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牛角はなぜ炎上した「女性半額キャンペーン」を強行したか?焼肉店を悩ます“平日夜の集客”の難しさとは

日刊SPA! 2024年10月3日 15時51分

 人気の焼肉食べ放題。少しでもお得に食べようと、ネット上に氾濫する焼肉店情報やキャンペーン情報を収集する人々。焼肉は外食の中では高めだが、食べ放題ならリーズナブルな方である。
 重い食事だからそんなに頻繁に食べるものではないし、一か月に一度食べたら十分だろう。最近は、店側もネットを通じてすぐに情報を発信でき収集もリアルタイムだ。

 またSNSで自らの意見を発信できる環境に、店はメリットを感じながらも、神経過敏になるものである。今回、焼肉食べ放題で人気の牛角が「女性が食べ放題コースを注文すると半額」になるキャンペーンを実施し、SNSで男女差別だと炎上した。

 焼肉チェーン店で店舗数1位の牛角だから、世間からの影響は大きかったように思える。店側からすれば、ここまで大騒動になるとは想定してなかったはずである。

 なぜ女性だけが半額というキャンペーンを実施したのかという質問に、過去の追加点数の実績から、その科学的根拠を説明していたが、そこまで要求されるとは、今のSNSは怖い存在だ。

◆食べ放題店の性別・年齢別の価格設定は難しい

 どこの店も平日のディナーの集客に苦労しており、あの手この手で集客しようと、平日限定の企画を実施している。

 女性が集まれば男性も集まるということで、女性だけの割引を恒久的にレディースデーとして実施している店は多くある。女性だけを優遇している店は珍しくない。それとは別に、食べ放題を実施する店で年齢を基準に価格差をつけて安くする店が殆どだ。

 一般の人以外の割引価格の設定は難しく、子供料金やシニア料金については難しいところだ。それらは、過去のお客さんの追加シュミレーションを基に粗利ミックスを算定して検討する。

 店側も採算を考えた上、価格設定するが、その価格差もけっこう難しい。その際、子供料金やシニア料金の設定についてもお客さんが合理的に納得できる価格にしなければ、批判の的になるものだ。

 スポーツをしている小学生はよく食べるし、健康寿命が延びている中で最近の肉食シニアの肉の喫食量は凄まじいものだ。店も利益を確保しなければ店の存続が困難だから、あまりお客さんが得をするだけの価格には設定できない。

 ましてや、上昇を続ける諸費用が経営を苦しめている中では難しい。多くの店が食べ放題を実施するなど競争環境も厳しい中、店が設定する価格には限度がある。

 食べ放題を継続的に実施できなくなれば、お客さんの方が困るかもしれない。年齢別の割引料金は性善説に基づき、自己申告で注文を受け付けているから、微妙な人の扱いは難しい。

 例えば、幼児無料となっているが、本当に幼児か?、また、本当に小学生か?本当にシニアか?など、店側は最初の注文時に、一応確認するが、お客さんに身分証明書の提示を求めることはしない。それをすると、最初の段階でお互いが気まずくなるから、あくまでもお客さんの言うことを信じるしかないのである。

◆焼肉は高級というイメージを払拭した食べ放題店

 そもそも、焼肉は高いものというイメージが定着していたが、1991年の牛肉の輸入自由化をきっかけに、安く食べられるようになった。

 今となっては当たり前にある焼肉食べ放題も、仕入れ原価が低くなったから可能になった商品であり、食べ放題文化を30年以上に渡り浸透させたのである。

 そうやって焼肉食べ放題の店が全国に広まったことで、これまで贅沢な食事とされていた焼肉が、若者層でも容易に食べられるようになって、焼肉業界の成長は加速した。

 また、食べ放題の普及で、お客さんもいろいろな店に行って相当な学習をされ、店に対する要求水準も高くなった。店側もその要求に応えないと生き残れないから、必死に聞き入れ、それらを実現した店が競争上の差別的優位性を持てたのだろう。

