2017年10月に登場したトヨタ自動車のJPN(ジャパン)タクシー。とくに都心ではそれまで主流だったセダンのクラウンやセドリックに替わり頻繁に見かける。筆者が乗務しているのもJPNタクシーであり、お客さんから「乗り降りしやすいし広いのでいいですね」と声をかけられることが多い。
確かに後席に限って言えば、以前のセダンに比べれて乗降がしやすく足元も広い。とくにお年寄りには優しいクルマだと思うが、ドライバーから見たJPNタクシーならではの問題点もいくつかある。今回はそのあたりをまとめてご紹介したい。
◆夏場はエアコン全開
今年の夏も猛暑日続出でタクシー業界は忙しかった。乗ってきたお客さんの多くは開口一番「あぁー涼しい。助かった」と言ってくれる。それはドライバーとしても嬉しいけれど、JPNタクシーのエアコン吹き出し口は前方3か所。後席は前方真ん中の吹き出し口から出る冷風を天井のサーキュレーターにより運ぶ仕組みなので、実はちょっと冷えづらい。
しかも車室が広いうえスライドドアを何度も開閉するため、ドライバーとお客さんの感じる温度にはかなり差がある。要するに前席が冷えていても後席はイマイチのことが多いので、夏場は18~23度くらいの設定でオートエアコンをセットしていると、ほぼ全開状態。ゴーゴーと結構やかましく、静かな車内環境にならない。
また、後部座席のサーキュレーターを使うと、お客さんの顔のあたりにモロに風があたってしまい、とくに女性から嫌がられることが多い。
◆冬場はシートヒーターでお尻あったか
夏のエアコンが今ひとつなのに対し、冬は後席だけに装備されたシートヒーターが活躍する。直接風が当たることなく、シートが素早く温まるのが利点だ。そのスイッチは後席の天井部分にあるので、お客さんが自由にオンオフできるようになっている。
これは前項で紹介しているサーキュレーターも同様で、風の強さを調整することが可能だ。もし操作しても何も変化がない時は、ドライバー側のメーンスイッチが入っていないためなので、その旨伝えればすぐ対応してくれるはず。
空調や窓の開閉などは、お客さんの要望が第一なので、遠慮なく伝えよう。
◆クルマの周囲が見づらい
運転中もっとも苦労するのが、左後方の目視がかなり制限される点だ。理由は助手席のヘッドレスト付近に付けられた、お客さん用の大きなディスプレイと後席の窓がスモーク仕様なこと。ドライバーを守る防護板で左後方が歪んで見えることにより交差点で左折する際、左斜め後方からやってくる歩行者や自転車を目視しづらく、かなり神経を使う。
純正フェンダーミラーもなかなか曲者で、見える範囲が狭いという声が大きい。そこで左側のみ小さなミラーを付け足すことで視認性を向上させている会社が多く、KM(国際自動車)は独自の「ミラクルミラー」を開発し付け替えている。街中でJPNタクシーを見かけた時は、ぜひ注目していただきたい部分である。
◆車椅子に乗ったまま乗車できるけれど…
UD(ユニバーサルデザイン)タクシーなので、車椅子事お客さんを後席に乗車させることができる。できるのだけど、その手順がかなり面倒。簡単に説明すると、
(1)助手席を折りたたむ
(2)後席左側座面を跳ね上げる
(3)スロープを設置
(4)車椅子ごとお客さんを車内に入れる
(5)車椅子が動かないよう固定
(6)お客さんにシートベルトをする
(7)スロープを外し、片付ける
文字にすると簡単だが、(4)~(6)は結構時間がかかる。熟練者なら4分、通常なら10分近く。さらに、スロープを安全に設置するには、車の左側に3m近い平地のスペースが必要なので、乗降場所を探すのにも苦労する。片側1車線の道路でこれをやると、作業中後続車をずっと停めることになってしまうのも悩みの種。
何とかもっとよい方法がないかと思うばかりだ。
◆後席の座り心地と注意点
後部座席の座り心地は概ね好評だが、実は結構深々と座るタイプなので、前方の景色が見づらいとの声をよく聞く。これはドライバー側からも同様で、ルームミラーでお客さんの様子を確認したくても、小柄な人だとまったく見えないことが多々ある。中にはドライバーの視界に入りたくないと、運転席の真後ろに座る女性もいますがね……。
和服を着ている女性が乗ると、背筋をピンと伸ばして座ることを意識するせいか、シートベルト着用を拒否されることがよくある。さらに、座面が滑りやすいため、急カーブを通常スピードで走るとかなり辛いようだ。
なお、ハザードランプスイッチの位置は、ハンドルについている。筆者はこれが使いやすく気に入っているが、ベテランドライバーは昔の位置(ハンドル右側のコンビネーションレバー先端)のほうが良かったという人が多い。
◆見た目より狭い荷室と後席座り心地
燃料がLPGなので、後部座席の裏側に大きなガスタンクがある。そのため、後部のラゲッジスペースに制限があり、巨大なスーツケースだと横積みして2つが限界。残りは隙間や空いている座席の周囲に無理やり詰め込むしかない。おかげで大量荷物になりがちな外国人旅行者を乗せる時は、毎回パズルを組んでいるような気分になる。
ガスタンクの容量は52リットル。燃費はハイブリッドエンジンでも10~12㎞/L前後。航続距離は400㎞弱といったところ。LPG車は満タンにしても燃料タンク容量の75~80%しか入らないため。
参考までに、一般車だと10万kmも走れば「よく使った!」と褒められるだろうが、タクシーは40~50万km走っている車両がザラ。毎日の運行前点検、3か月ごとの点検整備、1年ごとの車検や頑丈な造りが功を奏しているといえよう。
◆個人でも買うことができる?
JPNタクシーは個人でも買うことができるのか? 答はYES。そして5ナンバーでありながら驚異的な後席の広さがあり、身長180センチクラスの人でも運転席の窮屈さを感じない点は素晴らしいと言える。ただ、燃料はガソリンを選ぶことができずLPGになってしまうので、近所に専用スタンドがないと不便だ。
どうしてもというなら、このクルマのベースとなったシエンタの5ナンバー2列シートを検討してみてはいかがだろう。ガソリン車だし、JPNタクシーより100万円ほど安く買うことができますよ。
<TEXT/真坂野万吉>
【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー
確かに後席に限って言えば、以前のセダンに比べれて乗降がしやすく足元も広い。とくにお年寄りには優しいクルマだと思うが、ドライバーから見たJPNタクシーならではの問題点もいくつかある。今回はそのあたりをまとめてご紹介したい。
◆夏場はエアコン全開
今年の夏も猛暑日続出でタクシー業界は忙しかった。乗ってきたお客さんの多くは開口一番「あぁー涼しい。助かった」と言ってくれる。それはドライバーとしても嬉しいけれど、JPNタクシーのエアコン吹き出し口は前方3か所。後席は前方真ん中の吹き出し口から出る冷風を天井のサーキュレーターにより運ぶ仕組みなので、実はちょっと冷えづらい。
しかも車室が広いうえスライドドアを何度も開閉するため、ドライバーとお客さんの感じる温度にはかなり差がある。要するに前席が冷えていても後席はイマイチのことが多いので、夏場は18~23度くらいの設定でオートエアコンをセットしていると、ほぼ全開状態。ゴーゴーと結構やかましく、静かな車内環境にならない。
また、後部座席のサーキュレーターを使うと、お客さんの顔のあたりにモロに風があたってしまい、とくに女性から嫌がられることが多い。
◆冬場はシートヒーターでお尻あったか
夏のエアコンが今ひとつなのに対し、冬は後席だけに装備されたシートヒーターが活躍する。直接風が当たることなく、シートが素早く温まるのが利点だ。そのスイッチは後席の天井部分にあるので、お客さんが自由にオンオフできるようになっている。
これは前項で紹介しているサーキュレーターも同様で、風の強さを調整することが可能だ。もし操作しても何も変化がない時は、ドライバー側のメーンスイッチが入っていないためなので、その旨伝えればすぐ対応してくれるはず。
空調や窓の開閉などは、お客さんの要望が第一なので、遠慮なく伝えよう。
◆クルマの周囲が見づらい
