ビジネスホテルですら一泊1万円を超えることが珍しくない昨今、懐に優しい宿はないものかと取材班が総力取材。知られざる穴場の数々を体験レポートで紹介する。
◆一泊1500円を下回る宿の予想外の居心地に思わず仰天
まず記者が向かったのは神戸・新開地。新開地は三宮から電車で10分ほど、神戸随一の風俗街・福原がある街で、戦前から戦後にかけて神戸の中心街として栄えたエリアだ。
本日の宿はそんな新開地にある創業65年の「三和ホテル」。到着して建物を眺めると明らかに外壁のコンクリートが傷んでおり、ただならぬ雰囲気を感じる。
急な階段で2階に上がり、受付で声をかけたが反応はない。受付の小窓の奥を覗くといびきをかきながら寝ているパンツ一丁の男性の姿が見えたため、ベルを鳴らして宿泊したい旨を告げた。
宿泊料は一泊1100~2100円の4つから選べる。1550円以上の部屋はテレビ付きらしいが、今回は最も安い部屋に宿泊することに。
◆「ルームキー」代わりは「ハサミ」
代金を支払うと部屋番号を告げられつつ、「これで部屋に入って」と手渡されたのはハサミ。鍵もなく、どうやって部屋に入るのだろうか。
疑問に思いながら部屋がある3階に上がると上半身裸の壮年の男性から「部屋、何番や?」と声をかけられた。
部屋のドアを全開にし、生活用具を廊下に山積みにしていることから察するに、おそらくここに定住しているのだろう。部屋の場所を教わり、礼を告げると「兄ちゃんホンマに泊まるんか? 死ぬほど暑いで」と笑う。
薄暗い廊下を歩き、部屋に到着。木製のドアの掛け金に結束バンドがかけられており、受付でもらったハサミでバンドを切って入室。部屋は奥行き2m、横1mほど。
荷物置きの棚には映らないアナログテレビと雑誌と灰皿があり、万年床と思しき黄ばんだ布団で床は見えない。
ドアを閉めて感じたのは尋常じゃない暑さだ。体感で40℃くらいだろうか、入室して10分で全身汗だくになったほど。部屋に設置されている扇風機を回しても熱風が吹くだけ、窓も開かないためサウナのようだ。
しばらく我慢したが耐えきれず、命の危険を感じてあえなく撤退。「死ぬほど暑い」はまったく誇張ではなかった。料金は破格でも、真夏は避けたほうが身のためかもしれない。
◆旅人の金銭的負担を包み込む北の大地
ついに1000円を切る宿があると聞き、北海道へ飛んだ。新千歳空港から車で1時間半、シカやキツネが現れる夜道を駆け抜け、むかわ町という小さな集落に到着すると、薄暗闇にブルーの鉄道車両を発見。
これが「旧富内駅列車ハウス」か。国鉄時代の車両を再利用していて、主にバイク愛好家が利用するライダーハウスとして知られているらしい。
土と草の匂いを感じながら、鉄道の重い鉄の扉を引いて入室。蛍光灯に照らされた車内には絨毯が敷いてあり、手前から寝具、ソファ、ダイニングテーブルと置かれ、一つの長細い部屋のように改装されていた。
玄関部分には座席シートや車内広告、窓上には網棚があり、電車の雰囲気はほどよく残っている。電車に泊まれるとは、面白い体験だ。
周囲に飲食店はないため、途中で寄ったセイコーマートの弁当を食べて一息つく。その間に、切れそうだったスマホを充電しよう。利用できるコンセントが設置されていてありがたい。
◆街を駆け抜けない「寝台列車」宿泊体験
横に扇風機があったが、つけるまでもなく北海道の気温は涼しい。布団は清潔感があるものの、枕は黒ずんでいたため、リュックで代用して床に就いた。
時刻は22時。バチッバチッと車窓に蛾が体当たりする音が耳につく。窓は密閉されているようだが、蛍光灯の下で羽虫が落ちていく……。電気の近くで寝ないほうがよさそうだ。移動すると、少しマシになった。
翌日、車窓から注ぐ朝の日差しで目が覚めた。爽やかな朝だ。近所の商店へ向かい、管理人の老婦人に宿泊代の500円玉を渡した。しかし、信じられないくらい安い。
「町が補助金を出していて、ずっと500円でやってますよ。管理は昔から私一人でしています。毎年来てくれるライダーの方もいますね」
今年80歳になるという管理人さんの穏やかな人柄にほっこり。この宿の魅力の一つといえるだろう。
今回の安宿探しの旅、5泊で合計宿泊代金は8700円だったが、交通費はその10倍もかかった。本末転倒のようだが、ここまで大胆な旅ができたのは、紛れもなく安宿のおかげなのだ。
【兵庫・三和ホテル】
兵庫県神戸市兵庫区新開地5-2-11
宿泊1100円~。阪急・阪神・神戸電鉄新開地駅から徒歩3分。JR神戸駅から徒歩7分。10時チェックアウト
【北海道・旧富内駅列車ハウス】
北海道勇払郡むかわ町穂別富内81-1
近所のふじ屋商店に直接訪問すれば宿泊可。宿泊が18時以降になる場合は、事前に電話を
取材・文・撮影/週刊SPA!編集部
―[「日本一安い宿」を探してみた!]―
◆一泊1500円を下回る宿の予想外の居心地に思わず仰天
まず記者が向かったのは神戸・新開地。新開地は三宮から電車で10分ほど、神戸随一の風俗街・福原がある街で、戦前から戦後にかけて神戸の中心街として栄えたエリアだ。
本日の宿はそんな新開地にある創業65年の「三和ホテル」。到着して建物を眺めると明らかに外壁のコンクリートが傷んでおり、ただならぬ雰囲気を感じる。
急な階段で2階に上がり、受付で声をかけたが反応はない。受付の小窓の奥を覗くといびきをかきながら寝ているパンツ一丁の男性の姿が見えたため、ベルを鳴らして宿泊したい旨を告げた。
宿泊料は一泊1100~2100円の4つから選べる。1550円以上の部屋はテレビ付きらしいが、今回は最も安い部屋に宿泊することに。
◆「ルームキー」代わりは「ハサミ」
代金を支払うと部屋番号を告げられつつ、「これで部屋に入って」と手渡されたのはハサミ。鍵もなく、どうやって部屋に入るのだろうか。
疑問に思いながら部屋がある3階に上がると上半身裸の壮年の男性から「部屋、何番や?」と声をかけられた。
部屋のドアを全開にし、生活用具を廊下に山積みにしていることから察するに、おそらくここに定住しているのだろう。部屋の場所を教わり、礼を告げると「兄ちゃんホンマに泊まるんか? 死ぬほど暑いで」と笑う。
薄暗い廊下を歩き、部屋に到着。木製のドアの掛け金に結束バンドがかけられており、受付でもらったハサミでバンドを切って入室。部屋は奥行き2m、横1mほど。
荷物置きの棚には映らないアナログテレビと雑誌と灰皿があり、万年床と思しき黄ばんだ布団で床は見えない。
ドアを閉めて感じたのは尋常じゃない暑さだ。体感で40℃くらいだろうか、入室して10分で全身汗だくになったほど。部屋に設置されている扇風機を回しても熱風が吹くだけ、窓も開かないためサウナのようだ。
しばらく我慢したが耐えきれず、命の危険を感じてあえなく撤退。「死ぬほど暑い」はまったく誇張ではなかった。料金は破格でも、真夏は避けたほうが身のためかもしれない。
◆旅人の金銭的負担を包み込む北の大地
ついに1000円を切る宿があると聞き、北海道へ飛んだ。新千歳空港から車で1時間半、シカやキツネが現れる夜道を駆け抜け、むかわ町という小さな集落に到着すると、薄暗闇にブルーの鉄道車両を発見。
これが「旧富内駅列車ハウス」か。国鉄時代の車両を再利用していて、主にバイク愛好家が利用するライダーハウスとして知られているらしい。
土と草の匂いを感じながら、鉄道の重い鉄の扉を引いて入室。蛍光灯に照らされた車内には絨毯が敷いてあり、手前から寝具、ソファ、ダイニングテーブルと置かれ、一つの長細い部屋のように改装されていた。
玄関部分には座席シートや車内広告、窓上には網棚があり、電車の雰囲気はほどよく残っている。電車に泊まれるとは、面白い体験だ。
周囲に飲食店はないため、途中で寄ったセイコーマートの弁当を食べて一息つく。その間に、切れそうだったスマホを充電しよう。利用できるコンセントが設置されていてありがたい。
◆街を駆け抜けない「寝台列車」宿泊体験
横に扇風機があったが、つけるまでもなく北海道の気温は涼しい。布団は清潔感があるものの、枕は黒ずんでいたため、リュックで代用して床に就いた。
時刻は22時。バチッバチッと車窓に蛾が体当たりする音が耳につく。窓は密閉されているようだが、蛍光灯の下で羽虫が落ちていく……。電気の近くで寝ないほうがよさそうだ。移動すると、少しマシになった。
翌日、車窓から注ぐ朝の日差しで目が覚めた。爽やかな朝だ。近所の商店へ向かい、管理人の老婦人に宿泊代の500円玉を渡した。しかし、信じられないくらい安い。
「町が補助金を出していて、ずっと500円でやってますよ。管理は昔から私一人でしています。毎年来てくれるライダーの方もいますね」
今年80歳になるという管理人さんの穏やかな人柄にほっこり。この宿の魅力の一つといえるだろう。
今回の安宿探しの旅、5泊で合計宿泊代金は8700円だったが、交通費はその10倍もかかった。本末転倒のようだが、ここまで大胆な旅ができたのは、紛れもなく安宿のおかげなのだ。
【兵庫・三和ホテル】
兵庫県神戸市兵庫区新開地5-2-11
宿泊1100円~。阪急・阪神・神戸電鉄新開地駅から徒歩3分。JR神戸駅から徒歩7分。10時チェックアウト
【北海道・旧富内駅列車ハウス】
北海道勇払郡むかわ町穂別富内81-1
近所のふじ屋商店に直接訪問すれば宿泊可。宿泊が18時以降になる場合は、事前に電話を
取材・文・撮影/週刊SPA!編集部
―[「日本一安い宿」を探してみた!]―