過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2018年10月18日 記事は取材時の状況) * * *
多くの会社が常時募集をかけており、比較的採用されやすいことでも知られるタクシー運転手。そのため、なかには“ワケあり”な経歴を持つ人も少なくない。
◆外回り中、部下とラブホに入ったのがバレて事実上の解雇
「既婚者の部下と密会していたのが彼女の夫にバレてしまったんです。ある日、興信所の調査結果を持って弁護士と会社にやってきて……その瞬間すべてを失いました」
そう語るのは、タクシー運転歴5年の浪野陽介さん(仮名・47歳)。前職は業界大手のBtoB系機械メーカーの営業課長で、社内では幹部候補だった元エリート社員だ。
「密会だけなら左遷で済んだと思いますが、外回り中に2人でホテルに出入りする瞬間を撮られており、『辞めなければ解雇する』と言われました。当然の報いだと思いますが、離婚した妻との財産分与や慰謝料で手元に残ったお金はほぼゼロでした」
このときは退職して間もなく健康食品の営業の仕事に就くことができたが、そこは高ノルマ・長時間労働・パワハラと三拍子揃った典型的ブラック企業。我慢して2年間務めたが、職場環境は一向に改善されずに辞めてしまう。
◆目の前の現実として迫りつつあったホームレス転落の恐怖
その後は短期のアルバイトをしながら次の職を探したが、すでに40代半ば。年齢制限に引っかかるか、応募できても書類選考すら通らなくなっていたという。
「絶対的なスキルもなければ、持っていた資格も実務経験の伴わない役立たずのものばかりでした。1日1食、それも食パン2切れで食費を切り詰めていたけど、このままではホームレス転落もありうる状況だったんです。そんなとき、あるタクシー会社の求人広告に“ペーパードライバー可”と書いており、ワラにもすがる思いで履歴書を送りました」
結果は拍子抜けするほどあっさり採用。さらに会社が借り上げている月3万円のアパートに入居できることになったという。
「採用が決まった時点で貯金は底を尽きかけていたので、本当に助かりました。家賃が安いのもありがたかったですね。養育費を払えなくなれば別れた妻に罵倒されるだけでなく、子供にも会えなくなっていたでしょうから」
◆1回24時間勤務の激務だが、月20万円ちょっと稼ぐのがやっと
タクシー運転手の仕事は会社勤めに比べて気楽だと感じる反面、運転経験不足からブレーキを強くかけてしまったり、道を間違えてお客に怒鳴られることもある。
「今の仕事に就いて1年半が過ぎましたが、抜け道は全然覚えられないですし、ナビなしで目的地に行けないことがほとんど。そもそも運転自体あまり好きではないので、生活のために仕方なくタクシーの仕事をやっている状況です」
求人広告には「月収50万円以上も可能!」と書いてあったが、浪野さんの収入はその半分以下だ。
「お客さんを乗せまくって、そのくらい貰っている人もいますがあくまで一部。私は月20万円ちょっと稼ぐので精一杯です。それにタクシー運転手の場合、勤務形態が特殊で1回の勤務が24時間。間に休憩を挟んだりしますが、今までとはまったく違う仕事なので体力的にはやっぱりしんどいです」
勤務明け1日休みがあるそうだが疲れが取れず、2日休むことも多いという。
「休みを増やせば収入は減るし、かといって無理すれば事故につながる。ウチの会社に限らず、タクシー会社の多くは事故を起こした場合、運転手が修理費用の一部を背負わなければならないんです。それを考えると収入増は期待できてもリスクを背負って実車日を増やす気にはなれません」
幸い借金こそないが、生活水準は依然として低いまま。子供が大学を卒業するまで最低でもあと8年は養育費を払い続けなければならず、大きな負担となっている。
「親として当然の義務だと思っていますが、今も蓄えはほとんどないので老後については不安しかありません。退職金も出ないですし、身体が動くうちは働き続けるしかないでしょうね」
自らの原因とはいえ、希望がまったく見えないのも辛い。だが、これが現実なのだ。<TEXT/トシタカマサ>
【浪野さんの1か月の収支】
月収(手取り)21万5000円
家賃 3万円
食費 7万円
水道光熱費 8000円
通信費 5000円
子供の養育費 5万円
その他雑費 1万7000円
こづかい 3万円
収支 +5000円
※2018年の取材時
