最近の日本社会は冷笑的で世知辛い、そう感じている人は少なくないのかもしれない。道を尋ねても無視をされ、倒れている人がいても見て見ぬふりをする。もちろんこういった行為はトラブルから身を守るためだろう。親切心から道を案内し、思いもしない事件に巻き込まれた人だっている。「昔と変わってしまった」と嘆き悲しむのは違うだろう。時代が変われば常識も変わる。
そんな、今どきの常識に『違和感』を持つ人は少なくないようだ。インタビューをしているといくつかの興味深いエピソードに出会ったので、順に紹介させていただく。
◆「両親や彼女からもらった手紙」をスキャンして捨てる若者
「懐古主義、というわけではないんですけど、今と昔じゃ全然違うんだな、って驚くことが結構あって」
そう話すのは、都内の大手企業に勤める斎藤香さん(仮名・36才)だ。
「先日、社内の後輩と話をしていたんです。大学を卒業したての22才の男の子です。彼、書類はすべてパソコンに取り込んでいて、デスク周りがすごく綺麗なんですね。合理的でいいことだな、って周囲の人たちは言うんですが、両親からもらった手紙も同じようにするそうで……。加えて、誕生日に貰った彼女からの手紙もスキャナーで取り込んで、実物は捨てるっていうんです。それって合理的って言うんですかね。ドン引きしました」
青年の行動が多数派ではないにしろ、いかにも現代的な行為だ。彼にとってはモノとデータの価値に大小はないのかもしれない。しかし、それが行き過ぎた行為かどうかを判断することは難しい。昭和世代の常識は、彼らにとって非常識の可能性もある。
◆人身事故に対するネットの書き込み
飲食店で働く小池貴文さん(仮名・28才)は人身事故について思うことがあるという。
「誰かが通勤電車に飛び込んで電車が止まることってあるじゃないですか。結構頻繁に起こると思うんですけど。ああいうとき、死ぬなら迷惑かけるなよって言う人いますよね。ネットの書き込みとかでもよく見るけど。僕、そのセリフを聞くと落ち込んじゃうんです。何でそういうこと言うんだよって。そりゃ何時間も電車が止まって、仕事や用事に支障が出たらイライラもしますよ。でも、口に出しちゃいけないと思うんです。2~3時間予定が狂うだけじゃないですか。人生が狂って身を投げ出した人に言う言葉かよ、って思うんですよ」
◆失言した有名人をネット上で叩く人たち
他人の呟きが自然と目に飛び込んでくる時代だからこそ、こういった嘆きが生まれるのかもしれない。これも便利の代償といえそうだ。
大学3年生の小林佑月さん(仮名・21才)は掲示板やSNSについて思うことを話してくれた。
「失言した有名人をネット上で叩く人たちっているじゃないですか。一つの文化みたいになってますけど。誰かが炎上してバッシングと擁護の争いが始まる、みたいな。気持ちはわからなくもないんですよ。なんか意見を言いたくなっちゃう。でも、身内の人間ならともかく、全然関係ない一般人がムキになって叩く理由がわからないんです。世の中全体がそういった行為を許容している感じも理解できません。
大袈裟かもしれませんが、その失言者が仮に自殺したとしても、追い込んだ人たちは知らんぷりするわけでしょ。なんだかなーって思いますよ。私の知り合いにもそういう子がいて、その子はずーっとネットに張り付いて有名人叩きをしてます。そんなことして幸せなのかなって疑問に感じますよ」
言論の規制がないのはいいことなのかもしれないが、発信する側と受け取る側では重みが全然違うだろう。政治家やスポーツ選手に対するバッシングも、もしかしたら似たようなものなのかもしれない。
◆「電話がしたくない」21才の彼女
「ひと回り以上年下の彼女がいるんですけど、価値観が違うなって思うことがありますね」
電子機器のメーカーに勤める林誠さん(仮名・37才)はマッチングアプリで知り合った21才の女性と付き合っている。
「僕らの世代って電話することに抵抗がないというか、たまに長電話するのが普通だったんですね。高校生の頃はスマホもない時代だったし、ウィルコム二台買ってダラダラ電話するのが当たり前だったんです。だから彼女と付き合いたての頃、週に1回、1時間ぐらい電話してたんです。そしたらある日、電話はしないでほしいってすごく怒られまして。理由を聞くと、時間を奪われると。それ以外のことができなくなるから、電話はしたくないって言うんです。
で、彼女が何をするのかというと、YouTubeですよ。時間を奪うなって怒っておいて、2時間もしょーもないYouTuberの動画を観るんです。なんか納得いかないですね。あと彼女、散歩も嫌いなんですよ。意味がないからって。二人で鎌倉の海沿いを歩いてもずっと歩きスマホですよ。スワイプしていいねを押す作業をずっとしてるんです。すぐに価値や意味をつけたがるのって病気ですよ、病気」
そういった癖は少なからず誰にでもありそうだ。電車を待つ時間や移動時間にスマホを眺めてしまうのもそうだろう。林さんには変わらずこのままでいてもらいたい。
