員がすごく物足りなくなってしまった。そんなときに、ライターの仕事をしようと編集プロダクションの面接を受けたら、「キミ、好奇心があっておもしろいから、週刊誌の編集長紹介するよ」と。そうしたら、「いつから来れる?」と聞かれて、記者人生がスタートしました。
――もしかしたら本に書かれている「その気がない相手がつい本音を語ってしまうワザ」が活きてるんですかね? 「ぜんこうじ あいがとまらず」を実践していたと。
山田:言われてみたらそうですね。これは私が呪文のように唱え、頭に叩き込んでいる信条なのですが、
ぜん → 前傾姿勢で相手の方に体を向けて前のめりで聞く
こ → ここぞという時に目を見て「聞いてます!」アピール
う → うなずきの深さで関心度の高さを示す
じ → 上限まで広角をあげて表情豊かに(笑顔が基本。悲しむときは共感の表情)
あ → 相手が会話の主役
い → 意思を尊重
が → 我を出しすぎず、自己開示は2割を意識
と → 得意分野を掘り下げ
ま → 真面目に耳を傾け
ら → 楽に、できる限り自然に(緊張しすぎない)
ず → ずっと「あなたのことを知りたい、好き」という思いを持って聞く
とくに相手8:自分2のバランスで話すことを意識すると、相手が気分良く話すリズムを崩すことがありません。こちらの聞きたいことをスムーズに聞き出せます。
商談相手、何を考えているかわからない部下、会話の減った家族……相手はさまざまだが、まずは聞き出すことから始めてみるのもいいのかもしれない。
山田千穂
記者。埼玉県川口市出身。1988年生まれ。『週刊ポスト』『女性セブン』で記者を約10年経験。芸能、事件、健康等の記事を担当。取材で、聞く力、洞察力、コミュ力を磨く。3000人以上に取材。直撃取材、潜入取材を得意とする。大学在学中は渋谷109で販売員としてアルバイトをし、お正月セール時には1日最高500万円を売り上げる。
著書に『ずるい聞き方 距離を一気に縮める109のコツ』(朝日新聞出版)がある