―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
東京・六本木。ギラギラに光ったショーパブの煌びやかなステージに、ランジェリー姿の若い踊り子に囲まれながら“イイネ”のポーズを決め込む伊達男がひとり。65歳を目前に、ますます精力的に活躍するクレイジーケンバンド(以下、CKB)のリーダー横山剣。新曲「2時22分」のMV撮影現場にて、音楽への思いや、生きがいともいえる趣味、そして人生観を語る横山の話を聞いてみよう。
◆音楽の上では絶倫、バイアグラいらず
──下着姿の女性たちに囲まれてのMV撮影、ギラついていらっしゃいましたね。
横山:エロジジイです。ただこの状況でも職権乱用というわけにもいかないですし、目の保養にするだけです。もう受け止めきれないですよ。よく考えたらうちの娘よりも年下ですし(笑)。
──毎年のようにアルバムを制作して今作で24枚目。年齢のことは言いたくないですが益々精力的になっている気がします。
横山:あっちの方はアレかもしれませんが音楽では絶倫、バイアグラいらずです。これも出せる時に出しておかねばという焦燥感ですかね。64歳ですから、あと何年やれるかもわからない。僕らはデビューも遅かったし、停滞していた時期もあった。「もっとああすればよかった」という後悔を取り返す勢いでやらないと間に合わないんですよ。その一方で曲はどんどん湧いて頭の中に溜まりに溜まっている。無理に作るというより、勝手に出ちゃうというか、出さずにはいられない感覚ですね。
──男子中学生の生理現象みたいな状態ですね。
横山:ええ、まったく同じです。10年に1回ほど出さない年があるんですけど、悶々としちゃて精神的にもよくない。アルバムを出して、ツアーにも出る。これで健全な心身の安定を保てています。
◆コロナで失われた「真夜中」を取り戻したい
──今回産み出された「火星」も“濃い”ですね。全16曲、これぞCKBともいうべきあらゆる音楽ジャンルを股に掛けたメロウでポップでロックな心に沁みる楽曲揃いです。
横山:これアルバムが出るたびに言ってる気がしますけどね、毎回解散して、毎回再結成しているような新しい感覚ですよ。前作はメンバー全員で「せーの」の勢いでほぼ編集もなく作った。今作はそれの第二弾なんですが、変わろうと意識しているわけじゃないのに、知らないうちに二次性徴、三次性徴がはじまって、今までにない扉が開いちゃう感じがするんです。僕自身も実際に1音下げていた「タイガー&ドラゴン」を元のキーで歌えるようになりましたし。もし僕がプロデューサーだったら、まだまだ伸びるぞって感じですよ。
──バンドとしての本能が、思春期のように進化を促した結果、前作のアルバム「世界」から「火星」に進化と、ついに地球を飛び出しちゃいましたね。
横山:そうなんです。宇宙に行っちゃったかのようなタイトルですが、実は横浜の鶴見にあった「火星」という焼肉屋のことなんです。
──宇宙進出かと思えば、やはり横浜ドメスティックですか。確か、「火星」は横山鶴見の沖縄タウンの近くにあるゴム通りにあるお店でしたよね。
横山:そう、あのへんは自分の中でもツボなポイントなんですよ。先日、沖縄タウンでBIGINのマサルさんのMV撮影に出た時に、「そうだゴム通りはどうなっているんだろう」と思いついて帰りに寄ってみたんです。でも、馴染みのレジャー施設も「火星」もなくなっていた。ああ、なくなっちゃったんだ。でも「火星」って字面はいいな。名前も不思議なら、京浜工業地帯独特のスペイシーな空気感も漂っていて、これっきゃないと決めました。
──宇宙船か横浜市営バスで行けそうなスペイシーさが溢れています。アルバム2曲目に「火星」という曲もありますね。
横山:まだ名前のついていなかった曲で、一番火星っぽかったんです。火星的な鶴見の夜をドライブするに相応しい曲ですよ。まぁ、曲の作り方も基本的には“答えが先で式が後”みたいな感じで作っているので、後々に「あ、そういうことか」と気がつくことの方が多いんです。中2の時に見たブルース・リーの「考えるな、感じろ」という教えに従順に、思考より皮膚感覚を優先して20数年、いや40年以上やっていますからね。
