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100万円どう投資する?東大卒ポーカープレイヤー×気鋭のエコノミストが明かす“リスクの取り方”

日刊SPA! 2024年10月21日 8時52分

 東大卒の投資家であり、2012年のワールドシリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)で、日本人として初めて優勝したポーカープレイヤーの木原直哉氏。新進気鋭のエコノミストであり、日本ポーカーの祭典JOPTで2度の優勝経験を持っているエミン・ユルマズ氏。
 東大卒ポーカープレイヤー×新進気鋭のエコノミストが、ポーカーから学んだ投資を成功に導く勝負の極意を一冊にまとめた『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』(KADOAKWA)が好評発売中だ。今回、「投資のリスクとはどう向き合うべきか」についての項を一部抜粋する(以下、同書より抜粋)。

◆投資のリスクとはどう向き合うべきか

木原直哉(以下、木原):実は今、ある銘柄に過去最高額を投じて勝負に出ています。もちろん、この銘柄は伸びるという確信があるからですが、僕は基本的に分散投資をすることでリスクを管理しているので、ひとつの銘柄に投資する金額が大きくなるとちょっと怖いなと感じてもいます。

エミン・ユルマズ(以下、エミン):資金が少ない間はそんなに意識する必要はありませんが、運用資産が大きくなるほど、分散は重要になりますからね。

 私は個人投資家に対しては、運用資産が1000万円あれば10銘柄100万円ずつ、500万円以下なら5~7銘柄が上限だとアドバイスしています。100万円ぐらいなら3~5銘柄ぐらいがマックスでしょうね。資金が少ないのに分散しすぎると効率が悪くなってしまうから、上限を決めた方がいいと思います。

木原:僕も当初は300万円で投資をスタートしましたが、投資資金が大きくなってくると、よりリスクに敏感になり、分散を意識するようになりました。

 たとえば手元に100万円あって、それを全部溶かしてしまったとしても、100万円だったら頑張ればもういちど貯めて仕切り直すこともできます。ですが、1億円を全部溶かしてしまったらさすがに再起できませんから。

◆年齢によってもリスク許容度は変わる

エミン:資金が大きくなってきたからこそできる勝負もあるし、リスクを取れるという考え方もあるよね。そして、年齢や人生のステージによっても、リスクの許容度は変わります。20代や30代の人なら失敗したって何とかなるけど、定年間際の人はそうもいきません。

木原:若いからといって、必ずしもリスクを取れるわけではないんですよ。僕は子育て中なので、これから子どもたちにかかる費用を考えると、大きなリスクは取れません。

 むしろ子どもたちが独立してお金がかからなくなる60代以降の方が、リスク許容度が上がるような気がします。あの世にお金を持っていけるわけじゃありませんからね。

◆ポーカーのプロは「ローリスクローリターン」

エミン:ポーカー・プレーヤーはリスク選好型のイメージがあるけれど、投資のリスクにはずいぶん保守的なんですねえ。

木原:僕に言わせれば、株の方がよほどリスクは高いですよ。むしろポーカーで勝負することに対しては、ほとんどリスクは感じません。というのは、レートを上げると対戦相手のレベルが跳ね上がってしまうため、堅実に勝てるレートというのは自分の資産に対して大きくできないのです。1日単位で見れば数百万円負けることは普通にありますけど、1か月ぐらい見ておけばほぼマイナスになることはありませんから。

 ポーカーはプロとして食えるレベルまで到達した後は、ローリスクローリターンといえるかもしれません。

エミン:私はかつて野村證券のサラリーマンでした。当時は労働環境が厳しくて体調を崩す人もいたけれど、それでも安定していたなと思います。やっぱり大きく稼ぎたいなら退職して起業するなり独立するなり、ダウンサイドのリスクを取らなきゃいけないわけで、それは仕事も株もポーカーも同じなんだよね。

◆株もポーカーも、ミスを恐れず攻めていい

木原:先ほどもお話ししましたが、僕はポーカーに限らず、ゲーム全般が好きなんです。囲碁、将棋、麻雀やバックギャモンも全部好きで、その中で一番食えるゲームがポーカーだからそれを本業にしました。

 株式投資も僕の中では同じようなゲームであり、銘柄を発見して、調べて、分析して、投資して、結果を出すまでのプロセスがたまらなくおもしろいんです。しかも他のゲームと違って、日本や世界のトップレベルに到達しなくてもそこそこ稼げる。努力しただけ結果につながるので、頑張りがいがあります。

エミン:木原さんとは違って、私は将棋やバックギャモン、チェスなどはあまり好きじゃないんですよ。なぜなら、それらのゲームは盤上のすべてが見えるからです。一方、ポーカーは相手の手が見えず、場にあるカードも何が出てくるかわからないところが面白い。

 これは経済や株とよく似ていて、まさに不確実性に満ちたゲームだし、そういうところが難しくもあり、魅力でもあります。見えている情報と見えていない情報があると、様々なシナリオや可能性を考慮して多次元的な思考を必要とするので、非常に奥が深いのです。

◆読む力だけでは勝てないゲーム

木原:将棋のようなすべての情報が見えているゲームは、先を読むゲームなんです。常に一歩先を見ていなければならない読み合いの勝負です。

 これに対し、見えていない情報が多くあるポーカーや麻雀、株式投資は、読むことが大事ではあるけれど、読んでも仕方がないところも併せ持っています。読む力だけでなく、有利だと思えるところに踏み込んでいく勇気や大胆さ、リスク管理のバランスが求められるんですよね。

 僕の場合は、どちらのタイプのゲームも好きなんですが、向いていると思えるのは後者です。見えない情報がある中で相手が何を考えているかを読むのも含めて、えいやっと飛び込んでいく方が得意なんです。

エミン:だから、ポーカーで世界チャンピオンになれたわけだね。

木原:将棋や囲碁のような読み合いのゲームだと、読みをはずすとそれが致命傷になります。平均点が80点のテストみたいなもので、良い成績を取ろうと思ったらミスが許されない。僕は読み逃しをしやすいタイプなのに、自分の読みを信じて突っ込んでしまうから致命傷を負ってしまう。だから将棋や囲碁には向いてないんです。

 でもポーカーのような不完全ゲームは平均点が30点のテストみたいなもので、少しくらい読みをはずしても致命傷にはなりません。ミスを恐れずに攻めていけるタイプの方が勝ちやすいんです。

◆投資を100%成功させる人はいない

エミン:確かにそういわれると、株も同じようなものですね。たとえ百戦錬磨のプロであっても投資を100%成功させる人なんていないから、ミスすることを前提として戦略を立てますからね。

木原:エミンさんはどうして、金融の道に入られたんですか?

エミン:私はもともと理系で、大学と大学院では生命工学を専攻していました。でも、動物が好きすぎて、日々繰り返される動物実験に耐えられなかった。実験ができないのにこの世界にはいられないと思って、たどり着いたのが金融なんです。相場は人の心理を強く反映しながら毎日刻々と動いている、まるで生き物みたいだと思いませんか。

木原:エミンさんがネコ好きなのは有名ですが、その動物愛が金融の道に導いたんですね。

◆相場はサイエンスであり、ミステリー

エミン:お金は血液のようなものです。お金が集まって循環する国は繁栄するけれど、1か所に滞れば腐敗します。これは組織や人間も同じですよね。金融は、お金を様々な場所に届け、循環させる役割を担っています。国全体をひとつの体と考えると、お金を適切に循環させることが国の健康を保つために不可欠であり、それを担うのが金融です。

 たとえば、日本国民が貯蓄しているお金を市場で循環させることで、企業は資金調達や成長資金を得て、経済が発展します。この意味で、金融は生物、あるいは生き物に近い側面がある。しかも、相場や経済はサイエンスであると同時に、ミステリーや神秘的な要素も持ち合わせています。相場には様々な思惑があり、株式市場には迷信のようなものがいくつも存在します。証券会社や相場に関わる人たちが、正月には初詣を欠かさないのも、その表れです。

 相場は、人間の理性に訴えかける部分と、論理的には説明できない行動心理学や感情、スピリチュアルな側面が共存している。こういうところがすごく興味深いんですよ。

<談/エミン・ユルマズ、木原直哉>

【エミン・ユルマズ】
エコノミスト・グローバルストラテジスト。レディーバードキャピタル代表。トルコ、イスタンブール出身。1996年に国際生物学オリンピック優勝。1997年に日本に留学し東京大学理科一類合格、工学部卒業。同大学院にて生命工学修士取得。2006年野村證券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に携わった。2024年レディーバードキャピタルを設立。現在各種メディアに出演しているほか、全国のセミナーに登壇。文筆活動、SNSでの情報発信を積極的に行っている。ポーカー名はJACK。

【木原 直哉】
1981年、北海道名寄市出身。2001年に東京大学理科一類に入学。在学中は将棋部に所属し、バックギャモンやポーカーなどの頭脳ゲームに熱中していく。10年かけて東京大学理学部地球惑星物理学科を卒業し、翌2012年WSOP $5000 Pot-Limit Omahaで優勝し、日本人初のブレスレットホルダーに。ポーカーの戦略やメンタル面についての教育活動や国内大会での解説など日本国内外でのポーカーの普及に努めている。著書に『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』『運と実力の間』などがある

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