こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
関節の摩耗は40代から加速していきます。現在の医療では、加齢でヒザや股関節の軟骨がすり減ると再生させることができません。平均寿命と健康寿命の差は10年と言われますが、できれば痛みとは無縁で生きていたいものです。今回は、シニアシューズ選びで多くの人がまちがっていることについて指摘していきます。
いま、歩くことができるうちに、覚えておくべきことがあります。それはまず、とにかく歩く習慣を身に着けることです。歩くことは足~脚だけでなく、全身の筋肉を使い、心肺機能も免疫も鍛えられるので、健康管理には最高の手段です。しかし歩けば、関節はすり減ります。次にやるべきことが一つ、関節に優しい靴を選ぶことです。
当たり前のようですが、多くのシニアは、通称「横チャック靴」と呼ばれるような、完全に時代遅れの靴をいまだに履いています。街中で横チャック靴を見かけると、そのほとんどは開きっぱなし。小さいファスナーのつまみを引き上げるのが困難なので、「着脱しやすそう」というのは誤りなのです。不安定な状態で歩行していると簡単に転びます。きちんとファスナーを閉めても、負荷が1点にかかり、本体より先に壊れます。靴選びを間違えるとすべて台無しになってしまいます。
◆60歳になったら歩く習慣が身につく「メレル・ジャングルモック」
60歳を超えた方にまずお勧めなのは、世界で累計1700万足を売り上げたメレルのジャングルモックです。仕事から旅行まで違和感なく使えて、なによりスリッポンなので玄関にあるだけで「履いて、歩く」習慣が身につきます。
習慣づくりを邪魔する一番のハードルは、実は「靴を履くこと」なのです。シューフィッターの立場から言えば、紐を都度きっちり結んで歩くべきなのですが、紐そのものがシニアにとってはハードルになっています。しゃがんで、紐を解いて結ぶ時点で、もうすでに腰や膝が痛いわけで……。さっと履けることが、とにかく重要なのです。
ジャングルモックは、1998年に発売されて以降、マイナーチェンジをくりかえし、現行モデルはもっとも滑りづらく、耐久性も抜群。毎日履いても5年以上は持ちます。表面のピッグスキンスエードにはなめしの段階ではっ水加工がされ、雨や泥にも強い。意外と知られていないのがヒール内部のエアクッションです。踵骨(しょうこつ)の真下の内部にかなり大きめの衝撃吸収材が仕込まれており、これが効きます。筆者の父は60代から80になったつい先日まで、20年以上こればかり履いていましたが、体に目立ったトラブルもなく、北国の冬でもこれ1足で通していました。ABCマートなど量販店でいつでも入手できるのも嬉しいところです。
◆オンの「クラウドティルト」が40代以降の足元をサポート。デザインが秀逸!
40代からは急激に「変形性膝関節症」といってヒザの軟骨が減っていきます。50代からは「脊柱管狭窄症」、背骨・腰の神経に骨が当たる症状が統計的に増えてきます。加齢によるものなので仕方がありませんが、痛みをより少なく、より歩きやすくするならスイスのオンがおすすめ。新作の「クラウドティルト」なら安定して歩けます。
オンはチューブ状に穴の開いたソールで有名です。このモデルは「歩き」に特化してコンピューター解析によってデザインされた独特な穴なので、穴のつぶれをそのまま推進力に変えます。極上の街履き、といったところでしょうか。普段のウォーキングから旅行まで、幅広く使えます。歩きに特化した靴はどのスポーツメーカーからも発売されていますが、このモデルを推す理由はひとつ、脱ぎ履きがしやすいことです。
ゴム紐を使用し、ベロも外見からはわかりませんが、本体と一体化しています。ノーマルの靴紐に替えることもできるのですが、オンの魅力はとりあえず足を入れやすいこと。どんな性能のいい靴でも、紐を適当に結んだり、履くのが億劫になってしまっては元も子もありません。まず、履かせる。履けば、勝手に歩けるようになる。ここまでかゆいところに手が届くメーカーはほかに見当たりません。くわえてミニマルデザインで、年寄りっぽくない。シニアシューズには見た目も重要です。かっこよく年を重ねていきたいものです。
◆ヒザの負担ゼロへ。ハンズフリー「ミズノ・ユウドウBT」
手を使わず履ける、いわゆるハンズフリー靴が流行りですが、シニア寄りで一番出来がいいと思えるのがミズノの「ユウドウBT」。