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
多くの会社が常時募集をかけており、比較的採用されやすいことでも知られるタクシー運転手。そのため、なかには“ワケあり”な経歴を持つ人も少なくない。
◆外回り中、部下とラブホに入ったのがバレて事実上の解雇
「既婚者の部下と密会していたのが彼女の夫にバレてしまったんです。ある日、興信所の調査結果を持って弁護士と会社にやってきて……その瞬間すべてを失いました」
そう語るのは、タクシー運転歴5年の浪野陽介さん(仮名・47歳)。前職は業界大手のBtoB系機械メーカーの営業課長で、社内では幹部候補だった元エリート社員だ。
「密会だけなら左遷で済んだと思いますが、外回り中に2人でホテルに出入りする瞬間を撮られており、『辞めなければ解雇する』と言われました。当然の報いだと思いますが、離婚した妻との財産分与や慰謝料で手元に残ったお金はほぼゼロでした」
このときは退職して間もなく健康食品の営業の仕事に就くことができたが、そこは高ノルマ・長時間労働・パワハラと三拍子揃った典型的ブラック企業。我慢して2年間務めたが、職場環境は一向に改善されずに辞めてしまう。
◆目の前の現実として迫りつつあったホームレス転落の恐怖
その後は短期のアルバイトをしながら次の職を探したが、すでに40代半ば。年齢制限に引っかかるか、応募できても書類選考すら通らなくなっていたという。
「絶対的なスキルもなければ、持っていた資格も実務経験の伴わない役立たずのものばかりでした。1日1食、それも食パン2切れで食費を切り詰めていたけど、このままではホームレス転落もありうる状況だったんです。そんなとき、あるタクシー会社の求人広告に“ペーパードライバー可”と書いており、ワラにもすがる思いで履歴書を送りました」
結果は拍子抜けするほどあっさり採用。さらに会社が借り上げている月3万円のアパートに入居できることになったという。
「採用が決まった時点で貯金は底を尽きかけていたので、本当に助かりました。家賃が安いのもありがたかったですね。養育費を払えなくなれば別れた妻に罵倒されるだけでなく、子供にも会えなくなっていたでしょうから」
◆1回24時間勤務の激務だが、月20万円ちょっと稼ぐのがやっと
タクシー運転手の仕事は会社勤めに比べて気楽だと感じる反面、運転経験不足からブレーキを強くかけてしまったり、道を間違えてお客に怒鳴られることもある。
「今の仕事に就いて1年半が過ぎましたが、抜け道は全然覚えられないですし、ナビなしで目的地に行けないことがほとんど。そもそも運転自体あまり好きではないので、生活のために仕方なくタクシーの仕事をやっている状況です」
求人広告には「月収50万円以上も可能!」と書いてあったが、浪野さんの収入はその半分以下だ。
「お客さんを乗せまくって、そのくらい貰っている人もいますがあくまで一部。私は月20万円ちょっと稼ぐので精一杯です。それにタクシー運転手の場合、勤務形態が特殊で1回の勤務が24時間。間に休憩を挟んだりしますが、今までとはまったく違う仕事なので体力的にはやっぱりしんどいです」
勤務明け1日休みがあるそうだが疲れが取れず、2日休むことも多いという。
「休みを増やせば収入は減るし、かといって無理すれば事故につながる。ウチの会社に限らず、タクシー会社の多くは事故を起こした場合、運転手が修理費用の一部を背負わなければならないんです。それを考えると収入増は期待できてもリスクを背負って実車日を増やす気にはなれません」
幸い借金こそないが、生活水準は依然として低いまま。子供が大学を卒業するまで最低でもあと8年は養育費を払い続けなければならず、大きな負担となっている。
「親として当然の義務だと思っていますが、今も蓄えはほとんどないので老後については不安しかありません。退職金も出ないですし、身体が動くうちは働き続けるしかないでしょうね」
自らの原因とはいえ、希望がまったく見えないのも辛い。だが、これが現実なのだ。<TEXT/トシタカマサ>
【浪野さんの1か月の収支】
月収(手取り)21万5000円
家賃 3万円
食費 7万円
水道光熱費 8000円
通信費 5000円
子供の養育費 5万円
その他雑費 1万7000円
こづかい 3万円
収支 +5000円
※2018年の取材時
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。