Infoseek 楽天

『極悪女王』でゆりやんが魅せた「まるで本人」な演技力。俳優より「芸人の方が憑依が得意」なのはなぜか

日刊SPA! 2024年9月27日 15時51分

 9月19日の配信開始以来、大きな話題を集めているNetflixシリーズ『極悪女王』。
 ストーリー構成や演出、試合の迫力や再現度など注目ポイントは多いが、主演でダンプ松本役をつとめる、ゆりやんレトリィバァの憑依ぶり、完全一致ぶりは、時々「本人!?」と思ってしまうほどの見事さだった。

 それはもう、衣装やヘアメイク、仕草やたたずまいで「寄せる」「似てる」というレベルではなく、「憑依」としか言いようがなく見える瞬間がいくつもあった。

◆本人と見間違う“憑依ぶり”を見せる作品は他にも

『極悪女王』を見ながらふと思い出したのが、昨春、日本テレビ系で放送された連ドラ『だが、情熱はある』だ。

 オードリー・若林正恭と南海キャンディーズ・山里亮太の半生を描いたドラマだが、それぞれを演じた高橋海人(King & Prince)と森本慎太郎(SixTONES)が、トップアイドルでありながら、本人にしか見えないような完コピぶりで驚いたことをよく覚えている。

 特に高橋の若林は、その見た目だけで「あ、若林だ」とは全く分からないのに動いてしゃべると完全に若林なところに怖さすら感じたほどだった。

 言うまでもなく、ゆりやんはお笑い芸人、高橋と森本はアイドルである。近年の実在の人物をモデルにした作品で、ドラマでの演技仕事が本業ではないジャンルの人が本人にしか見えないほどの憑依ぶりを見せることが増えてきている気がするのはなぜなのか。人気バラエティなどを手がける、ある放送作家に聞くと、こんな見解を聞かせてくれた。

◆芸人やアイドルの「なりきる」技術

「『極悪女王』でクラッシュギャルズ役を演じた剛力(彩芽)さんや唐田(えりか)さんの寄せ方ももちろん絶賛されていますが、役者さんの場合はどちらかというと〝自分の色〟みたいなものを加えて表現する人が少なくないです。実在の人物に似ているものの、その役者さんのイメージも重なり合った演技になることが多い気がします。

 一方、お笑い芸人やアイドルは、そういった〝色〟をおさえて、何にでもなれる良さがあると思います。そう考えると、みんなが知っているような有名な実話や実在の人物をもとにした物語に、芸人やアイドルのほうが、その〝色〟が薄いぶん、その人になりきれることが多くなってきているのかなという印象を受けます」

 たしかに芸人は、日頃コントなどで何かの設定に「なりきる」機会が多い。ロバート秋山や友近など、架空の人物なのに「絶対いる」と思えるような芸を披露する芸人も少なくない。

◆「コント力」を演技に活かすゆりやん

「芸人の場合は、こう演じようというよりも、『キャラになりきろう』という考え方からのアプローチがうまい人が増えてきている気がします。三谷幸喜さんが先日言っていましたが、バイきんぐがコンビで出ているCMを見たときに、ある意味〝色〟の強い小峠さんは小峠さんに見えるんだけど、西村(瑞樹)さんは本当にそういう人に見えたと絶賛していました。

 そういうふうに、ナチュラルに憑依できるタイプっているんです。アイドルも、センターやエースはどうしても〝色〟が強いタイプが多いので、その脇にいるメンバーのほうが、色を感じさせずナチュラルにそのキャラになりきれるパターンが多くなるのではないでしょうか」(同)

 流れとして、その「なりきる」技術は、近年上がってきていると、放送作家はみている。

「以前よりもコントの重要性が高くなってきている近年は、設定やキャラになりきるほど面白くなると思うので、その傾向はより強くなってきている気がします。

 とはいえゆりやんは、『極悪女王』でも、誰が見てもゆりやんだという〝色〟も強いのですが、もともと憑依するのがうまいというか、コントもあれだけめちゃくちゃなことを一人でやって、ちゃんとその世界のキャラとして見せる説得力のようなものがありますから、ナチュラルに憑依するというよりも、憑依が〝色〟を超えるタイプの芸人なのかもしれません」

◆アイドルの器用さも「なりきり力」に繋がっている

 アイドルも、さまざまな顔を見せる職業であることが大きなポイントだ。

「『アイドルとは何にでもなれる存在』と、よく言われます。演じることをひたすら突き詰めていく役者とはまた違って、アイドルや芸人って、演技もすればトークもやり、アイドルもコントをしたり、芸人が歌ったり、いろんなことを経験しなければならないことが多いので、そこで器用さが身についていく人が登場してくることにつながっているのかなという気がします」

 いっぽうで、レイザーラモンRGやハリウッドザコシショウのような、本人の特徴を極端に誇張するものまねも人気があるが、こういった空気をドラマに投入しようということはないのだろうか?

「ドラマとなると、また別ですよね(笑)、ストーリーよりも、その極端なものまねを楽しむ作品になってしまうと思います。まねようという気持ちが強かったり、ものまねのスキルが高いと、そこは単に再現になってしまって、演技としての面白さが薄くなります」

 動画など、なりきるための研究素材が近年は潤沢にあることも、学習しやすい環境を後押ししているという。まるで本人のような表情や仕草に驚かされる機会は、ますます増えそうだ。

<取材・文/太田サトル>

【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。

この記事の関連ニュース