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“ワケあり”専門の不動産屋に聞く、賃貸契約のウラ側。「審査に落ちる人」が利用する“アリバイ屋”とは

日刊SPA! 2024年10月17日 15時53分

今夏の配信開始から人気の衰えないNetflixの『地面師たち』。不動産業界の広さと深さに衝撃を受ける作品だが、もちろん地面師以外にもワケあり不動産関係の企業は多く存在している。ナイトワーカーをメインにするワケあり不動産屋を経営するA氏(30代後半)に話を聞いた。
◆“ワケあり”専門の不動産

A氏が経営する新宿区にある不動産屋には、水商売・風俗・ホストをはじめ、非正規雇用者(バイト・派遣)や芸能界を目指す人にスタートアップ企業の社長など、賃貸契約がしにくいとされる人たちが駆け込む。

「20代前半で高利貸しの世界に飛びこみ、後に不動産業の扉をたたき、それから13年携わってきました。メイン事業の傍らで細々と賃貸物件の紹介業も行ない、ナイトワーカーたちの賃貸契約の経験やノウハウが身についてきたので、こちらに本腰を入れることにしました」

◆裏ワザに必須なアリバイ屋とは

A氏がナイトワーカーたちの賃貸契約に自信がある理由は、アリバイ屋を利用しているためだ。アリバイ屋とは何をする会社なのか? ここで少し整理しよう。

一般的に賃貸を探す時は不動産屋で物件を紹介してもらい、内見をして気に入ったら申し込みへと進む。次に、保証会社等の審査を受けて、通れば晴れて契約へとなる。

しかし、前述した賃貸契約がしにくい人たちは、保証会社の審査で落ちることが多々ある。そこで登場するのがアリバイ屋だ。

「物件によっては、ナイトワーカーの審査を受け付けている場合と受け付けていない場合があるため、後者だとアリバイ屋を利用することになります。そして、アリバイ屋がお客様の属性や希望にあった仮の会社を用意して、その会社に在籍する会社員ということで契約するんです」

提案するのは、アリバイ屋が提携している実在する会社だ。利用者の特技や趣味、また引っ越し先のエリアに合わせて選ぶ。仮に美容に詳しい人なら美容系の会社、新宿に引っ越したい人なら新宿近辺にある会社といった具合だ。会社の規模から選ぶこともできる。

なんともグレーな商売だが、A氏によると東京都内にアリバイ屋は複数存在し、また必要とする人も後を絶たないという。警察からは、「必要悪として黙認されている」と推測している。

「警察も、アリバイ屋がいないと引っ越しできない人がいると知っているのでしょう。僕自身は職業に対する差別はありませんが、どの業界でも、どうしようもない人や変わった人は一定数いると思いますが、それが夜の商売だと、より目立ってしまうんです。世間からも冷たい目で見られやすく、その結果として賃貸契約がしにくくなっているのが現状です」

◆アリバイ屋を利用するメリットとは

客層柄、アリバイ屋との関わりが多いため、審査が通りやすい保証会社と通りにくい保証会社や審査に通りにくい人の特徴などが分かってきた。審査を落ちてしまう一般人は、ブラックリストに入っているケースが多いという。

「以前は、大家さんと借主との信頼関係が重視されていましたが、今は保証会社でもCICを確認できるため、この信用情報が重視されるようになりました。ローンの返済履歴などから家賃滞納の心配がないかなどを判断されます。そのため、大手企業の社員であっても、ブラックリストに入っていれば審査に落ちてしまうんです」

ほかにも、身分証明書で落ちる人もまれにいるという。

「あまり知られていませんが、実は運転免許証の番号の最後の一桁は免許証を再発行した回数になっています。なので、最後の一桁が大きい数字の場合は、反社チェックに回されます。そこで犯罪履歴などが見つかると審査は通りませんし、犯罪履歴がなかったとしても、信用に値しないと判断されやすい傾向にあるようです」

近年は、物件のオーナーや管理会社などの利益を守ることを重視しており、入居者のことはあまり考えられてないのが実情だ。昔、テレビで見た「売れない若手時代に、大家さんに謝って、家賃を何カ月も滞納させてもらっていた」という人情話は、今の都心では、もうない。

また、基本的には審査を通るまでチャレンジするが、審査に通りにくい人や落ち続けている人に対しては、通りやすい保証会社を利用している物件を紹介するなどの工夫もしているという。

