高齢者にも当然、性欲はあるが、ないかのように、その実態はタブーとして語られることは少ない。高齢者にデリバリーヘルスサービスを提供する、はんどめいど俱楽部代表のショウ氏(53歳)に話を聞いた。
◆高齢者向け風俗、顧客は60〜70歳メイン
ショウ氏は専門学校卒業後、スポーツ用品店の正社員として働くも、うつになり退職した。復職しようとしたが、レジャー産業は不景気だったため、同業界には戻れなかった。そして、35~36歳の頃、福祉職に転職し、訪問介護事業所に勤務することとなる。
その中で障害者の性の問題を知り、介護福祉士の国家資格を取得した後、40歳で障害者専門風俗「はんどめいど倶楽部」を開業した。今年で、開業してから、13年になる。
その経営の中で、高齢者の性の問題にも関心を持ち、約10年前から高齢者向けのデリバリーヘルスサービスもスタートする。顧客層は、およそ60~70歳位だ。顧客は、要介護認定は受けていない人たちだという。
◆高齢者独特の予約の問題
「高齢者へのサービスを始めるとき、そのマーケットは未知数でした。サービスの申し込みも、高齢者なので、メインは電話です。しかも、今どき珍しく、固定電話から着信があります」
令和5年版高齢社会白書(衆議院)によると、日本の総人口は、令和4年10月1日現在、1億2,495万人。 そのうち、65歳以上人口は、3,624万人。 総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29.0%だ。しかし、「はんどめいど俱楽部」のような介護・福祉系のデリヘルサービスの利用者のニーズは当時、分からなかった。
ショウ氏は、日中は、商談などで電話に出られないことも多い。コールバックは、21時過ぎになることも。
「21時に電話しても、だいたい留守電になっていて、つながりません。翌朝、電話をすると、もう寝ていたと言われたりします。高齢者なので、夜が早いんです」
また、世代の問題で、インターネットで記事が出た時よりも、雑誌などの紙媒体で掲載された時の方が、問い合わせが増えるという。
「高齢者専門の売春クラブを描いた映画『茶飲友達』の世界ですね。三行広告を出すことも考えています」
◆奥さんと死別した高齢男性のレンタル奥さん
「うちのコースには、お話を楽しんだり手をつないだり、心のふれあいを中心としたデートコース(60分:6,000円)と、より性的なサービスを提供するデリヘルコース(60分:1万2,000円)があります。高齢者の多くが望むのは、デリヘルコースだとしても、話しているだけで終わるような、ライトなものが多いです」
性欲自体は薄くなっているので、ちょっとしたスキンシップで満足する人が多い。またデートコースでは、病院の通院の同行が多いという。
「デリバリーヘルスコースでも、料理や掃除、一緒に入浴したいという希望がほとんどです。高齢者向けの介護サービスでは、ヘルパーの指名はできませんよね。奥さんと死別されている人も多いので、タイプの女性を指名して、家事や病院同行をして欲しい。レンタル彼女ではなく、レンタル奥さんですね」
一緒に入浴したとしても、性行為までは望む人が少ない。していることは、限りなく介護サービスに近い。
「独身の高齢者は、一般の風俗サービスに行くのだと思います。うちのホスピタリティの高さや何かあった時には、介助ができるところにニーズがあると思います」
死別の寂しさからサービスを利用するが、「奥さんが生きていた頃は夫婦仲が良かった人」が多いのではないかとシュウ氏は想像する。
「傾聴することが多いとキャストから報告されるので、楽なんじゃないかというと違うんです。同じ話をテープレコーダーのように話す」
何度も聞いた昔の思い出話や若い頃の同じ話を、初めて聞いたかのように聞き、相槌を打つのは、心理的な負荷となる。
◆裸エプロンで家事をして欲しいという富裕男性
「鎌倉に住んでいる70歳を超えた常連さんがいますが、そのお爺さんも、キャストの体に触れることはないのですが、ビキニの上に裸エプロンで掃除や食事作りをして欲しいといいます」
そのお爺さんは、妻と死別し、子どもはもう巣立った大きな一戸建ての家で、1人暮らしをしている。
「食事は1階のリビングでするのですが、思い出の品を見るときは2階に上がります。サーフィンをやっていた人で、2階にはもう使っていないサーフボードがあるそうです」
本来であれば、家政婦を雇っていたのだろう。だが、一般の家政婦サービスでは、「裸エプロンでの家事」はしてもらえない。だから、「そんなことをやってもらえるところは他にない」と、同店をオンリーワンの存在として利用している。
「視覚的なエロを楽しむだけで、身体には触れません。だけど、それだけのことで、やっていることは同じでも、介護のバイト時給の3倍のギャラをもらえるんです。介護・福祉の世界は、聖職だと考える経営者が多いですが、お金の使い道に困っている高齢者はたくさんいます。柔軟に対応すれば、介護サービスも儲けられる。サービスの受け手がいないのは、非常にもったいないですよね」