ハンズフリー靴は今やワークマンからナイキまで、あらゆるメーカーがつくっていますが、玉石混合で、足が入りやすいと、甲が高くて脱げやすい。甲を抑えようとすると、足が入らないといった矛盾を抱えています。その点を国内の雄、ミズノが解決しました。履き口周りの広さ・ゴムバンドによる甲の抑えが絶妙で、この位置に、この圧力で、ということまでがミリ単位で綿密に計算しています。今風の厚底が不安定で苦手という方にも、この靴は薄底ですがソール全体にクッション・安定性抜群の特殊素材を使い、ハイテク技術満載の一足です。
幅も3Eの広さで偏平足の方でもOK、片足250グラム前後とスマホ並みの軽さ。ちょっとそのあたりの散歩から、本格的なノルディックウォーキングまでカバーできます。ブランドのロゴも目立たず、「運動靴感」がそれほどありません。スポーツメーカーの大きいロゴって子供っぽく見えますからね。
このモデルは3層構造のソールでヒザのトラブルを狙い撃ちにしています。簡単にいえばヒザに負担のかからない歩き方に誘導してくれます。だから名前も「ユウドウ」。バンドはついていますがゴムなのでずぼっと脱ぎ履きができますし、長距離を歩くときでもワンタッチで締めることができます。
20年ほど前までは、シニア靴=ダサい、履きづらい、本格的なものは高かったのですが、今は歩くことをどのメーカーも真剣に考えるようになりました。機能は十分なので、あとは玄関にあると「思わずそればっかり履いてしまう」という靴さえ見つけてしまえば健康寿命はのびていくに違いありません。気分の上がるお気に入りの1足を見つけてください。
<文/シューフィッターこまつ>
【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」
関節の摩耗は40代から加速していきます。現在の医療では、加齢でヒザや股関節の軟骨がすり減ると再生させることができません。平均寿命と健康寿命の差は10年と言われますが、できれば痛みとは無縁で生きていたいものです。今回は、シニアシューズ選びで多くの人がまちがっていることについて指摘していきます。
いま、歩くことができるうちに、覚えておくべきことがあります。それはまず、とにかく歩く習慣を身に着けることです。歩くことは足~脚だけでなく、全身の筋肉を使い、心肺機能も免疫も鍛えられるので、健康管理には最高の手段です。しかし歩けば、関節はすり減ります。次にやるべきことが一つ、関節に優しい靴を選ぶことです。
当たり前のようですが、多くのシニアは、通称「横チャック靴」と呼ばれるような、完全に時代遅れの靴をいまだに履いています。街中で横チャック靴を見かけると、そのほとんどは開きっぱなし。小さいファスナーのつまみを引き上げるのが困難なので、「着脱しやすそう」というのは誤りなのです。不安定な状態で歩行していると簡単に転びます。きちんとファスナーを閉めても、負荷が1点にかかり、本体より先に壊れます。靴選びを間違えるとすべて台無しになってしまいます。
◆60歳になったら歩く習慣が身につく「メレル・ジャングルモック」
60歳を超えた方にまずお勧めなのは、世界で累計1700万足を売り上げたメレルのジャングルモックです。仕事から旅行まで違和感なく使えて、なによりスリッポンなので玄関にあるだけで「履いて、歩く」習慣が身につきます。
習慣づくりを邪魔する一番のハードルは、実は「靴を履くこと」なのです。シューフィッターの立場から言えば、紐を都度きっちり結んで歩くべきなのですが、紐そのものがシニアにとってはハードルになっています。しゃがんで、紐を解いて結ぶ時点で、もうすでに腰や膝が痛いわけで……。さっと履けることが、とにかく重要なのです。
ジャングルモックは、1998年に発売されて以降、マイナーチェンジをくりかえし、現行モデルはもっとも滑りづらく、耐久性も抜群。毎日履いても5年以上は持ちます。表面のピッグスキンスエードにはなめしの段階ではっ水加工がされ、雨や泥にも強い。意外と知られていないのがヒール内部のエアクッションです。踵骨(しょうこつ)の真下の内部にかなり大きめの衝撃吸収材が仕込まれており、これが効きます。筆者の父は60代から80になったつい先日まで、20年以上こればかり履いていましたが、体に目立ったトラブルもなく、北国の冬でもこれ1足で通していました。ABCマートなど量販店でいつでも入手できるのも嬉しいところです。
◆オンの「クラウドティルト」が40代以降の足元をサポート。デザインが秀逸!
40代からは急激に「変形性膝関節症」といってヒザの軟骨が減っていきます。50代からは「脊柱管狭窄症」、背骨・腰の神経に骨が当たる症状が統計的に増えてきます。加齢によるものなので仕方がありませんが、痛みをより少なく、より歩きやすくするならスイスのオンがおすすめ。新作の「クラウドティルト」なら安定して歩けます。
オンはチューブ状に穴の開いたソールで有名です。このモデルは「歩き」に特化してコンピューター解析によってデザインされた独特な穴なので、穴のつぶれをそのまま推進力に変えます。極上の街履き、といったところでしょうか。普段のウォーキングから旅行まで、幅広く使えます。歩きに特化した靴はどのスポーツメーカーからも発売されていますが、このモデルを推す理由はひとつ、脱ぎ履きがしやすいことです。
ゴム紐を使用し、ベロも外見からはわかりませんが、本体と一体化しています。ノーマルの靴紐に替えることもできるのですが、オンの魅力はとりあえず足を入れやすいこと。どんな性能のいい靴でも、紐を適当に結んだり、履くのが億劫になってしまっては元も子もありません。まず、履かせる。履けば、勝手に歩けるようになる。ここまでかゆいところに手が届くメーカーはほかに見当たりません。くわえてミニマルデザインで、年寄りっぽくない。シニアシューズには見た目も重要です。かっこよく年を重ねていきたいものです。
◆ヒザの負担ゼロへ。ハンズフリー「ミズノ・ユウドウBT」
手を使わず履ける、いわゆるハンズフリー靴が流行りですが、シニア寄りで一番出来がいいと思えるのがミズノの「ユウドウBT」。
ハンズフリー靴は今やワークマンからナイキまで、あらゆるメーカーがつくっていますが、玉石混合で、足が入りやすいと、甲が高くて脱げやすい。甲を抑えようとすると、足が入らないといった矛盾を抱えています。その点を国内の雄、ミズノが解決しました。履き口周りの広さ・ゴムバンドによる甲の抑えが絶妙で、この位置に、この圧力で、ということまでがミリ単位で綿密に計算しています。今風の厚底が不安定で苦手という方にも、この靴は薄底ですがソール全体にクッション・安定性抜群の特殊素材を使い、ハイテク技術満載の一足です。
幅も3Eの広さで偏平足の方でもOK、片足250グラム前後とスマホ並みの軽さ。ちょっとそのあたりの散歩から、本格的なノルディックウォーキングまでカバーできます。ブランドのロゴも目立たず、「運動靴感」がそれほどありません。スポーツメーカーの大きいロゴって子供っぽく見えますからね。
このモデルは3層構造のソールでヒザのトラブルを狙い撃ちにしています。簡単にいえばヒザに負担のかからない歩き方に誘導してくれます。だから名前も「ユウドウ」。バンドはついていますがゴムなのでずぼっと脱ぎ履きができますし、長距離を歩くときでもワンタッチで締めることができます。
20年ほど前までは、シニア靴=ダサい、履きづらい、本格的なものは高かったのですが、今は歩くことをどのメーカーも真剣に考えるようになりました。機能は十分なので、あとは玄関にあると「思わずそればっかり履いてしまう」という靴さえ見つけてしまえば健康寿命はのびていくに違いありません。気分の上がるお気に入りの1足を見つけてください。
<文/シューフィッターこまつ>
【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」