以上、四名のエピソードを紹介させていただいた。この十数年でガラリと変わったこの社会は、30年後にはどうなっているのだろうか。
<TEXT/山田ぱんつ>
そんな、今どきの常識に『違和感』を持つ人は少なくないようだ。インタビューをしているといくつかの興味深いエピソードに出会ったので、順に紹介させていただく。
◆「両親や彼女からもらった手紙」をスキャンして捨てる若者
「懐古主義、というわけではないんですけど、今と昔じゃ全然違うんだな、って驚くことが結構あって」
そう話すのは、都内の大手企業に勤める斎藤香さん(仮名・36才)だ。
「先日、社内の後輩と話をしていたんです。大学を卒業したての22才の男の子です。彼、書類はすべてパソコンに取り込んでいて、デスク周りがすごく綺麗なんですね。合理的でいいことだな、って周囲の人たちは言うんですが、両親からもらった手紙も同じようにするそうで……。加えて、誕生日に貰った彼女からの手紙もスキャナーで取り込んで、実物は捨てるっていうんです。それって合理的って言うんですかね。ドン引きしました」
青年の行動が多数派ではないにしろ、いかにも現代的な行為だ。彼にとってはモノとデータの価値に大小はないのかもしれない。しかし、それが行き過ぎた行為かどうかを判断することは難しい。昭和世代の常識は、彼らにとって非常識の可能性もある。
◆人身事故に対するネットの書き込み
飲食店で働く小池貴文さん(仮名・28才)は人身事故について思うことがあるという。
「誰かが通勤電車に飛び込んで電車が止まることってあるじゃないですか。結構頻繁に起こると思うんですけど。ああいうとき、死ぬなら迷惑かけるなよって言う人いますよね。ネットの書き込みとかでもよく見るけど。僕、そのセリフを聞くと落ち込んじゃうんです。何でそういうこと言うんだよって。そりゃ何時間も電車が止まって、仕事や用事に支障が出たらイライラもしますよ。でも、口に出しちゃいけないと思うんです。2~3時間予定が狂うだけじゃないですか。人生が狂って身を投げ出した人に言う言葉かよ、って思うんですよ」
◆失言した有名人をネット上で叩く人たち
他人の呟きが自然と目に飛び込んでくる時代だからこそ、こういった嘆きが生まれるのかもしれない。これも便利の代償といえそうだ。
大学3年生の小林佑月さん(仮名・21才)は掲示板やSNSについて思うことを話してくれた。
「失言した有名人をネット上で叩く人たちっているじゃないですか。一つの文化みたいになってますけど。誰かが炎上してバッシングと擁護の争いが始まる、みたいな。気持ちはわからなくもないんですよ。なんか意見を言いたくなっちゃう。でも、身内の人間ならともかく、全然関係ない一般人がムキになって叩く理由がわからないんです。世の中全体がそういった行為を許容している感じも理解できません。
大袈裟かもしれませんが、その失言者が仮に自殺したとしても、追い込んだ人たちは知らんぷりするわけでしょ。なんだかなーって思いますよ。私の知り合いにもそういう子がいて、その子はずーっとネットに張り付いて有名人叩きをしてます。そんなことして幸せなのかなって疑問に感じますよ」
言論の規制がないのはいいことなのかもしれないが、発信する側と受け取る側では重みが全然違うだろう。政治家やスポーツ選手に対するバッシングも、もしかしたら似たようなものなのかもしれない。
◆「電話がしたくない」21才の彼女
「ひと回り以上年下の彼女がいるんですけど、価値観が違うなって思うことがありますね」
電子機器のメーカーに勤める林誠さん(仮名・37才)はマッチングアプリで知り合った21才の女性と付き合っている。
「僕らの世代って電話することに抵抗がないというか、たまに長電話するのが普通だったんですね。高校生の頃はスマホもない時代だったし、ウィルコム二台買ってダラダラ電話するのが当たり前だったんです。だから彼女と付き合いたての頃、週に1回、1時間ぐらい電話してたんです。そしたらある日、電話はしないでほしいってすごく怒られまして。理由を聞くと、時間を奪われると。それ以外のことができなくなるから、電話はしたくないって言うんです。
で、彼女が何をするのかというと、YouTubeですよ。時間を奪うなって怒っておいて、2時間もしょーもないYouTuberの動画を観るんです。なんか納得いかないですね。あと彼女、散歩も嫌いなんですよ。意味がないからって。二人で鎌倉の海沿いを歩いてもずっと歩きスマホですよ。スワイプしていいねを押す作業をずっとしてるんです。すぐに価値や意味をつけたがるのって病気ですよ、病気」
そういった癖は少なからず誰にでもありそうだ。電車を待つ時間や移動時間にスマホを眺めてしまうのもそうだろう。林さんには変わらずこのままでいてもらいたい。
以上、四名のエピソードを紹介させていただいた。この十数年でガラリと変わったこの社会は、30年後にはどうなっているのだろうか。
<TEXT/山田ぱんつ>