障害者と性の問題はタブー視されがちだが、当然、障害者にも健常者と同様、性欲はあり、専門の性風俗店も存在する。
障害者向けデリバリーヘルスサービスの老舗、はんどめいど俱楽部の代表 ショウ氏(53歳)に障害者と性の実態を聞いた。
◆訪問介護の現場で知った“障害者と性”
はんどめいど俱楽部は、今年でオープンから13年目だ。代表のショウ氏は専門学校を卒業後、レジャー業界で会社員をしていたが、うつになり退職した。その後、同業界に戻ろうとしたが、不景気の煽りを受け、再就職は難航した。35~36歳の頃、福祉職に転職し、訪問介護事業所に勤務する。
「有効求人倍率が、10倍くらいだったので、消去法で福祉の仕事を選びました。収入源の確保のために、障害者のヘルパーをしていました」
ヘルパーとしての仕事を通じて、障害者の性の問題を知ることとなる。
◆陰部を洗い続ける知的障害者の青年
「知的障害がある自閉症の青年の入浴介助をしていたんです。ずっと同じ場所を洗うので、右足・左足……など順番を指示していました。陰部を洗う時のみ、次の場所にいかない。結局、射精するまで、洗い続けました」
その光景を見て、その青年は普通に自慰行為をせず、洗体しながらするのだと気づいたという。だけど、周囲の福祉関係者もそういった場に遭遇するはずなのに、ケース会議で話題に上ることはなかった。
「その時に、Googleで障害者と性について調べました。社会問題化しているし、同時にタブーであることも知りました。同業者も見て見ぬふりをしていた。何とかする人がいてもいいんじゃないかと思いました」
訪問介護事業所での勤務経験を3年経た後、「にわかだと思われないように」、介護福祉士の資格も取った。
◆ニーズがなかった同性による射精介助のボランティア
異性が射精を介助すると、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の許可が必要だ。
「それなので、自分がボランティアとして、射精介助をしようと思いました。ですが、すぐに同性では需要がないと分かりました。男性の性欲にはメンタルが大きく影響します。バイセクシャルやゲイでもない限りは、同性ではどうしても勃たない。だから、女性が射精介助できるように風営法の許可を取ることを考えました」
◆デリヘルNO.1嬢が所属してくれて開店
ショウ氏は40歳の時に、デリヘルとして求人をかけることにした。まずは、射精介助をしてくれる人に留めての募集だった。
「“型にはまらない手作り”と“手のメイド”の両方をかけて、『はんどめいど俱楽部』と名付けました。募集をすると、一般のデリヘルでNO.1を張るような30代前半の美人女性が、キャスト第一号になってくれました」
その女性は、昼間は介護職、夜はデリヘル店で数百万円を超す金額を稼ぐ、売れっ子女性だった。昼間は介護職をしていたことで、障害者の性の問題に関心を持ち、同店もかけ持ちしてくれたという。
「風俗店の開業にあたり、一番、お金がかかるのは事務所の費用です。自己所有している物件ならばいいですが、風俗営業の承諾書付きの物件を賃貸すると、風俗専門ビルなどで借りることになります。承諾書付きの物件の賃貸は、敷金・礼金だけで12ヶ月分は当たり前。それなので、初期費用だけで500~1000万円かかります」
ショウ氏は、同じ500万円かかるならばと、住むつもりで中古のワンルームマンションを購入した。興味を持つ人がいても、後続する業者がなかなか現れないのは、開業費の高さにあるという。
「今でもやりたいという方から相談を受けますが、マーケットがそもそも小さいことと、コネを作って安い物件を借りるなどの工夫をしないと、初期投資を回収するのに何年もかかるというリスクを伝えます」
◆「筆おろし」後、障害年金の全てをつぎ込もうとする障害者も
サービスを利用する知的障害者・自閉症者・重度身体障害者のほとんどは、「筆おろし」の率が高い。
「20代前半の男性でしたが、筆おろしした翌日に、すぐに予約が入りました。だけど、14万円持っているけど、何時間利用できるかと聞くんです。初回にアセスメントを取っているので、住環境や家族の事は把握していますのでお母さんに、そのお金に心当たりがあるか?と聞きました」
青年の母親は、「障害年金2か月分」だと答えた。ショウ氏が「そのお金を使ったら生活が破綻するか」と聞くと、母親は「します」と言った。
「その予約は、良心的に、2時間(24,000円)までとお断りしました。障害者を相手にするということは、業者が良心を持っていないと、お客様の人生を左右しかねないという認識は大切です」
施設に入所している重度障害者からの申し込みもある。
「ヘルパーさんから連絡がくる時点で、施設側がNGだということが分かります。そんな時は、親戚や友だちの設定で、偽名を使って施設に入り、サービスを行うこともあります」
ベッドしかないような個室で、シャワーは使えない。キャスト・客の双方に負担がかかるが、それでも需要があるという。
◆夢精だけでは精神的におかしくなる
「重度の身体障害があり、マスターベーションをできないと、夢精するまで我慢するしかなくなります。キャストから報告を受けるのですが、そういう方は、触っただけで射精してしまいます」
性欲は人間の三大欲求の一つだ。性欲を我慢し続けることは、セックスのことしか考えられなくなり、精神にも影響が出てくる。
「中には、四国の山奥からの予約もあります。120分のサービス(24,000円)に対し、宿泊費も込んだ交通費だけで別途15万円支払う人もいます」
その15万円を支払っても解消したいという、性への渇望がある。
◆障害者だって恋もしたいセックスもしたい
「他のデリヘル店ではあり得ませんが、私は、店外デートは禁止しますが、恋人ができないことで悩んでいる障害者の対処療法の一環として、時間内で口説くことはOKにしています」
キャスト女性も、大きく分けて3種類の層がいる。
「キャストには、介護職で障害者の性の問題に関心がある人、障害者フェチの人もいます。障害者フェチの人は彼氏を探しに求人を申し込んできます。フェチにも、おむつフェチ、食事介助フェチなど様々な人がいます。そういう人がカップルになったら認めています」
実際に、1組は結婚し、2組は恋人になった。
「経済的な理由で、一般の風俗店で働いていたが、お客様からの乱暴などで、心痛める思いをしたキャスト女性も求人に応募してきます。障害者風俗ならば、風俗嬢としてのアイデンティティを保てると思って『仕事がなくても在籍させてください』という問い合わせもあります。そういう女性の受け皿にもなっています」
そんなショウ氏が目指すのは、「福祉」ではなく「ノーマライゼーション(厚生労働省も提唱している、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指すという理念」)」だという。
現在のはんどめいど俱楽部の顧客層は、30~40代が中心で、およそ15%は施設に暮らしている。コアな利用者は、障害年金を受給しながら、障害者雇用枠で上場企業などに就労している、お金がある人たちだ。
だが、三大欲求の一つである、性欲を満たすサービスは、福祉サービスとして組み入れていくことも必要ではないか。
<取材・文/田口ゆう>
【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
障害者向けデリバリーヘルスサービスの老舗、はんどめいど俱楽部の代表 ショウ氏(53歳)に障害者と性の実態を聞いた。
◆訪問介護の現場で知った“障害者と性”
はんどめいど俱楽部は、今年でオープンから13年目だ。代表のショウ氏は専門学校を卒業後、レジャー業界で会社員をしていたが、うつになり退職した。その後、同業界に戻ろうとしたが、不景気の煽りを受け、再就職は難航した。35~36歳の頃、福祉職に転職し、訪問介護事業所に勤務する。
「有効求人倍率が、10倍くらいだったので、消去法で福祉の仕事を選びました。収入源の確保のために、障害者のヘルパーをしていました」
ヘルパーとしての仕事を通じて、障害者の性の問題を知ることとなる。
◆陰部を洗い続ける知的障害者の青年
「知的障害がある自閉症の青年の入浴介助をしていたんです。ずっと同じ場所を洗うので、右足・左足……など順番を指示していました。陰部を洗う時のみ、次の場所にいかない。結局、射精するまで、洗い続けました」
その光景を見て、その青年は普通に自慰行為をせず、洗体しながらするのだと気づいたという。だけど、周囲の福祉関係者もそういった場に遭遇するはずなのに、ケース会議で話題に上ることはなかった。
「その時に、Googleで障害者と性について調べました。社会問題化しているし、同時にタブーであることも知りました。同業者も見て見ぬふりをしていた。何とかする人がいてもいいんじゃないかと思いました」
訪問介護事業所での勤務経験を3年経た後、「にわかだと思われないように」、介護福祉士の資格も取った。
◆ニーズがなかった同性による射精介助のボランティア
異性が射精を介助すると、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の許可が必要だ。
「それなので、自分がボランティアとして、射精介助をしようと思いました。ですが、すぐに同性では需要がないと分かりました。男性の性欲にはメンタルが大きく影響します。バイセクシャルやゲイでもない限りは、同性ではどうしても勃たない。だから、女性が射精介助できるように風営法の許可を取ることを考えました」
◆デリヘルNO.1嬢が所属してくれて開店
ショウ氏は40歳の時に、デリヘルとして求人をかけることにした。まずは、射精介助をしてくれる人に留めての募集だった。
「“型にはまらない手作り”と“手のメイド”の両方をかけて、『はんどめいど俱楽部』と名付けました。募集をすると、一般のデリヘルでNO.1を張るような30代前半の美人女性が、キャスト第一号になってくれました」
その女性は、昼間は介護職、夜はデリヘル店で数百万円を超す金額を稼ぐ、売れっ子女性だった。昼間は介護職をしていたことで、障害者の性の問題に関心を持ち、同店もかけ持ちしてくれたという。
「風俗店の開業にあたり、一番、お金がかかるのは事務所の費用です。自己所有している物件ならばいいですが、風俗営業の承諾書付きの物件を賃貸すると、風俗専門ビルなどで借りることになります。承諾書付きの物件の賃貸は、敷金・礼金だけで12ヶ月分は当たり前。それなので、初期費用だけで500~1000万円かかります」
ショウ氏は、同じ500万円かかるならばと、住むつもりで中古のワンルームマンションを購入した。興味を持つ人がいても、後続する業者がなかなか現れないのは、開業費の高さにあるという。
「今でもやりたいという方から相談を受けますが、マーケットがそもそも小さいことと、コネを作って安い物件を借りるなどの工夫をしないと、初期投資を回収するのに何年もかかるというリスクを伝えます」
◆「筆おろし」後、障害年金の全てをつぎ込もうとする障害者も
サービスを利用する知的障害者・自閉症者・重度身体障害者のほとんどは、「筆おろし」の率が高い。
「20代前半の男性でしたが、筆おろしした翌日に、すぐに予約が入りました。だけど、14万円持っているけど、何時間利用できるかと聞くんです。初回にアセスメントを取っているので、住環境や家族の事は把握していますのでお母さんに、そのお金に心当たりがあるか?と聞きました」
青年の母親は、「障害年金2か月分」だと答えた。ショウ氏が「そのお金を使ったら生活が破綻するか」と聞くと、母親は「します」と言った。
「その予約は、良心的に、2時間(24,000円)までとお断りしました。障害者を相手にするということは、業者が良心を持っていないと、お客様の人生を左右しかねないという認識は大切です」
施設に入所している重度障害者からの申し込みもある。
「ヘルパーさんから連絡がくる時点で、施設側がNGだということが分かります。そんな時は、親戚や友だちの設定で、偽名を使って施設に入り、サービスを行うこともあります」
ベッドしかないような個室で、シャワーは使えない。キャスト・客の双方に負担がかかるが、それでも需要があるという。
◆夢精だけでは精神的におかしくなる
「重度の身体障害があり、マスターベーションをできないと、夢精するまで我慢するしかなくなります。キャストから報告を受けるのですが、そういう方は、触っただけで射精してしまいます」
性欲は人間の三大欲求の一つだ。性欲を我慢し続けることは、セックスのことしか考えられなくなり、精神にも影響が出てくる。
「中には、四国の山奥からの予約もあります。120分のサービス(24,000円)に対し、宿泊費も込んだ交通費だけで別途15万円支払う人もいます」
その15万円を支払っても解消したいという、性への渇望がある。
◆障害者だって恋もしたいセックスもしたい
「他のデリヘル店ではあり得ませんが、私は、店外デートは禁止しますが、恋人ができないことで悩んでいる障害者の対処療法の一環として、時間内で口説くことはOKにしています」
キャスト女性も、大きく分けて3種類の層がいる。
「キャストには、介護職で障害者の性の問題に関心がある人、障害者フェチの人もいます。障害者フェチの人は彼氏を探しに求人を申し込んできます。フェチにも、おむつフェチ、食事介助フェチなど様々な人がいます。そういう人がカップルになったら認めています」
実際に、1組は結婚し、2組は恋人になった。
「経済的な理由で、一般の風俗店で働いていたが、お客様からの乱暴などで、心痛める思いをしたキャスト女性も求人に応募してきます。障害者風俗ならば、風俗嬢としてのアイデンティティを保てると思って『仕事がなくても在籍させてください』という問い合わせもあります。そういう女性の受け皿にもなっています」
そんなショウ氏が目指すのは、「福祉」ではなく「ノーマライゼーション(厚生労働省も提唱している、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指すという理念」)」だという。
現在のはんどめいど俱楽部の顧客層は、30~40代が中心で、およそ15%は施設に暮らしている。コアな利用者は、障害年金を受給しながら、障害者雇用枠で上場企業などに就労している、お金がある人たちだ。
だが、三大欲求の一つである、性欲を満たすサービスは、福祉サービスとして組み入れていくことも必要ではないか。
<取材・文/田口ゆう>
【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1