パチスロ台の設定状況を把握している店長から高設定台を聞き、一日打って儲けたお金を店長と山分けする。そんな、お店や客に対して裏切りといえる行為を数年に渡って行っていたという米山 武さん(仮名・47歳)。しかも、それらを組織化して会社のように運営していたというから驚きである。
そこで今回は、当時行っていた活動内容から店バレ対策、さらには実際にプレイする「打ち子」への報酬など、生々しいお話を赤裸々に語ってもらった。
◆店長を誘い込む方法
米山さんが雇っていた打ち子を“パチンコ店のサクラ”だと思う人も多いだろう。しかし米山さん曰く、本来は「自店を優良店だとアピールするために、客のふりをして遊技する人のこと」を“サクラ”と呼ぶとのこと。自身がやっていた「店長が第三者と組んで、自分の懐にカネを入れる行為」は、いわゆる“サクラ”とは少し違うモノだと語る。
「僕らがやっていたのは、お小遣いを欲しがっている店長を抱き込んで設定を教えてもらい、その台で抜きまくって店長と分け合うということ。だから、その店のオーナーさんからしたら“害”でしかない存在なので、本来の『サクラ』とはちょっと違うんですよね。その店を運営する会社にバレる可能性もゼロではないので、実際にプレイする『打ち子』は徹底的に教育しつつ、活動自体も完全に組織化していました」
お店主導で行う“サクラ”と違い、主に店長個人と手を組んで行っていたわけだが、その関係性はどのように構築するのだろうか。
「知り合いの販売会社(遊技台の販売代理店)の人に頼んで、店長に話を持ち掛けてもらっていました。販社の人は、店からすると“外部の人間だけど店長との距離が近い”ので、近づきやすい存在なんですよね。そうすると話に乗ってくる店長が一定数いるんですよ。『あの店やりそうだよ』って、販社の人が教えてくれるので、その後、電話で店長に詳細を説明します」
◆店長のリスクも事前に説明
興味を持った店長が現れると具体的な話をするわけだが、良い話ばかりではなく、必ずリスクの話もしつつ、その対策方法に関して完璧にプレゼンしていたそうだ。
「店長が一番気にするのが『バレたらクビになって捕まるんじゃないか?』という点。だから、バレるパターンを全て提示し、その対策方法を説明します。例えば、普段のやり取り用の携帯を渡すのですが、いざという時の携帯の壊し方まで丁寧に教えていました。もちろん遊技台にインチキをしているワケではないので、設定表をコピーしているところの動画などの“決定的な証拠”がない限り、捕まることはほぼないんですよ」
とにかく想定される不安材料を全て取り除いてあげることが大事だという。さらに、必ず事前にルールを決めるのが米山さんの流儀だった。
「始める前に必ず目標金額と期間を決めます。『2年間で1千万円』とか『1年間、毎月のお給料に○○万円上乗せ』といった感じで。そして、『その間はお金を貯める期間だと思って散財はしないでください』とアドバイスしていました。やはり、周りの人はある程度は店長の給料を知っているワケで、急に羽振りが良くなったら怪しまれますからね。人間って、目標があって終わりが見えてくると、そこに向かって努力するんです。でも、終わりがないと永遠に『もっと、もっと』となって、ズルズルやっちゃう。それがバレるパターンの一つなので」
◆お店の状況や店長のニーズを最優先
また、「打ち子を何人派遣するか」ということに関しても、その時のお店の状況や店長のニーズに合わせて柔軟に対応。場合によっては、設定6が大量に入っていても、あえて1人も派遣しないこともあったという。
「お店の規模や、その時の状況によって高設定を何台入れられるか異なるので、常にそのニーズに合わせて打ち子を派遣していました。例えば、小さめのお店で設定6を1台しか入れられないなら1人、大きなお店で5台入れられるなら5人という感じで。ただ、大量に設定6が入るときは全ての台は押さえず、一部は一般のお客さん用に空けて置きます。ときには、大量に設定6を入れるけど1人も打ち子を入れない、なんて日も作ってバランスを取っていました」
◆どんなに負けても打ち子に払う日当は
次に気になるのが一日中実戦する打ち子の報酬。基本的には開店から22時過ぎまで打ち、22時以降は切りのいいところで上がるという決まりになっていたそうだが……。
「やり始めの頃は『4割打ち』というシステムでやっていました。4割とは“勝った金額の中で打ち子がもらえる割合のこと”です。打ち子が4割、店長に5割、残りの1割は手数料として僕、というか会社として貰っていました。なにかあったときのためのお金はプールしておかないといけないし、たまに打ち子を集めて食事会をしたりするのに使う、ようは運営費ですよね。ちなみに店長側の5割は、店長が販社の人間に手数料を渡していました。その割合の詳細は知りませんが、おそらく店長4割、販社1割が主流だと思いますよ」
