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老舗スーパーが参入し“グランピング”業界の牽引役に。カギは「サウナ」と「ペットツーリズム」

日刊SPA! 2024年9月10日 8時52分

 都会の日常から離れ、自然の中で非日常感や贅沢感を味わえるグランピング。キャンプ道具の準備や片付けは不要。気軽にアウトドア体験できることから、全国各地にグランピング施設が増えている。
 もとは「グラマラス(魅惑的)×キャンピング」の造語として生まれたグランピングだが、現在はヴィラやコテージ、ドームテント、ログハウスなど宿泊タイプが細分化されており、サウナやドッグラン、キャンプファイヤーといった設備の多様化も進んでいる。こうしたなか、日本最大級のグランピング施設を運営・企画しているのがマリントピアリゾートだ。

 これまでに全国で300棟以上のグランピング施設を手がけているほか、1棟貸しの別荘を複数名でシェアする会員制リゾート事業を行うなど、市場の牽引役としてビジネスを展開している。今回は、マリントピアリゾートの母体となる株式会社にしがき 代表取締役の西垣俊平さんに、グランピングにおけるトレンドの変化や事業の将来性について話を聞いた。

◆“外貨”を獲得して地域貢献

 京都府北部の京丹後市に本社を置く株式会社にしがきは、1950年創業。地元に根差したスーパーマーケット「にしがき」を祖業とし、リハビリデイサービス施設やイタリアン、和食のレストラン運営など、さまざまな事業を展開してきた。

 同社が観光産業に参入したのは1989年。日本三景のひとつ「天橋立」にリゾートマンションや別荘地を建設し、その分譲を始めたのがきっかけになっている。

 にしがき2代目の父が立ち上げたリゾート事業の拡大を考えるなかで、当時20代だった西垣さんは、ある知人の経営者からの助言が印象に残っていると語る。

「スーパーは京丹後や宮津といった地域内でお金が回る内需型なのに対して、リゾート事業は地域外の京阪神エリアからお金を引っ張ってくる外需型で、小さい単位で見れば“外貨を稼ぐ”ことができるのを教わりました。『外からお金が流れてくる仕組みを作れば地域貢献につながる』ことを知人の経営者から助言いただいたのは本当に目から鱗でした」

◆リゾート事業に見出した可能性

 さらに、地域経済の発展や観光目的の需要を喚起できるリゾート施設の将来性も感じていたという。

「人口減少や高齢化に悩む地域を活性化させていくためには、滞在時間をいかに延ばして消費を促進できるかが肝になります。日帰りの場合と比べて、宿やホテルに1泊するとお土産を購入する確率が上がるという統計データもあるように、滞在時間に比例して売上向上に寄与できるリゾート施設は、スーパーマーケットとは異なるビジネスの魅力があると考えていました」

 リゾートマンションや別荘地の分譲および不動産事業から、宿泊事業に乗り出したのは2011年だった。14名のオーナーで別荘をシェアする「プール付ヴィラ」の施設を開業したところ、関西地域を中心に話題となり、会員以外の一般客の宿泊も取れるように変えていったのが今のグランピング事業の原型になっているそうだ。

「2016年ごろに、“グランピング”というキーワードが国内で持ち上げられるようになってきたのが転機でした。我々としてはグランピングの定義を広く捉え、プール付ヴィラも1つのモデルとして事業を考えていました。そんななか、ポーランドのメーカー『Fdomes』のグランピング用テントと出会い、2018年に『グランドーム京都天橋立』をオープンさせたのが、ドーム型テントのグランピングの先駆けになっています」

◆「集客力」と「競争力」のある宿づくり

 また、ドーム型テントは建物を造るよりもコストを安く抑えられることから、いろんな事業者からビジネスの引き合いも来るようになったという。そこで、集客支援やコンサルティングを手がける別会社「ブッキングリゾート」を新規で立ち上げ、グランピング施設の企画から運営、集客までを一貫してプロデュースしていった。

