―[シリーズ・駅]―
◆沖縄本島から約360㎞東の洋上に浮かぶ南大東島
現在、日本最南端を走る鉄道路線は、那覇空港―てだこ浦西を結ぶ、『ゆいれーる』の愛称で知られる沖縄都市モノレール。だが、今から40年以上前、ここよりさらに南に鉄道路線が走っていたことを知っているだろうか?
ただし、それは沖縄本島ではない。ここから約360㎞東の洋上に浮かぶ南大東島の『大東糖業南大東事業所の砂糖運搬専用軌道』。通称“シュガートレイン”と呼ばれていたサトウキビ運搬用の路線だ。
那覇で1泊し、翌朝の飛行機で南大東島へ。楕円形をした周囲約20㎞の島で、その隣にはひと回り小さい周囲約13.5㎞の北大東島が寄り添うようにある。そんな2つの島はサンゴ礁の堆積によってできた島で、4000年前までは1つの島だったそうだ。
◆島民の足としての役割も担っていた
到着した7月某日は美しい青空が広がり、気温も到着時は31℃と緯度が南の割には本土ほど気温が高くない。空港には予約していた民宿の方が迎えに来てくれ、送迎用のワゴン車に乗って10分ほどで南大東島の中心地、在所地区にある宿に到着。
部屋でひと休みした後、まずは島の資料館『ふるさと文化センター』へ向かうことに。ここでは在りし日のシュガートレインの映像を見ることができ、建物の隣には実際に使用されていた機関車などの車両が展示されていたからだ。
蒸気機関車とディーゼル機関車が並んでおり、塩分を含んだ潮風の影響かさびついてどちらもボロボロ。後ろには貨車と客車がそれぞれ連結されていた。実は、シュガートレインが運んでいたのはサトウキビだけではない。島民たちの移動の足としても欠かせない重要な公共交通機関だった。
島内をグルっと回る「一周線」をはじめ、複数の支線と合わせた総距離は約27㎞。島の周囲よりも長い鉄道網が南大東島の全域に張り巡らされていた。ふるさと文化センターの展示物などから現在は倉庫として使用されているかつての機関庫、線路が残っている箇所があることを知り、これらの遺構を見に行くことに。
◆観光スポットやグルメも充実していた
日差しが強いのでレンタルサイクルで走っていると汗が噴き出すほどだが、サトウキビ畑が一面に広がる南国らしいのどかな雰囲気は嫌いじゃない。でも、南大東島は外縁部の標高のほうが高く、内側が盆地になっている。そのため、外縁部の高台に行かないと海が見えず、島にいるという感覚があまりない。
現地では3日間過ごし、鍾乳洞の星野洞、大東神社などの観光スポットと合わせて鉄道遺構を訪問。その合間には大東そばや大東寿司といった郷土料理を堪能することもできた。
島ではマグロなどが水揚げされるため、海の幸がお手頃価格で食べられるのが嬉しい。在所地区には小規模ながら飲食店が集まっており、どの店で食べようか迷ってしまうほど。しかも、設置台数は少なかったがパチスロホールまであった。
◆飛行時間5分弱の日本一短いフライト
そんな南大東島と約8㎞離れた北大東島の間には飛行機の定期便が就航しており、“日本一短いフライト”として知られていたが7月末で運航が終了。
シュガートレイン以外のもう1つの旅の目的がこの飛行機に搭乗することだったからだ。那覇からの到着便が南大東島、北大東島を経由して再び那覇に戻るというルートで、最後に乗っておきたいと思う旅行者が多かったのか、琉球エアコミューターのプロペラ機には空席がほとんどなかった。
離島の空港らしくターミナルからは歩いて機内に向かい、離陸後はシートベルト着用ランプが一度も消えることなく着陸。自分のスマホで飛行時間を計ったところ、この日は5分27秒。
那覇―南大東島の機内ではあったドリンクサービスも当然なく文字通りのアッという間のフライト。上空から島や海を眺めることができ、ちょっとした遊覧飛行気分だ。
両島民の行き来はほとんどないようなく、飛行機がなくなったところで住民の生活には支障が少なそうだが、今後の移動は那覇経由の遠回りルート、もしくは週1便の貨客船に限定される。旅行者にとっては2島の周遊が難しくなるため、観光産業への今後の影響は大きそうな気がするが……。
◆那覇にもシュガートレインスポットが存在
なお、那覇に戻った筆者が次に立ち寄ったのは、市内のゆいれーる・壺川駅近くの壺川東公園。ここには南大東島で走っていたシュガートレインのディーゼル機関車が展示されているからだ。
マンションやアパートに囲まれた住宅街の一角にある小さな公園で観光スポットというわけではないが、保存状態は島にある車両よりも明らかに良い。運転室も立ち入り可能で地元の子供たちが中に入って遊んでいた。
シュガートレインには13年に観光鉄道として復活する計画が持ち上がったが、結局とん挫。鉄道ファンとしては残念だが、採算性などの問題から最終的には見送ることになったようだ。
それでも日本最南端の鉄道遺構として歴史的にも価値があるのは事実。島には今も手つかずの自然が多く残っており、南国でもリゾートではない離島に行ってみたいという方にはいいかもしれない。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
―[シリーズ・駅]―
◆沖縄本島から約360㎞東の洋上に浮かぶ南大東島
現在、日本最南端を走る鉄道路線は、那覇空港―てだこ浦西を結ぶ、『ゆいれーる』の愛称で知られる沖縄都市モノレール。だが、今から40年以上前、ここよりさらに南に鉄道路線が走っていたことを知っているだろうか?
ただし、それは沖縄本島ではない。ここから約360㎞東の洋上に浮かぶ南大東島の『大東糖業南大東事業所の砂糖運搬専用軌道』。通称“シュガートレイン”と呼ばれていたサトウキビ運搬用の路線だ。
那覇で1泊し、翌朝の飛行機で南大東島へ。楕円形をした周囲約20㎞の島で、その隣にはひと回り小さい周囲約13.5㎞の北大東島が寄り添うようにある。そんな2つの島はサンゴ礁の堆積によってできた島で、4000年前までは1つの島だったそうだ。
◆島民の足としての役割も担っていた
到着した7月某日は美しい青空が広がり、気温も到着時は31℃と緯度が南の割には本土ほど気温が高くない。空港には予約していた民宿の方が迎えに来てくれ、送迎用のワゴン車に乗って10分ほどで南大東島の中心地、在所地区にある宿に到着。
部屋でひと休みした後、まずは島の資料館『ふるさと文化センター』へ向かうことに。ここでは在りし日のシュガートレインの映像を見ることができ、建物の隣には実際に使用されていた機関車などの車両が展示されていたからだ。
蒸気機関車とディーゼル機関車が並んでおり、塩分を含んだ潮風の影響かさびついてどちらもボロボロ。後ろには貨車と客車がそれぞれ連結されていた。実は、シュガートレインが運んでいたのはサトウキビだけではない。島民たちの移動の足としても欠かせない重要な公共交通機関だった。
島内をグルっと回る「一周線」をはじめ、複数の支線と合わせた総距離は約27㎞。島の周囲よりも長い鉄道網が南大東島の全域に張り巡らされていた。ふるさと文化センターの展示物などから現在は倉庫として使用されているかつての機関庫、線路が残っている箇所があることを知り、これらの遺構を見に行くことに。
◆観光スポットやグルメも充実していた
日差しが強いのでレンタルサイクルで走っていると汗が噴き出すほどだが、サトウキビ畑が一面に広がる南国らしいのどかな雰囲気は嫌いじゃない。でも、南大東島は外縁部の標高のほうが高く、内側が盆地になっている。そのため、外縁部の高台に行かないと海が見えず、島にいるという感覚があまりない。
現地では3日間過ごし、鍾乳洞の星野洞、大東神社などの観光スポットと合わせて鉄道遺構を訪問。その合間には大東そばや大東寿司といった郷土料理を堪能することもできた。
島ではマグロなどが水揚げされるため、海の幸がお手頃価格で食べられるのが嬉しい。在所地区には小規模ながら飲食店が集まっており、どの店で食べようか迷ってしまうほど。しかも、設置台数は少なかったがパチスロホールまであった。
◆飛行時間5分弱の日本一短いフライト
そんな南大東島と約8㎞離れた北大東島の間には飛行機の定期便が就航しており、“日本一短いフライト”として知られていたが7月末で運航が終了。
シュガートレイン以外のもう1つの旅の目的がこの飛行機に搭乗することだったからだ。那覇からの到着便が南大東島、北大東島を経由して再び那覇に戻るというルートで、最後に乗っておきたいと思う旅行者が多かったのか、琉球エアコミューターのプロペラ機には空席がほとんどなかった。
離島の空港らしくターミナルからは歩いて機内に向かい、離陸後はシートベルト着用ランプが一度も消えることなく着陸。自分のスマホで飛行時間を計ったところ、この日は5分27秒。
那覇―南大東島の機内ではあったドリンクサービスも当然なく文字通りのアッという間のフライト。上空から島や海を眺めることができ、ちょっとした遊覧飛行気分だ。
両島民の行き来はほとんどないようなく、飛行機がなくなったところで住民の生活には支障が少なそうだが、今後の移動は那覇経由の遠回りルート、もしくは週1便の貨客船に限定される。旅行者にとっては2島の周遊が難しくなるため、観光産業への今後の影響は大きそうな気がするが……。
◆那覇にもシュガートレインスポットが存在
なお、那覇に戻った筆者が次に立ち寄ったのは、市内のゆいれーる・壺川駅近くの壺川東公園。ここには南大東島で走っていたシュガートレインのディーゼル機関車が展示されているからだ。
マンションやアパートに囲まれた住宅街の一角にある小さな公園で観光スポットというわけではないが、保存状態は島にある車両よりも明らかに良い。運転室も立ち入り可能で地元の子供たちが中に入って遊んでいた。
シュガートレインには13年に観光鉄道として復活する計画が持ち上がったが、結局とん挫。鉄道ファンとしては残念だが、採算性などの問題から最終的には見送ることになったようだ。
それでも日本最南端の鉄道遺構として歴史的にも価値があるのは事実。島には今も手つかずの自然が多く残っており、南国でもリゾートではない離島に行ってみたいという方にはいいかもしれない。
<TEXT/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。
―[シリーズ・駅]―