世の中の「健康志向」の高まりにより、右肩上がりで成長を続ける「無糖市場」。コーヒーや紅茶、炭酸、お酒……あらゆる飲料で注目されるカテゴリーのひとつだ。
そんな無糖ブームの波に乗るのは、キリンホールディングス傘下のキリンビバレッジ。これまで同社を代表する主力商品「午後の紅茶」において、「おいしい無糖」やキリンビバレッジ初の無糖のミルクティーなど、多くのヒット商品を開発してきた。
今回はそんな同社のマーケティング部ブランド担当、西村史也さんに取材。今夏に発売した新商品「キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION SUMMER BLEND ICE TEA」を踏まえて、同社の無糖紅茶における課題や今後の期待を聞いた。
◆右肩上がりの無糖市場とキリンの紅茶
キリンの無糖紅茶の歴史における転機を語るには、2011年にまで遡る。ブランド草創期から無糖の紅茶の開発に挑戦してきた同社だが、なかなか受け入れられるものが作れなかった。しかし、2011年にようやく「おいしい無糖」が社会に受け入れられた。
なぜ、「おいしい無糖」はヒットしたのだろうか。
「ターゲットを食事シーンに絞って、ステーキや唐揚げなどこってりした食事をする人に対して、『おいしい無糖』を飲めば口中がさっぱりするよ、と打ち出したんです。その戦略が功を奏し、大ヒット。これまでの紅茶のイメージを大きく覆すものでしたが、結果食事シーンへの拡大を果たし、さらにキリンの新しい看板商品にもなりました。同商品はブランド内でも売り上げベスト3に入るほど、人気を誇る商品になっています」
そんな背景から2022年、レギュラーシリーズに比べてカロリーを50%オフとした微糖のミルクティー「キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖」を開発。さらに2023年には、ブランド初の無糖のミルクティー「午後の紅茶 おいしい無糖 ミルクティー」を発売。約8年もの間何度も試作を繰り返した末、砂糖や甘味料を全く使わないミルクティーの開発に成功。発売月に1000万本を突破し大ヒット商品となった。
◆紅茶を飲まない層をターゲットに
このように世の中の健康志向の高まりから、紅茶だけではなく、飲料業界全体で無糖ブームが続いている。その波に乗るキリンビバレッジは今夏、新商品「キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION SUMMER BLEND ICE TEA」を販売した。
夏の期間限定商品の開発を始めたのは、ちょうど2023年4月頃だった。
「まずは『夏らしい商品』ってなんだろうかと考えることから始めました。夏は炭酸やお水、お茶などスッキリした飲み物が売れるのがセオリーです。対して、紅茶は年間を通しても比較的安定して売れるカテゴリーですが、唯一夏の売り上げは伸び切っていない。そもそもホットのイメージが強く、甘いイメージがある紅茶ですが、どうにか夏にも受け入れてもらえる“スッキリとした紅茶”を作ろうと思ったとき、無糖の紅茶に可能性を感じました」
◆あえて“午後の紅茶らしさ”を取っ払う
ターゲットにはお茶やお水、炭酸を飲むような、普段は紅茶を“手にとらない”層に設定。そんな人に選んでもらう商品にするために、一体どのようなことにこだわったのだろうか。
「まずは紅茶の中身にこだわりました。1つは茶葉のブレンドです。これは『キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION』シリーズの全てにおいて、こだわっている部分でもあります。本商品では爽やかな香りのダージリン茶葉(30%)、すっきりした味わいのキャンディ茶葉(34%)、華やかなディンブラ茶葉(36%)といった3種類をブレンドしました。また飲んだ瞬間に広がるマンゴーの香りを中心に、パッションフルーツやライチといった南国の果実の香りを楽しめるように。最初から最後まですっきりとした、夏らしいアイスティーに仕上げました」
さらにこだわったのは味だけではない。普段紅茶を選ばない人が手に取りやすく、パッと見て目を引くようなパッケージを作り込んだ。
「紅茶を普段から選ばない層に向けて、あえて“午後の紅茶らしくない”パッケージに仕上げました。そもそもパッケージを見ただけで『これは紅茶だから買わない』と、即座に判断してしまう人が多いからです。今回はブランドカラーである赤は使わず、英字を並べて、輸入品のような、洒落ている見た目に。初めて見たときに『あ、素敵な飲み物が出ている』と手に取ってもらえる。そんなパッケージを目指しました」
◆SNSで高評価の反面、課題は残る
「これまでのイメージを変える紅茶を作りたい」という想いから、中身やパッケージなど、隅々までこだわった期待の新商品。発売して約2か月、売り上げはいかがだろうか。
「商品自体は、SNSを中心にかなり評価をいただいております。ただ売上については、期待していたよりも厳しい状況です。お店に置いてもらうためには、全ての飲料商品のなかから私たちの商品を選んでもらわないといけません。ただし、夏の季節においては多くの新商品が出る季節。そのためお客様に届けるための多くの工夫が必要なんです」
無糖ブームとはいえ、他業界からも新商品が相次ぐ現状。どんなにこだわった商品だとしても、お店側に売れる商品だと思ってもらえなければ置いてもらえない。また、やっとの思いで置いてもらっても、それが消費者の求めるものになっていなければ意味がない。
「例えば『キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖』。販売した直後は、SNSでもかなり反響をいただき、想像よりも売り上げが伸びた商品となりました。ただ1回バズった後は徐々に落ちてしまっていて。そもそも『ミルクティー=甘いもの』というイメージがあるためか、『甘くないのであれば他の飲み物でもいいや』と選ばれないこともありました。
対して『おいしい無糖』については、40〜50代男性に受け入れてもらえる商品として今も人気が続いています。ただ最近、ジャスミンティーやルイボスティーなどの人気が高まってきたことにより、無糖の紅茶の立ち位置が曖昧になってきています。以前カレーとのペアリングなどを打ち出した際にも、『じゃあ緑茶とは何が違うのか』といった声もあり……。飲料業界全体での無糖紅茶の立ち位置は、考えていかないといけませんね」
◆消費者の“飲用シーン”を提案していく
午後の紅茶と向き合って2年。1年単位で大きく変わるわけではないが、「今と同じことをやっていてはダメ。時代が変わるごとに変化しないといけない」と、西村さんは話した。
同社が「おいしい無糖」を開発した2022年には、“紅茶とお弁当”や“紅茶とカレー”といったこれまでにないペアリングを考案。常に時代の変化に危機感を持って開発に向き合い、社会の需要も踏まえた挑戦を続けている。
「紅茶は嗜好性が高い飲み物であり、アレンジが効く商品です。今後はフルーツ、スパイス、炭酸(ティーソーダ)などと合わせ、より紅茶の強みを生かした商品を開発していきたいと思っています。また『キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION』では、お客様の生活のあらゆるシーンで『リラックスした時間や、ちょっとした楽しい時間を届けられるように』という想いを込め、新しい飲用シーンを提案しました。今後も幅広いシーンで紅茶が飲まれるような社会の実現に向けて、開発や提案を続けていきたいです」
いつの時代も需要にあった商品を開発し、新しい紅茶文化を創造する、キリン。今後も想像しなかったような飲用シーンを、私たちに提案してくれるに違いない。
<取材・文/フジカワハルカ>
【フジカワハルカ】
広島生まれ、東京在住のライター。早稲田大学文化構想学部卒。趣味で不定期で活動するぜんざい屋を営んでいる。関心領域はビジネスと食、特に甘いものには目がない。X(旧Twitter):@fujikawaHaruka
そんな無糖ブームの波に乗るのは、キリンホールディングス傘下のキリンビバレッジ。これまで同社を代表する主力商品「午後の紅茶」において、「おいしい無糖」やキリンビバレッジ初の無糖のミルクティーなど、多くのヒット商品を開発してきた。
今回はそんな同社のマーケティング部ブランド担当、西村史也さんに取材。今夏に発売した新商品「キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION SUMMER BLEND ICE TEA」を踏まえて、同社の無糖紅茶における課題や今後の期待を聞いた。
◆右肩上がりの無糖市場とキリンの紅茶
キリンの無糖紅茶の歴史における転機を語るには、2011年にまで遡る。ブランド草創期から無糖の紅茶の開発に挑戦してきた同社だが、なかなか受け入れられるものが作れなかった。しかし、2011年にようやく「おいしい無糖」が社会に受け入れられた。
なぜ、「おいしい無糖」はヒットしたのだろうか。
「ターゲットを食事シーンに絞って、ステーキや唐揚げなどこってりした食事をする人に対して、『おいしい無糖』を飲めば口中がさっぱりするよ、と打ち出したんです。その戦略が功を奏し、大ヒット。これまでの紅茶のイメージを大きく覆すものでしたが、結果食事シーンへの拡大を果たし、さらにキリンの新しい看板商品にもなりました。同商品はブランド内でも売り上げベスト3に入るほど、人気を誇る商品になっています」
そんな背景から2022年、レギュラーシリーズに比べてカロリーを50%オフとした微糖のミルクティー「キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖」を開発。さらに2023年には、ブランド初の無糖のミルクティー「午後の紅茶 おいしい無糖 ミルクティー」を発売。約8年もの間何度も試作を繰り返した末、砂糖や甘味料を全く使わないミルクティーの開発に成功。発売月に1000万本を突破し大ヒット商品となった。
◆紅茶を飲まない層をターゲットに
このように世の中の健康志向の高まりから、紅茶だけではなく、飲料業界全体で無糖ブームが続いている。その波に乗るキリンビバレッジは今夏、新商品「キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION SUMMER BLEND ICE TEA」を販売した。
夏の期間限定商品の開発を始めたのは、ちょうど2023年4月頃だった。
