人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回はシニア転職での経歴詐称を紹介する。
「ついうっかり」では済まない履歴書の事実と異なる経歴。シニア転職でも経歴詐称は多いのか?どんな経歴詐称があるのか?嘘を重ねる悪質な経歴詐称の実態をシニア転職のプロが語る。
◆シニアでも多い?転職時の経歴詐称
過去にはなかった多様な働き方や、多様なキャリアで、華々しく活躍する人がいる一方、転職などでの「経歴詐称」や「学歴詐称」が話題になることも多い。とある通訳などの有名人や政治家の場合、経歴詐称や学歴詐称の話題だけでもおおいにニュースを賑わすが、一般の会社員の中途採用にも多くの経歴詐称が潜んでいると言われ、問題になっている。
私たちが転職・再就職を支援しているシニア求職者でも、そういった経歴詐称をしばしば目にする。40~50年といった長い経歴を持つだけに、若手人材よりも経歴詐称が潜む余地は大きくなる。ミスで“うっかり”という詐称もあれば、なかには嘘を重ねたとんでもないトラブルが発生することも……。どのようなシニアの経歴詐称があるのか見ていこう。
◆悪質な経歴詐称は刑事罰の可能性も
冒頭でも述べたが、そもそもシニアの経歴は長い。何社も経験している人の場合、入退職の正確な年月日や社名すら覚えていないこともある。
履歴書・職務経歴書に「間違った経歴を書いてしまった」「適当に書いてしまった」くらいはいいじゃないかと思うかもしれないが、故意でなくても詐称は詐称。採用企業側の受け取り方によっては記載ミスでも大問題になることがある。
また、キャリアの中盤以降にあまり転職経験がない人は、そもそも経歴への関心が低く重視していないために、適当に記載してしまうこともある。そして中には、長い経歴をすべて確かめることが難しいのをいいことに、故意に事実と異なる経歴を記載するシニアも残念ながらいる。
「経歴や学歴だけで人を判断することのほうがおかしいんじゃないのか?」という意見も世の中にはあるし、なぜか経歴詐称がバレた当事者がそんなことを言い出す場合もあったが、シニアの場合は若手人材よりも経歴が重視される傾向にある。なぜなら、シニアのほうが能力重視の採用になりやすいからだ。
若手ならスキルだけでなく今後の成長への期待も大きいが、シニアに期待するのは即戦力だ。正確な戦力はわからないので、実務経験の有無や長さ、資格などで判断されやすい。それを偽るのだから「嘘をついて有能に見せた」とみなされる。
選考中に経歴詐称がバレれたのなら、不採用だけで済むかもしれないが、内定後の発覚では大問題になる可能性がある。内定取り消しや解雇はもちろん、損害賠償請求をされる可能性も。さらに民事だけでなく、軽犯罪法違反や詐欺罪など刑事罰の対象になる場合もある。
老後の転職・再就職が厳しくても、経歴詐称には大きなリスクとペナルティがあることを忘れてはならない。
◆単なるミスから犯罪レベルまで!様々な経歴詐称
私たちが提供するシニア専門の人材紹介でも、現在は途中のチェックで多くの経歴詐称を検知できているが、サービスを開始した序盤のノウハウが少ない時期には様々な経歴詐称騒動が起きた。軽い順に紹介していこう。
まず、故意ではないミスによる経歴詐称は今でも頻繁に発生する。社名や入退職年の誤記だけでなく、未記入、意味不明な記載もよくある。専業主婦期間を「調理」や「家事代行」の実務期間として記載するようなものも、ギリギリ故意ではないのかもしれない。
記載ミスは、指摘するとたいていの人はスムーズに正しい経歴を推してくれる。しかし、なかにはキレて文句を言い始めるような人もいる。「ほかにも故意に経歴詐称しているのでは?」と疑われやすいので、素直に訂正しよう。
実際よりもちょっと”盛ってしまう”といった詐称もよくある。過去の仕事でメイン担当ではなかったのにメイン担当と書いたり、プロジェクトの期間や規模を大きめに記載したり、受注金額などの成績を大きく記載するなどはありがちだ。面談・面接などで深く掘り下げるとボロが出て発覚する。
