廃墟、産業遺産、巨大工場、ダム、大仏、公園遊具、珍スポットなど、日本中にある非日常スポット、風変わりな場所を紹介する《異空間》旅行マガジン『ワンダーJAPON』。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
今回紹介するのは2021年と2022年に訪れた群馬県南西部・甘楽町にある物件。群馬サファリパーク(富岡市)の南東約2.5km、上信越自動車からアプローチするなら県道46号線を神流町方面に南下していく途中にある。県道の両脇に緑が迫り山間部に突入し始めたところで、左手にゴチャゴチャと賑やかにデコレーションされた明らかに普通の住宅とは異なる建物が現れる。
◆群馬の珍名所「アダルト保育園」
壁にはミッキーマウスのお面、招き猫、たくさんのレコード盤やアルミ缶提灯。「庭師生活51年」とか「うそー!だんみつ見なかった人が!」など手書きの看板もある。県道を挟んで向かいの掘っ立て小屋のような建物にも「シャレとユーモア ジョークとエロス」「アート エロス 魂を揺さぶる展示会」などの看板にカオスな飾り多数。
さらに「うわっ!」と思わず声が出てしまうのが、30m以上も続く無数の殴り書きメッセージ看板でできた壁。「そうです!(ダ.フンダ!)ワタシがヘンなジイさんです。」「令和2年80才のエロ(レ)ジジィー!」など全部手書きだ。しかもヤケクソな感がすごい。大量に展示されたガラクタは廃品アートらしい。
これが、21世紀に出現した群馬の珍名所「アダルト保育園」だ。
◆仕事を引退したタイミングで、脳内を具現化
Googleマップのストリートビューが、このアダルト保育園の2014年7月の貴重な姿を記録している。そこには空き地同然の敷地と道路沿いにガラクタが少し並んでいる様が写っているだけだった。それが7、8年でこんなにもド派手な場所になってしまうとは。
ご主人の中條狭槌(さつち)さん(1940年生まれ)によると、娘さんが免許を取り車を買ったので片屋根のカーポートを設置したと。その後、娘さんが家を出たので、もう1つカーポートを合掌造りみたいに向き合うように設置したのがそもそもの始まりらしい。
ここが中條さんと近所の仲間のくつろぎの場となり、地元の仲間とおしゃべりしているうちに、「最近あっちのほうが元気がない」という話になる。「元気の源はエロが大事」ということで、2015年にちょうど造園業も引退し時間ができたので、一気に中條さんの脳内アダルトパラダイスがここに具現化されたようだ。
◆「妙齢の美女が保母さんだったらなぁ」と…
「アダルト保育園」というテーマを思いついたのは、懇意にしている土建屋さんの社長が富岡の保育園を解体したので、そこから不要な遊具を引き取ったのがきっかけだ。この場所が、藤あや子・壇蜜・橋本マナミ・伍代夏子・坂本冬美という妙齢の美女が保母さんだったらなぁという妄想。園児用飲みものはミルクではなくビール。たしかに2014年の画像に乗り物の遊具が写っていた。
他にもいろいろ引き取った廃品を組み合わせてはオブジェを作り、敷地に飾って「野外アート」にもなっている。さらに敷地内に新たに小屋を建てて壁中にヌード写真を貼った部屋や妖しいマッサージ室を作り「屋内エロス」を充実させたそうだ。壇蜜のグラビアや本人が使っていた(という設定の)アクセサリー類で埋め尽くされた「だんみつの部屋」もある。
やがてテレビ局が取材に来ると、そのことを看板に書き足したり、次のメディア取材に備えさらに面白くしようと看板を増やしたり……。前回紹介した愛知の「パブレスト百万ドル」に似てる。
◆これが本当のパワースポット?
噂を聞きつけ車で乗り付けても、車から降りずに遠目に見てそのまま帰ってしまう輩も多いらしく、「ウッソー!おりないの?」と見学を促す看板も作った。奥さんも娘さんもこの状況に対してもう何も言わないそうだ。「内心呆れてると思う」と小声でおっしゃる。
自分をエロジジィー、ヘンなおじさんと書くなど周りからどう思われるているかちゃんと自覚しつつも、廃品アートやエロ&ユーモア看板を作らずにはいられないそのエネルギーを見ていると、これが本当のパワースポットではないかとさえ思えてくる。2023年には「飲み処ぼっきや」「スナック・オットピン」などの素敵な看板も追加されているらしい。
ここで紹介した画像も既に過去のものだ。また近々行かなくては…。
<取材・文・撮影/関口勇>
【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
今回紹介するのは2021年と2022年に訪れた群馬県南西部・甘楽町にある物件。群馬サファリパーク(富岡市)の南東約2.5km、上信越自動車からアプローチするなら県道46号線を神流町方面に南下していく途中にある。県道の両脇に緑が迫り山間部に突入し始めたところで、左手にゴチャゴチャと賑やかにデコレーションされた明らかに普通の住宅とは異なる建物が現れる。
◆群馬の珍名所「アダルト保育園」
壁にはミッキーマウスのお面、招き猫、たくさんのレコード盤やアルミ缶提灯。「庭師生活51年」とか「うそー!だんみつ見なかった人が!」など手書きの看板もある。県道を挟んで向かいの掘っ立て小屋のような建物にも「シャレとユーモア ジョークとエロス」「アート エロス 魂を揺さぶる展示会」などの看板にカオスな飾り多数。
さらに「うわっ!」と思わず声が出てしまうのが、30m以上も続く無数の殴り書きメッセージ看板でできた壁。「そうです!(ダ.フンダ!)ワタシがヘンなジイさんです。」「令和2年80才のエロ(レ)ジジィー!」など全部手書きだ。しかもヤケクソな感がすごい。大量に展示されたガラクタは廃品アートらしい。
これが、21世紀に出現した群馬の珍名所「アダルト保育園」だ。
◆仕事を引退したタイミングで、脳内を具現化
Googleマップのストリートビューが、このアダルト保育園の2014年7月の貴重な姿を記録している。そこには空き地同然の敷地と道路沿いにガラクタが少し並んでいる様が写っているだけだった。それが7、8年でこんなにもド派手な場所になってしまうとは。
ご主人の中條狭槌(さつち)さん(1940年生まれ)によると、娘さんが免許を取り車を買ったので片屋根のカーポートを設置したと。その後、娘さんが家を出たので、もう1つカーポートを合掌造りみたいに向き合うように設置したのがそもそもの始まりらしい。
ここが中條さんと近所の仲間のくつろぎの場となり、地元の仲間とおしゃべりしているうちに、「最近あっちのほうが元気がない」という話になる。「元気の源はエロが大事」ということで、2015年にちょうど造園業も引退し時間ができたので、一気に中條さんの脳内アダルトパラダイスがここに具現化されたようだ。
◆「妙齢の美女が保母さんだったらなぁ」と…
「アダルト保育園」というテーマを思いついたのは、懇意にしている土建屋さんの社長が富岡の保育園を解体したので、そこから不要な遊具を引き取ったのがきっかけだ。この場所が、藤あや子・壇蜜・橋本マナミ・伍代夏子・坂本冬美という妙齢の美女が保母さんだったらなぁという妄想。園児用飲みものはミルクではなくビール。たしかに2014年の画像に乗り物の遊具が写っていた。
他にもいろいろ引き取った廃品を組み合わせてはオブジェを作り、敷地に飾って「野外アート」にもなっている。さらに敷地内に新たに小屋を建てて壁中にヌード写真を貼った部屋や妖しいマッサージ室を作り「屋内エロス」を充実させたそうだ。壇蜜のグラビアや本人が使っていた(という設定の)アクセサリー類で埋め尽くされた「だんみつの部屋」もある。
やがてテレビ局が取材に来ると、そのことを看板に書き足したり、次のメディア取材に備えさらに面白くしようと看板を増やしたり……。前回紹介した愛知の「パブレスト百万ドル」に似てる。
◆これが本当のパワースポット?
噂を聞きつけ車で乗り付けても、車から降りずに遠目に見てそのまま帰ってしまう輩も多いらしく、「ウッソー!おりないの?」と見学を促す看板も作った。奥さんも娘さんもこの状況に対してもう何も言わないそうだ。「内心呆れてると思う」と小声でおっしゃる。
自分をエロジジィー、ヘンなおじさんと書くなど周りからどう思われるているかちゃんと自覚しつつも、廃品アートやエロ&ユーモア看板を作らずにはいられないそのエネルギーを見ていると、これが本当のパワースポットではないかとさえ思えてくる。2023年には「飲み処ぼっきや」「スナック・オットピン」などの素敵な看板も追加されているらしい。
ここで紹介した画像も既に過去のものだ。また近々行かなくては…。
<取材・文・撮影/関口勇>
【関口勇】
『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