外見至上主義といわれる韓国社会では、顔に次ぎ身長も重要な要素と捉える人が多くいます。そのため、平均以上の身長を目指して医療的介入を求める人も少なくありません。
日本での身長への医療的なアプローチというと、低身長と診断された人への治療が一般的です。しかし、韓国では平均的な身長でも、さらに伸ばすために薬や漢方、成長ホルモン注射を利用するケースがあります。
韓国国内の成長ホルモン市場規模は昨年、約4445億ウォン(約489億円)に達し、今年10月には韓国食品医薬品安全処から「成長ホルモン注射の過剰使用」に対する警告が出されたことが大きく報じられました。
今回は、韓国で成長ホルモン注射を打った経験があり、現在は日本と韓国の二拠点で生活するキムさん(仮名・22歳)に、身長に対する意識や自身の経験についてインタビューしました。
◆身長が早めに止まったことをきっかけに成長ホルモン注射を開始
キムさん:私が成長ホルモン注射を打つことになったきっかけは、周りより少し早めに初潮を迎えたことです。
一般的に、生理が来ると身長の伸びが止まるといわれていますよね。普通だと12〜13歳頃に生理が始まる子が多いと思うのですが、私の場合は9歳と少し早めでした。
当時、私の身長は156センチで、クラスの中で3番目に大きいほうでした。しかし、これ以上身長が伸びないのではと心配した母に連れられ、専門の医院を訪ねました。
――たしかに、これから伸び代がある成長期に身長が止まると考えると、親御さんが心配する気持ちも分かります。
キムさん:人間は「成長板」という骨の中にある軟骨の働きによって、身長が伸びます。成長板は大人になるにつれて完全に骨に変わり、身長の伸びが止まるという仕組みです。
男子の場合、成長板はおおよそ高校生まで働きがあるといわれています。しかし、女子で生理が来ると働きが弱まってしまうと聞きました。
◆身長は成長ホルモン注射を打っても変わらなかった
――日本では、病気以外で成長ホルモン注射を打つというケースはあまり聞きません。周りにも、同じような理由で注射を打っている子はいましたか?
キムさん:私の周りにはいませんでしたが、大人になってから調べてみたら、私のようなケースは珍しくないことが分かりました。ちなみに成長ホルモン注射は、韓医院という東洋医学の中でも韓国で発達した医学に基づく病院で、医師から処方されたものです。
――実際に、成長ホルモン注射による効果はありましたか?
キムさん:私は9歳から2年間打ち続けましたが、身長は初潮を迎えた時点のまま止まってしまいました。
毎晩母親が注射を打ってくれたのですが、幼い子どもは注射が嫌いじゃないですか。毎日打つというプレッシャーで親子共にストレスになってしまったことも、2年でストップした理由の一つです。
お金もかかるので、治療をストップするタイミングは人によって異なるかと思います。
◆日韓での身長に対する意識の違い
――もちろん、身長は高いほうが存在感が出ますし、モテにつながる風潮もあります。しかし、なぜ「身長は高いほうがいい」という意識が日本よりあると思いますか?
キムさん:もともと韓国の平均身長が日本より高いことも、身長への意識が違う要因の一つかもしれませんね。私の女友だちには身長が172センチの人も普通にいるので、そもそも日本の「背が高い」といわれるレベル感とは違うと思います。
――たしかに、日本女性で170センチ台の人は珍しいかもしれません。
キムさん:また、私の主観になりますが、当時流行ったアイドルの影響が大きかったと思います。私が成長ホルモン注射を打ち始めた頃、女性アイドルグループの「KARA」や「少女時代」が爆発的にヒットしました。
――2011年頃でしたね!日本でも長身で美しいアイドルのパフォーマンスがかなり話題になりました。
キムさん:彼女らのスタイルのよさに影響された人は、きっと多いと思います。
あと、当時は今ほど顔の整形が流行っていませんでした。なるべく自分を磨くのが基本という風潮の中で、顔以外に努力できる部分として身長に焦点が当てられたのかもしれません。
――ただ、子どもに身長を意識させるのは親の役目になりますよね。親世代からすでに、身長への意識が高かったということですか?
キムさん:そうですね。韓国には「マム(ママ)カフェ」というインターネット掲示板があり、そこから子どもに関する情報を得る人がたくさんいます。当時から掲示板内では身長に関する情報がよく流れていたので、親世代が身長への意識を持つことは不思議ではなかったと思います。
◆就職では身長よりも“証明写真”が重要
――身長が就職に影響することはあるのでしょうか?
キムさん:CAや芸能人など、身長が重要な職業でなければ影響しません。どちらかというと、履歴書に貼る証明写真のほうが大事な印象です。
韓国の証明写真は、男女関係なく顔の補整までがセットです。ほかの候補者が加工で顔を整える中、よほど自信がある人でないと「素顔で勝負しよう!」とはなりません。証明写真にこだわる風潮が強すぎるあまり、2021年頃に履歴書から証明写真を貼る欄をなくす動きもあったほどです。
――就職には関係しないものの、努力で磨ける部分は磨こうという意識があるのですね。
キムさん:そうですね。実際、身長が高ければ見た目もいいですし、芸能人やスポーツ選手を目指すならなおのことです。
ただし、身長を伸ばす治療が普及した今は「身長の伸びは遺伝で決まる」と原点に戻る意見もあれば「病気以外で成長ホルモン注射を打つのは乱用にあたる」という見解もあります。
治療にはお金もかかるので、親子で無理のない範囲で試すのがいいと思います。
【松浦聡美】
韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。X:@bleu_perfume
日本での身長への医療的なアプローチというと、低身長と診断された人への治療が一般的です。しかし、韓国では平均的な身長でも、さらに伸ばすために薬や漢方、成長ホルモン注射を利用するケースがあります。
韓国国内の成長ホルモン市場規模は昨年、約4445億ウォン(約489億円)に達し、今年10月には韓国食品医薬品安全処から「成長ホルモン注射の過剰使用」に対する警告が出されたことが大きく報じられました。
今回は、韓国で成長ホルモン注射を打った経験があり、現在は日本と韓国の二拠点で生活するキムさん(仮名・22歳)に、身長に対する意識や自身の経験についてインタビューしました。
◆身長が早めに止まったことをきっかけに成長ホルモン注射を開始
キムさん:私が成長ホルモン注射を打つことになったきっかけは、周りより少し早めに初潮を迎えたことです。
一般的に、生理が来ると身長の伸びが止まるといわれていますよね。普通だと12〜13歳頃に生理が始まる子が多いと思うのですが、私の場合は9歳と少し早めでした。
当時、私の身長は156センチで、クラスの中で3番目に大きいほうでした。しかし、これ以上身長が伸びないのではと心配した母に連れられ、専門の医院を訪ねました。
――たしかに、これから伸び代がある成長期に身長が止まると考えると、親御さんが心配する気持ちも分かります。
キムさん:人間は「成長板」という骨の中にある軟骨の働きによって、身長が伸びます。成長板は大人になるにつれて完全に骨に変わり、身長の伸びが止まるという仕組みです。
男子の場合、成長板はおおよそ高校生まで働きがあるといわれています。しかし、女子で生理が来ると働きが弱まってしまうと聞きました。
◆身長は成長ホルモン注射を打っても変わらなかった
――日本では、病気以外で成長ホルモン注射を打つというケースはあまり聞きません。周りにも、同じような理由で注射を打っている子はいましたか?
キムさん:私の周りにはいませんでしたが、大人になってから調べてみたら、私のようなケースは珍しくないことが分かりました。ちなみに成長ホルモン注射は、韓医院という東洋医学の中でも韓国で発達した医学に基づく病院で、医師から処方されたものです。
――実際に、成長ホルモン注射による効果はありましたか?
キムさん:私は9歳から2年間打ち続けましたが、身長は初潮を迎えた時点のまま止まってしまいました。
毎晩母親が注射を打ってくれたのですが、幼い子どもは注射が嫌いじゃないですか。毎日打つというプレッシャーで親子共にストレスになってしまったことも、2年でストップした理由の一つです。
お金もかかるので、治療をストップするタイミングは人によって異なるかと思います。
◆日韓での身長に対する意識の違い
――もちろん、身長は高いほうが存在感が出ますし、モテにつながる風潮もあります。しかし、なぜ「身長は高いほうがいい」という意識が日本よりあると思いますか?
キムさん:もともと韓国の平均身長が日本より高いことも、身長への意識が違う要因の一つかもしれませんね。私の女友だちには身長が172センチの人も普通にいるので、そもそも日本の「背が高い」といわれるレベル感とは違うと思います。
――たしかに、日本女性で170センチ台の人は珍しいかもしれません。
キムさん:また、私の主観になりますが、当時流行ったアイドルの影響が大きかったと思います。私が成長ホルモン注射を打ち始めた頃、女性アイドルグループの「KARA」や「少女時代」が爆発的にヒットしました。
――2011年頃でしたね!日本でも長身で美しいアイドルのパフォーマンスがかなり話題になりました。
キムさん:彼女らのスタイルのよさに影響された人は、きっと多いと思います。
あと、当時は今ほど顔の整形が流行っていませんでした。なるべく自分を磨くのが基本という風潮の中で、顔以外に努力できる部分として身長に焦点が当てられたのかもしれません。
――ただ、子どもに身長を意識させるのは親の役目になりますよね。親世代からすでに、身長への意識が高かったということですか?
キムさん:そうですね。韓国には「マム(ママ)カフェ」というインターネット掲示板があり、そこから子どもに関する情報を得る人がたくさんいます。当時から掲示板内では身長に関する情報がよく流れていたので、親世代が身長への意識を持つことは不思議ではなかったと思います。
◆就職では身長よりも“証明写真”が重要
――身長が就職に影響することはあるのでしょうか?
キムさん:CAや芸能人など、身長が重要な職業でなければ影響しません。どちらかというと、履歴書に貼る証明写真のほうが大事な印象です。
韓国の証明写真は、男女関係なく顔の補整までがセットです。ほかの候補者が加工で顔を整える中、よほど自信がある人でないと「素顔で勝負しよう!」とはなりません。証明写真にこだわる風潮が強すぎるあまり、2021年頃に履歴書から証明写真を貼る欄をなくす動きもあったほどです。
――就職には関係しないものの、努力で磨ける部分は磨こうという意識があるのですね。
キムさん:そうですね。実際、身長が高ければ見た目もいいですし、芸能人やスポーツ選手を目指すならなおのことです。
ただし、身長を伸ばす治療が普及した今は「身長の伸びは遺伝で決まる」と原点に戻る意見もあれば「病気以外で成長ホルモン注射を打つのは乱用にあたる」という見解もあります。
治療にはお金もかかるので、親子で無理のない範囲で試すのがいいと思います。
【松浦聡美】
韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。X:@bleu_perfume