できれば職場では、波風を立てたくないという人も多いのではないだろうか。けれど、あまりにも理不尽な要求は断ったほうが得策かもしれない。今回は、まさにそういった体験をした五色寛尚さん(仮名・20代前半)に話を聞いた。
◆実家からギリギリ通える会社
地方の市街地でのびのび育ち、まわりから「やさしい」と言われ続けてきた五色さんの悩みは、嫌だと断れないこと。遠回しにやんわり断る方法は、社会人になるまでにどうにか身につけた。それでも、断ったあとにひと押しされると、よほどのことがないかぎり断れない。
「そういう性格なので、就職のときに親から『心配だし、できれば家から通えるところで働いてほしい』と言われたときも、東京や大阪などの都市部で働きたい気持ちを抑え込みました。そして、実家からギリギリ通える広告デザインの会社で働いていました」
ご時世的にも何かを強制されることが少なく助かっていたのだが、五色さんの入社と時を同じくして異動してきた上司のFさん(男性・50代)が職場に馴染んできた頃から雰囲気が一変。原因は、Fさんによる遠回しな雑用やサービス残業の押しけ、パワハラ言動などだった。
「さらに僕に対しては強引な態度で、『俺たちは、同じ時期にこの部署で仕事をスタートした仲間』などと飲み会に誘ってくるようになったのです。職場の人たちは僕の性格をよく理解してくれていたので、ほかの上司や同僚がいるときは代わりに断ってくれました」
◆上司の強引な性格が露呈
けれどある日、2人きりのタイミングで「強制参加な」と誘われてしまう。どうしても断ることができず飲み会に参加するハメになり、店へ。するとほかにも、「断り切れなかった」と愛想笑いする同僚の女性Y子さんが1名参加していた。
「Y子さんは最近入社した転職組で、僕とは1歳差。歳が近かったため、お互い嫌々参加した飲み会でしたが、思いのほか楽しいスタートとなったのです。ところが、酒の量が増えるにつれ、上司の強引な性格が露呈。『イッキ、イッキ』とコールがはじまりました」
そして「飲め」「飲め」と、どんどん煽ってくる。五色さんは、「自分が断ると、Y子さんが無理やりアルコールを飲まされてしまうかもしれない」と懸念。断ることもできないため飲むしかなく、ついに酔いつぶれてしまう。そして、記憶はなくなった…。
◆店の外に出るなりその場で放尿
「翌朝、目が覚めると、これまで我慢してきた気持ちを上司のFさんに爆発させたことなど記憶が徐々に蘇ってきて顔面蒼白。そしてその記憶はだんだんと鮮明になり、『Fさんは強引すぎる』『やってることがパワハラ』と言ったことも思い出していきました」
まるでマンガの一コマのようにポカンと口を開けて固まっている上司に向かって“くだ”を巻いたかと思えば、非難の言葉を投げつけている自分の姿が蘇る。どうにか制止しようと努めるY子さんを振り払ってまで、ウダウダ文句を言い続けていた昨日の自分。
「そして挙句の果てには、店の外に出るなり『トイレ』と言い、その場で放尿。Y子さんが悲鳴を上げていたこともクッキリと思い出しました。顔を中心にカラダ全体が熱くなったかと思えば鳥肌が立つぐらい寒くなるというか…。表現し難い感覚に陥りました」
さらに、目覚まし時計の時間を確認して驚愕。なんと、起きた時間は昼過ぎだったのだ。しかもその日は、大事な会議の書記を務めることになっていたため、会社からは電話の嵐。飲み会で連絡先を交換したばかりのY子さんからも心配のLINEが届いていた。
◆「体調がすぐれない」と自主退社
「全部なかったことにしたいと、生まれてはじめて思った瞬間です。でもそんなことが叶うはずもなく、会社には『体調が悪いから休ませてほしい』と連絡。その日は会社を休み、上司のFさんやY子さんに謝罪の連絡を入れましが、返信はありませんでした」
Fさんのほか、午前中には心配のLINEを送ってきていたY子さんからも返信がなかったことで、翌日以降も会社へ行きづらくなってしまった五色さんは、そのままフェードアウト。せっかく入った会社を「体調がすぐれない」と理由をつけ、自主退社してしまったとか。
「その一件があり、恥ずかしくて地元にはいられないと、思い切って東京に出ました。そして、デザイン系の仕事をしています。地方とは違って、働き方のパターンも多く、Fさんのように昭和を絵に描いたような人は皆無。やわらかい雰囲気の職場で、助かっています」
上京してよかったと言う五色さんだが、「また同じ過ちを繰り返さないよう、嫌なことはきちんと断るよう心がけている」とも話してくれた。やはり、ときにはキッパリ断ることも大切。理不尽な要求で後悔や人生を台無しにしないよう、冷静に判断して行動してほしい。