「グランピング施設に特化した予約サイト『リゾートグランピングドットコム』は、年間取扱高が100億円を超えるなど、非常に集客力の高いサイトになっていて、クライアントの施設へ十分な送客ができていると感じています。加えて、企画段階では他社の真似できない“競争力のある施設”を提案しています。事業予算の見積もりが甘い場合は棟数を減らしてでも、チープに見えないクオリティの高い施設になるようなアドバイスを行っているんですね」

◆ホテルと違う“グランピング”なら成立する場所

 このようにリゾート事業に注力した結果、関西エリアのみならず関東圏や各地域の主要観光エリアにグランピング施設を続々とオープンさせていく。事業用地の取得に関しては、「ホテルは成立しないけど、グランピングなら成立する」場所を選定するように意識していると西垣さんは話す。

「当社の運営するアウラテラス茨城やグランドーム千葉富津などは、他の事業者が手を出さない物件を取得して建てた施設なんです。通常のホテルや旅館は、観光需要を捉えるために温泉地や避暑地に宿泊施設を建てます。一方でグランピング施設は若年層のグループ旅行が多く、自由な雰囲気でバーベキューを楽しんだりサウナでのんびりしたりするのが提供価値になっています。なので、グランピング施設は、都心部からアクセスしやすい立地に建てたほうが良いと言えるわけです」

◆コロナ前後でグランピングの定義が広がった

 コロナ禍では、アウトドアが脚光を浴びてキャンプブームが起こったが、グランピング需要についてはコロナ前後でどのように変わったのだろうか。西垣さんは「以前と比べてグランピングは多様化している」とし、次のように見解を述べる。

「コロナ前はグランピングという言葉を聞くと、テントを思い浮かべる人が多かったのですが、今ではドームテント型やコテージなど、建物の形状が多種多様になっています。ある種、グランピングが市民権を得たことで、コテージやヴィラよりもグランピングと打ち出した方が売れるんですよ。そういう意味では、グランピングという言葉の定義自体がすごく広がったと感じていますね」

◆グランピングは「サウナ」と「ペットツーリズム」

 さらに、グランピング施設のトレンドには、4つの傾向が考えられると西垣さんは続ける。

「まず1つ目は、秋や冬の集客コンテンツになるサウナ付きのグランピングです。やはりサウナのある施設のほうが、全体的に稼働率が高い傾向にあります。2つ目は、自然に囲まれながら大人数で寛ぎの時間を過ごせる貸し切りスタイルのグランピング施設です。

 そして3つ目はペットツーリズムで、ドッグラン付きのグランピングの人気がかなり高まっています。ペットと一緒にグランピングを楽しみつつも、愛犬の健康管理をするためにドッグランを走らせたいというニーズが顕在化していますね。4つ目は卒業旅行やバースデーといった若者のハレの日需要も生まれています」

 なかでも、ペットツーリズムは色々と変化しており、大型犬専用の大きなドッグランに興味を持つ人も多くなっているそうだ。そのほか大型犬は夏、小型犬は春や秋と、犬種によって繁忙期が異なるのもドッグランの特徴となっている。

◆“手の届く別荘”で海外需要の取り込み

 最後に今後の展望を西垣さんにうかがうと「新しい別荘所有システム」を構築し、より多くの人が多様なバケーションを楽しめるように会員制リゾート事業を強化していきたいと目標を掲げる。

「シェア別荘については、月200~300件の問い合わせが来ていて、手応えを感じていますね。日本全体で地価や建築費の高騰するなか、今までにないシェアの形で“手の届く別荘”を提案していければと考えています。

 また、海外需要を取り込んでいく上では、ただ建物が立派なだけでは不十分だと思うんですよ。宿泊前後の時間の過ごし方や食事、独自企画のアクティビティなど、ソフトの部分も重要になってくるでしょう。他の事業者と連携しながら地域に根差した自然体験やコンテンツを創造し、日本のリゾート事業を盛り上げていきたい」

 アウトドアレジャーのひとつとして根付いたグランピングは、さらに進化を遂げていることが取材を通して見えてきた。非日常感を味わえる宿泊体験こそ、グランピングならではの楽しみであり、また行きたくなる“魅力”なのかもしれない。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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