教員という職業は、世間一般で「安定した職業」として知られています。給与面でも、民間企業に比べて一定の水準が保たれていると言われますが、その実態はどうなのでしょうか?
特に、長時間労働が常態化していると言われる教育現場では、給与を時給に換算すると、その実態が見えてきます。今回は、教員の給与を実際に時給換算し、その現実を考察してみます。
◆勤務時間通りであれば時給2500円程度
まず、教員の給与体系について簡単に説明します。公立学校の教員であれば、地方公務員としての給与体系が適用され、基本給の他に各種手当や教職調整額、ボーナスが支給されます。
総務省「令和5年 地方公務員給与実態調査結果の状況」によると、公立の小・中学校教員の月給は平均して約40万円程度となっています。
文科省「公立学校の教育公務員の勤務時間等について」には、「都道府県及び政令市において、1日当たりの勤務時間は7時間45分とされている」と記載があり、実際の教育現場の服務規定もこのようになっています。
私の勤務校でも、決められた勤務時間は8:15~16:45(休憩12:15~13:00)でした。
月給40万円で、1か月間(20日)、毎日7時間45分働いた場合の時給を計算してみると、時給2581円になります。勤務時間通りに労働した場合ですが…
◆月の労働時間は300時間を超えてしまうことも
一方で、実際の教員の労働時間は非常に長いです。勤務時間通りで済むことはほとんどありません。
文部科学省の調査によると、小学校教員の平均勤務時間は1日10時間45分、中学校教員は11時間となっています。(文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】」より引用)
規定の勤務時間7時間45分から、1日あたり3時間もオーバーしていることになります。20日で60時間分、規定を超える労働をしていることになります。
さらに、部活動の指導や家庭訪問、校外活動の引率など、授業以外の業務も多岐にわたります。その結果、月間の労働時間は軽く200時間を超え、300時間近く労働することもあります。連合総研の調査報告(2022年)によると、教員の1か月の労働時間は293時間46分にも及ぶとのことです。これをもとに、教員の月給を時給に換算してみましょう。
◆アルバイトと大差ない時給。非常勤講師が上回ることも
例えば、月給が40万円で、月の労働時間が200時間の場合、時給は以下のようになります。
400000(円)÷200(時間)=2000(円)
もし労働時間が300時間に達する場合、時給は以下の通りになります。
400000(円)÷300(時間)=1333(円)
当たり前ですが、労働時間が長ければ長いほど時給は下がっていきます。家庭の都合で早く帰らなければならない先生もいますが、仕事が減るわけではありません。
教材研究などの仕事を家でする場合、その時間も含めるとはっきりとした労働時間は出せないのが実態です。時給換算すると、アルバイトの時給と大差ない金額になることもあります。
また、経験が浅い、若い先生たちは月給が少なく、労働時間が長い傾向がありますので、仮に月給25万円で300時間労働した場合、以下のような時給になります。
250000(円)÷300(時間)=833(円)
令和6年度の最低賃金(全国加重平均額)は1055円(参考:令和6年度 地域別最低賃金 答申状況)なので、それを大きく下回っています。
ちなみに、東京都の非常勤講師の時給は、教員経験10年ほどあれば2690円ですので(参考:東京都公立学校教員採用ポータルサイト)、時給のことだけを考えると非常勤講師の方が全然いいんです。
◆教員志望者の減少の一因になっている可能性
教員という職業がいかに過酷なものであるかは、時給換算をしても明らかでしょう。そして、労働時間が長いだけでなく、教育現場での仕事は非常に多岐にわたり、責任も重いです。その対価としての給与が十分であるかというと、疑問が残ります。
教員の労働問題はニュースやSNSでも取り上げられるようになり、「先生は大変」というイメージも定着しつつあります。
子どもをもつ保護者や学校の近くに住んでいる人であれば、毎日遅くまで電気がついている職員室や休日でも部活をしている子どもたちの様子など実際の学校現場を目の当たりにすることもあるでしょう。
こうした労働環境が、教員のモチベーションや健康に与える影響は無視できません。今年度の教員採用試験の倍率を見ても、1倍台や2倍台が目立ちます。(参考:2025年度教員採用試験 志願者数・採用予定者数・倍率一覧)新潟県では、中高・国語の教員採用試験で、採用予定数55人に対して27人しか出願しなかったというニュースもありました。
私が教員採用試験を受けたのは10年以上前ですが、当時はどの自治体も6倍以上は当たり前でしたし、中には20倍の自治体・校種もありました。10年ほどでここまで教員人気がなくなったのは、長時間労働や責任の重さが無関係であるとは、どうしても思えないのです。
教員の給与を時給換算することで見えてくるのは、教育現場の厳しい労働環境と、それに対して十分でない給与の実態です。
教員という職業は、子どもたちの未来を担う重要な仕事です。教員が安心して働ける環境を整えることが、社会全体の課題となっているのではないでしょうか。これを機に、教員の労働条件の改善について、より多くの人が関心をもち、議論が進むことを期待します。
<文・あや>
【あや】
勤続10年の元小学校教員で、現在は民間企業人事部に勤める。会社員・副業ブロガー・Webライターの三刀流で働きながら、教員の転職・副業・働き方改革について発信中。「がんばる先生を幸せにする」のがモットー。X(旧Twitter):@teach_happiness
特に、長時間労働が常態化していると言われる教育現場では、給与を時給に換算すると、その実態が見えてきます。今回は、教員の給与を実際に時給換算し、その現実を考察してみます。
◆勤務時間通りであれば時給2500円程度
まず、教員の給与体系について簡単に説明します。公立学校の教員であれば、地方公務員としての給与体系が適用され、基本給の他に各種手当や教職調整額、ボーナスが支給されます。
総務省「令和5年 地方公務員給与実態調査結果の状況」によると、公立の小・中学校教員の月給は平均して約40万円程度となっています。
文科省「公立学校の教育公務員の勤務時間等について」には、「都道府県及び政令市において、1日当たりの勤務時間は7時間45分とされている」と記載があり、実際の教育現場の服務規定もこのようになっています。
私の勤務校でも、決められた勤務時間は8:15~16:45(休憩12:15~13:00)でした。
月給40万円で、1か月間(20日)、毎日7時間45分働いた場合の時給を計算してみると、時給2581円になります。勤務時間通りに労働した場合ですが…
◆月の労働時間は300時間を超えてしまうことも
一方で、実際の教員の労働時間は非常に長いです。勤務時間通りで済むことはほとんどありません。
文部科学省の調査によると、小学校教員の平均勤務時間は1日10時間45分、中学校教員は11時間となっています。(文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】」より引用)
規定の勤務時間7時間45分から、1日あたり3時間もオーバーしていることになります。20日で60時間分、規定を超える労働をしていることになります。
さらに、部活動の指導や家庭訪問、校外活動の引率など、授業以外の業務も多岐にわたります。その結果、月間の労働時間は軽く200時間を超え、300時間近く労働することもあります。連合総研の調査報告(2022年)によると、教員の1か月の労働時間は293時間46分にも及ぶとのことです。これをもとに、教員の月給を時給に換算してみましょう。
◆アルバイトと大差ない時給。非常勤講師が上回ることも
例えば、月給が40万円で、月の労働時間が200時間の場合、時給は以下のようになります。
400000(円)÷200(時間)=2000(円)
もし労働時間が300時間に達する場合、時給は以下の通りになります。
400000(円)÷300(時間)=1333(円)
当たり前ですが、労働時間が長ければ長いほど時給は下がっていきます。家庭の都合で早く帰らなければならない先生もいますが、仕事が減るわけではありません。
教材研究などの仕事を家でする場合、その時間も含めるとはっきりとした労働時間は出せないのが実態です。時給換算すると、アルバイトの時給と大差ない金額になることもあります。
また、経験が浅い、若い先生たちは月給が少なく、労働時間が長い傾向がありますので、仮に月給25万円で300時間労働した場合、以下のような時給になります。
250000(円)÷300(時間)=833(円)
令和6年度の最低賃金(全国加重平均額)は1055円(参考:令和6年度 地域別最低賃金 答申状況)なので、それを大きく下回っています。
ちなみに、東京都の非常勤講師の時給は、教員経験10年ほどあれば2690円ですので(参考:東京都公立学校教員採用ポータルサイト)、時給のことだけを考えると非常勤講師の方が全然いいんです。
◆教員志望者の減少の一因になっている可能性
教員という職業がいかに過酷なものであるかは、時給換算をしても明らかでしょう。そして、労働時間が長いだけでなく、教育現場での仕事は非常に多岐にわたり、責任も重いです。その対価としての給与が十分であるかというと、疑問が残ります。
教員の労働問題はニュースやSNSでも取り上げられるようになり、「先生は大変」というイメージも定着しつつあります。
子どもをもつ保護者や学校の近くに住んでいる人であれば、毎日遅くまで電気がついている職員室や休日でも部活をしている子どもたちの様子など実際の学校現場を目の当たりにすることもあるでしょう。
こうした労働環境が、教員のモチベーションや健康に与える影響は無視できません。今年度の教員採用試験の倍率を見ても、1倍台や2倍台が目立ちます。(参考:2025年度教員採用試験 志願者数・採用予定者数・倍率一覧)新潟県では、中高・国語の教員採用試験で、採用予定数55人に対して27人しか出願しなかったというニュースもありました。
私が教員採用試験を受けたのは10年以上前ですが、当時はどの自治体も6倍以上は当たり前でしたし、中には20倍の自治体・校種もありました。10年ほどでここまで教員人気がなくなったのは、長時間労働や責任の重さが無関係であるとは、どうしても思えないのです。
教員の給与を時給換算することで見えてくるのは、教育現場の厳しい労働環境と、それに対して十分でない給与の実態です。
教員という職業は、子どもたちの未来を担う重要な仕事です。教員が安心して働ける環境を整えることが、社会全体の課題となっているのではないでしょうか。これを機に、教員の労働条件の改善について、より多くの人が関心をもち、議論が進むことを期待します。
<文・あや>
【あや】
勤続10年の元小学校教員で、現在は民間企業人事部に勤める。会社員・副業ブロガー・Webライターの三刀流で働きながら、教員の転職・副業・働き方改革について発信中。「がんばる先生を幸せにする」のがモットー。X(旧Twitter):@teach_happiness