<TEXT/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意
◆実家からギリギリ通える会社
地方の市街地でのびのび育ち、まわりから「やさしい」と言われ続けてきた五色さんの悩みは、嫌だと断れないこと。遠回しにやんわり断る方法は、社会人になるまでにどうにか身につけた。それでも、断ったあとにひと押しされると、よほどのことがないかぎり断れない。
「そういう性格なので、就職のときに親から『心配だし、できれば家から通えるところで働いてほしい』と言われたときも、東京や大阪などの都市部で働きたい気持ちを抑え込みました。そして、実家からギリギリ通える広告デザインの会社で働いていました」
ご時世的にも何かを強制されることが少なく助かっていたのだが、五色さんの入社と時を同じくして異動してきた上司のFさん(男性・50代)が職場に馴染んできた頃から雰囲気が一変。原因は、Fさんによる遠回しな雑用やサービス残業の押しけ、パワハラ言動などだった。
「さらに僕に対しては強引な態度で、『俺たちは、同じ時期にこの部署で仕事をスタートした仲間』などと飲み会に誘ってくるようになったのです。職場の人たちは僕の性格をよく理解してくれていたので、ほかの上司や同僚がいるときは代わりに断ってくれました」
◆上司の強引な性格が露呈
けれどある日、2人きりのタイミングで「強制参加な」と誘われてしまう。どうしても断ることができず飲み会に参加するハメになり、店へ。するとほかにも、「断り切れなかった」と愛想笑いする同僚の女性Y子さんが1名参加していた。
「Y子さんは最近入社した転職組で、僕とは1歳差。歳が近かったため、お互い嫌々参加した飲み会でしたが、思いのほか楽しいスタートとなったのです。ところが、酒の量が増えるにつれ、上司の強引な性格が露呈。『イッキ、イッキ』とコールがはじまりました」
そして「飲め」「飲め」と、どんどん煽ってくる。五色さんは、「自分が断ると、Y子さんが無理やりアルコールを飲まされてしまうかもしれない」と懸念。断ることもできないため飲むしかなく、ついに酔いつぶれてしまう。そして、記憶はなくなった…。
◆店の外に出るなりその場で放尿
「翌朝、目が覚めると、これまで我慢してきた気持ちを上司のFさんに爆発させたことなど記憶が徐々に蘇ってきて顔面蒼白。そしてその記憶はだんだんと鮮明になり、『Fさんは強引すぎる』『やってることがパワハラ』と言ったことも思い出していきました」
まるでマンガの一コマのようにポカンと口を開けて固まっている上司に向かって“くだ”を巻いたかと思えば、非難の言葉を投げつけている自分の姿が蘇る。どうにか制止しようと努めるY子さんを振り払ってまで、ウダウダ文句を言い続けていた昨日の自分。
「そして挙句の果てには、店の外に出るなり『トイレ』と言い、その場で放尿。Y子さんが悲鳴を上げていたこともクッキリと思い出しました。顔を中心にカラダ全体が熱くなったかと思えば鳥肌が立つぐらい寒くなるというか…。表現し難い感覚に陥りました」
さらに、目覚まし時計の時間を確認して驚愕。なんと、起きた時間は昼過ぎだったのだ。しかもその日は、大事な会議の書記を務めることになっていたため、会社からは電話の嵐。飲み会で連絡先を交換したばかりのY子さんからも心配のLINEが届いていた。
◆「体調がすぐれない」と自主退社
「全部なかったことにしたいと、生まれてはじめて思った瞬間です。でもそんなことが叶うはずもなく、会社には『体調が悪いから休ませてほしい』と連絡。その日は会社を休み、上司のFさんやY子さんに謝罪の連絡を入れましが、返信はありませんでした」
Fさんのほか、午前中には心配のLINEを送ってきていたY子さんからも返信がなかったことで、翌日以降も会社へ行きづらくなってしまった五色さんは、そのままフェードアウト。せっかく入った会社を「体調がすぐれない」と理由をつけ、自主退社してしまったとか。
「その一件があり、恥ずかしくて地元にはいられないと、思い切って東京に出ました。そして、デザイン系の仕事をしています。地方とは違って、働き方のパターンも多く、Fさんのように昭和を絵に描いたような人は皆無。やわらかい雰囲気の職場で、助かっています」
上京してよかったと言う五色さんだが、「また同じ過ちを繰り返さないよう、嫌なことはきちんと断るよう心がけている」とも話してくれた。やはり、ときにはキッパリ断ることも大切。理不尽な要求で後悔や人生を台無しにしないよう、冷静に判断して行動してほしい。
<TEXT/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意