中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
1990年代のアメカジブームを支えたアパレルショップ「ライトオン」と「マックハウス」が、TOBによって相次いで買収されることとなりました。
2社ともにブーム終焉という大波が去ったことが業績低迷の一番の要因ではあります。しかし、過去を振り返ると経営の問題点も浮かび上がります。
◆まさかの「9割引」で公開買付
驚くべきことに、マックハウスのTOBの買付価格は32円。TOBを公表した前日終値330円に対して、9割以上も安い価格に設定されています。
マックハウスは「東京靴流通センター」などを展開するチヨダの子会社。チヨダが6割超の株式を保有しています。今回、マックハウスを買収する主体者はアパレル物流大手ジーエフホールディングスで、チヨダはすべての株式を売却すると見られています。当然、この価格で株式を売却するチヨダ以外の株主はいないでしょう。このTOBはチヨダの投げ売りとも言えるもので、マックハウスを早く何とかしたかったという思いが伝わってきます。
それもそのはず。マックハウスは6期連続の営業赤字。今期も赤字を見込んでいます。しかも、営業キャッシュフローが4期連続でマイナス。4期連続は極めて稀で、オーディオ販売のオンキヨーホームエンターテイメントは、5期連続でキャッシュフローがマイナスとなった末に破産しました。
◆「借入すら困難な状況」なのか
手持ちの現金の減少するスピードも速く、2024年8月末時点の現金及び預金は7億2100万円。1年で半分以下に縮小しています。なお、2023年2月末時点では、27億円を超えていました。
2025年2月期第2四半期累計は2割もの減収。5億円の営業赤字を出しています。
しかしながら店舗数は270と多く、従業員に支払う人件費も膨大。そうかといって不採算店舗を無理に閉鎖しようとすれば、現状回復費などで手持ちの現金が消えてしまいます。
更にマックハウスはこれだけの窮地に陥りながらも、金融機関からの十分な借入を行っていません。借入すら困難な状況にあると見ることができるのです。
◆債務超過寸前にまで追い込まれたライトオン
ライトオンを買収するのは、アパレル大手のワールド。ライトオン創業家は持株のすべてを売却し、ワールドが51%超の大株主となる予定です。藤原祐介社長は退任。ワールドの常務執行役員である大峯伊索氏が社長に就任します。
ライトオンは昨年、単独での事業継続が困難な状況にあり、他社とのアライアンスを検討する必要があるとの見解を取引先金融機関から示されていました。
マックハウスと同じく業績は低迷しており、8期連続の減収。2期連続の営業赤字でした。
2024年8月期は35店舗もの退店をして売上高が前期比17.3%減と急減したうえ、商品評価損を計上したことが影響して50億円もの営業損失(前期は9億2200万円の営業損失)を出しました。ライトオンは2期連続で営業キャッシュフローがマイナスになっています。また、大赤字を出したことが影響して自己資本比率が46.3%から1.6%に急降下。債務超過寸前でした。
◆「堅実な経営」を続けていれば…
この2社に共通するのは、増収へのこだわりが根強く残っていたこと。
ライトオンは、コロナ禍の2021年8月期に販管費を抑制した影響で、営業利益を出しました。翌期も黒字。勢いづいたライトオンは、2023年8月期に増収計画を立てて仕入を先行。しかし、計画していたほど売れず、在庫を消化するために値引き販売が増えて10億円近い営業赤字を出してしまいます。
金融機関から他社との協業を検討するよう進言されたのが2023年2月。この経営判断のミスが後のワールド買収の引き金となっていたことがわかります。
ライトオンは数十店舗の退店を重ね、販管費を抑える堅実な経営を続けていました。それを粛々と続けていれば、形は少し違っていたかもしれません。
◆不採算店の整理が遅れたのは痛手だった
マックハウスは営業赤字に陥った2019年2月期以降も2桁台の退店を続ける一方で、同じく2桁台の出店を重ねていました。2023年2月期は20店舗を新規出店し、1.6%の増収にはなりました。しかし、計画していた1割の増収には届かずに7億円を超える営業赤字を出しています。
本格的な不採算店の整理を進めたのが2024年2月期に入ってから。49店舗を閉鎖し、出店を7に抑えました。しかしその動きが遅すぎたのは、現在の財務状況の悪さが物語っています。
アメカジブームは1980年後半から始まり、1990年に最盛期を迎えました。40代から50代が強く影響を受けています。ライトオンやマックハウスはその世代への知名度はありますが、若年層にはほとんど知られていません。ここが一番のポイント。
2社は上場を維持することから、これからも成長を続けて株主に還元するという責務を担っています。ターゲットに寄り添うのか、新たな顧客層の開拓に動くのか。再編後の経営戦略が成長のカギを握ります。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
