若者のクルマ離れが叫ばれて久しいものの、令和5年(2023年)末時点で運転免許を保有している人は全国で約8,186万人。令和4年と比べてわずかですが約2万人増加しています。
失効後などの再取得を除けば、多くの人が教習所に通って新たに免許を取得したことと思います。そこで今回は、教習所の試験(特に技能試験)に一度ではなく、何度も落ちてしまう人にはどんな特徴があるのでしょうか。指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務した経験を持つ筆者が、その共通点を探っていきます。
◆“教習所以外”で練習するのは難しい
教習所で行われている試験には主に正誤の2択で回答する「学科試験」と、実車を用いて運転レベルを採点する「技能試験」の2種類があります。正直、学科試験は暗記に頼る部分が多く、教室や自習室、自宅などで勉強すれば、誰でもそれなりの点数を取ることができます。
しかし、技能試験の場合、教習所以外で練習するのは難しいでしょう。ときどき「自宅のクルマのレースゲームで練習してきました」という教習生がいましたが、ゲームのコントローラーと実際のクルマのハンドルでは当たり前ですがまったく違います。クルマの挙動をゲームで学ぶことはできません。
◆間隔をあけて技能試験を受けると…
では、どのようにして練習していくのか、答えは簡単です。ひたすら教習車を使って感覚を身に着けていく。しかし、その感覚も永遠ではありません。時間の経過とともに薄れていきます。実車で教習を受けてから、かなり時間が経過して技能試験を受けると、感覚を取り戻すことができません。結果として技能試験で不合格になる確率が高くなってしまうのです。
つまり、技能試験に落ちやすい人の特徴としてまず挙げられるのは、教習を受けてから1ヶ月近く、あるいはそれ以上の間隔をあけて試験に挑むと危険ということです。教習所に通い始めたばかりの頃に「教習後、間隔をあけずに試験を受けてください」と説明しているのですが、久しぶりに来校していきなり技能試験を受けたら落ちてしまった、という人はそれなりにいます。
これから教習所に通って免許を取ろうとする人は、ぜひ間隔をあけずに試験に挑むように心がけてください。
◆「ひとつのことに集中しすぎてしまう人」は…
ほとんどの人が教習後、感覚をあけずに試験を受ければ落ちることはあまりないといわれています。しかし、中には技能試験に何度も落ちてしまう人もいます。そのような人の傾向としてあるのは、ひとつのことに集中しすぎてしまう人です。
なにか作業をしているときに、近くで何度話しかけられてもまったく気づかない人がいると思います。ひとつのことに集中しすぎて、周りの変化に気づかないということだと思います。こういったことが顕著な人は、技能試験に何度も落ちてしまう可能性があります。
実際に試験に何度も落ちた教習生の例を紹介しましょう。1度目の試験では赤信号に気づかず不合格。2度目の試験では横断歩道を渡ろうとしている歩行者に気づかず不合格。3度目はまたも赤信号に気づかず不合格。4度目でやっと合格しました。この人の場合、1度目の試験のときは、その直前の練習で、歩行者の動きに気をつけようとアドバイスを受けたため、ずっと歩行者の動きばかりに注視し、信号の変化に気付けなかったようです。さらに、2度目の試験では、前回赤信号に気付けなかったので、ずっと信号の変化ばかり気にしてしまい、歩行者の動きには気付けなかったのです。
◆高学歴な人ほど技能試験に落ちやすい?
運転では、ひとつのことにばかり注視してしまうと危険だということは、運転にある程度、慣れている人ならおわかりかと思います。運転の際はまんべんなく周囲の変化に気づき対応する感覚が求められます。
正確なエビデンスはありませんが、高学歴な人ほど、技能試験に落ちやすい傾向があると、教習業界ではいわれています。受験で何時間もデスクに張り付いて、ひたすら勉強し続けられる人は、ひとつのことに集中する能力が高いためです。付け加えておきますが、もちろん高学歴な人でも一発で技能試験に合格し、その後の運転がうまい人もたくさんいます。
◆運動神経も関係している?
クルマの運転は、周囲の環境の変化に素早く気づき対応しなければなりません。また、目、手、足を絶えず動かしつづける必要もあります。そのため、運動神経が極端に悪い人も技能試験に落ちる可能性が高くなるといわれています。
実際にあった例を紹介すると、某大学のサッカー部の4年生が集団(6人)で教習所に通い始めました。教習を終える時期は通学するペースによって、それぞれ異なりましたが、6人全員が学科試験も筆記試験も一発で合格し卒業していきました。
ほぼ同時期に同じ大学の別の部活動(文化系)をしているという大学生が集団(4人)で入校してきました。運動部ではない4人のうち3人は技能試験で不合格に。さらにそのうちの1人は3度も技能試験に落ちてしまったということがありました。ここでもスタッフ間で話題に上がったのが、「運動部は運転を覚えるのが早い。運転がうまい」ということでした。
ここでは、実際に私が体験した一例を紹介しました。もちろん正確なデータを取っているわけではないので、推測の域を出ませんが、約10年にわたる教官生活の中で、技能試験に何度も落ちる人にたくさん遭遇しましたし、その人たちの共通点をスタッフ同士で何回も認識しました。
とはいえ、運転は慣れによる部分も大きいといわれます。そのため、教習所にダラダラと時間をかけて通うのではなく、短期間で練習し、運転感覚が鈍らないうちに技能試験をパスして卒業するようにしましょう。もし身近にこれから免許を取ろうとしている人がいたら「教習所はすぐに卒業しろ」とアドバイスしてあげください。
<TEXT/室井大和>
【室井大和】
自動車ライター。出版社の記者・編集者を経て、指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務。その後、自動車ライターとして独立し、コラムや試乗記、クルマメーカーのテキスト監修、SNS運用などを手がける。
失効後などの再取得を除けば、多くの人が教習所に通って新たに免許を取得したことと思います。そこで今回は、教習所の試験(特に技能試験)に一度ではなく、何度も落ちてしまう人にはどんな特徴があるのでしょうか。指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務した経験を持つ筆者が、その共通点を探っていきます。
◆“教習所以外”で練習するのは難しい
教習所で行われている試験には主に正誤の2択で回答する「学科試験」と、実車を用いて運転レベルを採点する「技能試験」の2種類があります。正直、学科試験は暗記に頼る部分が多く、教室や自習室、自宅などで勉強すれば、誰でもそれなりの点数を取ることができます。
しかし、技能試験の場合、教習所以外で練習するのは難しいでしょう。ときどき「自宅のクルマのレースゲームで練習してきました」という教習生がいましたが、ゲームのコントローラーと実際のクルマのハンドルでは当たり前ですがまったく違います。クルマの挙動をゲームで学ぶことはできません。
◆間隔をあけて技能試験を受けると…
では、どのようにして練習していくのか、答えは簡単です。ひたすら教習車を使って感覚を身に着けていく。しかし、その感覚も永遠ではありません。時間の経過とともに薄れていきます。実車で教習を受けてから、かなり時間が経過して技能試験を受けると、感覚を取り戻すことができません。結果として技能試験で不合格になる確率が高くなってしまうのです。
つまり、技能試験に落ちやすい人の特徴としてまず挙げられるのは、教習を受けてから1ヶ月近く、あるいはそれ以上の間隔をあけて試験に挑むと危険ということです。教習所に通い始めたばかりの頃に「教習後、間隔をあけずに試験を受けてください」と説明しているのですが、久しぶりに来校していきなり技能試験を受けたら落ちてしまった、という人はそれなりにいます。
これから教習所に通って免許を取ろうとする人は、ぜひ間隔をあけずに試験に挑むように心がけてください。
◆「ひとつのことに集中しすぎてしまう人」は…
ほとんどの人が教習後、感覚をあけずに試験を受ければ落ちることはあまりないといわれています。しかし、中には技能試験に何度も落ちてしまう人もいます。そのような人の傾向としてあるのは、ひとつのことに集中しすぎてしまう人です。
なにか作業をしているときに、近くで何度話しかけられてもまったく気づかない人がいると思います。ひとつのことに集中しすぎて、周りの変化に気づかないということだと思います。こういったことが顕著な人は、技能試験に何度も落ちてしまう可能性があります。
実際に試験に何度も落ちた教習生の例を紹介しましょう。1度目の試験では赤信号に気づかず不合格。2度目の試験では横断歩道を渡ろうとしている歩行者に気づかず不合格。3度目はまたも赤信号に気づかず不合格。4度目でやっと合格しました。この人の場合、1度目の試験のときは、その直前の練習で、歩行者の動きに気をつけようとアドバイスを受けたため、ずっと歩行者の動きばかりに注視し、信号の変化に気付けなかったようです。さらに、2度目の試験では、前回赤信号に気付けなかったので、ずっと信号の変化ばかり気にしてしまい、歩行者の動きには気付けなかったのです。
◆高学歴な人ほど技能試験に落ちやすい?
運転では、ひとつのことにばかり注視してしまうと危険だということは、運転にある程度、慣れている人ならおわかりかと思います。運転の際はまんべんなく周囲の変化に気づき対応する感覚が求められます。
正確なエビデンスはありませんが、高学歴な人ほど、技能試験に落ちやすい傾向があると、教習業界ではいわれています。受験で何時間もデスクに張り付いて、ひたすら勉強し続けられる人は、ひとつのことに集中する能力が高いためです。付け加えておきますが、もちろん高学歴な人でも一発で技能試験に合格し、その後の運転がうまい人もたくさんいます。
◆運動神経も関係している?
クルマの運転は、周囲の環境の変化に素早く気づき対応しなければなりません。また、目、手、足を絶えず動かしつづける必要もあります。そのため、運動神経が極端に悪い人も技能試験に落ちる可能性が高くなるといわれています。
実際にあった例を紹介すると、某大学のサッカー部の4年生が集団(6人)で教習所に通い始めました。教習を終える時期は通学するペースによって、それぞれ異なりましたが、6人全員が学科試験も筆記試験も一発で合格し卒業していきました。
ほぼ同時期に同じ大学の別の部活動(文化系)をしているという大学生が集団(4人)で入校してきました。運動部ではない4人のうち3人は技能試験で不合格に。さらにそのうちの1人は3度も技能試験に落ちてしまったということがありました。ここでもスタッフ間で話題に上がったのが、「運動部は運転を覚えるのが早い。運転がうまい」ということでした。
ここでは、実際に私が体験した一例を紹介しました。もちろん正確なデータを取っているわけではないので、推測の域を出ませんが、約10年にわたる教官生活の中で、技能試験に何度も落ちる人にたくさん遭遇しましたし、その人たちの共通点をスタッフ同士で何回も認識しました。
とはいえ、運転は慣れによる部分も大きいといわれます。そのため、教習所にダラダラと時間をかけて通うのではなく、短期間で練習し、運転感覚が鈍らないうちに技能試験をパスして卒業するようにしましょう。もし身近にこれから免許を取ろうとしている人がいたら「教習所はすぐに卒業しろ」とアドバイスしてあげください。
<TEXT/室井大和>
【室井大和】
自動車ライター。出版社の記者・編集者を経て、指定自動車教習所の指導員として約10年間勤務。その後、自動車ライターとして独立し、コラムや試乗記、クルマメーカーのテキスト監修、SNS運用などを手がける。