──本日MVを撮影されていた「2時22分」も不思議なクセのある曲とタイトルですね。
横山:2時22分ってデジタル時計が並ぶと「にゃんにゃんにゃん」ってなんかイヤらしい感じになるじゃないですか。山城新伍さんのチョメチョメをルーツとするこれら昭和の隠語が、今や絶滅危惧種となりつつある。コロナ以降、2時22分はすっかりおとなしくなってしまっているけど、真夜中は様々な文化が生まれてきたところ。若い人たちのためにも、真夜中を取り戻したいですよね。
──たしかに、コロナ以降お店も早く終わりますし、すっかり夜は寝るのが当たり前の世界になってしまいましたね。
横山:世の中健康第一主義みたいになっていますが、僕の中には岡本太郎さんの「健康法なんて考えないのが1番の健康法だ」という言葉があるんです。健康に縛られてストレス溜めてもよくない。食いたいもん食って、やりたいことやった方が精神衛生上いいのかも知れない。
【横山剣】
1960年横浜生まれ。小学校低学年のころから作曲を始め、1981年にクールスRCのメンバーとしてデビュー。1997年に「東洋一のサウンド・マシーン」クレイジーケンバンドを発足。以降リーダーを務め、シンガー・作曲・編曲・作詞と幅広く活躍。また、ファッションや車に造詣が深くクラシックカーレースにも参戦している。新アルバム「火星」の収録曲である「2時22分」のMVが配信中
取材・文/村瀬秀信 撮影/高橋慶佑 衣装協力/PRESTIGE APPAREL 取材協力/仁同正明 ROKUSAN ANGEL モデル/みさ まいか かなで みのり
※週刊SPA!2024年10月1日・7日合併号「インタビュー連載『エッジな人々』」より
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
東京・六本木。ギラギラに光ったショーパブの煌びやかなステージに、ランジェリー姿の若い踊り子に囲まれながら“イイネ”のポーズを決め込む伊達男がひとり。65歳を目前に、ますます精力的に活躍するクレイジーケンバンド(以下、CKB)のリーダー横山剣。新曲「2時22分」のMV撮影現場にて、音楽への思いや、生きがいともいえる趣味、そして人生観を語る横山の話を聞いてみよう。
◆音楽の上では絶倫、バイアグラいらず
──下着姿の女性たちに囲まれてのMV撮影、ギラついていらっしゃいましたね。
横山:エロジジイです。ただこの状況でも職権乱用というわけにもいかないですし、目の保養にするだけです。もう受け止めきれないですよ。よく考えたらうちの娘よりも年下ですし(笑)。
──毎年のようにアルバムを制作して今作で24枚目。年齢のことは言いたくないですが益々精力的になっている気がします。
横山:あっちの方はアレかもしれませんが音楽では絶倫、バイアグラいらずです。これも出せる時に出しておかねばという焦燥感ですかね。64歳ですから、あと何年やれるかもわからない。僕らはデビューも遅かったし、停滞していた時期もあった。「もっとああすればよかった」という後悔を取り返す勢いでやらないと間に合わないんですよ。その一方で曲はどんどん湧いて頭の中に溜まりに溜まっている。無理に作るというより、勝手に出ちゃうというか、出さずにはいられない感覚ですね。
──男子中学生の生理現象みたいな状態ですね。
横山:ええ、まったく同じです。10年に1回ほど出さない年があるんですけど、悶々としちゃて精神的にもよくない。アルバムを出して、ツアーにも出る。これで健全な心身の安定を保てています。
◆コロナで失われた「真夜中」を取り戻したい
──今回産み出された「火星」も“濃い”ですね。全16曲、これぞCKBともいうべきあらゆる音楽ジャンルを股に掛けたメロウでポップでロックな心に沁みる楽曲揃いです。
横山:これアルバムが出るたびに言ってる気がしますけどね、毎回解散して、毎回再結成しているような新しい感覚ですよ。前作はメンバー全員で「せーの」の勢いでほぼ編集もなく作った。今作はそれの第二弾なんですが、変わろうと意識しているわけじゃないのに、知らないうちに二次性徴、三次性徴がはじまって、今までにない扉が開いちゃう感じがするんです。僕自身も実際に1音下げていた「タイガー&ドラゴン」を元のキーで歌えるようになりましたし。もし僕がプロデューサーだったら、まだまだ伸びるぞって感じですよ。
──バンドとしての本能が、思春期のように進化を促した結果、前作のアルバム「世界」から「火星」に進化と、ついに地球を飛び出しちゃいましたね。
横山:そうなんです。宇宙に行っちゃったかのようなタイトルですが、実は横浜の鶴見にあった「火星」という焼肉屋のことなんです。
──宇宙進出かと思えば、やはり横浜ドメスティックですか。確か、「火星」は横山鶴見の沖縄タウンの近くにあるゴム通りにあるお店でしたよね。
横山:そう、あのへんは自分の中でもツボなポイントなんですよ。先日、沖縄タウンでBIGINのマサルさんのMV撮影に出た時に、「そうだゴム通りはどうなっているんだろう」と思いついて帰りに寄ってみたんです。でも、馴染みのレジャー施設も「火星」もなくなっていた。ああ、なくなっちゃったんだ。でも「火星」って字面はいいな。名前も不思議なら、京浜工業地帯独特のスペイシーな空気感も漂っていて、これっきゃないと決めました。
──宇宙船か横浜市営バスで行けそうなスペイシーさが溢れています。アルバム2曲目に「火星」という曲もありますね。
横山:まだ名前のついていなかった曲で、一番火星っぽかったんです。火星的な鶴見の夜をドライブするに相応しい曲ですよ。まぁ、曲の作り方も基本的には“答えが先で式が後”みたいな感じで作っているので、後々に「あ、そういうことか」と気がつくことの方が多いんです。中2の時に見たブルース・リーの「考えるな、感じろ」という教えに従順に、思考より皮膚感覚を優先して20数年、いや40年以上やっていますからね。
──本日MVを撮影されていた「2時22分」も不思議なクセのある曲とタイトルですね。
横山:2時22分ってデジタル時計が並ぶと「にゃんにゃんにゃん」ってなんかイヤらしい感じになるじゃないですか。山城新伍さんのチョメチョメをルーツとするこれら昭和の隠語が、今や絶滅危惧種となりつつある。コロナ以降、2時22分はすっかりおとなしくなってしまっているけど、真夜中は様々な文化が生まれてきたところ。若い人たちのためにも、真夜中を取り戻したいですよね。
──たしかに、コロナ以降お店も早く終わりますし、すっかり夜は寝るのが当たり前の世界になってしまいましたね。
横山:世の中健康第一主義みたいになっていますが、僕の中には岡本太郎さんの「健康法なんて考えないのが1番の健康法だ」という言葉があるんです。健康に縛られてストレス溜めてもよくない。食いたいもん食って、やりたいことやった方が精神衛生上いいのかも知れない。
【横山剣】
1960年横浜生まれ。小学校低学年のころから作曲を始め、1981年にクールスRCのメンバーとしてデビュー。1997年に「東洋一のサウンド・マシーン」クレイジーケンバンドを発足。以降リーダーを務め、シンガー・作曲・編曲・作詞と幅広く活躍。また、ファッションや車に造詣が深くクラシックカーレースにも参戦している。新アルバム「火星」の収録曲である「2時22分」のMVが配信中
取材・文/村瀬秀信 撮影/高橋慶佑 衣装協力/PRESTIGE APPAREL 取材協力/仁同正明 ROKUSAN ANGEL モデル/みさ まいか かなで みのり
※週刊SPA!2024年10月1日・7日合併号「インタビュー連載『エッジな人々』」より
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―