中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
インテリア雑貨などを販売するFrancfrancが、「アイン薬局」を展開するアインホールディングスに買収されました。およそ500億円でアインが全株を取得します。
Francfrancは20代から30代の女性にファンが多いブランドですが、長きに渡って成長しきれなかったという過去があります。買収を機に成長軌道へと乗せることができるのでしょうか。
◆消費者に対して幅広い選択肢を提示できる
アインは調剤薬局だけでなく、「アインズ&トルペ」というコスメに特化した店舗を展開しています。今回の買収によって、インテリア雑貨とコスメという異なる商品カテゴリーのブランドが連携することとなり、消費者に対して幅広い選択肢を提示できるようになります。
具体的には、Francfrancにコスメ関連の商品を陳列し、顧客はスタンド型ミラーとリップを同時に購入。顧客満足度を上げると同時に、会社としての収益性を高めるといったものです。
「アインズ&トルペ」によるリテール事業の売上高は全体の8%ほど。Francfrancの取得によって、リテールは16%まで高まります。将来的には構成比率を20~30%まで引き上げる計画です。
◆Francfranc上場廃止後の売上成長は限定的?
ドラッグストアチェーンにおけるコスメカテゴリーは、マツキヨココカラ&カンパニーが圧倒的な強さを持つ領域。「アインズ&トルペ」が女性の支持層が厚いFrancfrancのブランドを巧みに活用することができれば、苛烈を極めるドラッグストア業界に風穴を開けることになるかもしれません。
アインは2024年9月4日に上半期の業績予想の上方修正を発表し、売上高を従来予想比7.0%増の2136億円、営業利益を同1.9%増の67億円に引き上げました。
ただし、Francfrancの成長は長らく停滞気味。
この会社はもともとバルスという社名で東証一部に上場していました。しかし、2012年1月にMBO(経営陣による買収)で上場廃止となっています。
上場廃止前の2011年1月期の売上高は333億円。アインに買収される前の2023年8月期の売上高は394億円。2021年8月期からの売上成長スピードはコロナ禍からの回復で速いものの、中長期的には伸びていません。
なお、「無印良品」の良品計画は2011年2月期の売上高が1697億円で、2023年8月期が5814億円でした。3.4倍に拡大しています。
◆非上場化した目的の一つである「海外展開の失敗」
上場廃止を決めた当時のバルスは、2010年1月期と2011年1月期が減収減益。経営環境が悪化していました。日本の成長余力が乏しいことを問題視しており、アジア圏への出店を強化して業績を拡大しようと計画していました。
TOBには三菱商事などが出資をし、総額158億円で非公開化を果たしました。
ところが、わずか1年後の2013年に中国からの撤退を決定。上海には2010年12月に進出し、最盛期は3店舗ありました。中国では2012年に日本製品の不買運動が激化。その影響をもろに受けたようです。
韓国にも出店していましたが、撤退を余儀なくされています。ちなみに韓国も2013年に不買運動が行われていました。
Francfrancが海外からの撤退を進めていたちょうどそのタイミングで、セブン&アイ・ホールディングスが、バルスへの出資を決定します。TOBに参加していた三菱商事の持株を取得したのです。
◆業績が急悪化し、名物社長が経営の第一線から…
セブン&アイはイトーヨーカドーやアリオなどのショッピングセンターにFrancfrancを出店し、シナジー効果を高めようとしていました。
潮目が大きく変わったのが2021年。投資ファンドの日本成長投資アライアンスが、出資するファンドを通してFrancfranc(バルスは2017年9月に社名をFrancfrancに変更)の株式を取得しました。株式を一部譲渡したのがセブン&アイ。
Francfrancは新型コロナウイルス感染拡大の影響により、業績が急悪化したものと考えられます。
このタイミングで、創業者かつカリスマ社長だった高島郁夫氏が引退。MBOの主体者が抜けることとなったのです。Francfrancは業績を立て直すために人員削減などを進めていましたが、名物社長が経営の第一線から身を引きました。
バルスは160億円ほどで非上場化していたため、高島氏が経営の手綱を握ってコロナ禍を乗り越え、再上場するというシナリオもあったはず。しかし、役員から外れたこの時点でIPOよりもM&Aというシナリオが色濃くなっていたのかもしれません。
◆アクティビストに目をつけられていたアイン
Francfrancの全株を取得したアインホールディングスは、セブン&アイ・ホールディングスに対して恩義があります。
2024年3月にアインの株式9.60%をアクティビストのオアシスが保有していたことが判明。その後14.89%まで高めて影響力を強めました。そして、オアシスはアインの企業統治などを問題視し、社外取締役の解任を求めたのです。
セブン&アイはアインの株式を8%保有する大株主。アインはセブン&アイとの協業を強化して収益性を高めるなどと説明して、株主からの賛同を集めていました。
Francfrancの買収には500億円を投じていますが、同社の2023年8月末時点の純資産は74億円ほどで、営業利益は25億円。成長性に期待しているのか、比較的高い評価額をつけています。セブン&アイは15%程度のFrancfranc株を保有しており、すべてアインに売却しました。
今回の買収劇で中心的な役割を果たしたのは、投資ファンドの日本成長投資アライアンスで間違いないでしょう。アインの本業とのシナジー効果、成長戦略との整合性、セブン&アイの関係性を熟慮し、すぐれた采配を振るった様子がうかがえます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
インテリア雑貨などを販売するFrancfrancが、「アイン薬局」を展開するアインホールディングスに買収されました。およそ500億円でアインが全株を取得します。
Francfrancは20代から30代の女性にファンが多いブランドですが、長きに渡って成長しきれなかったという過去があります。買収を機に成長軌道へと乗せることができるのでしょうか。
◆消費者に対して幅広い選択肢を提示できる
アインは調剤薬局だけでなく、「アインズ&トルペ」というコスメに特化した店舗を展開しています。今回の買収によって、インテリア雑貨とコスメという異なる商品カテゴリーのブランドが連携することとなり、消費者に対して幅広い選択肢を提示できるようになります。
具体的には、Francfrancにコスメ関連の商品を陳列し、顧客はスタンド型ミラーとリップを同時に購入。顧客満足度を上げると同時に、会社としての収益性を高めるといったものです。
「アインズ&トルペ」によるリテール事業の売上高は全体の8%ほど。Francfrancの取得によって、リテールは16%まで高まります。将来的には構成比率を20~30%まで引き上げる計画です。
◆Francfranc上場廃止後の売上成長は限定的?
