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認知症の母の死後に妹弟が「家を売却しろ」。“売れない家”が招く泥沼の相続トラブル

日刊SPA! 2024年9月11日 15時53分

 今、日本では「訳あり物件」がどんどん増えているという。こうした物件は、自死があったといった事故物件にとどまらない。1つの物件を複数の人が所有する共有不動産にまつわるものもあれば、長く空き家となっている物件のこともある。
 そうした不動産は、所有者が売ってしまおうと思ってもなかなか売れず、問題が残ったまま半ば放置される。

 その数は、「およそ1000万軒前後はあるのでは」と言うのは、株式会社ネクスウィルの代表取締役、丸岡智幸さんだ。丸岡さんの会社は、「訳あり物件」を専門に扱うリーディングカンパニー。毎月約500件の売りにくい物件の相談を受け、適正な再流通に尽力している。

 今回は丸岡さんに、訳あり物件の傾向と対策を、事例をまじえながら教えていただいた。

◆家の相続で突然険悪になる兄弟仲

――相続に関する法改正や二世帯住宅の増加などが背景にあると思いますが、実家の相続で子ども同士が揉めに揉めて、家が売れないというケースが増えているそうですね。

丸岡智幸(以下、丸岡):はい。私の著書『拝啓 売りたいのに家が売れません』でも記したTさんの例ですが、この方も二世帯住宅に長く住んでいました。Tさんは長男で、建築費は父親と折半でした。

 父親はすでに他界され、認知症で介護していた母親も亡くなり、遠方に住む弟と妹を呼んで相続の話になりました。その弟と妹が、家を売却してそのお金を3等分すればいいのではないか、と言ってきたのですね。

◆第三者の言葉でこじれるケースも多い

丸岡:Tさんは、家の購入資金も負担しておらず、両親の面倒も見てこなかった2人の言い分に愕然とします。何より、ローンはまだ残っているし、中・高生の子どもたちの教育費もかかります。それで、どうしたらよいか相談に来られました。

 かつては相続に関する揉めごとといえば、富裕層に限られていたものですが、最近は中間層にも広がっています。特に、相続するものが家しかないと、トラブルが起きやすいのです。長男が、老父母の面倒を見ていたとしても、法定相続分といって、ほかの兄弟姉妹も遺産をもらえる権利はあるのです。

 くわえて、相続する権利を持つ人の配偶者や子どもの意見が入ってくることがあります。当事者間では話はまとまっても、そうした第三者の言葉に影響されてこじれて、業者も買い取れなくなったというケースは多いのです。当事者の全員が売るということに合意をしないと、売れないのですから。

 ですが、手放したい人が、自身の持ち分の権利を売ることはできます。それで、早くに少しでもお金にしたい、そのゴタゴタから手を引きたいという気持ちが強くて、弊社に相談に来られるのですね。流動性が低い不動産なので、どうしても買い取り価格は安くなってしまうのですが、それでもすぐに引き渡したいという方が、増えているのが現状です。

◆親が生前のうちに適切な対処をするのが一番

――そうした、子どもの間で争いとならないための予防策はあるでしょうか?

丸岡:実家に対する思い入れが強くて、そのまま残しておきたい、あるいは子の1人がそこに住みたいとなることは、どうしても多いと思います。

 ですが、家しか相続する資産がないのなら、親がまだ元気なうちに、親の意思できれいさっぱり売ってしまう、あるいは子に相続してしまうのが一案です。親は賃貸に住み替えるなど負担はあるでしょうけれど、親が亡くなってトラブルの火種になるリスクを考えると、円満な一つの選択肢となりえます。あるいは、しっかりと遺言書のかたちで、どうしたいか書き残しておくことです。

 そのためにも、親が元気なうちに、子どものほうから持ちかけて、将来の相続についてよく話し合うことが重要と考えます。

◆固定資産税がいきなり6倍の通知が来て…

――訳あり不動産といえば、空き家も大きなウェイトを占めますね。現時点でおよそ900万軒もあるそうですが、こうした物件の相談も多いのでしょうか?

丸岡:空き家は、年々増える一方で、2040年頃には2000万軒ぐらいになると言われています。人口は減り続けるのに、空き家は増えていくのは、日本が抱える大きな課題の一つだと思います。

 一例として、私の知り合いのNさんが、両親が亡くなって10年ほど空き家にしていた実家のことで相談に来られました。維持費は、固定資産税が年間数万円程度なので、そのまま放置していたのですね。

 ところがある日、固定資産税の通知書が来て、それには税が6倍になると記されていてびっくり仰天し、駆け込んできたのです。

 私は、まだ6倍になると確定してはいないと伝え、役所に相談する、空き家バンクに登録する、建物を解体し土地も売却するといった選択肢があることを伝え、落ち着いて調べるようアドバイスしました。

◆空き家のせいで周辺の不動産の価値も下がる

――私も、長く人の住んでいない空き家物件に関わりがあり、固定資産税6倍とは、個人的に捨て置けない話です……。

丸岡:固定資産税というのは、更地のままだと高いのです。ですが、そこに人が住むための建物があることで課税額が6分の1に下がるのです。以前は、空き家であっても6分の1で据え置きだったのが、空き家問題が深刻化したことで法が改正され、更地同様の扱いになることがあるわけです。

 放置された空き家の何が問題かと言いますと、例えば、そこが犯罪の拠点になる、放火される、ごみが投棄される、雑草がはびこる、悪臭が発生するなどして、近隣住民が大きな迷惑をこうむるのですね。

 また、空き家が近くにあるだけで、周囲の家の価値が下がることがあります。おとなりが草ぼうぼうの空き家だったら、そこに住みたいかと思ったら、躊躇なさるはずです。それで、周辺の不動産の価値が下がるということにつながってしまいます。国もそれを憂慮して、問題のある空き家を自治体が指定し、固定資産税のペナルティを課せるようにしたのです。

◆空き家のマッチングサイトを活用するのも手

――固定資産税の重荷を回避するにはどうすればいいでしょうか?

丸岡:対処法はいくつかありますが、1つには、空き家を売買する自治体や民間のサービスを積極活用することがすすめられます。弊社も空き家をマッチングする「空き家のURI・KAI」というサイトを運営しています。

 また、コロナ禍が起爆剤となって、ここ数年の間に地方に移住したいという人が増えています。その移住先として空き家に目が向けられているのですね。それからDIYが流行ってきて、多少は家を自分で補修できる人も増え、少しくたびれた空き家も移転先の候補にする例が多いのです。

 それから、空き家を買い取ってリフォームし、自分は住まず賃貸住宅とする人も出てきました。少しでも賃料収入が入ってくるので、こういう物件を何軒か所有して、それだけで食べていける方もいます。こうしたニーズがどんどん出てきて、空き家所有者に明るい材料もあるのです。どうせ売れないと考える前に、なにかしら手を打ってみましょう。

<取材・文/鈴木拓也>

【丸岡智幸】
株式会社ネクスウィル代表取締役。1983年生まれ。大手電力会社に約10年勤務の後、不動産会社で投資用アパートの販売業務などに従事。2019年に独立して、ネクスウィルを創業。訳あり不動産の買い取りサービス「ワケガイ」や、訳あり不動産のオンラインマッチングサイト「空き家のURI・KAI」のサイト運営もする。訳あり不動産が社会問題化するなか、そうした不動産を取り扱うリーディングカンパニーとして注目されている。著書に『拝啓 売りたいのに家が売れません』(自由国民社)がある

【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki

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