この程度も大きな問題にならない場合が多いが、信用を失うので当然やるべきではない。
その一方で、完全なる「経歴詐称」というレベルだと、会社名を騙ったり、資格や技能を騙ったり、雇用形態を騙るといった状態にまで達する。これらは完全にアウトだ。勤めたことのない大手の社名や重要な資格を堂々と詐称するケースはさすがにあまりないが、実際は持っていないマイナーな民間資格名を並べたり、パートだったのに正社員と書くなどは発生しやすい。
◆バレそうになって嘘を重ねた悪質求職者
最後に、サービスの黎明期、まだ経歴詐称のチェックに手こずっていた頃の大事件を紹介しよう。
私たちは建設業の施工管理の仕事の紹介実績が豊富で、施工管理技士や建築士といった施工管理ができる資格を持ったシニアが登録してくることも多い。そんな中、有資格者で、施工管理経験も何十年というシニアが登録してきた。ブランクはあるがすぐにでも現場に出られる、自信があるというので期間を置かず就職が決まった。
入社2週間後、就職先の建設会社からクレームの電話が入った。「仕事ができない」「実は資格もない」「入社直後の研修から雰囲気に違和感を持った」という。紹介した当社を訴えたいという建設会社をなだめ、担当者がシニアと就職先を交えた異例の三者面談に赴いた。
なんとその場で、シニアは新たな嘘で誤魔化そうとした。当社は事前面談をせず、資格や経歴を確認せず適当に求人企業に紹介しているというのだ。そこで担当者はその場で電話面談の予定表と通話履歴を見せ、履歴の電話番号にかけるとシニアの携帯電話が鳴った。
嘘が完全にバレたシニアはすべての嘘を認めて謝罪し、退職してこの事件は幕を閉じた。だが、就職先に大きな損害を与えていたら、もっと大きな事件になっただろう。
就職さえしてしまえば嘘も誤魔化せると思うかもしれないが、背負うリスクは大きく、周囲にも迷惑をかける。経歴詐称は絶対に行ってはいけない。
【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
「ついうっかり」では済まない履歴書の事実と異なる経歴。シニア転職でも経歴詐称は多いのか?どんな経歴詐称があるのか?嘘を重ねる悪質な経歴詐称の実態をシニア転職のプロが語る。
◆シニアでも多い?転職時の経歴詐称
過去にはなかった多様な働き方や、多様なキャリアで、華々しく活躍する人がいる一方、転職などでの「経歴詐称」や「学歴詐称」が話題になることも多い。とある通訳などの有名人や政治家の場合、経歴詐称や学歴詐称の話題だけでもおおいにニュースを賑わすが、一般の会社員の中途採用にも多くの経歴詐称が潜んでいると言われ、問題になっている。
私たちが転職・再就職を支援しているシニア求職者でも、そういった経歴詐称をしばしば目にする。40~50年といった長い経歴を持つだけに、若手人材よりも経歴詐称が潜む余地は大きくなる。ミスで“うっかり”という詐称もあれば、なかには嘘を重ねたとんでもないトラブルが発生することも……。どのようなシニアの経歴詐称があるのか見ていこう。
◆悪質な経歴詐称は刑事罰の可能性も
冒頭でも述べたが、そもそもシニアの経歴は長い。何社も経験している人の場合、入退職の正確な年月日や社名すら覚えていないこともある。
履歴書・職務経歴書に「間違った経歴を書いてしまった」「適当に書いてしまった」くらいはいいじゃないかと思うかもしれないが、故意でなくても詐称は詐称。採用企業側の受け取り方によっては記載ミスでも大問題になることがある。
また、キャリアの中盤以降にあまり転職経験がない人は、そもそも経歴への関心が低く重視していないために、適当に記載してしまうこともある。そして中には、長い経歴をすべて確かめることが難しいのをいいことに、故意に事実と異なる経歴を記載するシニアも残念ながらいる。
「経歴や学歴だけで人を判断することのほうがおかしいんじゃないのか?」という意見も世の中にはあるし、なぜか経歴詐称がバレた当事者がそんなことを言い出す場合もあったが、シニアの場合は若手人材よりも経歴が重視される傾向にある。なぜなら、シニアのほうが能力重視の採用になりやすいからだ。
若手ならスキルだけでなく今後の成長への期待も大きいが、シニアに期待するのは即戦力だ。正確な戦力はわからないので、実務経験の有無や長さ、資格などで判断されやすい。それを偽るのだから「嘘をついて有能に見せた」とみなされる。
選考中に経歴詐称がバレれたのなら、不採用だけで済むかもしれないが、内定後の発覚では大問題になる可能性がある。内定取り消しや解雇はもちろん、損害賠償請求をされる可能性も。さらに民事だけでなく、軽犯罪法違反や詐欺罪など刑事罰の対象になる場合もある。
老後の転職・再就職が厳しくても、経歴詐称には大きなリスクとペナルティがあることを忘れてはならない。
◆単なるミスから犯罪レベルまで!様々な経歴詐称
私たちが提供するシニア専門の人材紹介でも、現在は途中のチェックで多くの経歴詐称を検知できているが、サービスを開始した序盤のノウハウが少ない時期には様々な経歴詐称騒動が起きた。軽い順に紹介していこう。
まず、故意ではないミスによる経歴詐称は今でも頻繁に発生する。社名や入退職年の誤記だけでなく、未記入、意味不明な記載もよくある。専業主婦期間を「調理」や「家事代行」の実務期間として記載するようなものも、ギリギリ故意ではないのかもしれない。
記載ミスは、指摘するとたいていの人はスムーズに正しい経歴を推してくれる。しかし、なかにはキレて文句を言い始めるような人もいる。「ほかにも故意に経歴詐称しているのでは?」と疑われやすいので、素直に訂正しよう。
実際よりもちょっと”盛ってしまう”といった詐称もよくある。過去の仕事でメイン担当ではなかったのにメイン担当と書いたり、プロジェクトの期間や規模を大きめに記載したり、受注金額などの成績を大きく記載するなどはありがちだ。面談・面接などで深く掘り下げるとボロが出て発覚する。
この程度も大きな問題にならない場合が多いが、信用を失うので当然やるべきではない。
その一方で、完全なる「経歴詐称」というレベルだと、会社名を騙ったり、資格や技能を騙ったり、雇用形態を騙るといった状態にまで達する。これらは完全にアウトだ。勤めたことのない大手の社名や重要な資格を堂々と詐称するケースはさすがにあまりないが、実際は持っていないマイナーな民間資格名を並べたり、パートだったのに正社員と書くなどは発生しやすい。
◆バレそうになって嘘を重ねた悪質求職者
最後に、サービスの黎明期、まだ経歴詐称のチェックに手こずっていた頃の大事件を紹介しよう。
私たちは建設業の施工管理の仕事の紹介実績が豊富で、施工管理技士や建築士といった施工管理ができる資格を持ったシニアが登録してくることも多い。そんな中、有資格者で、施工管理経験も何十年というシニアが登録してきた。ブランクはあるがすぐにでも現場に出られる、自信があるというので期間を置かず就職が決まった。
入社2週間後、就職先の建設会社からクレームの電話が入った。「仕事ができない」「実は資格もない」「入社直後の研修から雰囲気に違和感を持った」という。紹介した当社を訴えたいという建設会社をなだめ、担当者がシニアと就職先を交えた異例の三者面談に赴いた。
なんとその場で、シニアは新たな嘘で誤魔化そうとした。当社は事前面談をせず、資格や経歴を確認せず適当に求人企業に紹介しているというのだ。そこで担当者はその場で電話面談の予定表と通話履歴を見せ、履歴の電話番号にかけるとシニアの携帯電話が鳴った。
嘘が完全にバレたシニアはすべての嘘を認めて謝罪し、退職してこの事件は幕を閉じた。だが、就職先に大きな損害を与えていたら、もっと大きな事件になっただろう。
就職さえしてしまえば嘘も誤魔化せると思うかもしれないが、背負うリスクは大きく、周囲にも迷惑をかける。経歴詐称は絶対に行ってはいけない。
【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中