 家族客や若者に人気の焼肉食べ放題も、2006年からテーブルオーダーバイキング方式を採用する店が出現し始め、品揃えも焼肉だけという単調なメニューではなく、サイドメニューも食べ放題のフルメニュー食べ放題(デザートは人数分かデザートコーナーで食べ放題)が標準になった。

 ますます食べ放題は中身を充実させて進化しているが、価格を維持することは困難になってきた。

 どの店も高くなり、安くて3000円税別、高い店は5000円税別が当たり前となってきた。 この価格では、この物価高で生活が苦しい人が増えている中、一般の人が焼肉に行くのが困難になるのは当然か。店側もあらゆるコストが上がるなど経営環境が悪化する中、これ以上の価格低下やサービス拡充は難しいのが実情で苦難の状況だ。

◆焼肉店は平日と週末の客入りが極端に違う。平日の集客策が肝要

 そもそも、外食店はあまりにも平日のディナー時間帯が入らないから、店を継続させるのに苦労している。店は人なりで、アルバイト比率の高い外食は人の管理が難しい。

 売上の増減に対する調整弁となり変動費的要素であるアルバイトも、あまり時間をカットしたら、辞めてしまう。また新たな人を雇用するのは大変な手間と育成コストがかかるから、暇な日でもある程度の時間保証をしてあげて、離反防止に努めることが必要だ。

 そのためにも平日にお客さんに来てもらう企画を実施しないといけない。何もせずに経費を削減するのみの店もあるが、やはり店をやる以上は、店内を活性化させることが肝要だ。

 以前、男女関係なく、平日半額を実施していた焼肉店もあった。週末が休日という人が多い中、極端なことをするなと思っていたが、続かなかったのは当然であった。

 平日に行ったら安く食べれて、週末に行ったら通常料金という不公平感から不満が噴出したと聞く。焼肉店は、週末は行列ができるくらい盛況だが、平日は閑散としているのが現実だ。

 そういった曜日指数が極端すぎる焼肉店は、運営管理にメリハリはつけられるものの、売上の平準化を目指したい店側の思惑がある。その為に、平日にさまざまなキャンペーンを実施し、集客力を強化しているのである。

 筆者も自ら焼肉店を経営していたから、この平日と週末の売上の違いは、心と体がついていかず苦労したものだ。

 ディナーだけで採算が取れている焼肉店なら、それだけで十分だが、平日のディナーが入らない分、ランチ営業して売上を補完するのである。

 もちろん、ランチをやることにより、食材の有効活用ができる(ディナー時の余りや端材を有効活用して食材ロスが削減)、ディナーへの広告宣伝費になる、同じ家賃を払うなら店をフル稼働させて支払い負担が軽減できる、現金払いが多いので資金繰りが助かるなどのメリットもあるが、できれば効率的に稼ぎたいからディナーに経営資源を集中させたい店は多いはずだ。

◆平日のディナー対策の企画には細心の注意が必要

 特別な店を除き、平日に単価が高いディナーレストランには、あまりお客さんは入らないのは今に始まったものではない。コロナ収束後は、多くのインバウンド客が来店してくれ、観光地や繁華街の飲食店を中心に賑わっているから助かっているようだ。

 だから、よほどお得感があるキャンペーンでなければ、需要が喚起できないのが実情だ。昔と違って今のお客さんは外食慣れした人が多く、店を見る目のレベルが高いから、なかなか集客が難しい。

 お祝い事やハレの日に限定されるのが、高単価のディナーだが、その特需はなかなか呼び込めない。そういう事情もあり、平日にキャンペーンを実施して集客するのである。

 しかし、今回の平日の女性半額キャンペーンで、ここまでバッシングを受けるとは驚きだ。今の時代、キャンペーンを実施する際は、細心の注意が必要だということを学習させられた店は多いだろう。

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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