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“世界一売れた”アディダスのスニーカーなのに「疲れる」「膝が痛い」納得の理由

日刊SPA! 2024年9月25日 15時53分

こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
オフィスカジュアルやビジネスカジュアルが浸透し、革靴のかわりにスニーカーを履いて仕事をする方が増えています。しかし、なぜか「革靴よりも疲れる」という悩みが多く聞かれます。サイズ選びのミスや、そもそも足にフィットしていないという問題もありますが、もっと根っこの部分で勘違いをしている方が目立ちます。

問題は、歩くためのスニーカーを履いてないことです。テニスシューズやバスケットボールシューズは、歩くための靴ではありません。ランニングシューズなどの歩行に特化したスニーカーを履かなければ、いくら適正なサイズ感であっても意味がないのです。

バスケやテニスの動きをイメージすればわかるのですが、ステップを踏んで前後左右に動くだけではなく、しっかり「止まる」ことが必要です。テニスシューズやバスケットボールシューズは、止まることに特化している靴なので、一歩一歩ブレーキをかけているようなもの。当然、歩くだけだと疲れます。そんな機能が備わった靴だとは知らずに履いている方が大半で、ショップでもいちいち教えてはくれません。

◆ギネス公認の世界一売れている靴はテニス用

ギネス公認で世界で一番売れたスニーカーはアディダスの「スタンスミス」です。1971年の販売以降、世界で4000万足以上が売れています。端正なシルエットから、ビジネススタイルに合わせる方も多いでしょう。しかし歩きやすさの観点から言えば「NO」です。

スタンスミスこそが「止まるため」の靴の代表格。テニスは、数十メートルも直進し続けるような動きはなく、細かい距離のダッシュ、ストップ、バックステップ。しっかり止まってラケットを振らなければ、こけてケガします。スタンスミスは実物を持ってみればわかりますが、意外に曲がりません。テニスは前傾姿勢で構えるので、つま先の高さもギリギリまで地面に近く設定され、歩くだけだとつまずきやすくなっています。歩くときは誰でも「指のつけね」で曲がるはずですが、テニスシューズは踏ん張りを効かせるために、わざとインソールもアウトソールも曲がらせないようにできています。

また、テニスは芝か土の上でプレーするので、靴にクッションは必要ありません。地面そのものが柔らかいので、板のように硬い底のほうが安定してプレーしやすいため、コンクリートの上を歩くような設定にはなっていないのです。

スタンスミスや似たスニーカーでヒザを痛める方が多いのは、「スニーカー=クッション」というわけではないからです。

◆ビジカジで大人気のモデルも実は「歩く」用ではない

おなじことがコンバースの「オールスター」にも言えます。こちら本来はバスケ用。いわゆる「体育館シューズ」なので、木の床でこそ本来の機能性を発揮します。

キャンバスの「オールスター」を大人用に改良した「オールスター・クップ」も、見た目だけならビジネスにも使えそうですが、歩きやすさは別問題。バスケも歩く、走るだけではなく、止まる、ターンする動きが多く、このモデルも街履きの面構えですが、底周りは完全にバッシュ。歩きやすい部分で曲がる底ではありません。足入れはたしかにいい靴ですが、長距離の歩行には向かず、意外に底の減りが早いのも、体育館の床とコンクリートの想定の差です。ガンガン歩くのではなく、「おしゃれスニーカー」として割り切ったほうがいいでしょう。

◆歩けるランニングシューズベースならパトリック

長距離を歩いても疲れないスニーカーが欲しいなら、ベースがランニングシューズのものを選びましょう。レトロなモデルでも、どんなメーカーでも「前だけに進む、クッション重視」だからです。理想的な「とにかくラク」であるには、ランニングシューズにかなうスニーカーはありません。つまずかないようにつまさきも反り上がっています。

その点、パトリックの「ネバダ・ウォータープルーフ」は理想的です。パトリックはどのモデルもフランスのメーカーらしく、ドレッシーなフォルムが特徴。1メートルも離れると、革靴と見分けがつきません。履きならす必要もなく、雨もはじく天然革で、本来はフルマラソンも走れる靴です。フランスのメーカーでありながら、クオリティ重視ですべてのモデルが日本製というのも安心できます。

ブランドマークも目立たず、親指や小指が当たりそうなところにも余計なパーツがないので、つま先に血豆ができる心配もありません。底はクッション性と軽さに特化したスポンジ底。摩耗にも強く、ヒールが減ってもリペアが可能でとにかく長持ちします。

ビジネススタイルでも品よく見える、歩いても疲れない、軽量でつまずくこともないといった「スニーカーの理想像」を体現したモデルです。加えて靴クリームでメンテナンスを続けると、革靴にも引けを取らない高級感のあるたたずまいになります。

スニーカーは「ふかふかで、クッションもいい」というイメージがありますが、そもそも、「スニーカー」というくくりが雑すぎます。サッカー用のスパイクで歩いたり、つるつるのボーリング用シューズで歩く方はいないでしょう。それぞれの競技にはそれぞれの動きに特化した靴があります。スニーカー選びで迷ったら、ショップの方に「このスニーカーはもともと、なんのスポーツ用ですか?」と尋ねるのが一番確実。テニスやバスケ用なら、歩くのではなくおしゃれを楽しむもの。ランニング用なら歩くもの。外見も大事ですが、本来の目的から外れないようにすると靴選びのハズレが少なくなります。

<文/シューフィッターこまつ>

【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」

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