だが、時代の流れと共に設定6でも勝ちづらくなったこともあり、新たな報酬制度を導入することになる。
「5号機になった時、やっぱり設定6を打っても負けることがありました。ただ、そうなると担当する機種によって公平性が欠けてしまいます。その不満が組織の崩壊に繋がるので、固定給の部分を新たに作りました。最低保証という形で、どんな結果であっても必ず1万5千円は払うと。先ほどの4割計算で1万5千円に満たなかった場合、例えば一日打って1万円負けだったら、投資分の1万円と合わせて2万5千円払うといった感じですね」
◆研修制度を導入し徹底的に育成
実戦中に打ち子が不自然な行動をとると当然バレる可能性が高まる。そこで米山さんは、ホールに派遣する前にきっちりと研修を行い、パチスロというモノを頭に叩き込ませていた。
「打ち子に関しては徹底的に教育しましたね。なるべく、パチスロを打っているうえで興奮する部分を体感させないと、適当なことをやっちゃう人が出てくるので。それもあって、報酬を完全固定ではなく4割制にしていたんです。雑な打ち方をしていると小役を取りこぼしたりしますが、4割が自分のモノになるって考えると、意識を持ってやっている子はしっかり打ってくれる。それが傍から見ると『アイツ上手いな、設定も狙えているし』となるので、結果的にバレにくくもなります」
報酬を完全固定ではなく、4割にすることで打ち子のモチベーションが上がり、真面目に打つようになるという。
「打ち子は大学生をメインにしていたのですが、やっぱりお金的には良い仕事だから、メンバーの子が友達を紹介したいなんてこともあるんです。それで、パチスロを全く知らない人が来た場合は、面接をした後にゲームセンターに行って、打ち方や楽しみ方を徹底的に教えました。大学生なのでみんな器用で飲み込みは早かったですね」
◆今でもサクラは存在しているのか
今は完全に、この仕事から足を洗っているという米山さん。やめた理由としては、やはりパチスロの出玉規制、5号機への移行が大きく影響し、作業内容や人件費を考えた際に割に合わなくなったからだという。
だが、最後にこう付け加えていた。「今はこういった店長の不正に厳しくなっている店が多くなり、特に大手のホールはこんなことできないと思いますが……。今でもこのようなグループはいるかもしれません」と。アナタのマイホには、毎回高設定を掴んでいるお客さんがいたら、もしかするとその人がサクラなのかもしれません。
取材・文/サ行桜井
【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。
そこで今回は、当時行っていた活動内容から店バレ対策、さらには実際にプレイする「打ち子」への報酬など、生々しいお話を赤裸々に語ってもらった。
◆店長を誘い込む方法
米山さんが雇っていた打ち子を“パチンコ店のサクラ”だと思う人も多いだろう。しかし米山さん曰く、本来は「自店を優良店だとアピールするために、客のふりをして遊技する人のこと」を“サクラ”と呼ぶとのこと。自身がやっていた「店長が第三者と組んで、自分の懐にカネを入れる行為」は、いわゆる“サクラ”とは少し違うモノだと語る。
「僕らがやっていたのは、お小遣いを欲しがっている店長を抱き込んで設定を教えてもらい、その台で抜きまくって店長と分け合うということ。だから、その店のオーナーさんからしたら“害”でしかない存在なので、本来の『サクラ』とはちょっと違うんですよね。その店を運営する会社にバレる可能性もゼロではないので、実際にプレイする『打ち子』は徹底的に教育しつつ、活動自体も完全に組織化していました」
お店主導で行う“サクラ”と違い、主に店長個人と手を組んで行っていたわけだが、その関係性はどのように構築するのだろうか。
「知り合いの販売会社(遊技台の販売代理店)の人に頼んで、店長に話を持ち掛けてもらっていました。販社の人は、店からすると“外部の人間だけど店長との距離が近い”ので、近づきやすい存在なんですよね。そうすると話に乗ってくる店長が一定数いるんですよ。『あの店やりそうだよ』って、販社の人が教えてくれるので、その後、電話で店長に詳細を説明します」
◆店長のリスクも事前に説明
興味を持った店長が現れると具体的な話をするわけだが、良い話ばかりではなく、必ずリスクの話もしつつ、その対策方法に関して完璧にプレゼンしていたそうだ。
「店長が一番気にするのが『バレたらクビになって捕まるんじゃないか?』という点。だから、バレるパターンを全て提示し、その対策方法を説明します。例えば、普段のやり取り用の携帯を渡すのですが、いざという時の携帯の壊し方まで丁寧に教えていました。もちろん遊技台にインチキをしているワケではないので、設定表をコピーしているところの動画などの“決定的な証拠”がない限り、捕まることはほぼないんですよ」
とにかく想定される不安材料を全て取り除いてあげることが大事だという。さらに、必ず事前にルールを決めるのが米山さんの流儀だった。
「始める前に必ず目標金額と期間を決めます。『2年間で1千万円』とか『1年間、毎月のお給料に○○万円上乗せ』といった感じで。そして、『その間はお金を貯める期間だと思って散財はしないでください』とアドバイスしていました。やはり、周りの人はある程度は店長の給料を知っているワケで、急に羽振りが良くなったら怪しまれますからね。人間って、目標があって終わりが見えてくると、そこに向かって努力するんです。でも、終わりがないと永遠に『もっと、もっと』となって、ズルズルやっちゃう。それがバレるパターンの一つなので」
◆お店の状況や店長のニーズを最優先
また、「打ち子を何人派遣するか」ということに関しても、その時のお店の状況や店長のニーズに合わせて柔軟に対応。場合によっては、設定6が大量に入っていても、あえて1人も派遣しないこともあったという。
「お店の規模や、その時の状況によって高設定を何台入れられるか異なるので、常にそのニーズに合わせて打ち子を派遣していました。例えば、小さめのお店で設定6を1台しか入れられないなら1人、大きなお店で5台入れられるなら5人という感じで。ただ、大量に設定6が入るときは全ての台は押さえず、一部は一般のお客さん用に空けて置きます。ときには、大量に設定6を入れるけど1人も打ち子を入れない、なんて日も作ってバランスを取っていました」
◆どんなに負けても打ち子に払う日当は
次に気になるのが一日中実戦する打ち子の報酬。基本的には開店から22時過ぎまで打ち、22時以降は切りのいいところで上がるという決まりになっていたそうだが……。
「やり始めの頃は『4割打ち』というシステムでやっていました。4割とは“勝った金額の中で打ち子がもらえる割合のこと”です。打ち子が4割、店長に5割、残りの1割は手数料として僕、というか会社として貰っていました。なにかあったときのためのお金はプールしておかないといけないし、たまに打ち子を集めて食事会をしたりするのに使う、ようは運営費ですよね。ちなみに店長側の5割は、店長が販社の人間に手数料を渡していました。その割合の詳細は知りませんが、おそらく店長4割、販社1割が主流だと思いますよ」
だが、時代の流れと共に設定6でも勝ちづらくなったこともあり、新たな報酬制度を導入することになる。
「5号機になった時、やっぱり設定6を打っても負けることがありました。ただ、そうなると担当する機種によって公平性が欠けてしまいます。その不満が組織の崩壊に繋がるので、固定給の部分を新たに作りました。最低保証という形で、どんな結果であっても必ず1万5千円は払うと。先ほどの4割計算で1万5千円に満たなかった場合、例えば一日打って1万円負けだったら、投資分の1万円と合わせて2万5千円払うといった感じですね」
◆研修制度を導入し徹底的に育成
実戦中に打ち子が不自然な行動をとると当然バレる可能性が高まる。そこで米山さんは、ホールに派遣する前にきっちりと研修を行い、パチスロというモノを頭に叩き込ませていた。
「打ち子に関しては徹底的に教育しましたね。なるべく、パチスロを打っているうえで興奮する部分を体感させないと、適当なことをやっちゃう人が出てくるので。それもあって、報酬を完全固定ではなく4割制にしていたんです。雑な打ち方をしていると小役を取りこぼしたりしますが、4割が自分のモノになるって考えると、意識を持ってやっている子はしっかり打ってくれる。それが傍から見ると『アイツ上手いな、設定も狙えているし』となるので、結果的にバレにくくもなります」
報酬を完全固定ではなく、4割にすることで打ち子のモチベーションが上がり、真面目に打つようになるという。
「打ち子は大学生をメインにしていたのですが、やっぱりお金的には良い仕事だから、メンバーの子が友達を紹介したいなんてこともあるんです。それで、パチスロを全く知らない人が来た場合は、面接をした後にゲームセンターに行って、打ち方や楽しみ方を徹底的に教えました。大学生なのでみんな器用で飲み込みは早かったですね」
◆今でもサクラは存在しているのか
今は完全に、この仕事から足を洗っているという米山さん。やめた理由としては、やはりパチスロの出玉規制、5号機への移行が大きく影響し、作業内容や人件費を考えた際に割に合わなくなったからだという。
だが、最後にこう付け加えていた。「今はこういった店長の不正に厳しくなっている店が多くなり、特に大手のホールはこんなことできないと思いますが……。今でもこのようなグループはいるかもしれません」と。アナタのマイホには、毎回高設定を掴んでいるお客さんがいたら、もしかするとその人がサクラなのかもしれません。
取材・文/サ行桜井
【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。