日本国内におけるエンターテインメント業界は、若年層の人口減少や少子高齢化の影響を強く受けています。多くの企業が成長の限界に直面し、新たなビジネスモデルや海外展開の必要性を感じる中、エンターテインメント複合施設を展開するラウンドワン(4680)は、その規模を世界へと広げています。
同社の強みは単なるボウリング施設に留まらず、カラオケ、バッティングセンター、ゲームセンターなど、多彩なエンタメを一か所で提供できる「複合エンターテインメント」にあります。そして今、ラウンドワンは日本国内に限られた市場を飛び越え、米国市場で成功を収め、さらなる成長を目指していることをご存知でしょうか?
ラウンドワンのアメリカ市場への進出は、単なるビジネスの拡大だけではなく、グローバル企業としての地位を確立するための重要なステップと見るべきです。
2010年にロサンゼルスに1号店をオープンして以降、北米を中心に店舗を拡大し、現在では50店舗以上を展開しています。では、ラウンドワンはなぜ米国市場でこれほどの成功を収めることができたのでしょうか?その要因には、現地市場への柔軟な適応、ターゲット層の選定、さらには多様なアクティビティを提供する独自のエンターテインメント体験が挙げられます。
◆米国市場で成功した要因
ラウンドワンの米国展開の背景には、日本国内市場の成長の限界があります。
2010年にロサンゼルス郊外のプエンテヒルズ・モールで初の米国店舗をオープンしたラウンドワンは、すでに日本の市場に依存し続けることがリスクであると判断し、アメリカへの進出を決断しました。結果、2024年までに米国内で50店舗以上を展開するまでに成長し、同社の売上の37%(24年3月期)が米国からの収益となっています。
成功の理由の一つは、衰退するショッピングモールへの出店です。
アメリカの多くのショッピングモールは、百貨店やファストファッションの撤退により空きスペースが増えていました。たとえば、フォーエバー21が撤退したコネティカット州のダンベリーフェアモールにラウンドワンが進出したことで、そのオープンから数ヶ月でモール全体の来客数が18%も増加したという実績を築いています。
ラウンドワンのエンターテインメント施設は、単なる買い物の場から「体験型の場所」へとモールを再構築する力を持っており、これが多くのモールオーナーにとって救世主的な存在となっている何よりの証です。
その他にも、ラウンドワンが米国で成功した要因は、現地の消費者ニーズに合わせた柔軟な戦略です。米国市場に初めて進出した際、ラウンドワンは日本式のサービスをそのまま輸出するのではなく、現地文化に適応させるための工夫を行いました。たとえば、アメリカ人にとってカラオケは日本ほど日常的な娯楽ではありません。そこでラウンドワンは、グループで楽しむスタイルから広いオープンスペースのステージを設け、観客の前で歌うスタイルを提供することで、アメリカ人の「ショー」文化にうまく適応させました。
◆アメリカの既存エンタメ施設のスキマ
また、フードサービスも米国展開の成功の一端を担っています。ラウンドワンのアメリカの店舗では、現地の食文化に合わせたメニューを導入。フライドフーズやピザといったアメリカ人が好む定番メニューに加え、日本食のエッセンスを取り入れることで、エンタメと食の融合を実現しました。これにより、家族連れやグループが施設に長時間滞在するようになり、収益を上げる要因となっています。
さらに、ラウンドワンが米国で目指したのは「多様なアクティビティを一か所で楽しめる」という利便性です。米国には、ボウリング専用施設やアミューズメントパークなど、単一のエンタメ施設は多いですが、ラウンドワンのように、あらゆる娯楽を一か所で提供できる複合施設は少ないのです。この差別化戦略が、ラウンドワンの米国での成長を支えています。
◆新規事業「ラウンドワンデリシャス」の挑戦
ラウンドワンは、エンターテインメント施設の運営だけでなく、フードビジネスにも本格的に参入しています。その象徴が「ラウンドワンデリシャス」です。この新規事業は、アメリカにおける日本食の人気を背景に、ラウンドワンが食の分野でも挑戦を始めた取り組みです。
アメリカでは、寿司やラーメン、和牛など、日本食が広く受け入れられています。ラウンドワンはこのトレンドを捉え、国内の超人気レストラン16店舗と提携し、アメリカの主要都市に日本食を提供する「ラウンドワンデリシャス」を立ち上げました。
この新規事業は、2025年夏にニューヨーク、ロサンゼルス、ラスベガスの3年を皮切りに、サンフランシスコ、シカゴ、ホノルルなどの主要都市で展開される予定であり、ラウンドワンのエンターテインメント施設と連携している点が特徴です。
出店計画としては向こう5年で10都市に200店舗を目指すという、大掛かりな日本食ドリームプロジェクトであり、「ラウンドワンデリシャス」は日本の食文化を海外に広める重要な役割も担う可能性が高いと言えるでしょう。これにより、ラウンドワンはエンターテインメント業界のみならず、飲食業界でもグローバルな存在感を示し始めています。今後、ラウンドワンデリシャスが全世界でどのように成長していくのか注目が集まっています。
◆数字で見るラウンドワンの成長
ラウンドワンの成功は、数字にも現れています。2024年4~6月期の連結決算によれば、売上高は前年同期比12.3%増の403億8900万円、営業利益は前年同期比25.6%増の48億8000万円を記録しています。米国における既存店売上高は2.6%増と当初の計画を下回ったものの、依然として好調を維持しており、店舗数の増加とともにさらなる成長が見込まれています。
また、同社は8月上旬に日本の株式市場において優れた企業を選出する株価指数である、JPX日経インデックス400に新規採用されました。これは、ラウンドワンが資本効率の高い経営を行っていることが評価された結果であり、今後のさらなる成長に向けて期待が高まっています。
ラウンドワンは、国内外での成長を支えるため、常に新しい挑戦を続けています。エンターテインメント事業に加え、ラウンドワンデリシャスによる飲食事業への進出は、その挑戦の一環です。また株価も執筆時点(9/12)では980円前後を推移しており、売上高の上昇とともにさらなる株価の上昇が期待されます。
日本発のエンターテインメント企業として、ラウンドワンがグローバル市場でどのような未来を切り開いていくのか、その動向にますます注目が集まっています。
もしも料理人で海外移住も視野に入れているならば、絶好のチャンスとなるかもしれません。
また海外展開において、日本のテクノロジー企業よりもよっぽどアメリカンドリームに近いのが、日本のエンタメやフードビジネスであることは興味深い事例ではないでしょうか。
<TEXT/鈴木林太郎>
<引用>
株式会社ラウンドワン「2024年3月期決算説明会資料」
「ラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に」(Bloomberg)
【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist
同社の強みは単なるボウリング施設に留まらず、カラオケ、バッティングセンター、ゲームセンターなど、多彩なエンタメを一か所で提供できる「複合エンターテインメント」にあります。そして今、ラウンドワンは日本国内に限られた市場を飛び越え、米国市場で成功を収め、さらなる成長を目指していることをご存知でしょうか?
ラウンドワンのアメリカ市場への進出は、単なるビジネスの拡大だけではなく、グローバル企業としての地位を確立するための重要なステップと見るべきです。
2010年にロサンゼルスに1号店をオープンして以降、北米を中心に店舗を拡大し、現在では50店舗以上を展開しています。では、ラウンドワンはなぜ米国市場でこれほどの成功を収めることができたのでしょうか?その要因には、現地市場への柔軟な適応、ターゲット層の選定、さらには多様なアクティビティを提供する独自のエンターテインメント体験が挙げられます。
◆米国市場で成功した要因
ラウンドワンの米国展開の背景には、日本国内市場の成長の限界があります。
2010年にロサンゼルス郊外のプエンテヒルズ・モールで初の米国店舗をオープンしたラウンドワンは、すでに日本の市場に依存し続けることがリスクであると判断し、アメリカへの進出を決断しました。結果、2024年までに米国内で50店舗以上を展開するまでに成長し、同社の売上の37%(24年3月期)が米国からの収益となっています。
成功の理由の一つは、衰退するショッピングモールへの出店です。
アメリカの多くのショッピングモールは、百貨店やファストファッションの撤退により空きスペースが増えていました。たとえば、フォーエバー21が撤退したコネティカット州のダンベリーフェアモールにラウンドワンが進出したことで、そのオープンから数ヶ月でモール全体の来客数が18%も増加したという実績を築いています。
ラウンドワンのエンターテインメント施設は、単なる買い物の場から「体験型の場所」へとモールを再構築する力を持っており、これが多くのモールオーナーにとって救世主的な存在となっている何よりの証です。
その他にも、ラウンドワンが米国で成功した要因は、現地の消費者ニーズに合わせた柔軟な戦略です。米国市場に初めて進出した際、ラウンドワンは日本式のサービスをそのまま輸出するのではなく、現地文化に適応させるための工夫を行いました。たとえば、アメリカ人にとってカラオケは日本ほど日常的な娯楽ではありません。そこでラウンドワンは、グループで楽しむスタイルから広いオープンスペースのステージを設け、観客の前で歌うスタイルを提供することで、アメリカ人の「ショー」文化にうまく適応させました。
◆アメリカの既存エンタメ施設のスキマ
また、フードサービスも米国展開の成功の一端を担っています。ラウンドワンのアメリカの店舗では、現地の食文化に合わせたメニューを導入。フライドフーズやピザといったアメリカ人が好む定番メニューに加え、日本食のエッセンスを取り入れることで、エンタメと食の融合を実現しました。これにより、家族連れやグループが施設に長時間滞在するようになり、収益を上げる要因となっています。
さらに、ラウンドワンが米国で目指したのは「多様なアクティビティを一か所で楽しめる」という利便性です。米国には、ボウリング専用施設やアミューズメントパークなど、単一のエンタメ施設は多いですが、ラウンドワンのように、あらゆる娯楽を一か所で提供できる複合施設は少ないのです。この差別化戦略が、ラウンドワンの米国での成長を支えています。
◆新規事業「ラウンドワンデリシャス」の挑戦
ラウンドワンは、エンターテインメント施設の運営だけでなく、フードビジネスにも本格的に参入しています。その象徴が「ラウンドワンデリシャス」です。この新規事業は、アメリカにおける日本食の人気を背景に、ラウンドワンが食の分野でも挑戦を始めた取り組みです。
アメリカでは、寿司やラーメン、和牛など、日本食が広く受け入れられています。ラウンドワンはこのトレンドを捉え、国内の超人気レストラン16店舗と提携し、アメリカの主要都市に日本食を提供する「ラウンドワンデリシャス」を立ち上げました。
この新規事業は、2025年夏にニューヨーク、ロサンゼルス、ラスベガスの3年を皮切りに、サンフランシスコ、シカゴ、ホノルルなどの主要都市で展開される予定であり、ラウンドワンのエンターテインメント施設と連携している点が特徴です。
出店計画としては向こう5年で10都市に200店舗を目指すという、大掛かりな日本食ドリームプロジェクトであり、「ラウンドワンデリシャス」は日本の食文化を海外に広める重要な役割も担う可能性が高いと言えるでしょう。これにより、ラウンドワンはエンターテインメント業界のみならず、飲食業界でもグローバルな存在感を示し始めています。今後、ラウンドワンデリシャスが全世界でどのように成長していくのか注目が集まっています。
◆数字で見るラウンドワンの成長
ラウンドワンの成功は、数字にも現れています。2024年4~6月期の連結決算によれば、売上高は前年同期比12.3%増の403億8900万円、営業利益は前年同期比25.6%増の48億8000万円を記録しています。米国における既存店売上高は2.6%増と当初の計画を下回ったものの、依然として好調を維持しており、店舗数の増加とともにさらなる成長が見込まれています。
また、同社は8月上旬に日本の株式市場において優れた企業を選出する株価指数である、JPX日経インデックス400に新規採用されました。これは、ラウンドワンが資本効率の高い経営を行っていることが評価された結果であり、今後のさらなる成長に向けて期待が高まっています。
ラウンドワンは、国内外での成長を支えるため、常に新しい挑戦を続けています。エンターテインメント事業に加え、ラウンドワンデリシャスによる飲食事業への進出は、その挑戦の一環です。また株価も執筆時点(9/12)では980円前後を推移しており、売上高の上昇とともにさらなる株価の上昇が期待されます。
日本発のエンターテインメント企業として、ラウンドワンがグローバル市場でどのような未来を切り開いていくのか、その動向にますます注目が集まっています。
もしも料理人で海外移住も視野に入れているならば、絶好のチャンスとなるかもしれません。
また海外展開において、日本のテクノロジー企業よりもよっぽどアメリカンドリームに近いのが、日本のエンタメやフードビジネスであることは興味深い事例ではないでしょうか。
<TEXT/鈴木林太郎>
<引用>
株式会社ラウンドワン「2024年3月期決算説明会資料」
「ラウンドワン、衰退する米ショッピングモールの救世主に」(Bloomberg)
【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist