過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2023年12月17日 記事は取材時の状況) * * *
長引く不況の影響で大手企業を中心に「早期退職」を募るケースが増えている。“退職金の上乗せ”などの優遇策はあれども、そこで手を挙げるべきか難しいところだ。早期退職後、生活が一変することは想像にかたくないが、今回は明暗わかれた2人のケースを紹介しよう。
◆同僚と築き上げてきたプロジェクトが一瞬で崩壊
大手IT企業に入社し、プログラミングに喜びを感じていた30代半ばに「早期退職者の募集」が始まったと話す北山浩二さん(仮名・40代)。
「プログラマーとして順風満帆な生活でしたが、突然上司から『吸収合併により部署が整理され、早期退職の選択肢が用意されている』と告げられたんです」
これまでチームとして築き上げてきたことが、一瞬にして崩れ去る。
「同僚たちとはとても仲がよく、私の周りでも“退職を希望する人”が多かったと思います。会社側からは転勤をすすめられましたが、転勤先では、私のやりたい仕事ができないことが分かったので退職することを選びました」
◆「定年まで働くべきだった」と後悔
退職を選んだ理由のひとつは、将来の展望を考慮した結果だった。
「“Chat GPT”などの存在が注目されており、私は経験を生かして新たな環境でチャレンジしてみたいという思いが強くなっていきました」
しかし、この挑戦は、生活全般に大きなリスクを伴うことになったようだ。
「再就職先もIT系の企業でした。でも、給料面では前職の同僚との差が大きく、なかなかモチベーションが上がりません。なにより、人間関係を一から築くことの難しさを痛感しました」
北山さんは、今でも前職のような職場環境で「定年まで働くべきだった」と後悔する瞬間があるのだとか。
「退職を考えるときは、将来の展望だけではなく、具体的な計画やリスクも検討することが重要だと気付きました。新たな環境に身を置くことは簡単ではありません。慎重に踏み出さなければ、後悔することもあるんです」と、不安を隠しきれない様子だった。
働いていくうえでは「人間関係」がなによりも大事なのかもしれない。
◆上司を退職に追い込む「部下の逆パワハラ」
一方、退職したことで人間関係のストレスから解放され、充実した日々を送れるようになったケースも。
高校を卒業後、大手食品メーカーに30年ほど勤務した山崎充さん(仮名・50代)は、「係長」という役職に就きながら「早期退職」を決意した。その原因は、異動先での“部下からの逆パワハラ”だった。
「今までとは勝手が異なる現場に配属になり、部下から仕事を教わっていたのですが、毎日罵声を浴びせられていたのです。部下は役職に合う仕事を私に覚えさせるために指導しているつもりでしたが、私は次第に、会社に行くのが苦しくなりました」
上司はその状況に無関心で誰も助けてくれない。山崎さんは精神的に追い詰められていったという。そして、「早期退職制度」を利用し、自己都合により退職することにした。
◆1000万円入金された通帳にワクワク
早期退職して良かったことがあったという山崎さん。
「有給休暇を消化して、社会人になってから初めて長い休息期間を設けられたこと。そして、今までの人生を振り返れたこと。生い立ちから現在に至るまでの自分のストーリーを書き出してみました。エンディングノートのようなかたちですね。また、生きているいちにやりたいことのリスト(バケットリスト)も作ったんです」
バケットリストで思い浮かんだのが「起業」「副業」「友達作り」。
「これから約10年をどう生きるかを考えました。そうすることで、自分の人生に後悔することはないだろうと思ったのです」
山崎さんは退職金の使い道も決めていた。優先順位は「娘の大学費用」「投資」「趣味」である。
「早くに退職金をもらえたことがいい機会だったと思います。1000万円入った通帳を見て、ワクワクもしましたね」
そして何より、大手企業の社員としての責任や人間関係から開放され、現在はストレスをあまり感じなくなったという。
とはいえ、困ったこともある。それはやはり、金銭の問題だ。山崎さんはすぐに再就職できたが、住宅補助金がなく、収入も3分の2ほどに減少した。
◆収入が激減しても「心は豊かに」
「家計は私が管理しています。現在の給料は手取りで約30万円。固定費で一番高いのはマンションの家賃で9万5000円です。支出ばかりが増える月が続いていて、マイナス分は退職金から補填して生活している状況です」
副業を始め節約もしているというが、「大きな効果はまだ見えていません」と打ち明けた。ただ、山崎さんはとても前向きに捉えている。
大手メーカーでは給与や福利厚生が充実していたが、人間関係はギスギス。“心の豊かさ”にはかえられなかったのだ。
「生きるためには環境を変えるしかありませんでした。これから娘が大学に進学して、お金がかかる時期になりますが、なんとか心は豊かになったので……。生活費をうまくコントロールしたいと思っています」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
