「定額働かせ放題」という言葉を聞いたことはありますか。教員が定額の給与で長時間働かされ、時間外労働に対する適切な報酬が支払われないという現状を表した言葉です。
長年にわたり見過ごされてきた労働問題である「定額働かせ放題」。特に公立学校の教員は、労働時間が長時間に及ぶことが常態化しており、健康や生活に大きなダメージを与えています。
◆50年前の法律が今の教員を苦しめている
「定額働かせ放題」問題の原因は、「給特法(公立の義務教育諸学校の教員の給与等に関する特別措置法)」にあります。
1971年に制定されたこの法律は、教員の給与に関する特例を定めたもので、時間外労働に対する手当の代わりに「教職調整額」という形で月額4%の手当が支給されると規定されています。
教職調整額は、仕事の特殊性に対応するために設けられた一律の上乗せ賃金のはずでした。しかし、給特法が制定された50年前と現在とでは、教員を取り巻く環境は全く違います。
業務も増えましたし、教員に対する世間の評価も厳しくなっています。その中で、実際には月2,3万円ほどの教職調整額を受け取る代わりに80時間を超える時間外勤務を強いられるという結果になってしまったのです。
◆「過労死ライン」を超える教員の労働環境
日教組が実施した調査によると、教員の実質的な月の残業時間の平均は月80時間を上回っているという結果が出ています。(独立行政法人 労働政策研究・研修機構『実質的な残業時間が平均で過労死ラインを超過/日教組調査』2023年12月13日 調査部 より)
これは「過労死ライン」と呼ばれる基準を超えており、教員の労働環境がいかに厳しいものであるかを物語っています。さらに、教員の仕事は授業だけにとどまらず、部活動の指導や保護者対応、事務作業など多岐にわたります。
通常の勤務時間内でこれらをすべてこなすのは現実的に不可能です。その結果、教員たちは早朝や深夜、休日に仕事をこなすことを余儀なくされているのです。
◆毎月80時間の残業では授業の質を保てない
私も経験が浅いころは、月の残業時間が60時間や80時間になることはよくありました。管理職からは「早く帰ろう!」と言われましたが、業務が減らないので早く帰るのは無理でした。
タイムカードで勤務時間を管理するようになってからは、月80時間を超える人は管理職と面談をしなければならなくなったので、タイムカードを切り退勤したということにして、さらに仕事をしている人もいました。
どんなにタフな教員でも、毎月80時間もの残業をしていたらさすがに疲れてしまいます。教員が疲れ果ててしまうと、子どもたちに対して質の高い教育を提供することは難しく、最終的には子どもたちの学習環境にも悪影響が出てしまいます。
また、このような労働環境がSNSなどで拡散され、教員志望者は激減。教員不足が深刻化する中、今後の教育現場を担う人材の確保がますます難しくなっているのが現状です。
◆教職調整額が上がっても根本的な解決にならない
半世紀以上そのままだった給特法に動きがあったのは2024年4月。教職調整額が4%から10%に引き上がるかも知れないと話題になりました。さらに2024年8月、教員志望者の確保のため、文科省は、教職調整額を現行の4%から13%に引き上げる方針であると公開しました。
4%から13%というと、かなり大きな変化のように思えますが、基本給30万円の教員の場合、4%は12000円、13%は39000円です。
教職調整額13%が実現したとしても、39000円で「働かせ放題」なのは変わりません。教員の「定額働かせ放題」問題を解決するためには、給特法を撤廃し、適正な残業代を払う制度に変えていく必要がありますが、文科省はなかなか踏み切れないようです。
教育現場で働く教員のために、未来を担う子どもたちのために、社会全体でこの問題に取り組む必要があります。教員の労働環境の改善に向けた動きが加速することを期待します。
<文・あや>
【あや】
勤続10年の元小学校教員で、現在は民間企業人事部に勤める。会社員・副業ブロガー・Webライターの三刀流で働きながら、教員の転職・副業・働き方改革について発信中。「がんばる先生を幸せにする」のがモットー。X(旧Twitter):@teach_happiness