1990年代のアメカジブームを支えたアパレルショップ「ライトオン」と「マックハウス」が、TOBによって相次いで買収されることとなりました。
2社ともにブーム終焉という大波が去ったことが業績低迷の一番の要因ではあります。しかし、過去を振り返ると経営の問題点も浮かび上がります。
◆まさかの「9割引」で公開買付
驚くべきことに、マックハウスのTOBの買付価格は32円。TOBを公表した前日終値330円に対して、9割以上も安い価格に設定されています。
マックハウスは「東京靴流通センター」などを展開するチヨダの子会社。チヨダが6割超の株式を保有しています。今回、マックハウスを買収する主体者はアパレル物流大手ジーエフホールディングスで、チヨダはすべての株式を売却すると見られています。当然、この価格で株式を売却するチヨダ以外の株主はいないでしょう。このTOBはチヨダの投げ売りとも言えるもので、マックハウスを早く何とかしたかったという思いが伝わってきます。
それもそのはず。マックハウスは6期連続の営業赤字。今期も赤字を見込んでいます。しかも、営業キャッシュフローが4期連続でマイナス。4期連続は極めて稀で、オーディオ販売のオンキヨーホームエンターテイメントは、5期連続でキャッシュフローがマイナスとなった末に破産しました。
◆「借入すら困難な状況」なのか
手持ちの現金の減少するスピードも速く、2024年8月末時点の現金及び預金は7億2100万円。1年で半分以下に縮小しています。なお、2023年2月末時点では、27億円を超えていました。
2025年2月期第2四半期累計は2割もの減収。5億円の営業赤字を出しています。
しかしながら店舗数は270と多く、従業員に支払う人件費も膨大。そうかといって不採算店舗を無理に閉鎖しようとすれば、現状回復費などで手持ちの現金が消えてしまいます。
更にマックハウスはこれだけの窮地に陥りながらも、金融機関からの十分な借入を行っていません。借入すら困難な状況にあると見ることができるのです。
◆債務超過寸前にまで追い込まれたライトオン
ライトオンを買収するのは、アパレル大手のワールド。ライトオン創業家は持株のすべてを売却し、ワールドが51%超の大株主となる予定です。藤原祐介社長は退任。ワールドの常務執行役員である大峯伊索氏が社長に就任します。
ライトオンは昨年、単独での事業継続が困難な状況にあり、他社とのアライアンスを検討する必要があるとの見解を取引先金融機関から示されていました。
マックハウスと同じく業績は低迷しており、8期連続の減収。2期連続の営業赤字でした。
2024年8月期は35店舗もの退店をして売上高が前期比17.3%減と急減したうえ、商品評価損を計上したことが影響して50億円もの営業損失(前期は9億2200万円の営業損失)を出しました。ライトオンは2期連続で営業キャッシュフローがマイナスになっています。また、大赤字を出したことが影響して自己資本比率が46.3%から1.6%に急降下。債務超過寸前でした。
◆「堅実な経営」を続けていれば…
この2社に共通するのは、増収へのこだわりが根強く残っていたこと。
ライトオンは、コロナ禍の2021年8月期に販管費を抑制した影響で、営業利益を出しました。翌期も黒字。勢いづいたライトオンは、2023年8月期に増収計画を立てて仕入を先行。しかし、計画していたほど売れず、在庫を消化するために値引き販売が増えて10億円近い営業赤字を出してしまいます。
金融機関から他社との協業を検討するよう進言されたのが2023年2月。この経営判断のミスが後のワールド買収の引き金となっていたことがわかります。
ライトオンは数十店舗の退店を重ね、販管費を抑える堅実な経営を続けていました。それを粛々と続けていれば、形は少し違っていたかもしれません。
◆不採算店の整理が遅れたのは痛手だった
マックハウスは営業赤字に陥った2019年2月期以降も2桁台の退店を続ける一方で、同じく2桁台の出店を重ねていました。2023年2月期は20店舗を新規出店し、1.6%の増収にはなりました。しかし、計画していた1割の増収には届かずに7億円を超える営業赤字を出しています。
本格的な不採算店の整理を進めたのが2024年2月期に入ってから。49店舗を閉鎖し、出店を7に抑えました。しかしその動きが遅すぎたのは、現在の財務状況の悪さが物語っています。
アメカジブームは1980年後半から始まり、1990年に最盛期を迎えました。40代から50代が強く影響を受けています。ライトオンやマックハウスはその世代への知名度はありますが、若年層にはほとんど知られていません。ここが一番のポイント。
2社は上場を維持することから、これからも成長を続けて株主に還元するという責務を担っています。ターゲットに寄り添うのか、新たな顧客層の開拓に動くのか。再編後の経営戦略が成長のカギを握ります。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界