外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。今回のテーマは、「バーガーキング」です。
◆短期間でブランドバリューを伸ばす戦略
『バーガーキング』が日本に初上陸したのは1993年です。しかし、上陸後の業績は芳しくなく、数回の撤退や経営譲渡など繰り返しています。現在は海外ファンドの傘下で運営しており、以前とはかなり事情が異なるようです。一体何があったのか、ここでは「新生・バーガーキング」について見ていくことにしましょう。
バーガーキングはまず、ドミナント戦略に乗り出しました。ドミナント戦略とは、特定地域に集中的に出店していくことです。都心部などの重要な拠点に、続々と出店していったのです。すると「バーガーキング、最近増えたよね」「はやっているのかな?」などと話題にもなり、ブランドバリューが伸びていきます。そしていまもそれを継続しており、店舗数も200を突破しています。中長期の予想でも、2027年ごろには600店舗に達しているだろうとも言われており、ロッテリアを超えることまで宣言しているのです。
日本のファンドならば、コストの見直しや店舗のリストラクチャリングによって業績が黒字化するまで縮小を続けます。しかしあえてそれとは逆のことをやる点に、海外ファンド主体の利点があらわれているといえます。
◆アメリカンスタイルを持ち込んで差別化
日本上陸後のバーガーキングがとりうる戦略は大きく次の2点がありました。
①日本にローカライズさせること
②現地バーガーキングのスペックを大切にすること
初上陸直後のバーガーキングは、このうち①の方向で動いていました。マクドナルド、ロッテリア、ファーストキッチン、モスバーガーなどを意識し、そのうえで後発のアメリカブランドとして、日本でどれだけのポジションを築くことができるのかが大きな課題でした。しかし当時のバーガーキングは、日本にうまくローカライズさせることができなかったのです。日本に合わせようとすればするほど、マクドナルドと比較されてしまい、かえって苦境に立たされるという悪循環に陥ってしまったのでした。
反省をふまえてか、いまは②の方向で徹底しています。アメリカ人が大好きなバーガーキングのままで上陸しているのです。とくに注目すべきは「ワッパー」という商品を軸に据えていることでしょう。ワッパーを大げさに表現すると「どデカいもの」という意味です。日本で一般的に食されているハンバーガーの約1.4倍の大きさなのです。アメリカンサイズのまま、ということです。
そしてセットメニューに「キングミール」というものがあります。ハンバーガーのほかにドリンク、フライドポテト、チキンやパイなどが付いてくるものです。これもアメリカ式といえます。また多くのお店ではパティを鉄板で焼きますが、バーガーキングは直火焼きです。そのため肉本来の香ばしい香りと風味を楽しめます。オペレーションも日本式ではなくアメリカ式に合わせているのです。
◆「ラーメン二郎の法則」で話題性を生む
そして、とくに大きいのが「弱者の戦略」をとっていること。先行の大手にできないことをやり、世間で賛否両論がわき起こりそうなことをあえてやっているのです。
飲食業に限ったことではありませんが、万人受けを狙うと、かえって話題になりにくいものです。つまり「賛」だけではなく「否」がなければいけない。賛否両論状態のときは、強烈な信者と強烈なアンチが生まれてきます。
私はこれを「ラーメン二郎の法則」と呼んでいます。ラーメン二郎には「ジロリアン」と呼ばれる強烈な信者がいる一方で「あんなもん食えたもんじゃない」という人もいます。そしてジロリアンの中にもいろいろなタイプがいます。三田本店が一番だ、歌舞伎町店はダメだ、など「賛」の中でさらに賛否が生まれます。当然「否」の中でも賛否が生まれることもあり、そのため話題に事欠かないのです。
こういったことをバーガーキングは新商品のリリースで実践しています。例えばバンズの間にパティが4枚、大量のチーズがとろけ出しているようなもの。どうやって食べればいいのかわからないようなものです。過去の新商品をさかのぼっていくと、そういった奇抜なものが必ずあるのです。こういったものは賛否を生みやすいのです。
◆機能的なアプリで集客導線をつくる