長年にわたり見過ごされてきた労働問題である「定額働かせ放題」。特に公立学校の教員は、労働時間が長時間に及ぶことが常態化しており、健康や生活に大きなダメージを与えています。
◆50年前の法律が今の教員を苦しめている
「定額働かせ放題」問題の原因は、「給特法(公立の義務教育諸学校の教員の給与等に関する特別措置法)」にあります。
1971年に制定されたこの法律は、教員の給与に関する特例を定めたもので、時間外労働に対する手当の代わりに「教職調整額」という形で月額4%の手当が支給されると規定されています。
教職調整額は、仕事の特殊性に対応するために設けられた一律の上乗せ賃金のはずでした。しかし、給特法が制定された50年前と現在とでは、教員を取り巻く環境は全く違います。
業務も増えましたし、教員に対する世間の評価も厳しくなっています。その中で、実際には月2,3万円ほどの教職調整額を受け取る代わりに80時間を超える時間外勤務を強いられるという結果になってしまったのです。
◆「過労死ライン」を超える教員の労働環境
日教組が実施した調査によると、教員の実質的な月の残業時間の平均は月80時間を上回っているという結果が出ています。(独立行政法人 労働政策研究・研修機構『実質的な残業時間が平均で過労死ラインを超過/日教組調査』2023年12月13日 調査部 より)
これは「過労死ライン」と呼ばれる基準を超えており、教員の労働環境がいかに厳しいものであるかを物語っています。さらに、教員の仕事は授業だけにとどまらず、部活動の指導や保護者対応、事務作業など多岐にわたります。
通常の勤務時間内でこれらをすべてこなすのは現実的に不可能です。その結果、教員たちは早朝や深夜、休日に仕事をこなすことを余儀なくされているのです。
◆毎月80時間の残業では授業の質を保てない
私も経験が浅いころは、月の残業時間が60時間や80時間になることはよくありました。管理職からは「早く帰ろう!」と言われましたが、業務が減らないので早く帰るのは無理でした。
タイムカードで勤務時間を管理するようになってからは、月80時間を超える人は管理職と面談をしなければならなくなったので、タイムカードを切り退勤したということにして、さらに仕事をしている人もいました。
どんなにタフな教員でも、毎月80時間もの残業をしていたらさすがに疲れてしまいます。教員が疲れ果ててしまうと、子どもたちに対して質の高い教育を提供することは難しく、最終的には子どもたちの学習環境にも悪影響が出てしまいます。
また、このような労働環境がSNSなどで拡散され、教員志望者は激減。教員不足が深刻化する中、今後の教育現場を担う人材の確保がますます難しくなっているのが現状です。
◆教職調整額が上がっても根本的な解決にならない
半世紀以上そのままだった給特法に動きがあったのは2024年4月。教職調整額が4%から10%に引き上がるかも知れないと話題になりました。さらに2024年8月、教員志望者の確保のため、文科省は、教職調整額を現行の4%から13%に引き上げる方針であると公開しました。
4%から13%というと、かなり大きな変化のように思えますが、基本給30万円の教員の場合、4%は12000円、13%は39000円です。
教職調整額13%が実現したとしても、39000円で「働かせ放題」なのは変わりません。教員の「定額働かせ放題」問題を解決するためには、給特法を撤廃し、適正な残業代を払う制度に変えていく必要がありますが、文科省はなかなか踏み切れないようです。
教育現場で働く教員のために、未来を担う子どもたちのために、社会全体でこの問題に取り組む必要があります。教員の労働環境の改善に向けた動きが加速することを期待します。
<文・あや>
【あや】
勤続10年の元小学校教員で、現在は民間企業人事部に勤める。会社員・副業ブロガー・Webライターの三刀流で働きながら、教員の転職・副業・働き方改革について発信中。「がんばる先生を幸せにする」のがモットー。X(旧Twitter):@teach_happiness