人生100年時代の折り返し地点で、人は多くの問題に直面する。親の介護や病気、夫婦仲の冷え込み、子供の問題……。クリアが困難な“無理ゲー”の数々をどう解決すればいいか? 令和の家族メンテナンス法を探った。
◆家庭内で妻や娘に疎外され鬱を発症
3世代家族が一般的だったのは遠い昔。核家族化を経て、令和の家族像は様変わりしている。同時に、家族が抱える問題は多様化している。
太田涼平さん(仮名・55歳)は、家庭内で疎外感を覚えたことをきっかけに、2年前から家族と別居状態にある。
「妻とは次女が生まれてから10年以上のレスで、求めても『触らないで』と拒絶されるようになりました。夜勤の多い仕事なので生活リズムが合わず、娘とのコミュニケーションも皆無。私はいわゆるADHDで、人との距離の取り方がおかしいようで……妻や娘から言動が気持ち悪いと言われることも。そのストレスから鬱になってしまい、家に帰っても部屋に閉じこもるようになりました」
◆家族と別居の引き金になったのは…
別居の引き金になったのは、妻のスマホを盗み見たことだ。
「夫婦仲をどうにかしたい一心で、妻のLINEから娘のママ友の連絡先を調べて、『妻の不満を聞いてあげてほしい』と連絡したら、それがバレてしまったんです。妻からは『そんな気持ち悪いことする人とは住めない。出ていけ』と言われて、母親が一人で暮らす実家に逃げ込みました」
だが、実家で待っていたのは80代の母親の介護だった。
◆痛みで奇声を上げる80代母と眠れぬ夜を
「要介護1で認知症もないですが、腰が悪くて歩行器が手放せない生活なんです。だから食事や洗濯、掃除など身の回りの世話は僕がやらないといけない。母は夜中に体の痛みで『ぎゃぁぁ!』と奇声を発するので、満足に睡眠も取れない日もあります」
また別の問題で、経済的にも困窮している。
「別居後に妻から『実家なら家賃も生活費もいらないでしょ』と言われ、自分の通帳と印鑑を持っていかれてしまったんです。別居前の小遣いは月4000円だったのですが、それもなくなって……。休日に日雇いのアルバイトをしながら食い繫いでいます」
◆かつての家族を取り戻すために取った行動は…
現在、娘たちに連絡しても返信はなし。家族の溝は深いままだが、太田さんは、なんとかかつての家族を取り戻そうともがいている。
「先月、YouTubeで弱いメンタルを激変させるというカウンセラーを見つけたんです。数日前に30万円の講習料を振り込みました。お金を稼ぐ、人にモテる、人生を好転させる……そんなメンタルに自分を変えて、また家族と家庭を取り戻したい」
高額セミナーが事態を好転させるきっかけとなるのか……?
◆そもそもの問題はコミュニケーション不足にあり
不安は募るが、そもそもの問題はコミュニケーション不足にある可能性が。横浜ファミリーカウンセリングオフィスの松本尚子氏が話す。
「月に100組ほどの夫婦のカウンセリングを行っていますが、家族不和の原因の多くがコミュニケーション不足。太田さんはその典型で、奥さんが何を求めているのかわからないまま、ご自身でよかれと思って取った行動が不和を招いている印象です。ご自身を変えたいというお気持ちはわかりますが、まずは奥さんと話し合うべきです。うまく気持ちや意見を伝えられない場合は、カウンセラーなどを交えて話し合うのも一つの手」
太田さんが家族を取り戻すには時間を要しそうだ。
◆太田家が直面する難題
①性生活・性格の不一致で別居
10年以上のレスに加え、太田さんに対する奥さんの嫌悪感が爆発して、2年前から別居。
②家庭内での疎外感から鬱気味に
太田さんに対する奥さんの不信感がピークに達し、娘にも波及し孤立。その影響でメンタルを病むことに。
③80代の実母の介護
要介護1で介護負担はそれほど重くないが、夜勤の仕事をしながら食事の用意などを一人で行う。
◆松本氏が指摘する家族のメンテナンス法
介護と夫婦仲を切り分けて話し合う
配偶者は結局のところ他人です。相手のことをわかったつもりになることからトラブルになりがち。まず話し合い、お互いに求めていることを確認しましょう。介護の問題は夫婦関係と切り分け、どのような課題があるかを洗い出してから専門家に相談して介護負担を減らす方法を考えるべきです。
【横浜ファミリーカウンセリングオフィス 松本尚子氏】
家庭裁判所の調査官として20年勤務した経験を生かして、夫婦・親子・家族関係のカウンセリングに従事。臨床心理士の資格も有する
取材・文/週刊SPA!編集部