その老人は、かつて週1回・3~4時間デートコースとデリヘルコースを組み合わせたりして同店を利用していた。多い時で約月10万円以上を同店に落としていた。
日本銀行が2021年6月25日に発表した「資金循環統計(速報)」によると、2020年3月末時点における家計の金融資産は1946兆円だ。このうち「タンス預金(現金)」の金額は100兆円を超えているとみられている。
日本は世界と比較しても現金保有率が高く、日本銀行の調べによると、金融資産のうちの現金・預金の割合は、アメリカが約13%なのに対し、日本が約54%だ。現金を持て余している高齢者は多い。
◆ホワイトでがちがちな介護・福祉業界をオモロく
最後にシュウさんの目指しているものを聞いた。
「介護・福祉の世界は、嫌儲主義で、ホワイトでがちがちな考えの人が多いです。私は、常識から外れたこともありという考えです。有効求人倍率は上がり続けています。介護・福祉業界の有効求人倍率は、最も高い福岡県で13.02倍くらい。人手が足りない。経営者の意識改革が必要だと思います」
高齢男性は社会との接点がない人が多い。
「インターネットを使えないとエロ動画すら見られない」
そういった高齢男性は、風俗雑誌やDVDのレンタル店のようなアナログ情報が減っている今、インターネット利用層と情報格差が出てくる。
「私が目指しているのは、高齢者・障害者サービスの垣根をなくし、現役世代や健常者への性サービスと地続きなものにすることです。ユニークでバカバカしいことほど、やってあげたくなります」
そんなシュウさんが目指すのは、建前ではない、真のノーマライゼーション(厚生労働省も提唱している、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指すという理念」)だ。
最近では、介護保険の枠内で提供される介護サービス事業所も、ボランティアや聖職ではなく、経営だと意識する経営者が増えている。だが、まだまだ、非営利法人が美しく、営利法人を「金目当て」と批判する空気がある。しかし、3Kの割に賃金の安い介護・福祉業界に、人材を呼び戻すには、経営者のユニークで型破りな発想が必要なのかもしれない。
<取材・文/田口ゆう>
【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
◆高齢者向け風俗、顧客は60〜70歳メイン
ショウ氏は専門学校卒業後、スポーツ用品店の正社員として働くも、うつになり退職した。復職しようとしたが、レジャー産業は不景気だったため、同業界には戻れなかった。そして、35~36歳の頃、福祉職に転職し、訪問介護事業所に勤務することとなる。
その中で障害者の性の問題を知り、介護福祉士の国家資格を取得した後、40歳で障害者専門風俗「はんどめいど倶楽部」を開業した。今年で、開業してから、13年になる。
その経営の中で、高齢者の性の問題にも関心を持ち、約10年前から高齢者向けのデリバリーヘルスサービスもスタートする。顧客層は、およそ60~70歳位だ。顧客は、要介護認定は受けていない人たちだという。
◆高齢者独特の予約の問題
「高齢者へのサービスを始めるとき、そのマーケットは未知数でした。サービスの申し込みも、高齢者なので、メインは電話です。しかも、今どき珍しく、固定電話から着信があります」
令和5年版高齢社会白書(衆議院)によると、日本の総人口は、令和4年10月1日現在、1億2,495万人。 そのうち、65歳以上人口は、3,624万人。 総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29.0%だ。しかし、「はんどめいど俱楽部」のような介護・福祉系のデリヘルサービスの利用者のニーズは当時、分からなかった。
ショウ氏は、日中は、商談などで電話に出られないことも多い。コールバックは、21時過ぎになることも。
「21時に電話しても、だいたい留守電になっていて、つながりません。翌朝、電話をすると、もう寝ていたと言われたりします。高齢者なので、夜が早いんです」
また、世代の問題で、インターネットで記事が出た時よりも、雑誌などの紙媒体で掲載された時の方が、問い合わせが増えるという。
「高齢者専門の売春クラブを描いた映画『茶飲友達』の世界ですね。三行広告を出すことも考えています」
◆奥さんと死別した高齢男性のレンタル奥さん
「うちのコースには、お話を楽しんだり手をつないだり、心のふれあいを中心としたデートコース(60分:6,000円)と、より性的なサービスを提供するデリヘルコース(60分:1万2,000円)があります。高齢者の多くが望むのは、デリヘルコースだとしても、話しているだけで終わるような、ライトなものが多いです」
性欲自体は薄くなっているので、ちょっとしたスキンシップで満足する人が多い。またデートコースでは、病院の通院の同行が多いという。
「デリバリーヘルスコースでも、料理や掃除、一緒に入浴したいという希望がほとんどです。高齢者向けの介護サービスでは、ヘルパーの指名はできませんよね。奥さんと死別されている人も多いので、タイプの女性を指名して、家事や病院同行をして欲しい。レンタル彼女ではなく、レンタル奥さんですね」
一緒に入浴したとしても、性行為までは望む人が少ない。していることは、限りなく介護サービスに近い。
「独身の高齢者は、一般の風俗サービスに行くのだと思います。うちのホスピタリティの高さや何かあった時には、介助ができるところにニーズがあると思います」
死別の寂しさからサービスを利用するが、「奥さんが生きていた頃は夫婦仲が良かった人」が多いのではないかとシュウ氏は想像する。
「傾聴することが多いとキャストから報告されるので、楽なんじゃないかというと違うんです。同じ話をテープレコーダーのように話す」
何度も聞いた昔の思い出話や若い頃の同じ話を、初めて聞いたかのように聞き、相槌を打つのは、心理的な負荷となる。
◆裸エプロンで家事をして欲しいという富裕男性
「鎌倉に住んでいる70歳を超えた常連さんがいますが、そのお爺さんも、キャストの体に触れることはないのですが、ビキニの上に裸エプロンで掃除や食事作りをして欲しいといいます」
そのお爺さんは、妻と死別し、子どもはもう巣立った大きな一戸建ての家で、1人暮らしをしている。
「食事は1階のリビングでするのですが、思い出の品を見るときは2階に上がります。サーフィンをやっていた人で、2階にはもう使っていないサーフボードがあるそうです」
本来であれば、家政婦を雇っていたのだろう。だが、一般の家政婦サービスでは、「裸エプロンでの家事」はしてもらえない。だから、「そんなことをやってもらえるところは他にない」と、同店をオンリーワンの存在として利用している。
「視覚的なエロを楽しむだけで、身体には触れません。だけど、それだけのことで、やっていることは同じでも、介護のバイト時給の3倍のギャラをもらえるんです。介護・福祉の世界は、聖職だと考える経営者が多いですが、お金の使い道に困っている高齢者はたくさんいます。柔軟に対応すれば、介護サービスも儲けられる。サービスの受け手がいないのは、非常にもったいないですよね」
その老人は、かつて週1回・3~4時間デートコースとデリヘルコースを組み合わせたりして同店を利用していた。多い時で約月10万円以上を同店に落としていた。
日本銀行が2021年6月25日に発表した「資金循環統計(速報)」によると、2020年3月末時点における家計の金融資産は1946兆円だ。このうち「タンス預金(現金)」の金額は100兆円を超えているとみられている。
日本は世界と比較しても現金保有率が高く、日本銀行の調べによると、金融資産のうちの現金・預金の割合は、アメリカが約13%なのに対し、日本が約54%だ。現金を持て余している高齢者は多い。
◆ホワイトでがちがちな介護・福祉業界をオモロく
最後にシュウさんの目指しているものを聞いた。
「介護・福祉の世界は、嫌儲主義で、ホワイトでがちがちな考えの人が多いです。私は、常識から外れたこともありという考えです。有効求人倍率は上がり続けています。介護・福祉業界の有効求人倍率は、最も高い福岡県で13.02倍くらい。人手が足りない。経営者の意識改革が必要だと思います」
高齢男性は社会との接点がない人が多い。
「インターネットを使えないとエロ動画すら見られない」
そういった高齢男性は、風俗雑誌やDVDのレンタル店のようなアナログ情報が減っている今、インターネット利用層と情報格差が出てくる。
「私が目指しているのは、高齢者・障害者サービスの垣根をなくし、現役世代や健常者への性サービスと地続きなものにすることです。ユニークでバカバカしいことほど、やってあげたくなります」
そんなシュウさんが目指すのは、建前ではない、真のノーマライゼーション(厚生労働省も提唱している、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指すという理念」)だ。
最近では、介護保険の枠内で提供される介護サービス事業所も、ボランティアや聖職ではなく、経営だと意識する経営者が増えている。だが、まだまだ、非営利法人が美しく、営利法人を「金目当て」と批判する空気がある。しかし、3Kの割に賃金の安い介護・福祉業界に、人材を呼び戻すには、経営者のユニークで型破りな発想が必要なのかもしれない。
<取材・文/田口ゆう>
【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1