賛否の「賛」の人たちにバーガーキングに行った動機を聞いてみると、普段はマック派、モス派などという人でも「自分の誕生日の記念に」「SNSに投稿してみたくて」「大きなバーガーを一度食べてみたくて」などということを言うのです。アメリカンスタイルの大きなハンバーガーがあるという話題に接して、ネットで調べてみようといった動機にもなっています。
そしてしっかりとした集客導線ができています。それがアプリの機能性でしょう。最近の若い世代はSNSなどで気になるものを見つけると、すぐにスマホなどで調べます。そこでお得なメニューやクーポンなどを見つけると「行ってみよう」となります。
でも、多くのハンバーガーチェーンでは「アプリが不便だ」などという声を耳にします。使い勝手のよくないアプリだと、そこから来店につなげるのは難しいでしょう。その点、バーガーキングは使い勝手のよい、機能的なアプリになっており、それが若い世代を中心とした導線になったのです。
◆「失敗の分析と研究」から始まったバーガーキングの再生
「新生・バーガーキング」が好調なのは、マクドナルドなど、すでに日本に根付いていた大手チェーンとはまったく別の土俵で勝負したことです。
もともとアメリカではうまくいっていたものがなぜ日本で成立しなかったのか、うまくいくにはどうすればいいのか、マクドナルドではなくバーガーキングでなければならない理由はなにか。これらがしっかり分析できていたのです。
ドミナント出店でブランドバリューが伸びているイメージを短期間で作り、ワッパーで競合他社との差別化を図り、賛否両論が生まれるような新商品をリリースする。
最近は大食いのインフルエンサーがチャレンジしてそれをSNSで拡散するということが恒例づいており、新商品のリリースとともに拡散がすすみます。それにより、普段は大食いでない人も「一度あんなものを食べてみたかった」「1500円くらいで記念になればいいや」「自分のSNSで話題になるといいな」などという来店動機を生み出していったのです。
<TEXT/永田ラッパ>
【永田ラッパ】
1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。
◆短期間でブランドバリューを伸ばす戦略
『バーガーキング』が日本に初上陸したのは1993年です。しかし、上陸後の業績は芳しくなく、数回の撤退や経営譲渡など繰り返しています。現在は海外ファンドの傘下で運営しており、以前とはかなり事情が異なるようです。一体何があったのか、ここでは「新生・バーガーキング」について見ていくことにしましょう。
バーガーキングはまず、ドミナント戦略に乗り出しました。ドミナント戦略とは、特定地域に集中的に出店していくことです。都心部などの重要な拠点に、続々と出店していったのです。すると「バーガーキング、最近増えたよね」「はやっているのかな?」などと話題にもなり、ブランドバリューが伸びていきます。そしていまもそれを継続しており、店舗数も200を突破しています。中長期の予想でも、2027年ごろには600店舗に達しているだろうとも言われており、ロッテリアを超えることまで宣言しているのです。
日本のファンドならば、コストの見直しや店舗のリストラクチャリングによって業績が黒字化するまで縮小を続けます。しかしあえてそれとは逆のことをやる点に、海外ファンド主体の利点があらわれているといえます。
◆アメリカンスタイルを持ち込んで差別化
日本上陸後のバーガーキングがとりうる戦略は大きく次の2点がありました。
①日本にローカライズさせること
②現地バーガーキングのスペックを大切にすること
初上陸直後のバーガーキングは、このうち①の方向で動いていました。マクドナルド、ロッテリア、ファーストキッチン、モスバーガーなどを意識し、そのうえで後発のアメリカブランドとして、日本でどれだけのポジションを築くことができるのかが大きな課題でした。しかし当時のバーガーキングは、日本にうまくローカライズさせることができなかったのです。日本に合わせようとすればするほど、マクドナルドと比較されてしまい、かえって苦境に立たされるという悪循環に陥ってしまったのでした。