※10月8日発売の週刊SPA!特集「[無理ゲー家族]と生きる」より
―[[無理ゲー家族]と生きる]―
◆家庭内で妻や娘に疎外され鬱を発症
3世代家族が一般的だったのは遠い昔。核家族化を経て、令和の家族像は様変わりしている。同時に、家族が抱える問題は多様化している。
太田涼平さん(仮名・55歳)は、家庭内で疎外感を覚えたことをきっかけに、2年前から家族と別居状態にある。
「妻とは次女が生まれてから10年以上のレスで、求めても『触らないで』と拒絶されるようになりました。夜勤の多い仕事なので生活リズムが合わず、娘とのコミュニケーションも皆無。私はいわゆるADHDで、人との距離の取り方がおかしいようで……妻や娘から言動が気持ち悪いと言われることも。そのストレスから鬱になってしまい、家に帰っても部屋に閉じこもるようになりました」
◆家族と別居の引き金になったのは…
別居の引き金になったのは、妻のスマホを盗み見たことだ。
「夫婦仲をどうにかしたい一心で、妻のLINEから娘のママ友の連絡先を調べて、『妻の不満を聞いてあげてほしい』と連絡したら、それがバレてしまったんです。妻からは『そんな気持ち悪いことする人とは住めない。出ていけ』と言われて、母親が一人で暮らす実家に逃げ込みました」
だが、実家で待っていたのは80代の母親の介護だった。
◆痛みで奇声を上げる80代母と眠れぬ夜を
「要介護1で認知症もないですが、腰が悪くて歩行器が手放せない生活なんです。だから食事や洗濯、掃除など身の回りの世話は僕がやらないといけない。母は夜中に体の痛みで『ぎゃぁぁ!』と奇声を発するので、満足に睡眠も取れない日もあります」
また別の問題で、経済的にも困窮している。
「別居後に妻から『実家なら家賃も生活費もいらないでしょ』と言われ、自分の通帳と印鑑を持っていかれてしまったんです。別居前の小遣いは月4000円だったのですが、それもなくなって……。休日に日雇いのアルバイトをしながら食い繫いでいます」
◆かつての家族を取り戻すために取った行動は…
現在、娘たちに連絡しても返信はなし。家族の溝は深いままだが、太田さんは、なんとかかつての家族を取り戻そうともがいている。
「先月、YouTubeで弱いメンタルを激変させるというカウンセラーを見つけたんです。数日前に30万円の講習料を振り込みました。お金を稼ぐ、人にモテる、人生を好転させる……そんなメンタルに自分を変えて、また家族と家庭を取り戻したい」
高額セミナーが事態を好転させるきっかけとなるのか……?
◆そもそもの問題はコミュニケーション不足にあり
不安は募るが、そもそもの問題はコミュニケーション不足にある可能性が。横浜ファミリーカウンセリングオフィスの松本尚子氏が話す。
「月に100組ほどの夫婦のカウンセリングを行っていますが、家族不和の原因の多くがコミュニケーション不足。太田さんはその典型で、奥さんが何を求めているのかわからないまま、ご自身でよかれと思って取った行動が不和を招いている印象です。ご自身を変えたいというお気持ちはわかりますが、まずは奥さんと話し合うべきです。うまく気持ちや意見を伝えられない場合は、カウンセラーなどを交えて話し合うのも一つの手」
太田さんが家族を取り戻すには時間を要しそうだ。
◆太田家が直面する難題
①性生活・性格の不一致で別居
10年以上のレスに加え、太田さんに対する奥さんの嫌悪感が爆発して、2年前から別居。
②家庭内での疎外感から鬱気味に
太田さんに対する奥さんの不信感がピークに達し、娘にも波及し孤立。その影響でメンタルを病むことに。
③80代の実母の介護
要介護1で介護負担はそれほど重くないが、夜勤の仕事をしながら食事の用意などを一人で行う。
◆松本氏が指摘する家族のメンテナンス法
介護と夫婦仲を切り分けて話し合う
配偶者は結局のところ他人です。相手のことをわかったつもりになることからトラブルになりがち。まず話し合い、お互いに求めていることを確認しましょう。介護の問題は夫婦関係と切り分け、どのような課題があるかを洗い出してから専門家に相談して介護負担を減らす方法を考えるべきです。
【横浜ファミリーカウンセリングオフィス 松本尚子氏】
家庭裁判所の調査官として20年勤務した経験を生かして、夫婦・親子・家族関係のカウンセリングに従事。臨床心理士の資格も有する
取材・文/週刊SPA!編集部
※10月8日発売の週刊SPA!特集「[無理ゲー家族]と生きる」より
―[[無理ゲー家族]と生きる]―