◆新たな問題「違法メンズエステ営業」の取り締まり

どうしようもない人や変わった人が多い業界をメインにしている不動産屋なので、ニュースで報道されるような事件や事故はつきものだ。最近のホットな事件といえば、風営法違反の摘発が多い違法メンズエステ営業(以下、メンズエステ)だ。

「ある日、30代くらいの男性が引っ越しをするのにアリバイ屋を使いたいとやって来ました。無職で引っ越しされることも不思議ですし、自らアリバイ屋を利用したいという方はとても珍しいので、何となく怪しみながら契約を進めました」

無事に郊外の1Kタイプの部屋を契約できたが、数カ月後に突然管理会社から連絡が入った。

「『お宅が紹介してくれたお客様が、メンズエステをやってた』と。やはり、そういうことをしていた人だったかと思いました」

メンズエステ営業に気づいたきっかけは防犯カメラだった。不特定多数の出入りを確認したオーナーが立ち入った際に、ほぼ裸に近い姿の女性がいて、問い詰めたところメンズエステ営業をしていたと判明した。

「退去日に立会ったんですが、管理会社とオーナーさんが大変ご立腹で……。お客様の方も荷物を出す時にわざと壁にぶつけるといった嫌がらせをされて、それでまたオーナーさんがお怒りになったりして、見ているこっちはヒヤヒヤものでした。後日談として、退去日にオーナーさんがスタッフから売り上げを取り上げたために、お客様がわざと子どもじみたことをしたと聞きました。本当かどうかはわかりませんけどね(苦笑)」

◆メンズエステ店に場所を貸した不動産屋も逮捕された

メンズエステについては、「最近増えている」程度の認識しか持っていない人も多いだろう。しかし実際には、不動産屋生命を脅かす危険性の高い犯罪なのだとA氏はいう。

「今年の夏に、メンズエステ店の経営者が逮捕される事件がありましたが、その後に、メンズエステの営業目的と知りながら、住居目的と偽って賃貸契約をしたということで不動産屋の社長が逮捕されました。実はこの流れって、特殊詐欺事件と同じなんですよ」

特殊詐欺事件がニュースになった当初は、内情が不鮮明だったために違反者を取り締まるだけだった。やがて内情が明るみになり、社会問題に発展すると、「アジトとなる場所を貸し出した不動産屋も悪いのではないか」、「もしかしたら、不動産屋も犯罪組織とグルなのではないか」という憶測が飛び交いはじめた。

「社会問題を背景とする間口の縮小化は仕方ないです。この事件以降、メンズエステ営業が目的の場合は物件の紹介を断るようしました。ただ、お客様から虚偽の申告をされても見抜くことはなかなか難しいですし、追求もしにくいので、これといった対策ができないまま間口を狭めないといけないのは、経営者としてとてもツライですね」

◆捜査一課からの電話に冷や汗

メンズエステ以外にも、行方不明者の情報提供依頼などで月に1度は警察から連絡が来るという。

「組織犯罪対策課と捜査二課からの連絡が多いのですが、一度、捜査一課から呼び出されたことがあります。捜査一課といえば、殺人などの強行犯捜査や誘拐などの特殊犯捜査を担当している課です。めちゃくちゃ焦りましたね」

呼び出しの理由は、A氏の不動産屋とアリバイ屋の利用者が、ある殺人事件の捜査線上に容疑者として浮上したとのことだった。

「ただし、物的証拠がないので、警察側もどうにも動けなくて、最後の頼みの綱でうちに連絡したそうです。でも、そのお客様とは賃貸契約以外の接点は全くなかったので、すぐに話は終わりました」

◆根本的な解決のための次の道を模索

通常の不動産業務とは別に、こういったトラブル対応にも追われる毎日。最近、感じるのは、「賃貸契約のしにくい人々を助け続けるのはいいけれど、根本的な解決にはなっていない」という歯がゆさだ。

「色々とハードルはありますが、僕自身がオーナーになって、ナイトワーカーたちに物件を貸し出せたらと考えています。あとは、マネーリテラシーの教育や資産運用の仕方も教えられたらいいですね。

 というのも、ナイトワーカーたちが賃貸契約しにくいという状況はすぐには変えられないので、ちゃんとお金に関する知識を得て、申告や管理もきちんとやって、自分で自分の財産を守れるようになってほしいです。そして、職業に関係なく、誰もが安心して暮らせる部屋を手にいれられる。そんな社会になってほしいですね」

<取材・文/安倍川モチ子>

【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa

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