長引く不況の影響で大手企業を中心に「早期退職」を募るケースが増えている。“退職金の上乗せ”などの優遇策はあれども、そこで手を挙げるべきか難しいところだ。早期退職後、生活が一変することは想像にかたくないが、今回は明暗わかれた2人のケースを紹介しよう。
◆同僚と築き上げてきたプロジェクトが一瞬で崩壊
大手IT企業に入社し、プログラミングに喜びを感じていた30代半ばに「早期退職者の募集」が始まったと話す北山浩二さん(仮名・40代)。
「プログラマーとして順風満帆な生活でしたが、突然上司から『吸収合併により部署が整理され、早期退職の選択肢が用意されている』と告げられたんです」
これまでチームとして築き上げてきたことが、一瞬にして崩れ去る。
「同僚たちとはとても仲がよく、私の周りでも“退職を希望する人”が多かったと思います。会社側からは転勤をすすめられましたが、転勤先では、私のやりたい仕事ができないことが分かったので退職することを選びました」
◆「定年まで働くべきだった」と後悔
退職を選んだ理由のひとつは、将来の展望を考慮した結果だった。
「“Chat GPT”などの存在が注目されており、私は経験を生かして新たな環境でチャレンジしてみたいという思いが強くなっていきました」
しかし、この挑戦は、生活全般に大きなリスクを伴うことになったようだ。
「再就職先もIT系の企業でした。でも、給料面では前職の同僚との差が大きく、なかなかモチベーションが上がりません。なにより、人間関係を一から築くことの難しさを痛感しました」
北山さんは、今でも前職のような職場環境で「定年まで働くべきだった」と後悔する瞬間があるのだとか。
「退職を考えるときは、将来の展望だけではなく、具体的な計画やリスクも検討することが重要だと気付きました。新たな環境に身を置くことは簡単ではありません。慎重に踏み出さなければ、後悔することもあるんです」と、不安を隠しきれない様子だった。
働いていくうえでは「人間関係」がなによりも大事なのかもしれない。
◆上司を退職に追い込む「部下の逆パワハラ」
一方、退職したことで人間関係のストレスから解放され、充実した日々を送れるようになったケースも。
高校を卒業後、大手食品メーカーに30年ほど勤務した山崎充さん(仮名・50代)は、「係長」という役職に就きながら「早期退職」を決意した。その原因は、異動先での“部下からの逆パワハラ”だった。
「今までとは勝手が異なる現場に配属になり、部下から仕事を教わっていたのですが、毎日罵声を浴びせられていたのです。部下は役職に合う仕事を私に覚えさせるために指導しているつもりでしたが、私は次第に、会社に行くのが苦しくなりました」
上司はその状況に無関心で誰も助けてくれない。山崎さんは精神的に追い詰められていったという。そして、「早期退職制度」を利用し、自己都合により退職することにした。
◆1000万円入金された通帳にワクワク
早期退職して良かったことがあったという山崎さん。
「有給休暇を消化して、社会人になってから初めて長い休息期間を設けられたこと。そして、今までの人生を振り返れたこと。生い立ちから現在に至るまでの自分のストーリーを書き出してみました。エンディングノートのようなかたちですね。また、生きているいちにやりたいことのリスト(バケットリスト)も作ったんです」
バケットリストで思い浮かんだのが「起業」「副業」「友達作り」。
「これから約10年をどう生きるかを考えました。そうすることで、自分の人生に後悔することはないだろうと思ったのです」
山崎さんは退職金の使い道も決めていた。優先順位は「娘の大学費用」「投資」「趣味」である。
「早くに退職金をもらえたことがいい機会だったと思います。1000万円入った通帳を見て、ワクワクもしましたね」
そして何より、大手企業の社員としての責任や人間関係から開放され、現在はストレスをあまり感じなくなったという。
とはいえ、困ったこともある。それはやはり、金銭の問題だ。山崎さんはすぐに再就職できたが、住宅補助金がなく、収入も3分の2ほどに減少した。
◆収入が激減しても「心は豊かに」
「家計は私が管理しています。現在の給料は手取りで約30万円。固定費で一番高いのはマンションの家賃で9万5000円です。支出ばかりが増える月が続いていて、マイナス分は退職金から補填して生活している状況です」
副業を始め節約もしているというが、「大きな効果はまだ見えていません」と打ち明けた。ただ、山崎さんはとても前向きに捉えている。
大手メーカーでは給与や福利厚生が充実していたが、人間関係はギスギス。“心の豊かさ”にはかえられなかったのだ。
「生きるためには環境を変えるしかありませんでした。これから娘が大学に進学して、お金がかかる時期になりますが、なんとか心は豊かになったので……。生活費をうまくコントロールしたいと思っています」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。