「まずは『夏らしい商品』ってなんだろうかと考えることから始めました。夏は炭酸やお水、お茶などスッキリした飲み物が売れるのがセオリーです。対して、紅茶は年間を通しても比較的安定して売れるカテゴリーですが、唯一夏の売り上げは伸び切っていない。そもそもホットのイメージが強く、甘いイメージがある紅茶ですが、どうにか夏にも受け入れてもらえる“スッキリとした紅茶”を作ろうと思ったとき、無糖の紅茶に可能性を感じました」
◆あえて“午後の紅茶らしさ”を取っ払う
ターゲットにはお茶やお水、炭酸を飲むような、普段は紅茶を“手にとらない”層に設定。そんな人に選んでもらう商品にするために、一体どのようなことにこだわったのだろうか。
「まずは紅茶の中身にこだわりました。1つは茶葉のブレンドです。これは『キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION』シリーズの全てにおいて、こだわっている部分でもあります。本商品では爽やかな香りのダージリン茶葉(30%)、すっきりした味わいのキャンディ茶葉(34%)、華やかなディンブラ茶葉(36%)といった3種類をブレンドしました。また飲んだ瞬間に広がるマンゴーの香りを中心に、パッションフルーツやライチといった南国の果実の香りを楽しめるように。最初から最後まですっきりとした、夏らしいアイスティーに仕上げました」
さらにこだわったのは味だけではない。普段紅茶を選ばない人が手に取りやすく、パッと見て目を引くようなパッケージを作り込んだ。
「紅茶を普段から選ばない層に向けて、あえて“午後の紅茶らしくない”パッケージに仕上げました。そもそもパッケージを見ただけで『これは紅茶だから買わない』と、即座に判断してしまう人が多いからです。今回はブランドカラーである赤は使わず、英字を並べて、輸入品のような、洒落ている見た目に。初めて見たときに『あ、素敵な飲み物が出ている』と手に取ってもらえる。そんなパッケージを目指しました」
◆SNSで高評価の反面、課題は残る
「これまでのイメージを変える紅茶を作りたい」という想いから、中身やパッケージなど、隅々までこだわった期待の新商品。発売して約2か月、売り上げはいかがだろうか。
「商品自体は、SNSを中心にかなり評価をいただいております。ただ売上については、期待していたよりも厳しい状況です。お店に置いてもらうためには、全ての飲料商品のなかから私たちの商品を選んでもらわないといけません。ただし、夏の季節においては多くの新商品が出る季節。そのためお客様に届けるための多くの工夫が必要なんです」
無糖ブームとはいえ、他業界からも新商品が相次ぐ現状。どんなにこだわった商品だとしても、お店側に売れる商品だと思ってもらえなければ置いてもらえない。また、やっとの思いで置いてもらっても、それが消費者の求めるものになっていなければ意味がない。
「例えば『キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖』。販売した直後は、SNSでもかなり反響をいただき、想像よりも売り上げが伸びた商品となりました。ただ1回バズった後は徐々に落ちてしまっていて。そもそも『ミルクティー=甘いもの』というイメージがあるためか、『甘くないのであれば他の飲み物でもいいや』と選ばれないこともありました。
対して『おいしい無糖』については、40〜50代男性に受け入れてもらえる商品として今も人気が続いています。ただ最近、ジャスミンティーやルイボスティーなどの人気が高まってきたことにより、無糖の紅茶の立ち位置が曖昧になってきています。以前カレーとのペアリングなどを打ち出した際にも、『じゃあ緑茶とは何が違うのか』といった声もあり……。飲料業界全体での無糖紅茶の立ち位置は、考えていかないといけませんね」
◆消費者の“飲用シーン”を提案していく
午後の紅茶と向き合って2年。1年単位で大きく変わるわけではないが、「今と同じことをやっていてはダメ。時代が変わるごとに変化しないといけない」と、西村さんは話した。
同社が「おいしい無糖」を開発した2022年には、“紅茶とお弁当”や“紅茶とカレー”といったこれまでにないペアリングを考案。常に時代の変化に危機感を持って開発に向き合い、社会の需要も踏まえた挑戦を続けている。
「紅茶は嗜好性が高い飲み物であり、アレンジが効く商品です。今後はフルーツ、スパイス、炭酸(ティーソーダ)などと合わせ、より紅茶の強みを生かした商品を開発していきたいと思っています。また『キリン 午後の紅茶 TEA SELECTION』では、お客様の生活のあらゆるシーンで『リラックスした時間や、ちょっとした楽しい時間を届けられるように』という想いを込め、新しい飲用シーンを提案しました。今後も幅広いシーンで紅茶が飲まれるような社会の実現に向けて、開発や提案を続けていきたいです」
いつの時代も需要にあった商品を開発し、新しい紅茶文化を創造する、キリン。今後も想像しなかったような飲用シーンを、私たちに提案してくれるに違いない。
<取材・文/フジカワハルカ>
【フジカワハルカ】
広島生まれ、東京在住のライター。早稲田大学文化構想学部卒。趣味で不定期で活動するぜんざい屋を営んでいる。関心領域はビジネスと食、特に甘いものには目がない。X(旧Twitter):@fujikawaHaruka