「歯は1本でも残すべきだから抜かない」「歯を削ると良くないのでしょう? 治療せずに様子を見れませんか?」
そんな言葉をここ数年でよく患者さんから聞くようになったと感じています。
歯の治療に対して疑心暗鬼。もしかすると、予防歯科の間違った考え方や、治療の繰り返しで生じる恐怖の一部分だけが抜粋されてSNSなどで広まっているのかもしれません。
歯医者で治療を行うことは本当に良くないのでしょうか。実際の例をあげて解説していきます。
◆一度治療を行った歯の再治療を行うケースはとても多い
一度治療が行われている歯に、再度治療を行なわなければならないケースはとても多いです。実際、歯科医療に従事している人では、一日に来る患者のほとんどが自院や他院で過去に治療を行った歯の再治療という経験があるのではないかと思います。
過去にむし歯に罹って治療、被せ物となった歯を、数年が経過し、被せ物の下に大きなむし歯と、歯周病の進行を認め、抜歯をしました。
被せ物や詰め物など一度治療を行った歯は、健康な歯と比較して(材質にもよりますが)歯垢が付きやすく、特に歯と被せ物の境目で磨き残しが多くなる傾向があります。
そのため一度治療を行った歯では再度トラブルが生じやすくなるのです。
一方、被せ物や詰め物になって以降、再度トラブルを起こすことなく何年もメインテナンスのみに来院される患者さんもいます。治療を繰り返す人、繰り返さない人の違いは一体なんなのでしょうか。
◆治療の繰り返しで歯を失うのが嫌ならば「歯が悪くなった原因を考えるべき」
むし歯になった、歯周病が進行したと感じて、治療を繰り返すことは、間違いなく歯の寿命を縮め、歯を失う原因となっていると言えるでしょう。
インプラントとなった後も、定期検診や丁寧なオーラルケアを行わないまま放置していると、インプラント周囲炎となりインプラントを取らなければならないというケースもあります。
では、むし歯も歯周病も症状が限界になるまで歯医者に触らせないのが良いのかというとそうではありません。
◆治療が必要な歯を放置するのは、歯を守っていることにはならない
一昔前までは「早期発見・早期治療」と言われ、積極的に削ったり抜いたりするような時代もありました。しかし現在は、初期のむし歯など積極的な治療をまだしなくてもいい歯には「早期発見・長期経過観察」を行うことが主流となっています。注意したいのは、この「経過観察」とは「放置」とイコールではないということです。
例えば、歯の表層に留まっている初期むし歯を、早期に治療することはありません。
しかし、お口の中にむし歯があるという事実に変わりはありません。このまま放置をすると、このむし歯は進行し、他の部分にもむし歯はできるでしょう。初期とはいえ、なぜむし歯ができたのかを調べ、改善し、それに対する予防・対策を講じなければなりません。その上で定期的な検診で、進行をしていないか、リスクが高まっていないかを観察していくことが、ここで言う「経過観察」なのです。
つまり、進行したむし歯を経過観察することはなく、治療を行わず放置することにメリットはないのです。
歯周病では、進行予防のために歯石の除去や歯磨き方法の改善を行わなければなりません。治療後、再度検査を行い、炎症状態が改善されたのかを確認して、定期検診と処置を行いながら経過を観察します。
抜かなければいけない状態の歯を残すことは、隣の歯にも悪影響を及ぼすため、無理に保存をすることは予防ではなく、すすめられないものです。
◆“治療の繰り返し”に陥らないために予防が重要
お口のトラブルの中には外傷や破折などもあります。神経の治療を行った歯では、健康な歯と比較して特に歯の破折が生じやすいため、予防しきれないケースもあるのはたしかです。
しかし、むし歯や通常の歯周病であれば、トラブルの繰り返しを防止することで、再度治療を行わなければならない繰り返しを防ぐことができます。
診察で治療の必要性が出てきたら、それを避けることはできませんが、トラブルが生じていない他の歯、治療後の歯のこれからの健康を守ることはできます。
特に治療経験がある方は、再度トラブルが起きないように予防したいですね。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
そんな言葉をここ数年でよく患者さんから聞くようになったと感じています。
歯の治療に対して疑心暗鬼。もしかすると、予防歯科の間違った考え方や、治療の繰り返しで生じる恐怖の一部分だけが抜粋されてSNSなどで広まっているのかもしれません。
歯医者で治療を行うことは本当に良くないのでしょうか。実際の例をあげて解説していきます。
◆一度治療を行った歯の再治療を行うケースはとても多い
一度治療が行われている歯に、再度治療を行なわなければならないケースはとても多いです。実際、歯科医療に従事している人では、一日に来る患者のほとんどが自院や他院で過去に治療を行った歯の再治療という経験があるのではないかと思います。
過去にむし歯に罹って治療、被せ物となった歯を、数年が経過し、被せ物の下に大きなむし歯と、歯周病の進行を認め、抜歯をしました。
被せ物や詰め物など一度治療を行った歯は、健康な歯と比較して(材質にもよりますが)歯垢が付きやすく、特に歯と被せ物の境目で磨き残しが多くなる傾向があります。
そのため一度治療を行った歯では再度トラブルが生じやすくなるのです。
一方、被せ物や詰め物になって以降、再度トラブルを起こすことなく何年もメインテナンスのみに来院される患者さんもいます。治療を繰り返す人、繰り返さない人の違いは一体なんなのでしょうか。
◆治療の繰り返しで歯を失うのが嫌ならば「歯が悪くなった原因を考えるべき」
むし歯になった、歯周病が進行したと感じて、治療を繰り返すことは、間違いなく歯の寿命を縮め、歯を失う原因となっていると言えるでしょう。
インプラントとなった後も、定期検診や丁寧なオーラルケアを行わないまま放置していると、インプラント周囲炎となりインプラントを取らなければならないというケースもあります。
では、むし歯も歯周病も症状が限界になるまで歯医者に触らせないのが良いのかというとそうではありません。
◆治療が必要な歯を放置するのは、歯を守っていることにはならない
一昔前までは「早期発見・早期治療」と言われ、積極的に削ったり抜いたりするような時代もありました。しかし現在は、初期のむし歯など積極的な治療をまだしなくてもいい歯には「早期発見・長期経過観察」を行うことが主流となっています。注意したいのは、この「経過観察」とは「放置」とイコールではないということです。
例えば、歯の表層に留まっている初期むし歯を、早期に治療することはありません。
しかし、お口の中にむし歯があるという事実に変わりはありません。このまま放置をすると、このむし歯は進行し、他の部分にもむし歯はできるでしょう。初期とはいえ、なぜむし歯ができたのかを調べ、改善し、それに対する予防・対策を講じなければなりません。その上で定期的な検診で、進行をしていないか、リスクが高まっていないかを観察していくことが、ここで言う「経過観察」なのです。
つまり、進行したむし歯を経過観察することはなく、治療を行わず放置することにメリットはないのです。
歯周病では、進行予防のために歯石の除去や歯磨き方法の改善を行わなければなりません。治療後、再度検査を行い、炎症状態が改善されたのかを確認して、定期検診と処置を行いながら経過を観察します。
抜かなければいけない状態の歯を残すことは、隣の歯にも悪影響を及ぼすため、無理に保存をすることは予防ではなく、すすめられないものです。
◆“治療の繰り返し”に陥らないために予防が重要
お口のトラブルの中には外傷や破折などもあります。神経の治療を行った歯では、健康な歯と比較して特に歯の破折が生じやすいため、予防しきれないケースもあるのはたしかです。
しかし、むし歯や通常の歯周病であれば、トラブルの繰り返しを防止することで、再度治療を行わなければならない繰り返しを防ぐことができます。
診察で治療の必要性が出てきたら、それを避けることはできませんが、トラブルが生じていない他の歯、治療後の歯のこれからの健康を守ることはできます。
特に治療経験がある方は、再度トラブルが起きないように予防したいですね。
<文/野尻真里>
【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari