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朝ドラ『おむすび』不評の一因は“超大物アーティストの主題歌”とのミスマッチ?感じた“違和感”の正体

日刊SPA! 2024年10月19日 8時53分

◆朝ドラ『おむすび』不評のワケは?
 朝ドラ『おむすび』が不評です。視聴率は9月30日の初回放送で記録した16.8%がピークで、10月14日の放送では12.6%まで落としています。SNS上では早々に脱落したとの声が続出し、検索サジェストにも「おむすび つまらない」が最初に出てくる状況です。

 そんな『おむすび』の主題歌は、B’zの「イルミネーション」。平成のギャルが主人公ということで、その時代を代表する超大物アーティストが初めて朝ドラに楽曲を提供しました。

 ところが、こちらも評判が芳しくありません。とはいえ、曲自体への批判というよりも、ドラマのつまらなさに曲が被害を受けていると主張する声がほとんどでした。“B’zが無駄遣いされている”とか、“オープニングの編集がダサすぎて曲が残らない”と散々な言われよう。

 筆者も映像を見てみましたが、ハシカンとB’zの組み合わせはしっくりきませんでした。“平成のギャル”という動かせないお題があって、おふざけを排除して精魂込めて作った官僚的なパロディ動画といったシュールな雰囲気なのです。

◆「平成=ギャル」も「平成=B’z」も間違いではないけど…

 平成をモチーフにするのにギャルとB’zを持ってくるのは間違いではありません。当時青春時代を過ごした人ならば誰もが納得する組み合わせでしょう。にもかかわらず、違和感が際立ってしまいました。一体なぜなのでしょうか?

 筆者は、そもそもB’zの“新曲”でなければいけなかっただろうか、と考えます。平成を舞台に、平成の景色を描くのであれば、やはりその時代の空気感がつまった昔のB’zをそのまま使えばよかったのではないか。

「イルミネーション」は、3連シャッフルの明るい曲調です。B’zのポップセンスが最も発揮されるタイプの楽曲で、ミリオンヒットとなった「love me, I love you」や「Wonderful Opportunity」(アルバム『IN THE LIFE』収録)と同じパターンを持っています。

 しかしながら、時代は令和6年。B’zの二人も還暦を過ぎています。その彼らが過去を遡って、自分たちをなぞるようなサウンドを展開しているのがもどかしいのですね。朝ドラ用にマイルドなアレンジが施されているとはいえ、やはり30年前とは歌詞、メロディ、リズムなどのあらゆる面で反射神経もキレも違う。あの鋭さこそがB’zの体現した“平成”なのだとすれば、「イルミネーション」は平成を表せていないと言わざるを得ないのです。

 年を取ることが悪いと言っているのではありません。興味の対象が変わり、肉体も感性も成熟しきった60代のB’zによる新曲で平成を体現することに、そもそも無理があるという話なのです。

 圧倒的な目力とオーラをまとった橋本環奈のビジュアルとの間にギャップが生まれるのも、むべなるかな。絵とサウンドのベクトルが一致していないのです。

◆『虎に翼』主題歌との決定的な違い

 これをドラマも主題歌も好評だった『虎に翼』と主題歌「さよーならまたいつか!」(米津玄師)の関係と比べるとわかりやすいでしょう。綿密な対話を経てオファーした制作陣の熱意を超える理解力を発揮した米津の楽曲制作と、イメージ、ビジュアル、箱庭の世界観を満たすことが先行した「イルミネーション」とでは、全く質感が異なっています。

 もちろん、そのような外面を整えることが軽薄だという意味ではありません。それならそれで、よりディテールを突き詰める仕上げが重要になってくるということなのです。そのキーファクターとして、あの時代にしか鳴らせなかった鋭利なポップセンスがある。それは1990年代のB’zだからこそなし得たものであり、いまの彼らができることでも、すべきことでもない。

 だからこそ、昔のヒット曲をそのまま使ったほうがドラマが描きたい雰囲気を醸し出せるし、またB’zへのリスペクトも示せるのではないか、と言いたいのです。

 それほどまでに流行歌には拭いきれない時代の空気、生活の痕跡が残っているのです。

 と、ここまで書いてきて、B’z以上に違和感を感じる要素があることに気づきました。それは橋本環奈のギャル役です。あんなに貫禄たっぷり落ち着き払ったギャルなんていないし。

 というわけで、筆者はいつか橋本環奈にイタリアのジョルジャ・メローニ首相を演じていただきたいと、切に願っております。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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