ドラッグストアチェーンにおけるコスメカテゴリーは、マツキヨココカラ&カンパニーが圧倒的な強さを持つ領域。「アインズ&トルペ」が女性の支持層が厚いFrancfrancのブランドを巧みに活用することができれば、苛烈を極めるドラッグストア業界に風穴を開けることになるかもしれません。
アインは2024年9月4日に上半期の業績予想の上方修正を発表し、売上高を従来予想比7.0%増の2136億円、営業利益を同1.9%増の67億円に引き上げました。
ただし、Francfrancの成長は長らく停滞気味。
この会社はもともとバルスという社名で東証一部に上場していました。しかし、2012年1月にMBO(経営陣による買収)で上場廃止となっています。
上場廃止前の2011年1月期の売上高は333億円。アインに買収される前の2023年8月期の売上高は394億円。2021年8月期からの売上成長スピードはコロナ禍からの回復で速いものの、中長期的には伸びていません。
なお、「無印良品」の良品計画は2011年2月期の売上高が1697億円で、2023年8月期が5814億円でした。3.4倍に拡大しています。
◆非上場化した目的の一つである「海外展開の失敗」
上場廃止を決めた当時のバルスは、2010年1月期と2011年1月期が減収減益。経営環境が悪化していました。日本の成長余力が乏しいことを問題視しており、アジア圏への出店を強化して業績を拡大しようと計画していました。
TOBには三菱商事などが出資をし、総額158億円で非公開化を果たしました。
ところが、わずか1年後の2013年に中国からの撤退を決定。上海には2010年12月に進出し、最盛期は3店舗ありました。中国では2012年に日本製品の不買運動が激化。その影響をもろに受けたようです。
韓国にも出店していましたが、撤退を余儀なくされています。ちなみに韓国も2013年に不買運動が行われていました。
Francfrancが海外からの撤退を進めていたちょうどそのタイミングで、セブン&アイ・ホールディングスが、バルスへの出資を決定します。TOBに参加していた三菱商事の持株を取得したのです。
◆業績が急悪化し、名物社長が経営の第一線から…
セブン&アイはイトーヨーカドーやアリオなどのショッピングセンターにFrancfrancを出店し、シナジー効果を高めようとしていました。
潮目が大きく変わったのが2021年。投資ファンドの日本成長投資アライアンスが、出資するファンドを通してFrancfranc(バルスは2017年9月に社名をFrancfrancに変更)の株式を取得しました。株式を一部譲渡したのがセブン&アイ。
Francfrancは新型コロナウイルス感染拡大の影響により、業績が急悪化したものと考えられます。
このタイミングで、創業者かつカリスマ社長だった高島郁夫氏が引退。MBOの主体者が抜けることとなったのです。Francfrancは業績を立て直すために人員削減などを進めていましたが、名物社長が経営の第一線から身を引きました。
バルスは160億円ほどで非上場化していたため、高島氏が経営の手綱を握ってコロナ禍を乗り越え、再上場するというシナリオもあったはず。しかし、役員から外れたこの時点でIPOよりもM&Aというシナリオが色濃くなっていたのかもしれません。
◆アクティビストに目をつけられていたアイン
Francfrancの全株を取得したアインホールディングスは、セブン&アイ・ホールディングスに対して恩義があります。
2024年3月にアインの株式9.60%をアクティビストのオアシスが保有していたことが判明。その後14.89%まで高めて影響力を強めました。そして、オアシスはアインの企業統治などを問題視し、社外取締役の解任を求めたのです。
セブン&アイはアインの株式を8%保有する大株主。アインはセブン&アイとの協業を強化して収益性を高めるなどと説明して、株主からの賛同を集めていました。
Francfrancの買収には500億円を投じていますが、同社の2023年8月末時点の純資産は74億円ほどで、営業利益は25億円。成長性に期待しているのか、比較的高い評価額をつけています。セブン&アイは15%程度のFrancfranc株を保有しており、すべてアインに売却しました。
今回の買収劇で中心的な役割を果たしたのは、投資ファンドの日本成長投資アライアンスで間違いないでしょう。アインの本業とのシナジー効果、成長戦略との整合性、セブン&アイの関係性を熟慮し、すぐれた采配を振るった様子がうかがえます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界