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4割が“赤字”経営…「美容室」の倒産が急増。節約志向の高まりで客単価減の現実

日刊SPA! 2024年10月16日 8時53分

 東京商工リサーチの2024年5月の発表によると、美容室の倒産が急増している。コロナ禍で在宅勤務やテレワークが浸透し、対面での感染リスクの回避から顧客が来店を控え、厳しい環境にあった美容室。今年1~4月の「美容室」倒産は46件(前年同期比48.3%増)と、2015年以降で最多記録を更新した。
◆赤字が4割!さらなる倒産や廃業も

 コロナが収束し、客足は回復傾向のあるものの、経営が厳しい美容室は多く、2023年度における美容室の業績を見ると、赤字企業が約4割を占めている。矢野経済研究所の調査によると、2024年度の理美容サロン市場は2兆930億円と予測される。その内訳は、理容サロン市場が5946億円、美容サロン市場が1兆4984億円である。

 ちなみに厚労省統計によると2022年3月末時点の美容室は26万4223件、美容師は56万1475人、理容室は11万4403件、理容師は20万6747人だった。もともと過小資本が多く開業しやすいなど参入障壁が低くて店舗数も多いため、競争も激しい。円安に伴う美容資材の価格上昇、人件費や光熱費の高騰などの運営上の弊害要因も重なっている。

 コロナ支援金の打ち切り以降、資金繰りは限界に達し、倒産・廃業する店が増えてきていた。ゼロゼロ融資で何とか繋いでいた店も、本格的な返済が始まり、売上の回復が遅い店は返済不能な状態だ。今後も収益面・財務面で脆弱な美容室のさらなる倒産や廃業が増えそうだ。

◆景気に左右される身だしなみ

 景気のいい頃は、お金と心に余裕があり、身だしなみに意識を持ち、気をつけていた人も多いだろう。しかし、美容室代は生活する上での費用として削りやすく、コロナ過の外出制限でその動きが顕著になった。

 行動制限がなくなっても美容室への客足の回復は鈍いようである。お客側は来店回数を1か月に1度から、2か月に1度などにし、オプションサービスも減らすなどの工夫をしている。パーマなど高単価の付加価値メニューの注文も減少しており、客単価減少の主因だ。

 外見より節約を優先する女性も増えており、特に働く女性は人と触れ合う機会が多くなった今、必要最低限の美容費用のやりくりは大変そうだ。

◆固定客が支えていたかつての美容室

 かつては美容師の指名制で固定客を抱えていた美容室。今は、お客さんの店を選定する基準が厳しく、①低価格、②仕上がりの良さ、③店の雰囲気と接客が決定要因らしい。固定化が難しく、流動的なお客の確保に知恵を絞っているようだ。

 カットやカラーなどで滞留時間が約1.5時間かかるだけに店の雰囲気も重要だが、やはりいかに安く済ませるかが重要で、お客は予約サイトやアプリで割引率や付加サービスでお得感あるクーポンを探すのに必死のようだ。

 美容師を指名する際、指名料金が必要か否かも店の選択に重要な要素だ。美容センサス(2023年度)によると、美容室における女性客の単価は前年と横ばいで7293円、年間利用回数はコロナ禍から回復の兆しがあり、4.32回となっている。

◆収入減で美容師の現状も厳しい

 美容師の現状も厳しいようで、思うような収入が得られていないのが実情だ。美容師と雇用契約を締結しない美容室も多く、船井総研の調査によると美容師のフリーランスは全国で8万人(2020年)。美容師全体の人数が約54万人だから、約15%の美容師がフリーランスである。

 しかし、フリーランス美容師のほとんどはコロナ禍の売上急減で苦しんでいるように思える。筆者が支援をしていたある方は、確定申告書を拝見したが、その収入の少なさに驚愕した。仕事が激減したために生活費用が捻出できないくらいに収入が減った窮状を目の当たりにした。

 美容院の倒産だけでなく、フリーランス美容師の廃業も深刻な問題だ。ある男性美容師は、老人ホームへの出張サービスや訪問カットで何とか生計を立てているが、先行きの不透明感から不安で仕方ないと嘆いておられた。

◆美容業界の人手不足は常態化

 美容室の人手不足は常態化しており、10年以内の離職率が90%とも推計されている。約8割の美容室で常に人手不足である。ハローワークによると、美容師の有効求人倍率は5.66倍(2022年)で、全国の有効求人倍率(パートを含む)の1.39倍の約4倍と高い状態だ。

 美容師は労働時間も長く、休日も少ないなど、サービス産業の中でも劣悪の労働環境の店が多い。美容専門学校を卒業して入った店で、勤務が終了しても技術力向上に向けた練習をしなければならいなど拘束時間が長い。筆者が以前入居していたビル内にも、美容室があり、学校を卒業したばかりの新人さんが夜遅くまで練習していた。

 修業期間は平均10年間で、それを終えた後、店舗を構えて独立するか、自分の裁量で働くフリーランス美容師になる人が多いようだ。美容師は資格を取ったらすぐに施術できる訳ではなく、下積みとして知識・経験・技術・コミュニーケーション能力を蓄積することが必要で、それらが備わって初めて活躍の場が与えられる。

 美容室は個人店のオーナーが大多数の業界である。フリーランスには①業務委託型サロン、②シェア型サロンがある。フリーか、指名のお客かで割合が変わるが、売上の40~50%が報酬となるという。

◆業務委託型、シェア型の違いとは?

 1つ目の「業務委託型」の場合は、サロンの一員として働くこととなり、そこの顧客を施術するため、美容師自らが集客をする必要はない。また働き方や労働時間なども自由度が高く、複数の美容室を兼務することも可能だ。自分が頑張った分、収入も増えるからモチベーションが高まる。

 しかし、コロナのように不測の事態が発生し、仕事がなくなった時、誰も給料保証をしてくれないからリスクは大きい。業務委託する美容室側のメリットは、①労働基準法が適用されないから、お互いが納得した自由な条件で契約できる、②税金や保険の手続きを行う必要がない、③売上の増減に応じ人件費を変動費化できるとのことだ。

 2つ目の「シェアサロン型」はより独立開業に近く、シェアルームのように使用料を払って自由にサロンを使用することができる。メリットは自由裁量に基づく働き方が自由で、指名客が多い場合は業務委託型よりも稼げること。また、仲介者がないから、収益の還元率も高めである場合が多い。

 メニューや料金も自らの裁量で決められ、自己のブランド力が高く顧客提供価値が高ければ、料金を高めに設定でき、顧客の固定化も可能だ。業務で使用する備品や薬剤などの消耗品の費用負担は、自らがしなければいけないのがデメリットのようだ。

◆美容師不足解消に大手の取り組み

 人手不足で機会損失の発生に苦しむ美容室業界。今後、好待遇を求めて労働環境が整った店舗に人材が集まると予測されるから早急に改善しなければならない。一例を挙げると、10分間の身だしなみをキャッチフレーズに、全国展開する理美容所でもあるヘアカット専門店「QBハウス」(キュービーネット)。

 スタイリスト3000人以上を有し、それらを原動力として、最大店舗数691店舗(国内563店舗)、ヘアカット専門店市場1位、総合理美容市場1位を誇っている。業界に革新的サービスをもって参入し、1998年、ニュービジネス大賞も受賞している東証プライム上場企業だ。

 同社も、昨年未払い残業代を請求される裁判を提訴されたり、使用者責任で疑義が生じる行為をしていたとして、違法性を指摘されている(問題があったのは直轄店ではない、業務委託店)。それらの反省を踏まえ、今は、スタイリストのやりがいの創出を目的に、能力・意欲の喚起と納得する賃金・労務システムの改善に向け、注力しているとのことで、改善効果を期待して見ていきたい。

 劣悪な労働環境がイメージされる美容業界で、適正な労務管理が徹底されない個人経営店はますます美容師不足が顕著となり、存続が不可能になるかもしれない。労働環境改善への真摯な取り組みをアピールし、ぜひとも人への投資に力を入れる店にしていただきたい。

◆美容室の倒産・廃業が多い訳

 美容室の倒産が増加する理由としては、経営に対する美容師の知識不足も一因にある。技術があれば繁盛するという時代ではない。いかにお客さんを集め、サービスに対する満足度を高め、再来店を促す一連の業務プロセスの価値向上が大切だ。

 ストアコンセプトを明確にし、戦略と管理の一体的推進による経営力を徹底しなければならない。最近は集客と予約方法も進化しており、インスタグラムのDM機能を有効に活用し、予約もアプリやラインを活用する流れになっている。

 美容師の提供価値は目に見えない無形であり、また、外観だけではイメージできない店内雰囲気やスタイリストの技術力・接客力をアピールするためにも、インスタグラムは必須だ。それを効果的に活用しなければ集客力は強化できない。

◆今後の生き残り戦略は?

 美容室を取り巻く環境は厳しい。外部環境では、将来の国民負担率の上昇に備えて生活防衛のための節約志向が浸透している。その結果、ヘアースタイルなど外見を気にする余裕のない人、美容に使うお金を減らすため少しでも安い美容室を探す人も増えている。

 低価格の美容室の需要が高まる中、美容室に通う回数や単価も低下しているのが現況である。内部環境では美容師の人手不足が運営に影響している。労働集約型の美容業界では、美容師の良し悪しが栄枯盛衰の分岐点だけに力を入れなければならない。

 美容師の能力と意欲を喚起し、技術力と接客力の向上に向け、過酷な労働環境や給与の見直しが求められる。それら内外部環境の変化を踏まえ、自らの方向性を明確にし、生き残り策を講じねばならない。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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