運転中もっとも苦労するのが、左後方の目視がかなり制限される点だ。理由は助手席のヘッドレスト付近に付けられた、お客さん用の大きなディスプレイと後席の窓がスモーク仕様なこと。ドライバーを守る防護板で左後方が歪んで見えることにより交差点で左折する際、左斜め後方からやってくる歩行者や自転車を目視しづらく、かなり神経を使う。
純正フェンダーミラーもなかなか曲者で、見える範囲が狭いという声が大きい。そこで左側のみ小さなミラーを付け足すことで視認性を向上させている会社が多く、KM(国際自動車)は独自の「ミラクルミラー」を開発し付け替えている。街中でJPNタクシーを見かけた時は、ぜひ注目していただきたい部分である。
◆車椅子に乗ったまま乗車できるけれど…
UD(ユニバーサルデザイン)タクシーなので、車椅子事お客さんを後席に乗車させることができる。できるのだけど、その手順がかなり面倒。簡単に説明すると、
(1)助手席を折りたたむ
(2)後席左側座面を跳ね上げる
(3)スロープを設置
(4)車椅子ごとお客さんを車内に入れる
(5)車椅子が動かないよう固定
(6)お客さんにシートベルトをする
(7)スロープを外し、片付ける
文字にすると簡単だが、(4)~(6)は結構時間がかかる。熟練者なら4分、通常なら10分近く。さらに、スロープを安全に設置するには、車の左側に3m近い平地のスペースが必要なので、乗降場所を探すのにも苦労する。片側1車線の道路でこれをやると、作業中後続車をずっと停めることになってしまうのも悩みの種。
何とかもっとよい方法がないかと思うばかりだ。
◆後席の座り心地と注意点
後部座席の座り心地は概ね好評だが、実は結構深々と座るタイプなので、前方の景色が見づらいとの声をよく聞く。これはドライバー側からも同様で、ルームミラーでお客さんの様子を確認したくても、小柄な人だとまったく見えないことが多々ある。中にはドライバーの視界に入りたくないと、運転席の真後ろに座る女性もいますがね……。
和服を着ている女性が乗ると、背筋をピンと伸ばして座ることを意識するせいか、シートベルト着用を拒否されることがよくある。さらに、座面が滑りやすいため、急カーブを通常スピードで走るとかなり辛いようだ。
なお、ハザードランプスイッチの位置は、ハンドルについている。筆者はこれが使いやすく気に入っているが、ベテランドライバーは昔の位置(ハンドル右側のコンビネーションレバー先端)のほうが良かったという人が多い。
◆見た目より狭い荷室と後席座り心地
燃料がLPGなので、後部座席の裏側に大きなガスタンクがある。そのため、後部のラゲッジスペースに制限があり、巨大なスーツケースだと横積みして2つが限界。残りは隙間や空いている座席の周囲に無理やり詰め込むしかない。おかげで大量荷物になりがちな外国人旅行者を乗せる時は、毎回パズルを組んでいるような気分になる。
ガスタンクの容量は52リットル。燃費はハイブリッドエンジンでも10~12㎞/L前後。航続距離は400㎞弱といったところ。LPG車は満タンにしても燃料タンク容量の75~80%しか入らないため。
参考までに、一般車だと10万kmも走れば「よく使った!」と褒められるだろうが、タクシーは40~50万km走っている車両がザラ。毎日の運行前点検、3か月ごとの点検整備、1年ごとの車検や頑丈な造りが功を奏しているといえよう。
◆個人でも買うことができる?
JPNタクシーは個人でも買うことができるのか? 答はYES。そして5ナンバーでありながら驚異的な後席の広さがあり、身長180センチクラスの人でも運転席の窮屈さを感じない点は素晴らしいと言える。ただ、燃料はガソリンを選ぶことができずLPGになってしまうので、近所に専用スタンドがないと不便だ。
どうしてもというなら、このクルマのベースとなったシエンタの5ナンバー2列シートを検討してみてはいかがだろう。ガソリン車だし、JPNタクシーより100万円ほど安く買うことができますよ。
<TEXT/真坂野万吉>
【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー