東京商工リサーチによると、2024年1~9月のラーメン店の倒産状況(日本産業分類・細分類)は47件(前年同期比42.4%増)と、集計を開始して以降、年間最多だった2023年(1~12月)の45件を抜く結果となったようだ。
コロナ関連支援策に支えられて、2022年の倒産は21件の減少に留まったが、コロナが収束し、行動制限が解除され、日常が回復したにもかかわらず、物価高や人手不足など、経営の足を引っ張る要因があり、なかなか業績の回復に苦労しているのが実情だ。
ラーメン店は参入障壁が低く開店しやすいが、参入が容易な反面、廃業率が高く生存競争は厳しい。ラーメン店の倒産原因は、販売不振が約7割を超える。負債額は1億円未満が42件(同89.3%)、従業員数は5人未満が42件(同89.3%)で、小・零細規模のラーメン店が費用圧迫と売上不振に苦しんでいるようだ。
今回は、厳しい市場環境の中で、滋賀県を基盤に249店舗展開する来来亭と、苦戦する個人経営店の生き残り策を紹介したい。
◆経営環境に逆風が吹く中でも存在感
来来亭の本社所在地は滋賀県野洲市で、代表取締役は豆田敏典氏である。滋賀県から日本全国に向け、36都府県277店舗(2024年3月時点)を展開中である。そもそもは、閉店していた店を豆田氏がレシピごと引き継いで創業し、1997年3月に1号店(野洲店)をオープンした。
2002年有限会社やる気を設立し、2002年11月に株式会社来来亭に組織変更した。多店舗化を視野に入れ製麺工場も立ち上げている。独自時ののれん分け制度を有しており、強固な運営力による店舗展開をして、100人以上の社長を輩出している。社員独立を積極的に後押ししており、フランチャイズ展開も積極的だ。
もちろん、店内レイアウトは標準化しており、効率的なオペレーションも確立している。同じ志を持つ人達を組織化し、市場を攻める姿は頼もしい限りである。
◆独立して開業した人気チェーンも
ちなみに、来来亭から独立して開業し、チェーン展開したのが、北白川の魁力屋で、こちらは株式上場している(2023年12月、東京証券スタンダード市場)。来来亭のラーメンは、京都風醤油味の鶏ガラスープに背脂をふんだんに浮かせているのが特徴である。
表面に背脂、中は澄んだ鶏ガラベースのスープなので、コクがあるのに口当たりはスッキリ! 最後まで飲み干せるスープになっている。麺はコシのある細麺で、スープとよく絡んでいる。年齢・性別を問わず皆様に「美味しい」と言ってもらえるラーメンを作りたいというのが、当然ながら店の経営方針だ。
筆者の知人である厨房機器の直販メーカーに聞くと、30店舗くらいまでは、豆田社長自身が自社の担当者と直接に交渉をしていたが、さらなる店舗数の拡大戦略を目標としたことを契機に、戦略策定と運営を分離させた組織に刷新。各担当者に、権限と責任を明確にした組織運営に変更したという。
店舗以外でも、大手コンビニ・ファミリーマートで2016年10月から監修した「カップ麺」、そして2022年からは3年連続期間限定で「冷やし中華」「チャーハンおにぎり」を販売。ブランド認知力のさらなる向上に貢献しているようだ。今後も安定した経営基盤で、確実な店舗展開を目指すようである。
◆1000円の壁に苦労する個人ラーメン店
そもそもラーメンの価格は「1000円の壁」と言われ、いかに1000円以下に抑えながら生き残るかに腐心している。そのため粗利益が高い他の商品の品揃えで利益を確保し、経営を維持しなければならず、町中華メニューの充実を図る発想も必要だ。
地域で存在感を増す町中華やガチ中華(本場そのものの味)は、個性豊かで独自の強みを持っており、店を支える家族と常連さんで一体感が醸成されている。中華料理店は店舗数5万5000店舗、市場規模は1兆1629億円で内訳は中華料理5686億円、ラーメン店5560億円、その他が382億円となっており人気の業種である(全国中華料理生活衛生同業組合、2018年)。
独自のメニュー構成が特徴で、このオンリーワン戦略を展開すれば差別化が図れ、客はファンとなるものだ。ラーメンをロスリーダーにしてお客さんを吸引し、町中華の一品メニューの販売で利益を稼ぐのもいいだろうし、事実、それで成功したお店もある。
例えば、麻婆豆腐などは10%程度の原価であり、その他一品も30%程度に抑えればトータル原価は35%程度に抑制可能だろう。店の看板ラーメンは、食材費が高騰しても値上げするの難しいが、中華一品メニューなら代替食材に変更したり、量の配分調整が可能だから、原価調整がしやすい。
◆資本力が脆弱な個人店の苦難
一方で、ラーメン業界は特にトレンドの変化が激しく、新たな味と共に次々にオープンする新規出店者と既存店の戦いの構図が鮮明となり、生き残り競争が激化している。
スープづくりには欠かせない豚肉や鶏肉・ガラなど食材の高騰、エネルギーコストの負担も大きい。ラーメン店は特にスープづくりのためにガスをよく使用するので、ガス料金の値上がりは相当に苦しい。特に過小資本の個人営業のラーメン店の経営は大変苦しそうだ。
売上と利益を確保するためには、限りあるキャパシティを有効に活用し、客席回転率の向上が望める時間帯は別として、お客さんの滞留時間を延ばし、追加点数を増やして客単価を上げるのも得策だ。カウンター席はラーメン客で高回転、テーブル席は飲み客やファミリー客を誘致し、店内を有効活用する営業政策も必要だ。
売上=客数×客単価を再認識して客数を伸ばすのか、客単価を上げるのか、自店の実情を踏まえた上で、店の方針を決定したほうがいい。1000円程度の一人客が多いラーメンだけでなく、2000円単価の飲み客や週末のファミリー客に町中華メニューで対応すれば、客数も客単価も上昇し、経営は楽になるはずである。実際にそれで成功している店はある。
◆ラーメン店経営はそれほど甘くない!
ラーメン店は比較的簡単に開業できると思う人が多いのか、素人でも趣味の延長でラーメン店を開業したい考える人が増えている。定年して、会社人生を終えたサラリーマンが、人生100年時代まで、たっぷりある時間をどう有意義に過ごすかを考えた時、ラーメン屋でもやるかと単純に考えるのだろう。
しかし、やってみたら、そんなに簡単ではなかったと後悔される人は多い。人気店になるのはとても難しく、開業から1年以内に閉店するラーメン店は実に4割、開業から3年以内にはさらに3割近くが閉店に追い込まれているのがラーメン業界の実情だ。
安易な気持ちで開業する人が増え続けることで競合店数は増え続け、多くのラーメン店が価格競争に埋没し、結果的には閉店へと追い込まれている。開業費用は他の業種と比較したら低いかもしれないが、決して安くはなく、失敗した時の損失は大きい。老後の生活資金として蓄えていたお金を無駄に使わないようにしないといけない。
コロナが収束し、人流が復活し、インバウンド効果で外国人旅行者も増えてきている中、日本のラーメンは外国人旅行者にも人気で需要は伸びている。そのチャンスを収益に繋げてさらなる成長を期待したい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
コロナ関連支援策に支えられて、2022年の倒産は21件の減少に留まったが、コロナが収束し、行動制限が解除され、日常が回復したにもかかわらず、物価高や人手不足など、経営の足を引っ張る要因があり、なかなか業績の回復に苦労しているのが実情だ。
ラーメン店は参入障壁が低く開店しやすいが、参入が容易な反面、廃業率が高く生存競争は厳しい。ラーメン店の倒産原因は、販売不振が約7割を超える。負債額は1億円未満が42件(同89.3%)、従業員数は5人未満が42件(同89.3%)で、小・零細規模のラーメン店が費用圧迫と売上不振に苦しんでいるようだ。
今回は、厳しい市場環境の中で、滋賀県を基盤に249店舗展開する来来亭と、苦戦する個人経営店の生き残り策を紹介したい。
◆経営環境に逆風が吹く中でも存在感
来来亭の本社所在地は滋賀県野洲市で、代表取締役は豆田敏典氏である。滋賀県から日本全国に向け、36都府県277店舗(2024年3月時点)を展開中である。そもそもは、閉店していた店を豆田氏がレシピごと引き継いで創業し、1997年3月に1号店(野洲店)をオープンした。
2002年有限会社やる気を設立し、2002年11月に株式会社来来亭に組織変更した。多店舗化を視野に入れ製麺工場も立ち上げている。独自時ののれん分け制度を有しており、強固な運営力による店舗展開をして、100人以上の社長を輩出している。社員独立を積極的に後押ししており、フランチャイズ展開も積極的だ。
もちろん、店内レイアウトは標準化しており、効率的なオペレーションも確立している。同じ志を持つ人達を組織化し、市場を攻める姿は頼もしい限りである。
◆独立して開業した人気チェーンも
ちなみに、来来亭から独立して開業し、チェーン展開したのが、北白川の魁力屋で、こちらは株式上場している(2023年12月、東京証券スタンダード市場)。来来亭のラーメンは、京都風醤油味の鶏ガラスープに背脂をふんだんに浮かせているのが特徴である。
表面に背脂、中は澄んだ鶏ガラベースのスープなので、コクがあるのに口当たりはスッキリ! 最後まで飲み干せるスープになっている。麺はコシのある細麺で、スープとよく絡んでいる。年齢・性別を問わず皆様に「美味しい」と言ってもらえるラーメンを作りたいというのが、当然ながら店の経営方針だ。
筆者の知人である厨房機器の直販メーカーに聞くと、30店舗くらいまでは、豆田社長自身が自社の担当者と直接に交渉をしていたが、さらなる店舗数の拡大戦略を目標としたことを契機に、戦略策定と運営を分離させた組織に刷新。各担当者に、権限と責任を明確にした組織運営に変更したという。
店舗以外でも、大手コンビニ・ファミリーマートで2016年10月から監修した「カップ麺」、そして2022年からは3年連続期間限定で「冷やし中華」「チャーハンおにぎり」を販売。ブランド認知力のさらなる向上に貢献しているようだ。今後も安定した経営基盤で、確実な店舗展開を目指すようである。
