ここ最近、SNSを中心に話題となった“風呂キャンセル界隈”をご存じだろうか。お風呂に入るのが面倒といった理由で入浴しない人々を指す新たなネットスラングだ。真夏のこの時期、部屋でエアコンをかけたまま過ごすだけであれば大きな支障はないかもしれないが、放っておけば日常生活に支障をきたす恐れもあるだろう。
さて、世の中にはまだまだ知られざる“キャンセル界隈”が存在する。例えば、“洗濯キャンセル界隈”。文字通り、洗濯を面倒に思う人が一定数いるわけだ。
なぜ彼らは服を洗わずに生活しているのか。どのような工程を経て洗濯が億劫になってしまうのか。その精神的なメカニズムを、YouTubeで風呂キャンセル界隈についての解説動画も公開している府中こころ診療所院長・春日 雄一郎院長に解説してもらった。
◆単に面倒ならまだマシ…精神的不調の可能性も
春日院長曰く、大前提として “洗濯を後回しにしてしまう”こと自体は「洗濯をする」ことの優先順位が低いだけなので、特に問題はないらしい。そんなか、頑なに洗濯を行わない、もしくはできない人はどんなパターンなのだろうか。
「ひとつは“洗濯の工数が多すぎてやりたくない”ケースがあります。ただ、これらは単に面倒くさがりだったり、まとめて洗濯するから大丈夫、というパターンが多いのでさほど問題はありません。ただ心配なのが“思考力が低下し、当たり前のことができなくなる”ケース。つまり、うつ病が原因になっている場合です」
人間が何かを後回しにする理由は、“工程が多い”ことが挙げられる。お風呂であれば、お湯を沸かす→服を脱ぐ→タオルを用意するなど、入浴前にも多くの工程が発生し、洗濯も同じく、カゴに入れる→洗剤のメモリを測る→洗濯機のモードを選ぶなどの工程がある。意外にもこの所作に対して人間は脳のリソースをかなり使っているそうで、これがうつ病状態になると、脳が考えることを拒否してしまい、結果的にやるべきことができなくなってしまう。
“キャンセル界隈”というキャッチーな言葉として流行しているが、場合によっては深い精神的な問題に起因することがあるそうだ。
◆キャンセル界隈は、ずっと前から存在していた
先述のように、キャンセル界隈の一部には、精神的な側面が理由になっている人も存在する。最近話題になった言葉ではあるものの、春日院長の元には、お風呂・洗濯をはじめ、“普通の人”が当たり前にできることができない……このような相談は昔からあったそうだ。
そもそも人間が“洗濯する”ことは、臭うから、汚いから、そして、人から不潔だと思われたくないから……などが主な理由だ。そのためいくら面倒だったとしても最終的に洗濯をするが、うつ病状態になると他者との交流も少なくなり、その優先度も大きく下がってしまう。
「うつ病は判断力・意欲が全体的に落ちて怠さが増すなど、脳と身体にさまざまな不調をきたします。進行すれば、段取りを決める思考力は低下し、体を動かすことが億劫な倦怠感を伴い、やがて身なりや他者への興味も減退することになります。少しでも『おかしいな?』と思ったら、近くの精神科を受診することをお勧めします」
◆改善の第一歩は、完璧主義を卒業すること
一方で、精神的な理由は関係なく、面倒だから洗濯したくない人もいる。そうした人々は、工程が多くて面倒・単純に優先順位が低いだけでなく、もう一つの理由が考えられる。
「完璧主義な人の場合、“ちゃんと体を洗わなきゃ”、“しっかり畳まなきゃ”という強迫観念が強く、それが強くなりすぎた結果、後回しにしてしまうことになります。先ほどの話と紐づきますが、不安や完璧主義がストレスとなり、生活に影響を及ぼすと、精神的な不調を誘発する可能性もありえます」
◆とにかく工程をシンプルにし、目標を下げる
筆者には、極端に洗濯をしたがらない知人がいる。彼の話をよく聞いてみると、洗濯そのものが嫌なのではなく「畳むのが嫌」と語ってくれた。お風呂キャンセル界隈にも、「お湯を沸かすのが嫌」「乾かすのが嫌」な人もおり、つまるところ、特定の工程が苦手=その作業そのものをやりたくない、という思考回路になってしまっているようだ。
これらを直すにはどんなアプローチをするべきだろうか?