反省をふまえてか、いまは②の方向で徹底しています。アメリカ人が大好きなバーガーキングのままで上陸しているのです。とくに注目すべきは「ワッパー」という商品を軸に据えていることでしょう。ワッパーを大げさに表現すると「どデカいもの」という意味です。日本で一般的に食されているハンバーガーの約1.4倍の大きさなのです。アメリカンサイズのまま、ということです。
そしてセットメニューに「キングミール」というものがあります。ハンバーガーのほかにドリンク、フライドポテト、チキンやパイなどが付いてくるものです。これもアメリカ式といえます。また多くのお店ではパティを鉄板で焼きますが、バーガーキングは直火焼きです。そのため肉本来の香ばしい香りと風味を楽しめます。オペレーションも日本式ではなくアメリカ式に合わせているのです。
◆「ラーメン二郎の法則」で話題性を生む
そして、とくに大きいのが「弱者の戦略」をとっていること。先行の大手にできないことをやり、世間で賛否両論がわき起こりそうなことをあえてやっているのです。
飲食業に限ったことではありませんが、万人受けを狙うと、かえって話題になりにくいものです。つまり「賛」だけではなく「否」がなければいけない。賛否両論状態のときは、強烈な信者と強烈なアンチが生まれてきます。
私はこれを「ラーメン二郎の法則」と呼んでいます。ラーメン二郎には「ジロリアン」と呼ばれる強烈な信者がいる一方で「あんなもん食えたもんじゃない」という人もいます。そしてジロリアンの中にもいろいろなタイプがいます。三田本店が一番だ、歌舞伎町店はダメだ、など「賛」の中でさらに賛否が生まれます。当然「否」の中でも賛否が生まれることもあり、そのため話題に事欠かないのです。
こういったことをバーガーキングは新商品のリリースで実践しています。例えばバンズの間にパティが4枚、大量のチーズがとろけ出しているようなもの。どうやって食べればいいのかわからないようなものです。過去の新商品をさかのぼっていくと、そういった奇抜なものが必ずあるのです。こういったものは賛否を生みやすいのです。
◆機能的なアプリで集客導線をつくる
賛否の「賛」の人たちにバーガーキングに行った動機を聞いてみると、普段はマック派、モス派などという人でも「自分の誕生日の記念に」「SNSに投稿してみたくて」「大きなバーガーを一度食べてみたくて」などということを言うのです。アメリカンスタイルの大きなハンバーガーがあるという話題に接して、ネットで調べてみようといった動機にもなっています。
そしてしっかりとした集客導線ができています。それがアプリの機能性でしょう。最近の若い世代はSNSなどで気になるものを見つけると、すぐにスマホなどで調べます。そこでお得なメニューやクーポンなどを見つけると「行ってみよう」となります。
でも、多くのハンバーガーチェーンでは「アプリが不便だ」などという声を耳にします。使い勝手のよくないアプリだと、そこから来店につなげるのは難しいでしょう。その点、バーガーキングは使い勝手のよい、機能的なアプリになっており、それが若い世代を中心とした導線になったのです。
◆「失敗の分析と研究」から始まったバーガーキングの再生
「新生・バーガーキング」が好調なのは、マクドナルドなど、すでに日本に根付いていた大手チェーンとはまったく別の土俵で勝負したことです。
もともとアメリカではうまくいっていたものがなぜ日本で成立しなかったのか、うまくいくにはどうすればいいのか、マクドナルドではなくバーガーキングでなければならない理由はなにか。これらがしっかり分析できていたのです。
ドミナント出店でブランドバリューが伸びているイメージを短期間で作り、ワッパーで競合他社との差別化を図り、賛否両論が生まれるような新商品をリリースする。
最近は大食いのインフルエンサーがチャレンジしてそれをSNSで拡散するということが恒例づいており、新商品のリリースとともに拡散がすすみます。それにより、普段は大食いでない人も「一度あんなものを食べてみたかった」「1500円くらいで記念になればいいや」「自分のSNSで話題になるといいな」などという来店動機を生み出していったのです。
<TEXT/永田ラッパ>
【永田ラッパ】
1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。