◆1000円の壁に苦労する個人ラーメン店
そもそもラーメンの価格は「1000円の壁」と言われ、いかに1000円以下に抑えながら生き残るかに腐心している。そのため粗利益が高い他の商品の品揃えで利益を確保し、経営を維持しなければならず、町中華メニューの充実を図る発想も必要だ。
地域で存在感を増す町中華やガチ中華(本場そのものの味)は、個性豊かで独自の強みを持っており、店を支える家族と常連さんで一体感が醸成されている。中華料理店は店舗数5万5000店舗、市場規模は1兆1629億円で内訳は中華料理5686億円、ラーメン店5560億円、その他が382億円となっており人気の業種である(全国中華料理生活衛生同業組合、2018年)。
独自のメニュー構成が特徴で、このオンリーワン戦略を展開すれば差別化が図れ、客はファンとなるものだ。ラーメンをロスリーダーにしてお客さんを吸引し、町中華の一品メニューの販売で利益を稼ぐのもいいだろうし、事実、それで成功したお店もある。
例えば、麻婆豆腐などは10%程度の原価であり、その他一品も30%程度に抑えればトータル原価は35%程度に抑制可能だろう。店の看板ラーメンは、食材費が高騰しても値上げするの難しいが、中華一品メニューなら代替食材に変更したり、量の配分調整が可能だから、原価調整がしやすい。
◆資本力が脆弱な個人店の苦難
一方で、ラーメン業界は特にトレンドの変化が激しく、新たな味と共に次々にオープンする新規出店者と既存店の戦いの構図が鮮明となり、生き残り競争が激化している。
スープづくりには欠かせない豚肉や鶏肉・ガラなど食材の高騰、エネルギーコストの負担も大きい。ラーメン店は特にスープづくりのためにガスをよく使用するので、ガス料金の値上がりは相当に苦しい。特に過小資本の個人営業のラーメン店の経営は大変苦しそうだ。
売上と利益を確保するためには、限りあるキャパシティを有効に活用し、客席回転率の向上が望める時間帯は別として、お客さんの滞留時間を延ばし、追加点数を増やして客単価を上げるのも得策だ。カウンター席はラーメン客で高回転、テーブル席は飲み客やファミリー客を誘致し、店内を有効活用する営業政策も必要だ。
売上=客数×客単価を再認識して客数を伸ばすのか、客単価を上げるのか、自店の実情を踏まえた上で、店の方針を決定したほうがいい。1000円程度の一人客が多いラーメンだけでなく、2000円単価の飲み客や週末のファミリー客に町中華メニューで対応すれば、客数も客単価も上昇し、経営は楽になるはずである。実際にそれで成功している店はある。
◆ラーメン店経営はそれほど甘くない!
ラーメン店は比較的簡単に開業できると思う人が多いのか、素人でも趣味の延長でラーメン店を開業したい考える人が増えている。定年して、会社人生を終えたサラリーマンが、人生100年時代まで、たっぷりある時間をどう有意義に過ごすかを考えた時、ラーメン屋でもやるかと単純に考えるのだろう。
しかし、やってみたら、そんなに簡単ではなかったと後悔される人は多い。人気店になるのはとても難しく、開業から1年以内に閉店するラーメン店は実に4割、開業から3年以内にはさらに3割近くが閉店に追い込まれているのがラーメン業界の実情だ。
安易な気持ちで開業する人が増え続けることで競合店数は増え続け、多くのラーメン店が価格競争に埋没し、結果的には閉店へと追い込まれている。開業費用は他の業種と比較したら低いかもしれないが、決して安くはなく、失敗した時の損失は大きい。老後の生活資金として蓄えていたお金を無駄に使わないようにしないといけない。
コロナが収束し、人流が復活し、インバウンド効果で外国人旅行者も増えてきている中、日本のラーメンは外国人旅行者にも人気で需要は伸びている。そのチャンスを収益に繋げてさらなる成長を期待したい。
<TEXT/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan