現在はそれほど珍しくはないひとり親家庭。厚生労働省『令和3年度 全国ひとり親世帯等調査』によると、母子家庭119.5万世帯、父子家庭14.9万世帯の計134.4万世帯で全世帯の約2.6%を占める。
それでも一緒に暮らしていなかった父親(母親)との交流が続いているケースも多く、結婚や子供が生まれた際には祝ってくれたという人も多いだろう。
11年前に結婚した若山宏司さん(仮名・40歳)は、2歳下の妻の実家が母子家庭。だが、彼女は父親との関係は良好で結婚前に挨拶した際には、「娘のことをよろしくお願いします」と頭を下げられたとか。入籍後も年1~2回は自宅に招いて一緒に食事をしていた。
ところが、数年前に病気で帰らぬ人となり、ここで義父が元極道だったことを知る。遺体に和彫りの刺青が入っていたことに気づいてしまい、「今まで隠していてごめんなさい」と妻から打ち明けられたという。
◆温厚でいつも笑顔だった義父の知られざる過去
「戸籍上、義父母に婚姻関係はなく、『妻と子供に迷惑はかけたくない』との義父の強い意向だったそうです。妻が小学生のときに足を洗ったそうですが、それまで何度か刑務所に収監されていたらしく、最後に入った時に義父から切り出す形で義母と別れたそうです。ただ、仲違いしたわけではないため、妻だけでなく義母ともたまに会っていたと聞きました」
ちなみに義父は30代後半で組を抜けた後、知人のツテで建設会社に就職。亡くなる数年前に退職するまで真面目に働いていた。職場では同僚や若い社員からの信頼も厚かったそうで、「いつもニコニコしており、とても元極道の方には見えなかった」と話す。
「葬儀は義父のお兄さんが喪主を務めたのですが、当時はまだコロナ禍。そのため、身内だけの家族葬になったのですが、ウチの両親も飛行機の距離に住んでおり、母親は福祉施設で働いていたこともあって参列できませんでした。
少人数で見送ることになると思ったのですが、葬儀会場には強面の男性たちが次々と訪れ、20人近くはいたと思います。みなさん義父の昔からの知り合いらしく、現役か足を洗った方かはわかりませんが組員時代の関係者だとなんとなく察しました」
◆強面の男たちからの香典の多さにビックリ
ただし、全員が通夜、告別式が始まる前に会場を出てしまい、滞在していたのは10分程度。せっかく来てくれたので引き留めようとしたが、義父と同年代らしき初老の男性からは「私のような人間が長居してもご迷惑がかかりますから」と言われたそうだ。
なお、驚いたのは香典の金額。故人が仕事関係者や友人の場合、5000円~1万円が相場だが、全員が5万円や10万円、なかにはそれ以上包んでいた者もいたそうだ。
「義父のお兄さんや義母は平然としていましたが、私だけなく妻も金額の多さに驚いてる様子でした。義父が組員だったのは亡くなる四半世紀も前のことですが、当時はそこそこのポジションに就いていたそうです。辞めてからも付き合いがあったのかは知りませんが、義理事を欠かさない世界だと聞きますし、それがあちらの常識なのかもしれませんね」
そこで思い出すのは、結婚の際に義父からいただいたご祝儀。披露宴に本人は出席しなかったが、事前にいただいたご祝儀袋には50万円も入っていたからだ。
◆自分にとっては大切な義父であることには変わりない
「妻もちょっと引いていました(苦笑)。すぐに電話しましたが『このくらいしかできないから。それに娘には子供のころから苦労させたから』って。しかも、出産祝いも同じ50万円。正直すごく助かりましたが、妙に太っ腹なところがあったのは元極道だったからもしれないですね」
義母からも妻と同じように義父の過去について黙っていたことを詫びられたが、若山さんはまったく気にしていない。
「最初は驚きましたがあくまで過去の話。私にとっては優しい義父で、孫娘にデレデレのおじいちゃんでしたから。もちろん、人に言い触らす内容でもないため、葬儀に来られなかったウチの両親には言ってませんし、今後も話すつもりはありません。余計な波風を立てる必要はないので」
自分たちには優しくても違う一面や人には言えない過去を持っている者は少なくない。実際、暴力団関係者の数はこの数十年で激減している。本人は知らないだけで今回のエピソードように義父が元極道というケースは案外多いのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。
それでも一緒に暮らしていなかった父親(母親)との交流が続いているケースも多く、結婚や子供が生まれた際には祝ってくれたという人も多いだろう。
11年前に結婚した若山宏司さん(仮名・40歳)は、2歳下の妻の実家が母子家庭。だが、彼女は父親との関係は良好で結婚前に挨拶した際には、「娘のことをよろしくお願いします」と頭を下げられたとか。入籍後も年1~2回は自宅に招いて一緒に食事をしていた。
ところが、数年前に病気で帰らぬ人となり、ここで義父が元極道だったことを知る。遺体に和彫りの刺青が入っていたことに気づいてしまい、「今まで隠していてごめんなさい」と妻から打ち明けられたという。
◆温厚でいつも笑顔だった義父の知られざる過去
「戸籍上、義父母に婚姻関係はなく、『妻と子供に迷惑はかけたくない』との義父の強い意向だったそうです。妻が小学生のときに足を洗ったそうですが、それまで何度か刑務所に収監されていたらしく、最後に入った時に義父から切り出す形で義母と別れたそうです。ただ、仲違いしたわけではないため、妻だけでなく義母ともたまに会っていたと聞きました」
ちなみに義父は30代後半で組を抜けた後、知人のツテで建設会社に就職。亡くなる数年前に退職するまで真面目に働いていた。職場では同僚や若い社員からの信頼も厚かったそうで、「いつもニコニコしており、とても元極道の方には見えなかった」と話す。
「葬儀は義父のお兄さんが喪主を務めたのですが、当時はまだコロナ禍。そのため、身内だけの家族葬になったのですが、ウチの両親も飛行機の距離に住んでおり、母親は福祉施設で働いていたこともあって参列できませんでした。
少人数で見送ることになると思ったのですが、葬儀会場には強面の男性たちが次々と訪れ、20人近くはいたと思います。みなさん義父の昔からの知り合いらしく、現役か足を洗った方かはわかりませんが組員時代の関係者だとなんとなく察しました」
◆強面の男たちからの香典の多さにビックリ
ただし、全員が通夜、告別式が始まる前に会場を出てしまい、滞在していたのは10分程度。せっかく来てくれたので引き留めようとしたが、義父と同年代らしき初老の男性からは「私のような人間が長居してもご迷惑がかかりますから」と言われたそうだ。
なお、驚いたのは香典の金額。故人が仕事関係者や友人の場合、5000円~1万円が相場だが、全員が5万円や10万円、なかにはそれ以上包んでいた者もいたそうだ。
「義父のお兄さんや義母は平然としていましたが、私だけなく妻も金額の多さに驚いてる様子でした。義父が組員だったのは亡くなる四半世紀も前のことですが、当時はそこそこのポジションに就いていたそうです。辞めてからも付き合いがあったのかは知りませんが、義理事を欠かさない世界だと聞きますし、それがあちらの常識なのかもしれませんね」
そこで思い出すのは、結婚の際に義父からいただいたご祝儀。披露宴に本人は出席しなかったが、事前にいただいたご祝儀袋には50万円も入っていたからだ。
◆自分にとっては大切な義父であることには変わりない
「妻もちょっと引いていました(苦笑)。すぐに電話しましたが『このくらいしかできないから。それに娘には子供のころから苦労させたから』って。しかも、出産祝いも同じ50万円。正直すごく助かりましたが、妙に太っ腹なところがあったのは元極道だったからもしれないですね」
義母からも妻と同じように義父の過去について黙っていたことを詫びられたが、若山さんはまったく気にしていない。
「最初は驚きましたがあくまで過去の話。私にとっては優しい義父で、孫娘にデレデレのおじいちゃんでしたから。もちろん、人に言い触らす内容でもないため、葬儀に来られなかったウチの両親には言ってませんし、今後も話すつもりはありません。余計な波風を立てる必要はないので」
自分たちには優しくても違う一面や人には言えない過去を持っている者は少なくない。実際、暴力団関係者の数はこの数十年で激減している。本人は知らないだけで今回のエピソードように義父が元極道というケースは案外多いのかもしれない。
<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。