「まず、生活にさほど支障が無いのであれば、そもそも直す必要はありません。対人関係や衛生面を管理できるレベルならば、多少無頓着でも問題はないです。
そして、『できるようになりたい!』と思うのであれば、とにかく工程をシンプルにすることです。洗濯であれば、ネットに入れたり柔軟剤を測るなど、細かな作業は置いておいて、まずは洗剤を入れてスイッチを入れるだけにする…など、やる動作を限りなく少なくするようにしましょう。
またもう一つは、“自分が作業のどこで躓いているか”を明確にすること。中西さん(筆者)の知り合いが、服を畳むことがボトルネックになっているのであれば、畳まずにハンガーにかけて干しっぱなしにするといった対処法があります。服を畳む作業は器用さが求められるので、こだわり始めると際限がないですからね(笑)。最低限、洗濯するために必要な要素だけを行い、目標を限りなく下げることで、自分への強迫観念も少しずつ改善していくはずです」
=====
人間には得手・不得手もあるため、すべてのことを完璧に行う必要はない。もし読者の中で精神的に何かが出来なくなってしまっている人がいれば、迷わず病院を受診し、日々のハードルを少しずつ下げていこう。他の何をキャンセルしたとしても、人生だけは決してキャンセルしないために。
<取材・文/FM中西>
【FM中西】
広告・ゲーム・出版を経て、現在はフリーの編集・ライターに。アニメ/ゲーム/アングラ等、ポップorサブカルチャーを浴びていたい。最近の目標は早起きと減量。友人とともに『ぽぷかる研究所』を細々と運営中
さて、世の中にはまだまだ知られざる“キャンセル界隈”が存在する。例えば、“洗濯キャンセル界隈”。文字通り、洗濯を面倒に思う人が一定数いるわけだ。
なぜ彼らは服を洗わずに生活しているのか。どのような工程を経て洗濯が億劫になってしまうのか。その精神的なメカニズムを、YouTubeで風呂キャンセル界隈についての解説動画も公開している府中こころ診療所院長・春日 雄一郎院長に解説してもらった。
◆単に面倒ならまだマシ…精神的不調の可能性も
春日院長曰く、大前提として “洗濯を後回しにしてしまう”こと自体は「洗濯をする」ことの優先順位が低いだけなので、特に問題はないらしい。そんなか、頑なに洗濯を行わない、もしくはできない人はどんなパターンなのだろうか。
「ひとつは“洗濯の工数が多すぎてやりたくない”ケースがあります。ただ、これらは単に面倒くさがりだったり、まとめて洗濯するから大丈夫、というパターンが多いのでさほど問題はありません。ただ心配なのが“思考力が低下し、当たり前のことができなくなる”ケース。つまり、うつ病が原因になっている場合です」
人間が何かを後回しにする理由は、“工程が多い”ことが挙げられる。お風呂であれば、お湯を沸かす→服を脱ぐ→タオルを用意するなど、入浴前にも多くの工程が発生し、洗濯も同じく、カゴに入れる→洗剤のメモリを測る→洗濯機のモードを選ぶなどの工程がある。意外にもこの所作に対して人間は脳のリソースをかなり使っているそうで、これがうつ病状態になると、脳が考えることを拒否してしまい、結果的にやるべきことができなくなってしまう。
“キャンセル界隈”というキャッチーな言葉として流行しているが、場合によっては深い精神的な問題に起因することがあるそうだ。
◆キャンセル界隈は、ずっと前から存在していた
先述のように、キャンセル界隈の一部には、精神的な側面が理由になっている人も存在する。最近話題になった言葉ではあるものの、春日院長の元には、お風呂・洗濯をはじめ、“普通の人”が当たり前にできることができない……このような相談は昔からあったそうだ。
そもそも人間が“洗濯する”ことは、臭うから、汚いから、そして、人から不潔だと思われたくないから……などが主な理由だ。そのためいくら面倒だったとしても最終的に洗濯をするが、うつ病状態になると他者との交流も少なくなり、その優先度も大きく下がってしまう。
「うつ病は判断力・意欲が全体的に落ちて怠さが増すなど、脳と身体にさまざまな不調をきたします。進行すれば、段取りを決める思考力は低下し、体を動かすことが億劫な倦怠感を伴い、やがて身なりや他者への興味も減退することになります。少しでも『おかしいな?』と思ったら、近くの精神科を受診することをお勧めします」
◆改善の第一歩は、完璧主義を卒業すること
一方で、精神的な理由は関係なく、面倒だから洗濯したくない人もいる。そうした人々は、工程が多くて面倒・単純に優先順位が低いだけでなく、もう一つの理由が考えられる。
「完璧主義な人の場合、“ちゃんと体を洗わなきゃ”、“しっかり畳まなきゃ”という強迫観念が強く、それが強くなりすぎた結果、後回しにしてしまうことになります。先ほどの話と紐づきますが、不安や完璧主義がストレスとなり、生活に影響を及ぼすと、精神的な不調を誘発する可能性もありえます」
◆とにかく工程をシンプルにし、目標を下げる
筆者には、極端に洗濯をしたがらない知人がいる。彼の話をよく聞いてみると、洗濯そのものが嫌なのではなく「畳むのが嫌」と語ってくれた。お風呂キャンセル界隈にも、「お湯を沸かすのが嫌」「乾かすのが嫌」な人もおり、つまるところ、特定の工程が苦手=その作業そのものをやりたくない、という思考回路になってしまっているようだ。
これらを直すにはどんなアプローチをするべきだろうか?
「まず、生活にさほど支障が無いのであれば、そもそも直す必要はありません。対人関係や衛生面を管理できるレベルならば、多少無頓着でも問題はないです。
そして、『できるようになりたい!』と思うのであれば、とにかく工程をシンプルにすることです。洗濯であれば、ネットに入れたり柔軟剤を測るなど、細かな作業は置いておいて、まずは洗剤を入れてスイッチを入れるだけにする…など、やる動作を限りなく少なくするようにしましょう。
またもう一つは、“自分が作業のどこで躓いているか”を明確にすること。中西さん(筆者)の知り合いが、服を畳むことがボトルネックになっているのであれば、畳まずにハンガーにかけて干しっぱなしにするといった対処法があります。服を畳む作業は器用さが求められるので、こだわり始めると際限がないですからね(笑)。最低限、洗濯するために必要な要素だけを行い、目標を限りなく下げることで、自分への強迫観念も少しずつ改善していくはずです」
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人間には得手・不得手もあるため、すべてのことを完璧に行う必要はない。もし読者の中で精神的に何かが出来なくなってしまっている人がいれば、迷わず病院を受診し、日々のハードルを少しずつ下げていこう。他の何をキャンセルしたとしても、人生だけは決してキャンセルしないために。
<取材・文/FM中西>
【FM中西】
広告・ゲーム・出版を経て、現在はフリーの編集・ライターに。アニメ/ゲーム/アングラ等、ポップorサブカルチャーを浴びていたい。最近の目標は早起きと減量。友人とともに『ぽぷかる研究所』を細々と運営中