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日清食品はなぜ「小売店に価格引き上げの圧力」をかけたのか。即席めんトップメーカーが見せた“焦りと慢心”の二面性

日刊SPA! 2024年9月12日 8時53分

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 公正取引委員会が、8月22日「カップヌードル」の日清食品に対して警告を行いました。日清食品が定番売価と特売売価を設定した上で、小売業者にその価格を遵守するよう圧力をかけていたというもの。

 一連の出来事からは、即席めんトップメーカーとしての焦りと慢心の二面性を垣間見ることができます。

◆値上げに応じるまで何度も訪問…

 公正取引委員会によると、対象となるのは「カップヌードル」「カップヌードルシーフードヌードル」「カップヌードル」「日清のどん兵衛きつねうどん」「日清焼そばU.F.O.」の5商品。2022年2月と2023年2月以降、出荷価格の引き上げに向けて社内の基準価格を改定。それを基に定番売価、特売売価を設定し、スーパーやドラッグストアなどに対して提示価格まで引き上げるよう要請しました。

 小売事業者はライバル店の動向を気にするものですが、日清食品の担当者はどの店にも同様の要請を行っていることを伝達。値上げに応じるまで何度も店舗を訪問し、競合店の写真を見せて他店も値上げを行っているなどと圧力をかけたとされています。

 特売を行う際は、提示価格以上とするような要請もしていました。

「希望小売価格」という言葉がある通り、メーカーは小売価格の希望を出すのが基本ルール。店頭価格は小売業者が自由に設定できます。すなわち、今回の日清食品の不当な圧力は、小売店の競争性を失わせただけでなく、商品を購入する消費者も安く購入できる機会を失わせたものでもあります。

◆値上げ効果によって営業利益率は10%台に

 2022年の値上げでは、メーカー希望小売価格が5~12%アップ。2023年は同じく10~13%高くなっていました。

 なぜ、不当な圧力をかけることになったのでしょうか。決算資料からは、即席めんの原材料となる小麦価格高騰と、会社が高い目標を掲げていたことがその背景にあるように読み取れます。

 日清食品ホールディングスは、2022年3月期の営業利益が前年同期比16.1%減の466億円でした。この期の日清食品はコロナ禍による売上増があったものの、原材料費の増加で14億円の減益となりました。

 2022年はロシアによるウクライナ侵攻などで小麦価格が高騰。現在も高止まりが続いています。

 しかし、その後に日清食品が値上げを行ったことで、2023年3月期は2割、2024年3月期は3割の営業増益となりました。この期に営業利益率は10%を超え、即席めんの需要が急増したコロナ禍の2021年3月期と同じ水準となりました。

 減益となった2022年3月期の8%台から急回復したのです。

 2024年3月期の価格改定効果による既存事業コア営業利益押し上げ効果は、プラス442億円にも及びます。原材料高によるマイナスの影響は152億円。相殺して余りある数字です。

◆「売れる商品」だったからこそ…

 日清食品ホールディングスは、中長期経営計画において2030年度までに既存事業コア営業利益を1000億円に引き上げる計画を立てています。2023年度の実績は806億円。2024年度は846億円まで高める目標です。原材料費が高止まりする中で営業利益を引き上げ続けるのは容易ではありません。

 コロナ特需が一服して販売数の大幅な伸びが見込めない中、価格改定による押し上げ効果に期待したのでしょう。

 ここで疑問に感じるのは、日清食品が小売事業者に対してなぜそこまで強い交渉力を持っていたのかということ。これは単純に「カップヌードル」などの日清食品ブランドが強力で、消費者の選好度が高いため。すなわち、小売事業者からすれば、売れる商品なのでメーカーの意向に沿ったということでしょう。

◆「カップヌードル」好きは6割に及ぶ

 マイボイスコムの「【 カップめん 】に関するアンケート調査(第10回)」によると、好きなカップラーメンの銘柄で「カップヌードル」を挙げた人の割合は60%に及んでいます。「マルちゃん麺づくり」「スーパーカップ」などは上位といっても10%程度に過ぎません。日清食品のカップラーメンは正に圧倒的なのです。

 カップ焼きそばでも、「日清焼そばU.F.O」は33.9%。「明星一平ちゃん夜店の焼そば」「ペヤングソースやきそば」は20%程度に留まっています。

 カップラーメンの販売構成比は6割ほどがスーパーマーケット。コンビニエンスストアが2割を占めています。現在、セブン&アイ・ホールディングスやイオンはPB商品の開発を強化しており、「セブンプレミアム 蒙古タンメン」などは一定の人気を獲得しています。

 しかし、スーパーマーケット年次統計調査によると、総売上高に占めるPB商品売上高比率は10%程度。たとえ小売業者がPB商品を扱っていたとしても、圧倒的なシェアを持つメーカーに対して強い交渉力を持っているわけではありません。

◆「年間200億円」もの広告宣伝費をブランド構築に投入

 日清食品の2024年3月期の広告宣伝費は230億円。2023年3月期は190億円でした。年間200億円という凄まじい額を広告に投じていることになります。

 2023年度の企業別CM好感度ランキングでは、日清食品の「カップヌードル」が第2位でした。2022年度も2位は「どん兵衛」。日清食品なCM好感度ランキングで上位の常連。画期的なCMを作るという伝統が受け継がれていることと、潤沢な広告費を投じているからこそできることでしょう。

 日清食品が製造する即席めんはその味もさることながら、消費者の好感度を獲得してブランドそのものの選好度も高まっており、中長期的にシェアを落とす可能性は低いでしょう。

 即席めんの分野において圧倒的な強さを持っていたことが、独占禁止法に抵触するという悪い形で表に出てしまいました。公正取引委員会の警告を受けてなお、営業増益を達成できるのか。正念場を迎えています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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